製造業で使われる素材には樹脂や金属などさまざまな種類がありますが、それぞれ製造工程や工程管理方法、製造における課題が異なります。
この記事では、主な素材として樹脂製品、金属製品、フィルム製品、半導体それぞれの製造工程や工程管理方法などをご説明します。
製造工程とは
製品は材料の投入、加工、検査、梱包などのさまざまな工程を経て完成します製造工程とは、製品を作り出すこの一連の作業全体を指しています。
製造工程には、材料の投入から加工で終わる場合もあれば、加工から再加工まで必要となる場合もあります。素材による工程の違いもありますが、目的によって加工方法もさまざまです。また、人間が行う工程もあれば機械が行う工程もあります。
製品を仕上げるためには製造工程を適切に管理すること、すなわち「工程管理」も重要です。次章では工程管理について見ていきましょう。
工程管理とは
工程管理とは、製造工程を管理することです。工程管理においては、材料の加工、運搬、検査など製造工程のすべてが対象になります。
正しく工程管理が実施されている現場では、人員配置や工程の段取りを最適化することができ、さまざまなメリットが生まれます。
工程管理の目的とメリット
工程管理の目的は、製品の品質や数量、製造期間などを最適化して、効率よく製造することです。人、機械、方法の3つの要素で成り立っていることから、「誰が」「何を使って」「どうするのか」を明確化することも目的といえるでしょう。
工程管理によって得られるメリットはさまざまです。
まず、工程管理を行うことで、ダラダラと機械を稼働させ続けるといったことがなくなり、従業員(作業者)と機械を効率よく稼働し続けることができます。生産期間の短縮といった効果も期待できます。
また、製造現場につきもののトラブル対応にも役立ちます。機械が急に故障したり従業員の欠勤があったりと、イレギュラーな事態が起こっても、工程管理がしっかりと行えていれば、全体を俯瞰して迅速かつ適切に対処できます。不測の事態に備えるためにも重要な要素といえます。
工程管理はコスト管理においても重要な要素です。材料など原価に関する管理では、数量と所在を正確に把握する必要があります。材料についても工程管理で正しく把握することで、コストの最適化につながります。
ほかにも、工程管理によってコストの最適化を図ることで製品の品質維持にもつながり、顧客満足度が向上します。その結果、顧客から継続的に発注・購入してもらえるようになり経営も安定するでしょう。
工程管理が適切に行われると、機械だけではなく従業員の負担も減ります。従業員の負担が減ることで、従業員の満足度も向上します。従業員の離職率の低下や仕事のモチベーションアップなども工程管理のメリットといえます。
樹脂(プラスチック)
樹脂とは、松脂(まつやに)や漆などの樹木の樹液が固まったものを指します。人類は昔からさまざまな用途に樹脂を活用してきましたが、樹液は大量に採取することが難しく高価なものでもあります。
そこで、人工的に樹脂が作れないかと試行錯誤した末に誕生したのが合成樹脂です。ここでは、樹脂のなかでも合成樹脂であるプラスチックの製造工程と工程管理についてご紹介します。
樹脂の製造工程
合成樹脂(プラスチック)は原油(石油)を原料としており、これをプラスチック製品として完成させるまでにはさまざまな工程があります。
まず精製工場で石油を加熱して、ガソリンやナフサ、灯油などに分けます。プラスチックはナフサから作られるため、ナフサを取りだしてさらに加熱します。ナフサを加熱すると、液体のベンゼンや気体のエチレン・プロピレンなどの製品原料ができあがります。
ベンゼンやエチレン・プロピレンなどのプラスチックの原料は、加工して柔らかくしたり壊れにくくしたり、着色したりします。粒状に加工されたその添加剤をペレットといい、ペレットを成形機に入れて冷やすとプラスチック製品が完成します。
樹脂の工程管理方法
合成樹脂(プラスチック)の工程管理では、仕掛品や半製品の評価ルールの策定、リアルタイムの在庫管理などが重要です。仕掛品とは原材料に少しでも加工を施した製品のことであり、半製品は加工や販売が可能な状態である中間的製品です。
プラスチック製品は原材料と完成品の関係性が見えにくいので、仕掛品から半製品へと加工が進むにつれて整合性のある数値などで評価をする必要があります。評価基準となる数値は製品によって異なるため、自社にとって適切だと判断できるものを定めます。また、その数値やロジックによって在庫管理を運用できる仕組みが必要とされます。
さらに、完成品ができるまでの仕掛品や半製品の数量を正確に把握するためには、各工程の数量把握を自動化することがポイントです。自動で在庫データに反映できる仕組みも検討しましょう。
樹脂の製造工程における課題点
合成樹脂(プラスチック)の製造工程における課題点は、原材料と完成品の関係性が捉えにくいことです。
プラスチックは、一般的な組立製造とは異なり、複数の原材料を溶解したり混合したり、さらに成形、加工することによって完成品として仕上げられます。そのため、仕掛品や半製品、最終的な製品がどれだけの原材料からできているのかが非常にわかりにくいのです。
そのうえ、仕掛品をすぐに次の工程へと移さなければならない場合も多く、工程の途中で仕掛品の数を把握するのが難しくなっています。
適切な管理が行われていないとば、工程を重ねれば重ねるほど在庫との食い違いが出てしまいます。
結果として、年度末などの棚卸しで差異が生じてしまうという製造業者も多いのではないでしょうか。これがプラスチックならではの課題点です。
金属
続いては金属の製造工程や管理方法をご紹介します。金属もさまざまな加工が施されて製品となっていきます。まずは金属の製造工程を見ていきましょう。
金属の製造工程
金属の製造工程は、機械加工、熱処理加工、表面処理加工の3つに分けることができます。
機械加工とは、金属の塊を曲げたり削ったりつなぎ合わせたりすることで目的の形にしていく工程です。その後、熱処理加工によって形を変えずに金属製品の性能を向上させます。最後は表面加工処理を行って、耐食性や耐摩耗性などを向上していく流れです。
なお、金属の各製造(加工)工程については、以下の3つの記事でもご紹介しています。併せてご覧ください。
鍛造とは?鋳造との違い、メリットや製造工程を解説
研磨とは?切削などとの違いや種類・加工工程を解説
めっきとは?効果や種類、処理の工程を解説
金属の工程管理方法
金属は切断やプレス、曲げなど社内外にまたがる作業項目を含めた工程管理が求められます。さらに多品種小ロット化や頻繁に起こる工程変更に対応できる体制や仕組みも必要です。
具体的には、製品の生産に使われる金型のショット数の管理、在庫管理、受注と見込み生産などを細かに管理していきます。また、ほかの製造加工と同様でロスの削減や作業進捗の最適化がポイントです。
例えば、金属の製造工程では鉄くずが大量に発生します。この鉄くずが大量になればなるほど、原材料のロスが大きく効率が悪いということになります。鉄くずが大量に発生するならば、どの工程で鉄くずが発生しやすいのかを検証して、効率を高める改善の取り組みを行う必要があります。
金属の製造工程における課題点
金属の製造工程では、複数の帳票で管理を行うケースが多いです。そのため、変更が生じるたびに帳票を変更する手間が課題になります。社内の工程だけで完結しないこともあり、多岐にわたる外注先の工程を正しく把握することにも難しさがあります。
それらの受発注の管理と並行して、品質と納期の管理を行わなければならないため、アナログな手法での管理には限界があります。特に中小規模の加工工場であれば、複数の工程を同時に流して部品加工などを行うことがほとんどです。同じ製品を繰り返し受注することも多く、また、仕掛品の在庫が急増することもあるでしょう。加工対象となる製品の工程管理が徹底されていないと納期に遅れるリスクも考えられます。
このような課題に対処するために、製造工程を管理するシステムを導入して自動化・機械化することが求められます。
フィルム
フィルムはプラスチック製品のひとつであり、私たちの身近なところにあふれています。家電、ペットボトルのラベル、壁紙、テープ、ラップフィルム、袋、クリアファイルなど多岐にわたりフィルムが活用されています。
ここではフィルムの製造工程や工程管理方法をご説明します。
フィルムの製造工程
フィルムの製造工程は、原料となる樹脂を溶かしてベースフィルムを作ることから始まります。ベースフィルムは、押出成形法や溶液流延法など目的に応じた製法を用いて作られます。
次に、製品に特徴を持たせるために目的に応じた材料をベースフィルムの表面に付着させます。場合によって複数の材料を付着させて多層コーティングを行う場合もあるでしょう。
なお、コーティングはウェットコーティングとドライコーティングに分類されます。コーティングが終了すると、コーティングした層を保護するためにプロテクトフィルムなど複数のフィルムを貼り合わせていきます。
そして、最後に使用目的に応じたサイズに切り分ける工程が断裁。です。機材のフィルムが流れる方向にカットすると食品用ラップなどが完成します。幅方向にカットすると薄型テレビやスマートフォンなどの部品として使うことができます。
フィルムの工程管理方法
フィルムは製造工程におけるミスが発生しやすく、少しの温度変化によっても状態が変化する敏感な素材です。フィルムの製造で発生する不良には目視では気づきにくいモノが多くあります。
そのため、精度が高いクリーンルームでの製造を行い、検査装置を用いて細かな部分まで検査をおこなうことによって品質を保つことが求められます。マイクロスコープ、顕微鏡測定器など、さまざまな検査機器を用いて検査をする必要があるでしょう。また、各工程での品質検査のデータをしっかりとフィードバックして、製品の質を向上させることが重要です。
フィルムの製造工程における課題点
フィルムの製造では、フィッシュアイやピンホールなどの不良が課題とされています。
フィッシュアイとは、溶解された樹脂の一部が混ざり合わずに塊として残ってしまうものです。樹脂温度の低さやスクリューの回転速度の遅さなどが原因で発生します。
ピンホールは、フィルムに開いた針で刺したような小さな穴です。フィルムは数十ミクロンと非常に薄く、少しの突起物や輸送中の振動などでもピンホールが生じます。
フィッシュアイやピンホールなどの不良を検知するには人間の目視による外観検査では限界があり、画像処理システムによる検査が必要です。近年、画像処理システムの検査が広がりを見せていますので、外観検査に課題を抱えている場合は導入を検討してみてください。
なお、フィルムの製造工程における不良に関しては以下の記事でも取り上げています。併せてご覧ください。
半導体
半導体とは、電気を通す導体と、電気をほとんど通さない絶縁体の中間的な性質を持つ材料のことです。私たちの身の回りにあるパソコン、スマートフォン、デジタルカメラ、テレビ、洗濯機、冷蔵庫などさまざまな製品に半導体が使われています。
以下で半導体の製造工程や工程管理方法をご説明します。
半導体の製造工程
半導体の製造工程は、前工程と後工程に分けられます。
まず前工程で回路設計やパターン設計を行うことから始まります。それらの設計では、どのような回路を作るか、効率の良い配置は何かなどの検討を重ねていきます。
その次にフォトマスク作成といって、透明なガラス板の表面に設計した回路を描く工程がありあります。回路を描いたらウエハー製造に入り、検査を重ねていきます。検査で問題ないとされたら、後工程に入ります。
後工程ではウエハーを切断して、一つひとつのチップにします。金線接続、樹脂によるパッケージを経て最終検査を行い、問題なければ出荷となります。
半導体の工程管理方法
半導体の製造工程はクリーンルームで行われます。特に前工程では細かな加工が多く、高いクリーン度が求められるため、半導体の工程管理ではクリーン度の管理や検査工程の自動化も必要です。
半導体は各工程で膜厚、抵抗値測定、外観検査などのさまざまな検査が必要なうえに、クリーン度の関係からできるだけ人の立ち入りを減らすことが重要です。そのため、多くの企業では、半導体製造の自動装置を導入しています。
半導体の製造工程における課題点
半導体の製造工程では、特に前工程における課題が以前から残っています。前工程においては、レジスト塗布不良やデフォーカス、現像不良、成膜不良などさまざまな欠陥が生じることがあります。
また、全数検査が行われないケースもあり、すべての欠陥を検知できない可能性も考えられます。目視検査や抜き取り検査では限界があるため、検査システムなどによる全数検査への移行が必要です。
まとめ
製造工程は材料や製品によって異なります。工数が複雑で多段階にわたるケースも多く、適切な工程管理は効率的に現場を運営する為に重要な要素です。さらに人手不足が慢性化するなかで、現場を効率化して品質を維持・向上する必要性は今一層高まっています。
品質管理におけるAI活用についてまとめた資料がございますので、ぜひご覧ください。
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