近年、AIの進化は目覚ましく、様々な分野でAI活用が注目されています。
しかし、諸外国と比較して、日本の製造業におけるAI活用はあまり進んでいないのが実情です。専門知識を持った人材が不足しており、どのように自社にAIを取り入れるべきなのかなどの検討が進んでいません。
しかし、実際にAIを導入することで業務の効率化やコストカットに成功した企業も少なくありません。
そこで今回の記事では、製造業におけるAIの活用状況と合わせて、AIを活用するメリットや事例、活用ポイントまで詳しく解説します。
製造業におけるAI活用状況は?
総務省の「情報通信白書令和3年版」によると、米国のAI導入状況が35.1%に対し、日本のAI導入率は24.3%にとどまっています。また、製造業におけるDXの取り組み状況は、米国が63.6%であるのに対し、日本では13.3%と大きな差が生じています。
AI技術を含むデジタル技術導入率が遅れている大きな理由はICT人材の不足です。日本ではICT人材がICT企業に偏って所属しており、DXを進めるユーザー企業側で技術やノウハウを持った人材が不足しているのが現状です。
総務省の調査では、DXを進めるうえでの課題について「人材不足」と答える企業が53.1%を占めています。
製造業でAIを活用するメリット
以下は、製造業でAIを活用する主なメリットです。
- 人手不足問題の解消
- ヒューマンエラーの発生防止
- 設備の予防保全
上から順番に、詳しく解説していきます。
人手不足問題の解消
AIの活用により、人手不足の解消が期待できます。
実際に、経済産業省の調査によると、日本国内の製造就業者の割合は10年前と比べて11.6%も減少しているという状況です(※3)。
製造業の人手不足は深刻な状況ですが、AIを導入することで自動化できる作業もあります。
その代表例が外観検査であり、たとえば外観検査に5人の作業員が必要なところを自動化によって無人にできれば、大幅な省人化が実現できます。また、無人化や省人化が成功すれば、検査工程の人材を別の工程へ配置することもできます。
人手不足に悩む現場にこそ、AIの導入が急務となっているのです。
(※3)第1節 デジタル技術の進展とものづくり人材育成の方向性|経済産業省
ヒューマンエラーの発生防止
AIの活用は、ヒューマンエラーの防止にもつながります。
特に外観検査のような工程では、検査員の体調や精神状態がヒューマンエラーにつながる場合もあり、完全に防止するのは不可能です。
マニュアルや限度見本を用意したとしても検査員による判定のバラつきを完全に抑えることは難しく、場合によってはオーバーキル(過検出)の問題が発生してしまうこともあります。
検査判定の精度向上のため、研修や認定制度を設ける方法もありますが、企業にとっては手間やコストが大きな負担です。
AIは人間と違って疲労がなく、一度学習した内容を忘れることはありません。そのため人間の目視による検査と比べると、見逃しのリスクを低減できるのです。
作業者のヒューマンエラーに悩む現場にも、AIの活用が向いています。
IoTと組み合わせた設備の予防保全
AIの活用により、設備の予防保全も可能です。
従来の手法では、人、労力、時間などが限られていることから、全ての設備を確認することはできません。そのため、ある程度は妥協しながら点検を行う必要があるので、トラブル発生時は事後対応になってしまいます。
トラブルの事後対応は、生産計画に影響を与えるだけでなく修繕コストもかかります。
こうした課題を解決するためにIoTの活用も進められています。インターネットの接続可能なセンサーを機械に設置することで、稼働状況のデータをリアルタイムに大量に集めることができます。
AIはビッグデータの処理に適しています。AIなら、蓄積したデータの機械学習によって設備故障の予兆や推定が可能なため、トラブル発生前の故障や異常の察知が可能です。
保守コストや生産性向上を目指すなら、AIを導入すべきです。
製造業におけるAI活用シーンは?
AIは大量のデータを活用した分析と最適化に適しています。では実際に製造業において、AIは具体的どういったケースで活用されるのでしょうか。ここでは一般企業と製造業それぞれの視点でご紹介します。
一般企業におけるAI活用
ここからは製造業を含む、一般的な企業でのAI活用のシーンについてご紹介していきます。
- アナログ帳票のデジタル化
- 分析による業務効率の改善
- 画像診断による判定
アナログ帳票のデジタル化
たとえば、大手化粧品メーカーのファンケルでは月数万件の受注登録業務が発生していて、他社へ業務委託していました。しかし、AIの活用によって内製化が可能になり、ハガキやFAXの受注業務の約50%を効率化することに成功しています。
分析による業務効率の改善
JR東日本ウォータービジネスは、駅中にある自動販売機にAIを導入することで飲料補充業務効率化が実現し、東京駅での売上はAI導入前の39.5%も増加しました。
画像診断による判定
コメ兵ホールディングスの場合、「ブランド物の本物とニセ物を見分けるシステム」と「型番判定が可能なシステム」を導入したことで、新入社員よりも早く判定できるようになったといいます。
このように、AIの活用によって人材不足の補填や生産性の向上につながるケースが増えているのです。
製造業ならではのAI活用
人手による作業が多い製造現場では不良品や異物の発生を防ぐことが困難なうえ、目視検査においても検査員が見逃してしまうこともあります。
異常の発生や不良品の見逃しなどは、設計ミスや設備の不具合だけでなくヒューマンエラーや人材不足によるケースが多いのも現状です。
AIを活用すれば、上記の問題を解決できます。
- 機械学習によって設備故障の推定・予兆検知が可能
- 手順と異なる動作をすると異常として検知できる
- 不良品のチェックをAIに代行できる
- 過去データから最適なオペレーションを予測可能
- 保存データのフィードバックで品質を改善
難しい課題を抱えた現場でも、AIによって解決できることも多いのです。
AIを活用した不良品検知については以下ブログで詳しく解説しています。
不良品検知にAIソリューションを活用!具体的な効果とは?
製造業におけるAI活用事例
ここでは、製造業におけるAI活用事例をいくつかご紹介します。
事例①:工業用ゴム製品メーカーB社の事例
工業用ゴム製品メーカーB社は、品質チェック工程の省人化のために検査機導入を検討したものの、十分な精度を出せずに導入には至りませんでした。
そうした事情から、検査員による全件目視検査を実施せざるを得ない状況だったといいます。
検査対象の製品は10万個/日、検査員は最大20名/日であり、1人あたり5,000個/日の検査を行う必要があります。
B社はAIを導入することで、4つの改善効果を得ることができました。
- 人による目視検査の削減
- 検査品質の標準化
- 画像による画像データの蓄積
- 人による過検知率(オーバーキルの割合)との数値比較が可能
不良率が1日あたり5,000個/100,000個(最大5%)であることから、最大19名の検査員のコスト削減に成功したのです。
事例②:アイリスオーヤマの事例
生活用品や家電製品を企画、製造、販売するアイリスオーヤマは、2018年に「つくば工場」を稼働しました。
アイリスオーヤマでは国内9番目の工場であり、自動化ラインを備えたLED照明生産ラインに特化しています。実負荷試験(エイジング)、絶縁耐圧や照度といった検査をライン上で行うことができます。
LED照明生産ラインにはロボットを活用しているため、基板実装から製品の梱包を一貫して無人で行えるので、高品質な製品の安定供給が可能です。
また、つくば工場は物流の拠点としての役割もあり、無人搬送車(AGV)の活用によって効率的な生産を実現しています。
同社の国内工場では、51,876パレットと最大の収容能力を備えた自動倉庫も併設されていて、人口が密集する首都圏を中心とした地域の需要に対応することも特徴です。
出展:https://macro-send.com/blog/ai-factory
事例③:日本トーカンパッケージ
段ボール・紙といった包装容器の製造メーカーである日本トーカンパッケージでは、受注生産方式の生産による製造で短納期を希望するお客様が多く、少しの設備トラブルでも納期遅れに直結していました。
従来、設備点検は熟練技術者による点検で支えられていましたが、点検業務が属人化していたために、自動管理システムを構築する必要があったのです。また、システム構築では将来にわたって外部からの不正侵入を防ぐためのネットワークが不可欠でした。
生産設備の主要機器にセンサーを取り付けて状況を可視化し、セキュリティが担保されたネットワークを構築することで、機器の異常を自動で検出するシステムを構築できるようになりました。無駄なアイドリングも可視化されたので、電気代も削減できています。
出展:https://macro-send.com/blog/ai-factory
製造業でAIを活用するときのポイント
製造業で、AIを活用するときのポイントを解説します。
主に、以下の3点に注意しましょう。
- AI人材を確保する
- 課題や目的を明確にする
- 正しいAIプラットフォームを選ぶ
前述したとおり、AI人材の存在は希少です。
AIを導入するにはAI技術に長けた人材が在籍していた方が効率よく現場を運営することができます。AI人材の確保には、外部から獲得したり社内の人材を育成したりする必要があります。
自社の課題や目的をよく洗い出し、どのようにAIを活用すべきか考えることが大切です。課題や目的が明確になっていないと、AIを導入しても大きな効果を得ることはできません。
AIプラットフォームは多くの種類が存在するので、自社に最適なものを選ぶ必要があります。正しく選択できることで、大きな付加価値を得ることができるからです。
3つのポイントを意識したうえで、AIを活用しましょう。
製造業におけるAI活用のこれから
日本のAI導入率は他国に遅れを取ってはいるものの、少しずつAIを導入する企業が増えつつあります。
生産性向上や人材不足の解消といった課題を解決するだけでなく、ほかにも企業にとって大きなメリットを生み出す可能性も秘めているからです。
AIの進化によって人間が行っていた作業はロボットなどに代替えされる一方で、現時点では存在しない新しい仕事が生まれるとされています。
たとえば、防災面では災害救助ロボットが実用化されて、大型台風や集中豪雨といった被害の大きな災害の予測の精度が上がり、すぐに避難を誘導することで被害を最小限に食い止めることができるといわれています。
AI技術の精度は現在も徐々に向上しているため、そういった点も今後AIを活用する企業の増加に拍車をかけるでしょう。
まとめ
製造現場においては、いまだにAI活用で解決できる課題が多く残っています。
AIの活用は他国に比べると進んではいませんが、徐々に成長を見せており、今後さらに広まりを見せる予想です。
AIを活用する場合は事前に課題や目的を明確にし、その課題を解決し、目的を達成できるシステムを選択しなければいけません。
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