近年、グローバル競争が激化していることもあり、日本の製造業では特に高いクオリティが求められているのが現状です。また、開発される製品や部品が小型化・精密化されているうえ、市場のニーズに応えるために多品種生産も増えています。
つまり、不良品検知の難易度が高まっているうえに、検査対象物やルールが複雑になっていることから、検査に必要なスキルは年々上がっているといえるのです。ところが、少子高齢化により人材不足が深刻化しており、検査員の人材確保もままならないという企業も多いのではないでしょうか。
そこで注目されているのが、「AIソリューション」です。AIを活用することで人材不足が解消されるだけでなく、難易度の高い不良品の検知や検査数の向上も期待できます。
本記事では、従来の不良品検知の課題やAIソリューションがどういった課題の解決に役立つのか、詳しく解説していきます。
従来の不良品検知の課題
従来の人の目を使った検査方法(目視検査)の課題は、大きく2つ挙げられます。
- 検知の難しさ
- 人手不足
製品や部品の検査では、「官能検査」が行われます。
官能検査とは、五感(視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚)を使った検査方法のことです。たとえば、楽器の音量や手触り、食品の味や香りなど、人間の感覚で判定を行います。判定が難しい製品や部品については、良品と不良品の判定基準を示した「限度見本」と比較したうえで良否を決定します。
目視検査は官能検査の中で一般的な検査方法であり、「人間の目で製品の不具合をみつける」ことが特徴です。設備費用や開発費用などが抑えられるメリットがある一方で、解決が難しい課題があります。
では、従来の不良品検知にはどういった課題があるのか、詳しく説明していきます。
検知の難しさ
1つ目の課題は、検知の難しさです。
特に、日本の製造業はクオリティが高く、不良品検知に高いレベルが求められています。
これを目視で行うにあたって、高い習熟度を持った検査員を確保する必要があります。しかし、製品の不良を判定は長年の経験が培う部分が大きく、レベルを満たす検査員を確保することは、簡単なことではないでしょう。
人手不足
2つめの課題は、人手不足です。
製品や部品を短時間で正確に検査を行うには、確かな判断力を持った人材が求められます。しかし、現状は熟練者のスキルに依存していて人材育成ができていません。
バブル経済崩壊以降は新規採用を見送っていたために、多くの企業で30~40歳代の中堅社員が不足しています。退職した社員や退職間近の社員を再雇用することで、人材を確保する取り組みはありましたが、それも近年では限界を迎えつつあります。
こうした人材不足を解消すべく従来の画像検査システムで自動化を進めてみたものの、誤検知や不良の過検出などの問題から結局は目視検査を行っているのが現状です。したがって、今日の製造現場では人手不足の中でも検査の精度を維持向上する必要があります。
ルールベースの検知とAIを活用した検知
前章でご紹介したような課題から、検知システムを導入する企業が増えました。
従来は決まったルールに基づいて検知を行うルールベースの検知システムを活用することが多かったのですが、近年はAIソリューションを活用したシステムが登場したことで、AI活用した検知システムの導入を推進する企業が増えつつあります。
ここでは、それぞれの違いを説明します。
ルールベース検知システムとは?
ルールベース検知システムは、センサーが測定したデータが許容範囲から逸脱するものを不適合とする「外れ値検査」のことです。パーツの有無、寸法、色ムラ、汚れなどをセンサーで自動的に測定して、しきい値より大きいかどうかを判定します。
しきい値の決め方には、「手動」と「自動」があります。
手動は過去のデータを元に人間がしきい値を決めて、運用しながら微妙に調整する方法です。一方の自動は、過去のデータを統計的に分析して大多数を占めるデータ分布から外れた値を持つものを異常とみなす方法です。
メリット
ルールベース検知システムのメリットは、以下の2つが挙げられます。
- ルールの設定上であれば、高い精度で判定できる
- 局地的な検知なら、高速で流れる製品の検査に対応できる
ルールベース検知システムなら、技術者が設定した検査ルール内であれば、高い精度での判定が可能です。近年では高画質なカメラを用いた画像センサーも登場しているため、目視では検知できないほど微細なキズや異物の発見もできます。
ピンポイントでの検知という条件であれば、異常の検出精度や判定速度が速いという特徴もあります。高速での検査にも対応しているので、検知能力さえ問題なければ生産を調整する必要がありません。
デメリット
続いて、デメリットを見ていきましょう。
- 撮像データの特徴量定義を行う必要がある
- 明確なルール設定が必要
- 設定した担当者以外に設定がわからない場合がある
事前にしきい値を設定するためには、長さ、面積、重心、位置、色差、濃淡、類似度といった撮像データの特徴を数値化しなければならず、その設定は複雑です。しかも、曖昧なルール設定が苦手なことから、誤検知を防ごうとすると逆に過検知してしまうという問題が発生してしまいます。
また、特定の技術者以外に設定ができないと、当人が休暇や退職したときに誰も対応できなくなる恐れもあります。後継者を育成するのに、技術者と新しい人材の確保も必要です。
AI検知システムとは?
AI検知システムは、「ディープラーニングを用いた外観検査」のことです。
ディープラーニングとは、深層学習と呼ばれる人間が行うタスクをコンピューターに学習させる機械学習の一種です(AIの一部である機械学習の一種)。
ルールベースの外観検査との共通点は、カメラで撮像した画像をベースに異常を見分ける点です。しかし、位置修正や異常の判定などをAIが自動的に行う点に大きな違いがあります。
AI検知システムの場合は、いろいろな位置や向きの対象物を学習させることで、自然に位置修正して実体を認識してくれます。学習が進むにつれて正常・異常の特徴点を自分で抽出して、異常を判別できるようになる点が特徴です。
メリット
AI検知システムのメリットは、以下の通りです。
- 人間的感覚を数値化して表現できる
- 厳格な設定が不要で、自ら新しいルール定義に適用していく
AI検知システムなら設定された条件だけでなく、曖昧さや柔軟性といった人間的な感覚を数値にして表現できる点がメリットです。また、この数値化はAIが行うため、ルールベースの検査システムと違って人の手による厳格な設定が不要なので、設定作業が属人化することはありません。
学習能力が備わっているため、技術者が難しいルール設定をしなくても自ら新しいルール定義に順応していきます。
デメリット
デメリットは、以下のようなものが挙げられます。
- 画像からの定量的ルール抽出・検出が苦手
- 豊富な学習データを準備する必要がある
AI検知システムでは、各面の撮像データから寸法や距離といった提供的ルールの学習や検出は高い精度では出せません。
目的や検査対象で異なりますが、豊富な学習データを必要とします。ディープラーニングには、学習用データから反復学習をすることで対象物の傾向やクセを割り出して法則化し、次回以降にも活用するという特徴があるからです。
AIソリューションが不良品検知の課題を解決?
AIソリューションなら、従来の不良品検知の課題解決に役立ちます。では、従来の不良品検知にはどういった課題があるのか見ていきましょう。
検査方法 |
課題 |
AIによる課題解決 |
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目視検査 |
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従来の検知システム |
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人間の肉眼による目視検査の場合、検査条件や検査環境に対して柔軟に対応できるほかその日から検査を行える点はメリットです。しかし、人員を確保することが困難なうえに検査員の体調やスキル、判断基準によって品質や検査数にばらつきが生じるのも現状です。
ルールベースの従来検知システムは自動化によって、ミス、エラー、ばらつきが防止できるほか、検査時間の短縮にもつながります。一方で、複雑な良否判定ができないうえに設定が難しくなってしまうなど、結局は人員を必要とする場面も多いのです。
AIを活用した検知システムを導入することで、上記のような課題は解決できます。
ただ、寸法や面積の測定が苦手であったり大量の学習データを必要としたりするほか、人間がミスをするようにAIが間違えることがあることも事実です。
そのため、従来の検知方法とあわせて活用することで苦手な部分を補い、より精度の高い検知を行うことができるケースもあります。
不良品検知にAIの活用なら「AISIA-AD」
AISIA-ADは、最先端のディープラーニング画像認識システム技術を利用したソフトウェアパッケージです。工場、倉庫、製造現場などで培った、熟練の検査員たちの経験と技術をAIに学習させることが可能です。AISIA-ADは正常品のデータだけを学習して異常検知をすることが可能という特徴があります。異常品や不良品のデータが少ない日本の製造業においても学習をさせることが比較的容易です。
貴重な人材を生産工程へ配置できるので生産効率の維持が可能で、熟練工のスキルにも依存しません。これにより、従来の不良品検知における課題を解決できるのです。
AISIA-ADを提供するシステムインテグレータでは、検査機、カメラ、照明といった機器とデータ連携して画像データ処理、判定、判定処理まで、外観検査の業務効率化に向けてトータルでのサポートを提供しています。「ITのことはよくわからない」「AI技術者がいない」といった企業様でも安心してご利用いただけます。
まとめ
日本の製造業における人手不足や熟練工に依存した目視検査は大きな課題であり、取り組むべきタスクの一つです。外観検査業務をシステム化したいと思っても、実際に自社の検査対象で可能なのか、AIで本当に課題が解決できるのか、といったお悩みは多くの企業様がお持ちです。
AIの活用でどのように外観検査が楽になるのか、現在の状況やシステム導入のポイント、導入事例についてまとめた資料を用意してありますので、ぜひご一読いただければと思います。御社の課題解決のきっかけになれば幸いです。