昨今ではさまざまな金属製品が出回っています。金属はプラスチックと並んでよく使用される材料です。金属製品や金属部品は、さまざまな加工を経て仕上げられます。金属加工の方法は多岐にわたるため、製品に応じた方法を選ぶことがポイントです。
本記事では金属加工の概要や工程、加工の種類などをご説明します。金属加工について知識を身につけたい場合は、ぜひ参考にしてください。
金属加工とは
金属加工とは、金属の加工業務全般を指します。金属の加工方法は多様にあり、分類もさまざまです。
例えば、形を作る金属加工としては、機械加工や塑性(そせい)加工、鋳造などがあります。また、性質を変える金属加工には、熱処理や表面処理があります。
これらの加工方法はさらに細かな方法に分類されます。それぞれの加工方法の説明は後述します。
金属加工の工程
まずは金属加工の大枠の工程をみていきます。
金属加工には、機械加工、熱処理加工、表面処理という流れがあります。そして、仕上がった金属製品は検査工程を経て出荷されます。
例えば、歯車付きシャフトの金属加工では、切り出しや鋳造、切削という機械加工を行います。その後、焼入れや焼戻しの熱処理加工を行って、機械加工の研削という流れです。表面加工では防錆油を塗布し、検査で問題がなければ出荷となります。
次章以降で機械加工、熱処理加工、表面処理について詳しくご説明します。
機械加工
ここでは機械加工の具体的な方法として、成形加工、除去加工、付加加工、接合加工の4種類をご紹介します。各加工方法の特徴や起こりうる不良の例もご説明します。
成形加工
成形加工とは、金属の塊(材料)を製品に使える形にすることです。鋳造、鍛造、プレス加工の3手法をご紹介します。
鋳造
鋳造は成形加工の代表的な手法です。固体の金属を熱して融解させた後に、鋳型と呼ばれる型に流し込みます。型に流し込んだ後は、そのままの状態で冷却して目的の形にします。
鋳造は鋳型があれば加工できて、大量生産も可能です。鋳造の歴史は長く、紀元前4,000年くらいから行われていたともいわれています。もともと砂で型を作っていましたが、現在は金型を使っています。
鋳造で加工される製品には、エンジン部品、工作機械の土台、モーター部品などが挙げられます。ただし鋳造された製品は表面の精度が悪いことが多く、そのまま製品として出荷・使用されるケースは少ないという弱みがあります。鋳造で作られた製品は切削加工が施されて利用できる状態に仕上げられます。
鋳造製品にはさまざまな不良が生じる可能性があります。例えば凝固完了前後に温度差によって発生する表面の割れや、凝固収縮する際に鋳造品の内部に空隙ができる巣(孔)、鋳型の流し込んだ際にできる出っ張りやへこみなどの形状不良などが挙げられます。
不良の種類によって、温度や冷却速度の調節、鋳型を清浄・乾燥な状態に保つなどの対策ができます。
鍛造
鍛造は金属を叩いて圧力を加えることで形をつくり、強度を高める加工方法です。金属を叩く作業を「鍛える」と呼ぶことがあり、鍛えて造ることから鍛造と呼ばれています。
金属を叩いて素材内の空気や結晶を細かく整えることで強度が高まります。鋳造の手法と同様、鍛造は古来から知られている加工方法です。
鍛造は叩いて成形することから、金属を切り出す加工方法などよりも材料の無駄が少なく、コストをおさえることができます。また、製品の大量生産にも向いています。鍛造は強度を上げるという特徴から、自動車や航空機など部品の強度が求められる製品に用いられる手法です。
なお、鍛造では温度の変化によって生じる割れや混入物が鍛造で変形してつく傷などの不良が現れる場合があります。こちらも温度の調節や混入防止などにより対策できます。
鍛造については、以下の記事もご覧ください。
鍛造とは?鋳造との違い、メリットや製造工程を解説
プレス加工
プレス加工は、プレス機やシャーリングマシンなどを使って、金型に合わせて金属の板を曲げたり剪断したり絞ったりする成形方法です。広義には板金加工などもプレス加工に分類されるでしょう。
同じ質の製品を大量生産できるため生産性が高いメリットがありますが、成形できる形が限られており自由度が低いというデメリットも持っています。プレス加工は、車のボディ外板、家電製品など幅広い製品の製造に使われます。
プレス加工で発生する不良には、剪断時に突起が生じるバリや絞り加工で圧縮されてできるシワ、絞り加工・曲げ加工で起こる割れなどがあります。これらの不良を完全に防ぐことは難しいですが、金型の設計やマシンの設定などによる対策は可能です。
除去加工
除去加工は金属の素材から不要な部分を切り出して、目的の形状を造る方法です。これにも手法がいくつかありますが、 工具で削る切削加工や、砥石を使う研削加工が代表的です。光や電気、水などのエネルギーを活用して金属を削る特殊加工もあります。
レーザー照射による切断、電気エネルギーから変換した熱エネルギーによる切断なども特殊加工の一種です。また、電解液のなかに電極として金属を入れて通電する電解加工も特殊加工に含まれます。
これらのさまざまな除去加工によって、精密機器部品、歯車、エンジン、油圧シリンダー、機械部品などが製造されます。
除去加工でもさまざまな不良が起こりえます。たとえば主に切削加工で発生する不良としては断続的な振動「ビビり」や、工具の刃先の欠け「チッピング」などによる仕上げ面の劣化、削り残しや削りくずが押し出される形で突起になる「バリ」などが挙げられます。
付加加工
付加加工は、金属素材に材料を追加して目的の形状にする方法です。
近年では3Dプリンターの登場により積層造形が注目されています。3次元データをもとに金属粉を積み重ねていき、鋳造などでは再現できない複雑な形状に対応できます。
また、表面だけではなく内部構造を制作できる点も特徴です。形状によっては工具が不要で1点から複数の製造もできます。
付加加工によって製作されるものに多いのは金属部品です。さらに金属加工のための金型の製作にも適しています。
ただし、付加加工は造形精度や速度の向上、金属粉の低コスト化などが課題とされており、造形精度が原因でひずみや反りといった不良が起こることもあります。
接合加工
接合加工は、2つ以上の部品材料をつけ合わせて目的の形を造る方法です。加熱・溶解によって溶解部分が固まる原理を利用する溶接が例として挙げられます。また、曲げ加工やボルトなどの締結材で接合する機械的接合、接着剤などで接合する化学的接合もあります。
接合加工は電子機器から大型構造物まで幅広く利用されていますが、接合部分に段差や凸凹ができたり、化学的接合では強度が確保できなかったりする不良が起きるケースがあります。
熱処理加工
ここからは、熱処理加工についてご説明します。熱処理加工の手法としては、全体熱処理と表面熱処理が挙げられます。
全体熱処理
全体熱処理は、製品全体を加熱(冷却)することで性質を改善する方法です。表面熱処理の具体的な方法は以下をご覧ください。
- 焼入れ:加熱後に急冷して金属を硬い組織にすること。加熱温度や冷却温度によって金属の硬さなどの特徴が異なる。金属の種類によっても硬さに変化がみられる。
- 焼戻し:焼入れした金属は基本的に焼戻しを行う。焼入れした金属は急に冷やすことで熱応力(温度変化で内部に生じる力)が残るため組織が不安定になる。焼入れで硬くなるが、脆い状態を意味する。そこで、熱応力を除くために焼入れするときよりもかなり低い温度で加熱する。これを焼戻しという。
- 焼なまし:材料を加工しやすくするための加熱。
- 焼ならし:焼なましよりも高い温度から徐々に冷やしていき、材料の組織の均一化や結晶粒子の微細化を行うこと。
- オーステンパー:ひずみや焼割れを防止して強靭性を高める焼入れの方法。300〜400℃の塩浴中で冷やしてベイナイト組織になった後に冷却する方法。一般的な焼入れと焼戻しよりも製品の耐久度や粘り強さが向上する。焼入れによるひずみが少ないことも特徴。
表面熱処理
表面熱処理とは、金属の表面を加熱して硬化させることです。金属の表面を硬化させることで、耐摩耗性や耐疲労性などが向上します。
表面熱処理には表面焼入れと、熱拡散処理という方法があります。表面焼入れは、必要な箇所だけを加熱する方法です。炎焼入れ、高周波焼入れなどに分類することができます。
熱拡散処理は全体を加熱する方法です。加熱により鉄以外の元素を表面から拡散浸透させて、耐摩耗性や耐疲労性を向上させます。熱拡散処理は非金属元素もしくは金属元素を用いて行います。
表面処理
ここでは表面処理の方法をご紹介します。表面処理とは、金属素材の表面に加工を施すことです。これにより装飾性、耐食性などの向上に効果があります。表面処理では、めっき、研磨、塗装、ショットブラストをご説明します。
めっき
めっきは、素材の表面に薄い金属皮膜を形成する方法です。通常は金属素材が対象ですが、近年では樹脂などの非金属素材にもめっきが採用されています。
めっきをすることで、錆びにくくなったり強度が高まるなどのメリットがあります。また、見た目を美しくするため、素材に熱を通しやすくするためといった目的でめっきを施すこともあります。
めっき処理は電気特性(電気の通しやすさ)をはじめ多くのメリットがあります。めっきに使われる素材には金や銀、銅などがあり、加工方法にも電気めっきや乾式めっきなどさまざまな手法があります。
なお、めっきの詳細については以下の記事もご覧ください。
めっきとは?効果や種類、処理の工程を解説
研磨
研磨は、製品の表面仕上げに用いられる加工です。表面の凸凹をなめらかにして綺麗に仕上げたいときには、研磨を行います。
研磨は砥粒と呼ばれる微細な粒を作用させて、製品の表面を削ってなめらかにします。マイクロメートル単位で調整されるため、精度や強度が求められる製品の最終工程で行われることが多いです。
研磨の手法にも種類があり、砥石を高速回転させて加工物に当てる砥石研磨、ラップ台に加工物を置いて研磨剤で擦るラッピング研磨、砥粒が配列された布などで加工物を磨く研磨布紙加工などが主な例として挙げられます。
なお、研磨の詳細については以下の記事もご覧ください。
研磨とは?切削などとの違いや種類・加工工程を解説
塗装
塗装は、塗料を塗ったり吹きかけたりする表面処理です。加工物の表面に塗膜を形成させて、材料の保護や装飾性を向上させます。日常生活で触れるものはほとんどが何らかの塗装処理を施されているといってもいいかもしれません。
めっきと塗装は混同しやすいですが、それぞれに使われる素材に違いがあります。めっきの皮膜は金属素材が主流ですが、塗装の皮膜は樹脂などの非金属です。めっきの方が処理に時間がかかるものの、耐久性や密着性などの面で塗装より優れています。一方、塗装には再塗装が容易だったりコストが割安だったりといったメリットがあります。ただし、めっきも塗装も処理の目的は同じです。
ショットブラスト
ショットブラストは、金属の表面に粒の細かな砂などを吹きかけたり衝突させたりして、表面に凸凹を作る加工です。吹きかける投射材はステンレスやスチール、アルミニウム、ガラスビーズなどです。金属以外にもセラミックやガラス、プラスチック、ゴムなどに施されるケースがあります。
ショットブラストは、製品の装飾や仕上げに行うこともありますが、塗装前の鋼材の下地処理のために行うことが多いです。、錆の進行を防ぎ塗装が長持ちする効果があります。
金属加工方法の選定ポイント
ここまで、さまざまな金属加工の方法をご紹介しました。そのなかから製品に合う加工方法を選ぶ必要があります。金属加工方法を検討するときは、以下に着目してみてください。
形状と寸法精度
例えば、同じ形状の製品を一度に大量生産できる鋳造と、プレス加工や切削を繰り返す加工方法では、製造のスピードが異なります。鋳造は大量生産できる反面、寸法精度にばらつきが生じるというデメリットがありますが、プレス加工や切削では高い寸法精度を維持できます。高い精度が求められる精密部品にはプレス加工などの加工方法を選んでみてください。
納期や製作期間
納期によって加工方法を検討することもポイントです。工程が少ない加工方法ならばスピーディーな生産につながります。一方、納期に余裕があり寸法精度などを高めたいときは、工程をかけてじっくりと製作する方法を選ぶとよいでしょう。納期や製作期間を加味した加工方法を検討しましょう。
コスト
コストでは材料費がネックになります。流通量が多い材料であれば単価が下がり、コストの抑制につながります。ただし、材料費が安いからといって、製品に合わない素材を使うと余計な製作時間や人件費がかかることがあります。3Dプリンタを導入した加工は効率的ですがイニシャルコストがかかります。各加工方法とそれに適した材料を比較して検討してみてください。
まとめ
金属製品の製造過程ではさまざまな加工方法が使われます。それぞれにメリット・デメリットがあり、不良品の発生を完全に防ぐことは難しいのが現状です。不良品の流出を防ぐために不可欠なのが外観検査が不可欠ですが、近年は人手不足や検査の難化などによって検査員による的確な検査が困難になっています。
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