はんだ付けの目視検査は製品の信頼性や品質を保証するためにとても大切なものです。しかし人が行う作業である以上、人為的ミスの発生や人手不足・コスト増などの問題もあります。その問題を解決するため、外観検査装置が導入されています。
検査装置ははんだ付けの目視検査において発生していた人為的ミスやコスト増をなくし、近年問題となっている人手不足や教育コスト増などを解決する可能性を秘めています。
今回は、はんだ付け外観検査の重要性、検査で発見される不良の例、検査装置導入のポイントを解説いたします。
はんだ付け外観検査の重要性
はんだ付けの外観検査は、その接合部分の信頼性や品質を保証する重要な検査です。はんだ付けの外観検査では通電し電気的な接合ができていることはもちろんですが、正しく機械的な接合がされているかもチェックしなくてはいけません。さらに、想定される使用環境下にて長期間安定して機器が使用できる信頼性も保証する必要があります。
はんだ付けの外観検査は手軽に行うことができるため目視検査が一般的です。しかし、はんだ付けの信頼性や品質を見抜くためには確かな知識や経験を必要とされています。はんだの形状=フィレットを見極めて通電・接合・耐久性などの品質・信頼性を一つひとつチェックする必要があるためです。
そのため、確かな外観検査を任せられる人材は確保が難しく、育成コスト・手間がかかります。特に日本では少子高齢化が進んだことからベテラン検査員の減少・若手の育成が困難な状況です。
また、目視検査は人が行う作業であるという点も重要です。検査員の体調不良や精神状態悪化によって集中力が低下すれば、人為的ミスも多発する可能性があります。
近年はコンピューターやCCDカメラ、機械学習といった画像処理に伴う技術が進化したため検査装置による検査が一般的となり、人手不足でも重要な外観検査を速やかに行えるようになってきています。
はんだ付けの外観検査は製品の信頼性・品質を担保するために欠かせない作業で、今後その重要性が下がることはないでしょう。ですから、いかに効率よく、精度高く検査を行える仕組みや体制を整えるかが、製造業にとって重要な課題なのです。
はんだ付けの目視検査で発見される不良
はんだはその接点が理想的な形であればあるほどその品質・信頼性が高まります。「完全なぬれ性である」「凹面形状のフィレットである」「光沢がありきれいである」などの特徴を持つはんだ接点が理想的なものです。
逆に不良なものはこれらの特徴から離れていて、品質や信頼性を低下させる形状をしています。ここでは、実際に目視検査により発見される品質・信頼性を低下させるはんだ不良の例をいくつかご紹介していきます。
過多・不足のはんだ
過多のはんだは、ピンにはんだを付けすぎて丸くなってしまった状態のものです。理想的とされるぬれ性がないため、はんだブリッジが形成されやすく誤作動・故障の原因になるため不良と判断されます。
不足のはんだ(過少のはんだ)はピンに十分な量のはんだが付いておらず、か細くなった状態のものです。やはりぬれ性がなく、接点不良や耐久性において問題があるため不良のはんだであると目視にて判断することができます。
はんだボール
はんだ不良の一般的なものが、はんだボールです。はんだ付けされた周辺にボールのような球体が発生し、時間の経過によって剥がれ落ちて機器内ではんだボールが転がるなどの問題を生じることがあります。はんだボールはコテの引き抜きが早い場合などに発生しやすく、誤作動の原因となる不良です。
はんだブリッジ
2点以上のはんだ接合部がブリッジ状につながってしまっている状態がはんだブリッジです。ブリッジのようにつながらず、角状になったものは「ツララ」と呼びます。はんだの過剰塗布やコテ操作のミスなどで発生します。はんだブリッジは細かい部分に起きやすいため、目視により検出されず見落とされてしまうこともあります。また、誤作動による部品の焼損が発生する可能性があるため、はんだブリッジのある製品は必ず除外しなければなりません。
はんだスキップ
接点がはんだでぬれていない不良が、はんだスキップです。本来接合すべき部分が接合されていないため、電気的にも断線してしまい誤作動の原因となります。はんだ付けすべき部分が明らかに欠けているため目視でも発見しやすい不良です。
冷接点
ゴツゴツとした見た目を持つはんだ不良が冷接点です。理想的な「光沢がありきれい」な状態からは程遠く、表面がいびつになっていることが少なくありません。その名の通りはんだが十分な熱によって溶かされず液状になりきれないことで発生することが多いです。冷接点は亀裂が発生しやすいため耐久性が低く、将来的な誤作動の原因となります。
イモはんだ
コテの過熱温度が低かったり、加熱時間が短かったりする場合に起きる不良です。はんだが母材に馴染まず、山型ではなく丸型になります。強度が弱く、導通不良になる場合があります。
クラック
クラックとははんだに入ってしまう亀裂のことです。目視では確認できないレベルの亀裂が発生することが多く、様々な要因があります。通電による発熱で膨張や収縮を繰り返すことで亀裂が発生してしまうというのが主な要因の一つです。
はんだ付けにおいて検査装置の導入は困難?
はんだ付けの外観検査では目視による検査が一般的かつ手軽さがあります。しかし、効率化や人件費削減を求めて検査装置の導入を検討している企業も少なくありません。果たして、はんだ付けにおいて検査装置は導入すべきなのでしょうか。
目視検査は細かい点まで見ることができるメリットがあります。
例えば、光学式の検査装置ではその仕組み的に影になってしまう部分の検査ができません。しかし、目視検査であれば角度をつけて基盤を覗き込むことができるため、すみずみまでじっくり検査することができます。また、目視検査は機器の導入コストや手間、定期的なメンテナンス等もなく、担当者がいれば行える手軽さもあります。
メリットが多いように見える目視検査ですが、実はいくつか問題点もあります。
例えば、「不良の見逃し」「人員による認識の違い」等の発生です。不良の見逃しなどの人為的なミスは、たとえ熟練した工員であっても発生する可能性があります。また、明確な基準を設けたつもりでも工員によって認識が違ったために不良を見逃してしまうこともゼロではありません。人による作業である以上、このような問題点は拭いきることが難しいでしょう。
また、近年は少子高齢化が進みベテラン検査員が減少し若手の育成も追いついておらず、目視検査員が人手不足の傾向にあります。人手不足は目視検査の生産性低下にもつながるため、企業にとっては死活問題です。
このように目視確認にはさまざまなメリットがありますが、問題点も少なくありません。目視検査の柔軟性と手軽さを活かしつつ、人為的ミスや人手不足・生産性低下といったデメリットを補うという意味で、検査装置の導入は検討されるべきです。目視検査と検査装置の導入を並行して行うことで、外観検査の効率化と製品の信頼性向上を図っていきましょう。
検査装置導入のポイント
目視による外観検査は柔軟性が高くすみずみまで製品をチェックできますが、人為的ミスの発生や人手不足・人件費増などの問題もあります。
目視によるデメリットを解消し、検査の効率化を図るためには外観検査装置の導入をすべきです。ここでは検査装置導入において重要な「しきい値」と、装置選定時のポイントについてまとめていきます。
適切なしきい値の設定
検査装置を導入・運用するためには「しきい値の設定」をしなくてはいけません。しきい値とは境目になる値のことで、検査装置でいえば「良」「不良」の境界線を判断する基準のことです。はんだ付けの外観検査は接合部分の信頼性や品質を保証する重要な検査である以上、適切なしきい値を設定しなくてはいけません。
製品の品質を高めるためにも正確な検査基準=しきい値を決める、これを言葉にするのは簡単ですが、実際にしきい値を設定するのは非常に難しい点があります。
例えば、厳しい数値に設定してしまうと過判定により、本来はギリギリ「良」であった製品でも「不良」と機械的に判断されてしまいます。せっかく検査装置を導入したのに必要以上に不良品が増えれば、生産性は低下してしまうことでしょう。逆にしきい値を甘い数値に設定してしまえば「不良」を見逃してしまい信頼性の低下につながります。結果として企業の業績に悪影響を及ぼすことになるでしょう。良品と不良品を目視検査と同等程度のレベルでしきい値を設けるのは設定が非常に難しいのです。
また、適切なしきい値を困難にするもう一つの理由として「単位の違い」も挙げられます。検査装置のしきい値設定は数値による長さを入力するのが一般的です。mm単位のものもあれば、ピクセル単位での入力が必要なものもあるため数値の変換が必要となり、担当者の作業を煩雑化させてしまいます。
さらに、検査装置にしきい値を設定するためには、外観検査の基準書に合わせて計算しなおさなければならないという手間もあります。
例えば、部品ズレの場合、外観検査の基準書では絶対値による基準は示されていないことがほとんどです。示されている基準は部品リードの幅によって違い、許容されるズレ量も異なります。そのため、ひとつひとつの検査基準を、検査装置に合った数値・単位に計算しなおして入力しなければならないのです。
このように、検査装置の導入にははんだ付けの品質や信頼性を保証するためにも適切なしきい値の設定が必要です。そして適切な数値を入力するということは、決して簡単なことではなく、担当者の作業量も少なくないことがわかります。
高性能な検査装置の選定
これまで解説してきたように、はんだ付けはその品質や信頼性を保証するために複雑かつできる限り正確な検査が必要です。また、検査装置の導入・運用にはしきい値の設定などが難しい面もあります。
このようなことを踏まえると、高性能で検査精度の高さはもちろん、学習機能のあるAIを搭載した検査装置の導入がおすすめです。
実際に検査装置を導入する場合、自社製品に合ったソフトウェアとハードウェアを持つものを選ぶべきです。ハードウェア面で考えれば、機器そのものを置くスペースがあるかどうか、製品の大きさと合っているか、操作・運用できる担当者がいるかといった物理的な面を検討しましょう。
さらに、重要なソフトウェア面ではAIの性能を確認しましょう。一言でAIといっても、機械学習の手法は異なります。
例えば、単一プロセスのみで学習するタイプのAIでは特定の不良品のみしか検知できない可能性があります。この場合、なんらかの例外が発生した場合に対応が困難なためおすすめできません。
おすすめは複数の学習プロセスを持つAIです。過去に学習した異常検知がスムーズであることはもちろんですが、あらゆる可能性を考慮することができます。そのため柔軟かつさまざまな角度から欠陥を認識でき、製品の信頼性も担保しやすくなるでしょう。
検査装置を導入される際は、ぜひこのようなポイントを意識してみてください。
まとめ
いかがでしたでしょうか?日本の製造業におけるはんだの目視検査について解説いたしました。
目視検査による人的負担は大きく、外観検査装置の導入が改善する手段の一つになります。また、外観検査にAIを活用することによって、その検査精度は飛躍的に改善する可能性があります。
外観検査AI化の始め方や、AI最新技術などについてまとめた資料も多数ご用意してありますので、目視検査に課題を感じている方はぜひご覧ください。