限度見本とは?必要性や作成方法、運用のポイントを徹底解説

 2022.01.14  株式会社システムインテグレータ

近年、多くの業種で人材不足が慢性化していますが、製造現場においても大きな問題となっています。

製造業で人材不足がもたらす影響のひとつに、目視検査が適切に行えなくなってしまう点が挙げられます。従来、目視検査は経験豊富な熟練工が目視で行ってきました。しかし後継者が育っていないこともあり、目視検査を的確に行える人材も年々減少の一途をたどっています。

そういった状況でも品質維持するために重要となるのが、良品と不良品の判断基準となる限度見本の活用です。今回は限度見本の概要に触れたうえで、作成方法や運用ポイントをお伝えします。

外観検査については以下の記事でも詳しく解説しています。
外観検査とは?検査の必要性や項目、発見できる不良など徹底解説
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限度見本とは

限度見本とは

限度見本とは製品の「良品」「不良品」の判断が難しい際に確認するための製品見本です。限度見本を使うことで、製品の色つや、光沢、表面の傷・粗さなどを客観的に判断できるようになります。

限度見本はなぜ必要なのか

限度見本が必要な最大の目的は、目視による検査の属人化防止です。機械ではなく人の目によって検査を行う場合、限度見本がないと検査する人によって精度にバラつきが出てしまいます。

また、決まった人が検査するとしても、その日の体調などによっては良品・不良品の判断基準がぶれてしまう場合もあるでしょう。検査をするたびに判断基準がバラバラでは安定した製品品質を実現できません。限度見本を活用することで、そのバラつきを抑制できます。

限度見本が求められるもうひとつの目的は、製造会社と取引先との間で共通認識を持つことです。製造会社だけが限度見本を持っていても、取引先の企業は納品されたもののすべてが良品かどうか判断できません。そこで、両社が限度見本を持つことで、製品の品質を確認できるようになります。

標準見本との違い

限度見本を使えば、客観的に良品か不良品か判断できるようになりますが、ここで誤解しがちなのが標準見本との違いです。製造された製品が良品か不良品かを判断するのであれば、図面どおりに正確に製造された見本、いわゆる標準見本があればよいのではないかと思われるかもしれません。

限度見本が示すのは良品と不良品の境目です。標準見本だけを基準にするのでは、図面どおりに正確に製造されたもの以外はすべて不良品となってしまいます。しかし実際には、製品として正常に機能するのであれば、図面の数字とは若干の誤差があっても良品と判断する場合もあります。標準見本どおりでなくても正常に機能する製品が無駄にならないよう、ギリギリのラインを知るために限度見本があるのです。

ちなみに、限度見本を使っても判断が難しい場合に備えて、もうひとつ「目視検査基準書」を作成しておく必要もあります。目視検査基準書について詳しく知りたいかたは、「目視(目視)検査で設定すべき基準とは?必要な項目を解説」をご覧ください。

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必要となる限度見本の種類

目視検査で使われる見本には、良品ギリギリのラインを知るために使う限度見本、図面どおりに正確につくられた標準見本に加え、不良見本というものもあります。

不良見本とは、不良品の条件を見極めるための見本です。例えば図面どおりに制作されたものの高さが5cmで、限度見本が4.8cmの場合、4.7cm以下の見本を用意しておきます。

限度見本の基準に満たないものはすべて不良品とすればよいと思われるかもしれません。しかし目視で検査をする場合、大きな変化は見つけやすいですが、細かい変化にはなかなか気づけないといった問題があります。そこで、よくありがちな細かい変化をあらかじめ想定した見本を用意しておき、それと比較することで細かな変化を見つけやすくするのが不良見本です。

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限度見本の作成方法

限度見本を作成する場合、一般的には現物を作成する、もしくは写真を使うかの二択です。どちらの場合も、試作段階のものを見本にすると実際に量産した製品と細かな部分が異なるケースが多いため、量産試作の段階で出た良品と不良品をもとに作成します。

現物の場合、傷や質感など細かな部分がわかりやすいのがメリットですが、ものによっては保管や管理の手間がかかるデメリットもあります。写真の場合は、保管や管理の手間は軽減されますが、撮影がうまくいかないと限度見本としては使えません。

また、限度見本を作成する際は、必ず取引先に確認してもらったうえで承認を得る必要があります。承認を受けていないものを限度見本として使ってしまうと、後になって取引先が想定していたものとはと違ったといったトラブルに発展するリスクがあるため注意が必要です。

限度見本の運用ポイント

限度見本の運用ポイント

限度見本はただ作成しただけでは正しく機能しません。具体的には「適切なラベルの付与」「台帳を使った管理」「適切な保管」「定期的な見直し」「更新」といったステップを経て、適切な運用を行っていく必要があります。ここでは、それぞれのステップについて詳しく見ていきましょう。

限度見本に適切なラベルを付与

前項で、限度見本を作成したら必ず取引先の承認を取ると説明しました。そこでまずやるべきなのは、承認を取った証としてのラベル付与です。これにより現場の人間はどれを限度見本として目視検査をすればよいか、すぐにわかるようになります。ラベルに記載する主な情報は次の6点です。

  1. 仕様書名
    製品が満たすべき条件、内容などを明確化した仕様書のNo.や仕様書名を記載します。
  2. 製品名
    限度見本のもとになる製品の名前を記載します。
  3. 不良モード
    どのような状態のものが不良であるのかを明示した不良モードを記載します。
  4. 承認日
    作成した限度見本を取引先と確認したうえで、承認を得た日を記載します。
  5. 管理No.
    自社で限度見本を管理するための番号を記載します。
  6. 有効期限
    取引先が限度見本の有効期間を指定した場合に記載します。

以上の情報を記載し、自社と取引先の担当者が押印したものをラベルとして、限度見本と不良見本の双方に貼付します。

管理台帳を使って管理する

承認を得た限度見本は、ラベルを貼付したうえで管理台帳を使って管理します。管理台帳にはラベルにも記載した「管理No.」「製品名」「有効期限」などに加え、「保管場所」を記載します。

これにより目視検査を行う際に限度見本が見つからないといったリスクが軽減され、スムーズな検査が可能になります。また、有効期限が切れてしまった限度見本を使い続けるといったミスも起こりにくくなり、無駄な不良品を出してしまうリスクが低減します。

限度見本を適切に保管する

特に現物の限度見本を管理する場合、保管方法にも気を使わなくてはなりません。管理台帳に記載した場所に確実に保管することももちろん重要ですが、それ以上に欠かせないのが保管場所の環境の管理です。

時間帯によって温度差が大きい場所や、日中は日差しが強く当たる場所に保管していると、限度見本が劣化してしまうリスクが高まります。劣化した限度見本を使って目視検査を行えば、不良品を良品としてしまう危険性もあるため注意が必要です。

こうしたリスクを避けるためにはできるだけ劣化が起こりにくい保管場所の確保に加え、マスターとなる限度見本を自社と取引先双方で持ち、別の場所で保管することが重要です。これにより、製造現場の限度見本が劣化したかどうかを定期的に確認できるうえ、取引先のマスターと比較してもらうこともでき、常に一定の基準での判断が可能になります。

定期的に限度見本を見直す

限度見本を適切に運用するには定期的な見直しが必須ですが、その目的は2つあります。

ひとつは、限度見本が活用されているか確認すること。もうひとつは、仕様や製品自体への変更を見本に適用することです。

それぞれについて細かく見ていきましょう。

限度見本が活用されているか確認する

作成された限度見本がわかりづらく現場で使われていない、写真の撮り方が悪く限度見本として機能していないといったことがないようにするための見直しです。取引先の承認を得たにもかかわらず、現場で使われていないのでは意味がありません。なぜ使われていないのかを明確にしたうえで、検査で使えるように改善を行います。

仕様や製品自体への変更を適用する

製品の仕様が変わったにもかかわらず、変更前の仕様書に合わせた限度見本を使っていては、良品か不良品か正確な判断ができません。どんなに細かい仕様変更であっても必ず限度見本の見直しを行い、修正・改善を行ったうえで使用します。

定期的に限度見本を更新する

限度見本は定期的な見直しに加え、定期的な更新も欠かせません。限度見本として機能していない場合や仕様変更以外にも、経時変化によって劣化する場合があるからです。製品の種類にもよりますが、通常、年に1回は更新を行うようにします。

限度見本の更新には2つの種類があります。新たに限度見本を作成した際に行う「新規更新」と、有効期限がある限度見本に対して有効期限を新たに設定する際に行う「継続更新」です。どちらも更新を行ったら管理台帳に更新日時を記録しておくことを忘れないようにしましょう。また、有効期限になって更新しない限度見本は必ず廃棄したうえで、これも管理台帳に記録します。

限度見本を使った目視検査の課題と対策

限度見本を使った目視検査の課題と対策

ここまで限度見本について詳しく説明してきました。目視検査を行う際に限度見本が必須であることや、限度見本の種類や作成・管理方法について理解できたでしょうか。

最後に、限度見本を使った目視検査の課題と、課題解決のために行える対策を説明します。

限度見本を使った目視検査の課題

目視検査の完全なる属人化防止にはならない

製品にもよりますが、熟練工でなければ限度見本だけで良品・不良品の判断ができないものは少なくありません。そのため限度見本があったとしても完全なる属人化防止にはつながらず、担当者を育成する手間やコストはある程度発生し続けます。

仕様変更に伴う見本作成の手間がかかる

製品によっては、数カ月単位で仕様が変わるケースもありえます。そうした製品の目視検査では、仕様変更のたびに改めて限度見本を作成し、取引先からの承認を取らなければなりません。そうなれば自社はもちろん、取引先の負担も増えてしまいます。

管理の手間がかかる

前項で説明したように限度見本を適切に運用するには、人手や手間をかけて管理しなければなりません。さらに保管場所の確保や温度管理などにも十分な配慮が求められます。これを製品ごとに一つひとつ管理しなければならないため、多大な手間とコストが発生します。

限度見本の課題の解決策

限度見本を使った目視検査の課題を解決するための対策として、もっとも高い効果を発揮するのは、外観検査装置を使った自動化です。検査自体を自動化することで、限度見本を管理する手間から解放されるうえ、常に一定の検査品質を保てるため、迅速かつ適切な検査が可能になります。

まとめ

限度見本は生産現場における目視検査において欠かせない指標です。比較的手軽に行えるうえ、専用の設備を必要としないことから多くの製造現場で活用されています。一方で、いまだに人の感覚に頼っているところがあり、人材教育や検査精度の統一など課題も少なくありません。

そもそも限度見本は目視で良品と不良品の見極めを的確に行うために用意するものです。しかし製品によっては標準見本と限度見本に大きな差がないものもあり、それを目視だけで判断するにはやはり多くの経験や知識が必要になります。人材不足が顕著となっている製造業界において、目視による目視検査を適切に行うだけの余裕がなくなりつつあるのも確かです。

そこでおすすめしたいのが目視検査の自動化です。人手不足問題や検査品質の均一化といった課題を解決し、不良品を納品してしまい自社の信用を失うリスク軽減に大きく貢献します。

AIやデジタル技術を活用して目視検査を自動化する方法などについてご紹介した資料もありますので、こちらもぜひご覧ください。

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