めっきは製品に金属皮膜を析出させる加工工程です。今回はめっきの基本知識や塗装との違い、効果やメリット、処理工程など幅広くご説明します。めっきについての知識を身につけたい場合は、ぜひ参考にしてください。
めっきとは
めっきとは、素材の表面に薄手の金属皮膜を形成させる表面処理方法のひとつです。一般的に金属素材が対象ですが、近年では樹脂などの非金属素材にもめっきを施すことがあります。
ちなみにめっきをカタカナで「メッキ」と書くことがありますが、外来語ではありませんので、ひらがなで書くことが正しいとされています。表面技術協会などではひらがな表記に統一されています。
なお、めっきはもともと「塗金(ときん)」と呼ばれていました。その後、アマルガム法と呼ばれるめっき法によって金が水銀に溶けて見えなくなることから「滅金(めっきん)」となり、「鍍金(めっき)」に呼び方が変わりました。この「鍍」は常用漢字ではないため、一般的にはひらがなで表記されます。
めっきと塗装の違い
めっきと混同しやすいものに塗装があります。めっきと塗装は、ともに素材などに皮膜を新たに付ける点が共通しており、処理の目的もほぼ同様です。
相違点は、皮膜の性質やメリットとデメリットにあります。
皮膜については、めっきが金属素材であるのに対して、塗装は樹脂などの非金属からできています。
めっきは基本的にめっき液に浸して処理を行いますが、塗装は塗料を塗ったり吹きかけたりします。双方のメリットやデメリットにも違いがありますので、以下をご覧ください。
めっき |
塗装 |
|
均一性 |
○ |
△ |
密着性 |
◎ |
△ |
耐久性 |
◎ |
△ |
美観 |
◎ |
◎ |
そのほか |
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|
以上のような特徴を踏まえて、めっきにするか塗装にするか決めることになります。
めっきの効果・メリット
ここからは、めっきの効果やメリットを見ていきます。めっきには主に5つの効果やメリットがあります。
錆びにくくする
めっきの効果として錆びにくくする点はもっともよく知られているでしょう。
例えば、自動車が古びて錆びると濃い茶色に変色し、ザラザラとした表面になります。これは金属が空気や水に触れて酸化することで起こる現象です。製品が錆びてしまうと、外観を損ない、耐久性も低下します。この錆びの進行を防ぐために施されるのがめっき処理です。
金属はもともと錆びやすい性質があるため、めっき処理をすることで耐食性を向上させて錆びにくくします。めっき処理をすると錆びないわけではありませんが、金属の寿命を延ばすことができます。
強度を高め摩耗性を持たせる
金属部品は部品同士が擦れることで、消耗していきます。機械などで使われている部品は激しく擦り合うため、できるだけ消耗を抑えることがポイントです。それらの金属部品にめっき処理を施すことで強度を高めることができます。
ただし、1回のめっき処理では摩耗性を保つことができませんので、定期的なメンテナンスが必要になります。
装飾を施す
めっき処理には、製品の見た目を美しくする効果があります。見た目は製品の売り上げにも大きく影響します。誰しも見た目が良い商品に惹かれるのは当然であり、外見が重視されるアクセサリーや車などであればなおさらでしょう。
機械製品であっても内部の部品が汚れていれば、不良品と思われてしまいます。ですから、市場に流通させる前にめっき処理によって見た目の装飾をすることは、品質の維持や向上にもつながる重要な工程です。
熱特性を持たせる
熱特性とは熱の通しやすさです。金属は熱が通りやすいイメージがあると思いますが、素材によっては熱が通りにくいものがあります。
例えば、ステンレスは熱を通しにくい金属です。ステンレス製のフライパンや鍋などもありますが、これらはめっき処理を行って熱を通しやすくしてあります。
一方で熱を通しすぎないようにする場合もめっき処理を施します。飛行機のエンジンや高温の中で行う作業に使われる機械部品がその一例です。前述したステンレスの特長を活かして製品を作りたいと考えても不向きな要素がある場合は、めっき処理をして熱耐性を持たせることがあります。
電気特性を持たせる
めっき処理で電気特性を持たせることも可能です。金属は電気を通しやすい素材ですが、細かな電子回路がある携帯電話やパソコンなどにはめっき処理を施して、電流を操作する必要があります。
電子回路内の部品同士をつないだりS極とN極を切り替えたり、さらにめっき処理をすることで回路内に電流を流すことができます。
また、樹脂など電気を通さない物質に通電性を持たせるためにめっき処理を施すこともあります。
めっき処理で使われる素材
めっき処理では、金や銀などさまざまな金属素材が使われます。ここではめっき処理に使われる素材をご紹介します。
金
金めっきはアクセサリーやライターなどに使われます。商品をきらびやかにする効果があり、高級感が増します。ちなみに、オリンピックをはじめ大会で授与される金メダルは純金ではなく、銀メダルに金めっきをしているケースもあります。
銀
銀めっきは食器やアクセサリーによく使われています。電子機器のコネクタの接続部分にも銀めっきがなされていることがあります。
なお、オリンピックのメダルでいうと銀メダルも純銀ではなく、強度を増すためにほかの物質が混ざっているそうです。
銅
銅は電気や熱を通しやすいことから製品の下地めっきとして使われることが多いです。下地めっきでは加工物に銅めっきを施して、その上に別のめっきをすることになります。
銅めっきは電気や熱を通しやすい特徴から、プリント配線板などに使われています。プリント配線板とは、はんだ付けの際に使う緑色の板のことです。なお、銅は錆びやすいため、さまざまな性質を持たせるためにほかの物質を混ぜて使われます。
ちなみに、銅メダルはほぼ銅で作られていますが、亜鉛などのほかの素材が混ぜられているそうです。
クロム
クロムは金属のなかでも硬い素材で耐摩耗性が高いため、すり減りやすい部品に使われています。自動車の部品や機械部品の計器などにはクロムめっきが採用されています。また、耐食性の高さから水道パイプ、自転車のチェーンといった水に触れやすいパーツにクロムめっきを施すこともあります。
クロムめっきは銀めっきよりも高級感を出せるため、車のエンブレムなどにも使われています。
ニッケル
ニッケルはほかの金属を配合することで、さまざまな性質を出せる金属です。耐食性や磁気をコントロールする磁性を付けたり、滑らかな表面にするための装飾性を向上させたりと幅広く活用されています。
ニッケルめっきが施されているものには、メガネやハードドライブなどが挙げられます。ただし、ニッケルは金属アレルギーの原因とされていることから、使用が控えられている側面があります。
以上のようにめっきに使われている素材はさまざまであり、製品によって使い分けられています。
めっき加工の方法
めっきにはさまざまな方法があります。ここでは4つのめっき加工方法についてご説明します。
電気めっき
電気めっきは、めっきとして付けたい金属を電気化学的に電着させる方法です。水槽に電気を流して加工します。装飾めっきや機能めっきに分類されるもので、装飾性や耐食性、耐摩耗性、電気誘導性などの特性を持たせることができます。
電気めっきの特徴としては、コストが安いことやさまざまな金属に使用できることが挙げられます。作業時間が短いこともメリットでしょう。
ただし、均一にめっきができなかったり、複雑な形状の製品には向いていなかったりなどの短所もあります。
無電解めっき
無電解めっきは、めっきとして付けたい金属を含んだ溶液中に製品を入れて加工する方法です。耐摩耗性や防錆性などの特性を持たせることができます。
無電解めっきのメリットは、電気めっきを施すのが難しい複雑な形状の製品も加工できることです。一方でコストが高いことや、使用可能な金属の種類が少ないことがデメリットとして挙げられます。
置換めっき
置換めっきは、水槽内で金属を溶かして、溶けた部分に素材を付着させることでめっきが完成する方法です。溶けた金属の部分と付着した金属が置き換わることから、置換めっきと呼ばれています。
例えば、硫酸銅めっき浴に鉄を浸漬すると、銅が鉄と置き換わります。添加物を調整することで、使用に耐えられる皮膜が得られます。
なお、置換めっきは耐食性が高い製品に仕上げることができますが、金属と素材の密着の悪さからめっきの厚さが限られます。
乾式めっき
乾式めっきは、真空管の中で加熱され蒸発した金属を素材の表面に付着させる方法です。電気を通さずにめっきができる点がメリットですが、分厚く良質なめっきにするのが難しいというデメリットもあります。
また、コストパフォーマンスもあまり優れていないため、費用がかかりやすい点も覚えておきたいところです。クロムなど一部の金属は乾式めっきができません。
めっき処理の主な工程
めっき処理は前処理、本処理、後処理に分けることができます。以下でそれぞれの工程をご説明します。
前処理
前処理では、脱脂処理や酸活性、エッチング、ストライクめっきなどを行います。
まずは治具と呼ばれるラックに製品をかけます。製品同士がぶつからないように十分な間隔を空けることがポイントです。
その後、脱脂をしてめっきがしっかりと密着しやすい状態にします。なお、めっきで発生する不良では密着不良が多くを占めています。脱脂だけではなくエッチングなどによって、めっきの邪魔になる不純物を取り除く工程は非常に重要です。
本処理
本処理では、前述しためっき処理の方法のいずれかを採用して、めっきを施していきます。無電解のニッケルめっきを例にすると、電離させたニッケルと還元剤を浴中に溶解させて製品を浸漬します。すると、化学反応によりめっき皮膜が析出していきます。
後処理
本処理が終わったら後処理としてしっかりと乾燥させます。乾燥方法も多岐にわたり、遠心脱水乾燥機、傾斜式遠心脱水乾燥機、吸引式乾燥機などさまざまな乾燥機が使われます。乾燥させた後は、審査をしてめっきの密着度などを検証します。
めっき処理で発生する不良
めっき処理では不良を引き起こすことがあります。めっき処理で発生しうる不良を3つご紹介します。
密着不良
密着不良は、何らかの理由により下地表面と製品がしっかりと密着しない不良です。めっき処理の後に密着不良が現れていなくても、曲げ工程(後工程)でふくれやはがれが生じるケースもあります。
異物付着
異物付着は、溶液に製品を入れてめっき処理をする際に、めっき皮膜表面に小突起が生じる不良です。めっき浴中の金属粒がめっき層に入り込むことが原因です。
未析出
未析出は、ピットやピンホールといっためっき皮膜表面の凹状欠陥により発生する不良です。ピンホールの発生に関しては、めっき皮膜のふくれや素材の腐食など別の原因も考えられます。
まとめ
めっきの工程には、素材を金属の膜で覆うことで、もとの素材にはない機能を付加する役割があります。錆びにくくしたり装飾を施したり、電気特性を持たせたりなど、さまざまな機能を付加することが可能です。
めっきの高機能化に伴って以前よりも高い品質を求められるようになり、従来の目視による外観検査に限界を感じ始めている現場も少なくありません。そこで近年増えているのがAIを活用した品質管理です。品質管理のポイントをまとめた資料がありますのでぜひご覧ください。
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