日本の「お家芸」である製造業ですが、近年では「衰退している」との声も多くあります。しかし、実際には重要な部品などは日本製のものが使われているケースも多いです。
そんな日本のモノづくりを支えているのが「検査」です。製品の品質を担保するには検査により適切に不良品を排除する必要があります。しかし、不良品の種類というのは業界や作っている製品によって大きく異なり、検査は容易ではありません。
今回の記事では、製造現場で発生する不良品の種類や検査における課題、画像を活用した検知システムの種類や有用性についてお話します。
製造現場で不良品が発生する原因とは?
製造業における不良品の発生原因は多岐にわたります。発生原因に合わせて対策を講じることにより、品質向上につなげることができます。ここではまずよくある不良品の発生原因についてご紹介します。
ヒューマンエラー
作業員のミスや誤操作による不良品の発生は少なくありません。純粋なミスはもちろん、そもそも作業の勘違いや誤解があったなどによるヒューマンエラーもあります。
適切な教育や研修、作業環境の整備、精神状態のケアを行うことで防止に努めることが重要です。また、人的ミスを完全にゼロにすることは難しいため、機械やシステムの導入も効果的な対策となります。
設備の不備
設備自体の故障などの不備も不良品発生の原因となります。定期的なメンテナンスと点検を行い、不具合を早期に発見・修理することが求められます。設備を安定して稼働させるためには、設備や使用する機器の適切な保全行為が必要です。
近年では設備状況を監視することで、設備や機器の不具合の兆候をつかみ、故障が発生することを未然に防ぐ「予知保全(予兆保全)」の考え方も重視されています。
材料の不良
部品や原料といった材料自体の品質も、完成品の品質を大きく左右します。
原材料の適切な品質管理と検査を行い、仕入段階で不良品がないかを確認することが必要です。
また、仕入れた材料を保管してから製造に至るまでの間に不良が発生する場合があります。適切な保管ができていなかったり、製造現場への移動の間に問題が起きたりなどの可能性があります。
材料の不良がどこで発生しているのかを確認し、発生原因に合わせた対策が必要です。
業務手順
業務手順が不適切な場合も、不良品の原因となる場合があります。例えば手順書がかなり複雑でミスが発生しやすかったり、一部の作業工程やチェック項目に抜け漏れがあったりすると作業を正しく行うことが難しくなります。
業務の見直しを行い、適切な作業手順を確立することで不良品の発生を抑制できます。また、各工程でのチェックポイントを設定し、問題が発生した場合の対処法を明記したマニュアルを活用することも効果的です。
製造現場で発生し得る不良ケース
そもそも製造業における品質不良というのは、定めた規格や顧客の需要から外れたものを指します。たとえば、メッキ加工の製品においてメッキが施されていなかったり剥がれていたりすれば、不良品として扱われます。
各業界における不良品には、どういったものがあるのかご紹介します。
- 金属業界
- 樹脂成形業界
- 食品業界
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
金属業界
金属業界では、ネジやボルトと一緒に使用するナットやワッシャ(座金)、ベアリング(軸受)の不良をご紹介します。ベアリングは、回転部分の摩擦を軽減して動きをスムーズにする役割を持つ機械部品の総称です。
ナット・ワッシャ・ベアリングの不良
ナット・ワッシャ・ベアリングの主な不良です。
不良 |
主な原因 |
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サビ・腐食 |
水の侵入、湿気や薬品の影響 |
キズ(線キズ) |
金型への異物侵入、成形時の潤滑不足、絞り速度が速い |
凹み・打痕 |
プレス時のゴミの侵入、搬送時の接触や振動 |
異物・汚れ |
加工時・搬送時の異物混入、汚れの付着 |
巣(空気孔) |
成形時の空気の巻き込みや熱収縮 |
キズ(線キズ)は、強度や耐久性を低下させる原因であり、ナットやワッシャに亀裂やくびれが発生して断ち切れてしまう恐れがあります。
凹み・打痕は、製造時だけでなく搬送や運搬中といった人為的要因で発生することもあるので、取り扱いには注意が必要です。
ネジ・ボルトの不良
ネジ・ボルトには以下のような不良があります。
不良 |
主な原因 |
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バリ |
先端部のC面(角を切削する面のこと)がネジ山より高い |
割れ・欠け(クラック) |
頭部鍛造による材料の割れなど |
変形・寸法ズレ |
ヘッダーに十字を切る際の位置ずれ、加工精度が低いなど |
異品種・未加工品の混入 |
除去すべき素材や材料が入り込むヒューマンエラーなど |
バリは、切削や転造などでネジ山を加工するときに発生する不良のことです。寸法や形状はJISやISOで細かく規定されていますが、加工精度や熱処理・表面処理の方法といったさまざまな要因から変形や寸法ズレが起こります。
異品種・未加工品の混入は、チェック体制の強化により防止することが可能です。
樹脂成形業界
樹脂成形を簡単に説明すると、プラスチック加工のことです。
プラスチックなどを加熱して溶かし金型へ入れ、冷却して固めることで製品が完成します。主な材料はプラスチックですが、熱を加えることで何度も軟化する「熱可塑性樹脂」と一度熱を加えると硬化する「熱硬化性樹脂」に大別されます。
樹脂成型品の不良
樹脂成形において代表的な製造方法である「インジェクション成形」で発生する不良です。
不良 |
主な原因 |
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シルバーストリーク |
成形材料の乾燥条件が悪い、射出速度が速いなど |
気泡(ボイド) |
金型温度や射出圧力が低い、シリンダ温度が高いなど |
フローマーク |
樹脂の金型への接触による冷却時のムラ |
ジェッティング |
金型温度や樹脂温度が低い、射出速度が速い |
ウェルドライン |
樹脂の流動性不足、金型温度が低い、射出速度が遅い |
シルバーストリークが起こる大きな原因は乾燥条件であり、材料内に含まれる水分、空気、揮発物が成型品の表面に現れてしまうのです。
気泡も同様に乾燥不足で起こりやすい不良ですが、肉厚のある製品で発生しやすいことから肉厚を薄くするなどの対策を要する場合もあります。
キャップの不良
以下は、ペットボトル用キャップの不良です。
不良 |
主な原因 |
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カラーストリーク(変色) |
着色剤の分散不足、樹脂温度・金型温度が低い |
焼け |
ガスベントがない、空気抜けが悪い、樹脂の滞在時間が長い、製品表面に油分が付着している、射出速度が速い |
汚れ |
製造時や搬送時などにゴミやチリなどが付着 |
黒点(パージ剤残り) |
清掃時に残ったパージや射出成形機に付着して炭化した樹脂、ゴミなどが樹脂に混入 |
カラーストリークは、成型品表面の色が均一でない場合に発生する不良です。焼けは、成型品の端部が黒く変色してしまう不良であり、断熱圧縮の熱によって樹脂が黒く焼けてしまいます。
食品業界
カップ麺の容器には、ポリスチレン合成樹脂を原材料に耐熱性や耐久性を高めたJAS規格の容器が使われています。
また、多くの食品や医薬品などには賞味期限や製造年月日が印字されていて、消費者に品質の保証期間がわかるようにしています。
耐熱容器の不良
耐熱容器の製造で発生する不良です。
不良 |
主な原因 |
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キズ・汚れ・異物・黒点 |
金型内の劣化物や異物、ゴミやホコリの侵入など |
破れ・凹み |
金型への異物混入、搬送時の衝撃など |
焼け・焦げ |
限度を超える温度での加熱 |
印刷ミス |
印刷時の位置ズレなど |
そもそも耐熱PSPという素材は柔らかいので、「衝撃に弱い」という特性があります。そのため搬送時の衝撃も破損に繋がる可能性があるため、十分な注意が必要です。金型への異物混入も、キズ、汚れ、黒点、破れといった原因になるので、定期的な清掃や異物混入の監視などの対応が必要です。
耐熱PSPを含む合成樹脂は上限温度を超えると変色が始まり、さらに加熱すると黒くなってしまうため、加熱温度にも注意が必要です。
賞味期限(消費期限)の印字不良
食品や医療品には賞味期限や消費期限の印字が義務付けられていて、印字方法には手書きやスタンプによる「接触マーキング」と、インクジェットプリンタやレーザーマーカを用いる「非接触マーキング」があります。
以下は、賞味期限や消費期限の印字不良の一例です。
不良 |
主な原因 |
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印字ズレ |
インクジェットやレーザーマーカーのトラブル、ワークの位置ズレなど |
印字間違い |
製造年月日やロットナンバー設定のミス |
異品種混入 |
品種切り替え時のヒューマンエラーなど |
パッケージのキズ・破れ、フタの破れ |
硬く尖った箇所のある内容物の押し付け、包装機の設定ミスなど |
パッケージやフタの破れには、「ピンホール」も原因の一つになります。ピンホールとは針で開けた程度の小さな穴のことを指します。真空包装が施された食品の場合には、ピンホールが生じると少しずつ空気が入り込んで真空状態が解かれてしまうため、食品の品質に大きく影響します。
不良品を削減する方法とは
製造業で不良品を削減する方法として考えられるのは、作業の標準化、管理体制の強化、作業環境の整備、システムの導入が挙げられます。これらの手法を組み合わせることで、効率的に不良品の発生を抑え、品質管理の向上が実現できます。
作業の標準化
作業の標準化は、個人差を減らし、全員が同じ基準で同じ品質の良品を生産できるようにするために重要です。マニュアルの作成や教育体制を整え、各工程での作業手順やポイントを明確にすることが求められます。作業者の技術水準が揃うことで、不良品の削減につながります。
管理体制を強化する
管理体制を強化することで、各現場での品質管理が徹底され、不良品の発生率が低く抑えられます。品質管理を担当する専門チームの設置や、品質管理の指標を設定し、定期的にチェックを行うといった取り組みが求められます。不良品の早期発見・対策を実施する仕組みを構築できます。
作業環境を整備する
作業者のミスには作業環境も大きく影響します。室温や照明といった環境面の整備はもちろん、設備や機器が問題なく動作するようなメンテナンスを行うなど作業場の環境を改善することが重要です。
また、より効率的に作業ができるように荷物の置き場所を変えたり、レイアウトを変えて通路を広くしたりなど、導線やレイアウトの見直しも効果的です。
システムの導入
システム導入により、人間の目では見逃しがちな不良品の検出が可能になります。特に、近年はAIの進化が目覚ましく、AIを活用した外観検査システムは高い精度での判定が可能になっています。
不良品検出の方法と課題
ご紹介したような対策をとった場合でも、不良品をゼロにすることは困難です。不良品の流出を防ぐためには検査が欠かせません。
製品の種類やクオリティを高めるためには厳格な検査が不可欠ですが、多くの製造現場で採用されている不良品検知には課題があるのも現状です。
では、従来の不良品検出にはどういった課題があるのかをご説明します。
従来の不良品検知の課題
従来の不良品検知の場合、肉眼による検出には限界があります。人の能力を超えた検出力を発揮することはできないからです。
たとえば、1章でご紹介した不良の場合、ネジのバリや割れ、キャップの黒点、パッケージのピンホールなどを肉眼で検出するのは至難の業です。静止状態でも検出が困難な不良を、製品が速く流れるライン上で検出するのは不可能に近いといえます。
不良品検知の変化
近年では、「画像センサ・画像検知システム」を採用した外観検査装置が普及し始めています。画像検知システム搭載の外観検査装置なら、インライン上であっても寸法測定と外観検査を同時に実施できるほか、全数検査による不良流出や漏れの防止が可能です。
次章では、具体的にどのように画像検出システムを活用するのかをご紹介します。
画像検知システムを活用した不良品検査
本章では、画像検知システムを活用した検査における不良品の対応方法をご紹介します。
主な対応方法は、以下のとおりです。
- 不良品に人が対応
- 不良品にロボットが対応
- 不良品に自動搬出が対応
それぞれの対応について、手順を説明します。
不良品に人が対応
不良品に人が対応する方法での手順です。
- 画像処理装置が製品の異常を検出して警報を発生する
- オペレーターが警報を認知して警報の内容を確認する
- 不良品を仮置き場に静置したあと、製造ラインを再開させる
異常の検出は画像処理装置が行い、良否判断はオペレーターが行います。
不良品にロボットが対応
不良品にロボットが対応する方法での手順です。
- 画像処理装置が製品の異常を検出する
- 画像処理装置からロボットコントローラに異常のある製品を取り除く指令を送る
- ロボットが不良品を仮置き場に静置する
異常の検出も製品の取り出しも、すべてロボットが行います。
この場合は製造ラインを停止することはありません。しかし、画像処理装置が製品の異常を検出できる時間とロボットが対応する時間を確保できるよう製造ラインの速度を調整する必要があります。
不良品に自動搬出が対応
不良品に自動搬出が対応する方法での手順です。
- 画像処理装置が製品の異常を検出する
- 画像処理装置から製造ラインコントローラに異常な製品をNGラインに送るよう、製造ラインを切り替える指令を発する
- 製造ラインがNGラインへと切り替えられ、不良品が送られる
この場合も製造ラインの停止は必要ありません。画像処理装置が製品の異常を検出するために必要な時間を踏まえて製造ラインの速度が調整されます。
画像検知システムの種類
画像検知システムは、大きく2つの種類に分かれます。
- ルールベース型
- AI活用型
いずれの場合も、このようなシステムを利用することで疲労による判断ミスはなくなると言えます。
また、検知システムは一度設定・学習した欠陥は高い頻度で検出できるので、不良品の漏れや見逃しを減らすことができます。
ただし、画像検知システムにも得手不得手があります。
AI学習に必要なデータやサンプルを多く要するうえに、導入コストや実装までの期間も必要です。用途によっては、余計なコストや負荷がかかってしまうことから効率が悪化する場合もあります。画像検知システムを導入する場合は、製品・撮像・運用といった条件を踏まえたうえで、適正を見極めることが重要です。
それでは、ルールベース型とAI活用型画像検知システムの詳細を説明していきます。
ルールベース型
ルールベース型の画像検知システムは、センサーが測定したデータが許容範囲から逸脱する製品を異常と判定する「外れ値検査」です。具体的には、パーツの有無や寸法、汚れ、色ムラなどをセンサーが自動で測定して、しきい値と比較して判定します。
しきい値の設定には、「手動」と「自動」が存在します。
手動での設定は過去のデータから技術者がしきい値を決めて、運用しながら調整を繰り返す方法です。自動での設定は、統計的に分析した過去のデータを踏まえて大多数を占めるデータ分布から外れた値の製品を異常とする方法です。
ただし、ルールベース型には明確なルール設定を要するほか、ルール設定をしたりシステムの管理をしたりする技術者が属人化してしまうといった懸念点があります。
AI活用型
AI活用型とは、ディープラーニングを活用した検査システムのことです。
ディープラーニング(深層学習)とは、人間が行うタスクをコンピューターに学習させる機械学習(AIの一部)の一種です。カメラで撮像した画像から異常を判別する点ではルールベース型と共通していますが、位置修正や異常の判定をAIが行う点に違いがあります。
AI活用型の検知システムは、さまざまな位置や向きの製品を学習することで、自然に位置や向きを修正して認識してくれるのです。また、学習を繰り返すことで製品の特徴をつかんで異常を判別できるようになります。
AI活用型には、多くの学習データやサンプルを要するデメリットがあります。
AI・ディープラーニング外観検査システム「AISIA-AD」
AI・ディープラーニング外観検査システム「AISIA-AD」は、最先端のディープラーニング画像認識技術の搭載により、高い精度での不良品検出が可能なシステムです。。
AISIA-ADは、工場や倉庫、製造現場で培ったベテラン検査員の経験や技術をAIに学習させることができます。キズ、凹み、異物混入といった不良を、検査員が目視で確認するような精度で検知が可能になります。そのため、検査工程に割いていた貴重な人材を生産工程に配置することができるので、製品の品質向上や生産性向上につながります。
弊社システムインテグレータでは、外観検査システムだけでなく検査機やカメラ、照明といった検査装置などトータルでのサポートを提供しています。AI技術者が不在の企業様であっても、画像データ処理から判定、判定処理まで外観検査の業務効率を高めていただけますので、ぜひお気軽にご相談ください。
まとめ
製造業における不良品は、確認すべき項目が業界によって大きく異なります。
キズや汚れ、バリなど、ひとつの対象で複数の項目を確認しなければならない場合も少なくありません。画像を活用した検知システムなどを活用することで、このような複数の検査項目に対応でき、今までの目視検査による検査員の負担やヒューマンエラーを軽減することも可能です。
不良品検査に課題をお持ちの場合は、画像を活用した検知システムの導入をご検討してはいかがでしょうか?
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