近年、製造現場では設備や機械にIoTセンサーを設置するケースが増えていますが、どのような効果があるのでしょうか。
本記事ではIoTセンサーについて、種類や活用例などをご説明します。そもそもIoTとは何かなど、基本的なこともわかりやすくまとめました。
IoTセンサーの知識を身につけたい場合は、ぜひ参考にしてください。
そもそもIoTとは何か
IoTとは「Internet of Things」の略称であり、日本語では「モノのインターネット」と訳されています。IoTは全てのモノがインターネットにつながり、それぞれから情報を取得して最適な方法でモノをコントロールできる仕組みです。
日常生活においては、スマートフォンやパソコン、テレビ、エアコン、炊飯器、お風呂、玄関のロックなどが相互につながり、操作が可能になります。IoTならば出先でスマホを使ってエアコンを操作したり、お風呂の温度を調節したりすることが可能です。
なお、IoTは以下4つの要素で構成されます。
- 対象となるデバイス
- デバイスの状態をデータとして取得できるセンサーなどの装置
- データの送受信をする通信手段
- データを可視化するためのアプリケーション
それぞれのデバイスに組み込まれたセンサーがほかの機器のデータを取得して、ネットワークによりスマホやパソコン上のアプリケーションで状況を確認できることになります。
製造現場におけるIoTとは
IoTは製造現場にも応用されています。製造現場におけるIoTは、設備や機械の状態に関するデータを収集するためにセンサーを取り付けて、蓄積されたデータをさまざまな情報に変換して生産効率をアップさせるものです。
例えば、センサーで設備や機械のエネルギー消費量を可視化して、AIの学習機能によりパターン化し、省エネルギー化を図ることが可能です。
製造現場でIoTを実現することで、製造工程の自動化だけではなくコストダウンや収益性の向上が期待できます。
製造現場をIoT化する目的
製造現場をIoT化する目的は、生産性の向上や新サービスの創出です。前述したように、IoT化によってコストダウンが可能ですが、近年多くの製造現場や製造業では技術者の高齢化などにより、人手不足が課題とされています。
人手不足の製造現場では生産性が著しく低下することがあり、企業活動を維持できない可能性が考えられます。経済産業省関東経済産業局が2017年3月に発表した「中小ものづくり企業IoT等活用事例」では、中小ものづくり企業の課題として、生産性向上と新商品・サービスの創出が挙げられています。
生産性向上の課題は人材不足だけではなく、工程管理の難しさや見積もり作業の負荷、作業ノウハウの潜在など多岐にわたります。新商品・サービスの創出の課題としては、新規顧客の開拓や顧客の製品の利用状況がわからないことなどがありました。
このような課題を解決してくれるのがIoTです。特に生産性の向上には大きな効果が見込めます。さまざまな機器やシステムを導入してIoT化を図り、現場作業の改善や工程管理の効率化、脱属人化などを実現している実例も公開されています。
※参考:中小ものづくり企業IoT等活用事例
IoTに必要不可欠な「センサー」とは
IoTにはセンサーが必要不可欠です。センサーには対象物の状態について情報を収集して、設備や機械を人間が扱いやすいような信号に置き換える機能があります。これは人間が視覚や臭覚、聴覚などの五感を駆使して対象物の状態を検知することに似ています。
IoT化の際に導入する機器のセンサーは、振動・湿度・温度・速度・磁力など、人間の五感よりも幅広く精巧なものといえるでしょう。実際の製造現場では、設備や機器にセンサーを搭載して対象物の動作を検知します。
設備や機械のセンサーで読み取った情報は、判読可能なデータに書き換えられて活用できる状態になります。一部は人間が関知しないシステム内で処理されるデータもあります。
IoTで使われるセンサーの種類
IoTに使われるセンサーは多岐にわたります。ここでは6種類のセンサーについて特徴を中心にご説明します。
イメージセンサー
イメージセンサーは、主にカメラに使われているセンサーです。光を電気信号に変換することで画像を生成します。スマートフォンのカメラやデジタルカメラに搭載されているだけではなく、近年では自動運転機能にもイメージセンサーを用いています。
イメージセンサーは、人間の肉眼で見えにくいキズや汚れなどの検出が可能です。製造現場では、機械学習やAIと組み合わせて、外観検査の自動化や精度向上など広い範囲で活用されています。
光センサー
光センサーは、光の有無や強弱を検出するセンサーです。可視光を検出するセンサーは、私たちの日常生活やビジネスシーンにおいてすでに活用されています。自動ドアなどの人感センサーも光センサーの一種です。
また、手をかざすだけで水が出る蛇口や、不審者などによる侵入警報装置も光センサーを使っています。テレビやエアコンなどのリモコンからは赤外線が放出されており、本体側の光センサーが反応することで、さまざまな制御ができます。
圧力センサー
圧力センサーは、センサーにかかる圧力を検出します。センサーに直接圧力がかかる場合だけではなく、気圧を測定することも可能です。対象物に応じて構造もさまざまなものがあります。
圧力センサーが使われているものには、体重計や血圧計などがあります。洗濯機も圧力センサーを搭載している機械です。油圧計など産業用の機器にも応用されています。
距離センサー
距離センサーは、光や超音波の反射から距離を算出するセンサーです。近年では車の自動運転の実現に向けて、さまざまなタイプの距離センサーを組み合わせています。複数の距離センサーを組み合わせることで、障害物に対しても高精度で認識して安全性を確保します。
音センサー
音センサーはマイクロフォンを意味しており、通常はマイクと呼びます。音センサーは、音の大小や高低などで表現されます。近年では、小型のマイクであっても雑音を拾いにくいなど高性能な製品が開発されてます。
加速度センサー
加速度センサーは、物体の加速度を計測するセンサーです。モーションセンサーと呼ばれることがあります。検出したい対象物に搭載すると、加速度の変化から動きや振動、衝撃を検出します。車のエアバッグには加速度センサーが使われており、制御が行われています。
製造現場でIoTセンサーはどう使われているか
前章ではIoTセンサーの種類を具体的にご紹介しました。ここでは、製造現場でIoTセンサーがどのように使われているか詳しくみていきましょう。
設備の状態把握
IoTセンサーにより設備の状況把握が可能です。製造現場において設備状況を把握するにはIoTセンサーの導入が不可欠ともいえます。各生産設備にセンサーを取り付けることで、稼働状況などをデータで収集することが可能です。
収集したデータを分析すれば、設備が正常に機能しているかどうかの診断もできます。これは予知保全や予兆保全を実現することにもなり、結果として安全性の確保にも効果があります。なお、設備の状況把握には、イメージセンサーや光センサーなどが使われます。
業務の効率化
製造現場をIoTによってインターネットに接続すると、これまで人の手作業や目視作業で行っていた工程を効率化できます。生産ラインにイメージセンサーなどを設置すると、不良品かどうか瞬時に判別できます。一定時間に実施可能な検査の数が目視よりも格段に増えるため、検査の大幅な効率化を実現できます。また、検査員の体調やスキルに左右されることがなく、目視では確認できない微細な不良も感知できるため、製品の品質向上にもつながるでしょう。また、IoTセンサーで収集したデータをタブレットやパソコンで確認することで、工程管理にも活かせます。
従来は点検や日報などを書類で作成しファイリングしていましたが、IoT化によって必要な情報をいつでも簡単に取り出せるようになりました。
作業員の安全確保
製造現場では作業員の安全性確保が重要です。作業員が怪我をすると、生産ラインの稼働にも影響が出るでしょう。光センサーや距離センサー、温度センサーが搭載された設備ならば、設備の故障などによる作業員への危険性を検知できます。
24時間稼働の製造現場であれば、よりIoTセンサーを搭載した設備の設置が重要でしょう。これは稼働時間が長いほど、設備の故障や不具合の可能性が高まるからです。
コストの削減
IoTセンサーを用いて設備からデータを収集・活用すると、エネルギー消費の予測が可能になります。現状のエネルギー消費のデータを検知してAIで分析すると、無駄な消費をしていないか検討することができます。
その結果、自社で保有している所有コストを減らすことも可能となり、生産性の向上にもつながるでしょう。
製造現場におけるIoTの活用事例
ここからは製造現場におけるIoTの活用事例をご紹介します。3社の事例を紹介しますので、具体的な取り組みをぜひ参考にしてください。
トヨタの事例
トヨタ自動車北海道では、新型ヤリスに搭載する駆動ユニットの生産ラインにIoTシステムを構築しました。目的は設備の稼働情報を可視化することです。
同社では、自動変速機(AT)や無段変速機(CVT)、電気式無段変速機などの駆動ユニットの技術開発や製造を行っています。IoTシステムが組み込まれた生産ラインでは、生産量が従来の3倍にまで向上しました。
同社のIoTシステム構築はインターネットイニシアティブ社が担当し、制御機器からモバイル網を介してデータを収集しています。インターネットイニシアティブ社は、集めたデータの可視化、分析のためのクラウド基盤の構築までワンストップで提供しました。
今後は予防診断の最適化が行えるように、検査結果と稼働状況を照合して不具合を早期に発見していきたいとのことです。
コマツの事例
コマツは工場設備を可視化するためにIoTの技術を活用しました。同社は多品種少量の生産体制が特徴であり、生産性の向上が課題でした。特に同社はグローバルに拠点を構えており、各製造現場の稼働状況の把握をする必要もありました。
そこで、同社はIoTによってデータを収集し、クラウドによる一括管理体制を構築しました。徐々に接続する機器の数を増やしていき、より広範な製造現場の可視化を実現しています。
富士通の事例
富士通は「ユビキタスウェア」を提供しており、製造現場で働く人が感じるストレスを計測して人為的なミスや事故の発生を防いでいます。具体的には、作業員がバイタルセンシングバンドを身に着け、温度センサーによって身体の状態や環境指数を計測し、安全、危険度小、危険度中、危険度高の4段階で管理者に通知します。計測された情報はパソコンやスマホなどで管理され、異常が検知された作業員がいるとアラートで知らせます。「熱中症の危険がある」など、作業員の状況を把握することで、適切なタイミングで休憩を取らせることができるでしょう。
まとめ
製造現場におけるIoTやAIの活用が広がり、ファクトリーオートメーションへの動きが加速しています。本記事でも取り上げたようにIoTセンサーの活用など、自動化にはさまざまな事例があります。
そのなかでも製品の品質維持・向上に欠かせない外観検査はその代表例です。従来の目視検査よりも、緻密で高精度かつ高速な検査が実現できるAI外観検査の実現方法についてまとめた資料がありますので、興味がありましたらぜひご覧ください。
- カテゴリ:
- キーワード: