近年、新興国市場の成長に押され日本製品の国際競争力は低下しつつあると言われています。国際競争力を高めるには、安全・信頼・高品質といった強みを維持していくことが必要不可欠です。そのためには、製造における精度の高い外観検査が求められます。
しかし、近年では労働人口の減少で検査員の後継者が不足していることから、今の検査精度を維持し続けることも難しくなってきています。これらを解消するために誕生したのが外観検査装置による自動化ですが、これですべてが解決したわけではなく、問題も多くあります。
そこで今回の記事では、外観検査で設定すべき基準や必要な項目、自動化が困難な不良や解決策をご紹介します。
外観検査とは?
外観検査とは、生産された製品・部品の表面の状態から品質を確認することです。品質が規定値に適合している場合は「良品」、規定値に適合しない場合は「不良品」として扱われます。
外観検査において検出する欠陥は、生産時や搬送時に製品・部品の表面に付着した異物やキズ、欠け、歪み、汚れなどです。ただし、検出すべき欠陥の内容は定められた基準や生産する製品・部品などによって異なります。
外観検査の詳細については、こちらの記事でもご紹介しています。
外観検査とは?検査の必要性や項目、発見できる不良など徹底解説
外観検査の目的
外観検査が行われる主な目的は、大きく2つあります。
- 品質の保証
- 品質の維持・向上
多くの製品を製造する過程で、一定の割合で不良品が発生してしまいます。
外観検査を行うことで不良品を排除できるため、定められた品質の基準を満たした製品や部品のみ流通させることができ、品質が保証されるのです。
また、外観検査によって不良あるいは不良とまではいえない不具合の発生原因の特定・改善もできることから、品質の維持・向上にもつながります。
不良品の発生原因は設計や製造工程など多岐にわたることから、製造現場における外観検査は不可欠な存在といえるでしょう。
外観検査の手法
外観検査の手法は、主に「目視検査」と「自動検査」の2つです。
「目視検査」では人の目で検査を行い、「自動検査」ではカメラや画像センサー、画像処理システムを活用して自動的に検査を行います。
一般的な分類として、単価が高く生産量が少ない製品は目視検査が行われることも多いですが、単価が低く生産量が多い製品は自動検査が行われます。
たとえば、ネジやボルトのような単価が低く生産数が多い製品を全数目視検査すると、多くの人的コストや時間を費やしてしまい採算が取れません。作業員の心身への負担も大きいことから、こまめに休憩を取らないと検査精度は落ちてしまいます。
上記のような問題を解決するために自動検査を導入しても、以前の技術では正確な判定が困難でした。そのため、対象ロットからサンプルを抜き取って調べる「抜き取り検査」を目視で行うようになりました。しかし、抜き取り検査では全数を検査するわけでないので、すべての製品の品質保証はできなかったのです。
なぜ自動検査でも正確な判定が困難な場合があるのでしょうか。外観検査の自動化が難しい領域について見ていきましょう。
自動化が難しい検査項目
現在では外観検査の自動化も普及しつつありますが、製品によっては自動化が困難な場合もあります。そうした製造現場では、「自動化できる項目」と「目視検査が必要な項目」に分けて、人による検査結果のばらつきを抑える必要があります。
外観検査の自動検査において、正確な判定が難しいケースについていくつかご紹介します。
キズ
正常な製品や部品にはないキズの検出です。
目視検査の場合は、製品を手に取って確認することができるため、製品に照明の光が反射していたり、キズが見えにくい位置にあったりする場合でもキズの有無を判別しやすいでしょう。しかし、従来の画像検査は画像で確認できる位置に付いたキズの検出はできても、製品の裏や内面にあるキズの検出は難しいのが現状です。
また、製品の状況次第では定量化が難しいことも問題といえます。
たとえば、切削痕といって部品の切削する際につく痕は良品として判定する一方で、切削痕とは違ったキズを不良にするような場合は、画像処理システムで判別するのは困難です。
この場合、外観処理システムではなく人の目による外観検査で不良の判別を行わなければなりません。
色味
色味とは、製品の色の濃淡や色合いのことです。
製品表面にある色味の違いは定量化が難しいことから、自動化は難しい傾向にあります。焼成のしすぎによるガラスの色ムラや銅基板の酸化などが主な例です。このように定量化が難しいものは、検査員によって外観検査を実施するのが一般的です。
異物
異物とは、正常品にはない固形物のことです。
ひと括りに異物といっても種類や付着箇所が異なるので、キズや色味と同じく定量化が困難な検査項目です。また、製品の表面にさまざまなパターンが存在する場合は、異物や付着箇所によっては正常と判断されてしまう恐れがあります。
以上の理由から、キズや色味の判定などは自動化が難しく、人による検査に頼るケースが多いのが現状です。
目視検査で必要になる「基準」
前述したような項目は不良品検出の自動化が難しく、まだ目視検査が必要とされるケースが多くあります。目視検査を実施するにあたり必要になるのが、「どこからが良品で、どこからが不良品である」を定める「基準」です。そして、その基準をまとめたものが「基準書」となります。
次章からは、その基準書について必要性や内容などを解説していきます。
外観検査における基準書(手順書)の必要性
基準書(手順書)は、「良否判断の基準を定めたガイドライン」のことです。
検査員が客観的に製品の検査を行うために必要なもので、検査時にいつでも確認できるような場所に掲示して日常的に利用します。
人が目視で外観検査を行う場合は、明確な基準がなければ検査員によって検査品質に大きなばらつきが生じてしまいます。これを防ぐために外観基準書を作成して、一定のルールを設けることで、誰が外観検査を行っても同じ判定ができるようになります。
外観検査基準書を作成することで、ヒューマンエラーを減らすことができ、外観検査時の判定のばらつきを抑制できます。
以上の理由から、人の目で外観検査を行う製造現場においては外観検査基準書を用意する必要があるのです。
外観検査基準書(手順書)の内容
次に、外観検査基準書にはどのようなことが記載されているのか見ていきましょう。
外観検査基準書に記載されている主な内容は、以下のとおりです。
- 検査項目
- 検査方法
- 検査担当者
- 不良品発生時の処理
- 判定基準
それでは、順番に説明していきます。
検査項目
検査項目は、「製品の何をどのように判定するのか」を文字と写真で記載したものです。
製品によって異なりますが、製品のどの部位がどういった状態になっていると不良と判定するのか定めます。製品表面の見た目だけでなく感触に違和感はないかなど、触覚を使った検査についても項目を定めます。
一部の製品では、「安全基準の範囲に入っているか」「法規制にかからないか」といった重要な項目でもあるでしょう。
定量的でない項目の検査では、良品写真や不良項目ごとの良品限度や不良品のサンプル写真が必要です。
検査方法
各検査項目の検査方法について、以下のような内容を記載します。
- 機械の使い方(測定器などを使う場合)
- 抜き取り・全数検査といった検査の頻度
- サンプリング数
- 測定器の指定
測定器の指定では、たとえば色味の測定で色度計、打音検査で騒音計を使用するなどの取り決めを行います。
検査担当者
技能が要求される検査においては、適正評価や認定制度を導入する現場もあります。新規採用者には適正評価、新規検査員には認定制度が効果的です。
適正評価では、周辺視野や動体視力を測定するスクリーニングテストを実施し、座り仕事や測定器の適正などを評価します。認定制度は検査精度の向上や維持に効果があり、座学や認定サンプルを使った試験や再教育を行います。
基準書には、評価結果や認定ランクを記載するのが一般的です。
不良品発生時の処理
検査員が不良品を検出した際の処理方法を記載します。
- 不具合の手直しの可否
- 不良分析の要否
- 保管の要否
上記のような内容を記載することで検査員が判定後の判断に迷わず、検査時に発生するタイムロスを少なくします。
判定基準
設定した判定項目や検査方法で検査を行ったあとに、どのような状態なら良品で、どのような欠陥があれば不良品とするのかを決めます。
満たすべき仕様や形状だけでなく、不適合時の数値や条件といった基準も明確にします。判定基準を曖昧にすると、基準書の意味がなくなるので注意が必要です。
判定基準の数値化が難しい場合は、「見本」を設けるのが効果的です。詳しい説明は後述します。
外観検査基準書(手順書)を作る際のポイント
この章では、外観検査基準書を作る際のポイントについて解説します。
外観検査基準書を作成しても、記載する内容がわかりにくかったり、必要な内容の記載漏れがあると、効果が得られないこともあります。
外観検査基準書を作る際のポイントを、以下にまとめました。
- 検査目的の明確化
- 明確な検査基準を定める
上から順番に見ていきましょう。
検査目的の明確化
ムダなくスムーズに外観検査基準書を策定するために、外観検査を行う目的を明確にしておきましょう。そもそも目的が曖昧になってしまうと、何を検査するのか何のために行うのかわからなくなり、検査すべき内容の見逃しや意欲の低下などにつながってしまうからです。
具体的な目的としては、製品の安全性や求められる機能、クライアントからの要求、法的な規制の遵守などが挙げられます。これらの目的に合った漏れのない基準を策定することが大切です。
ほかにも、不適合と判定された製品はどのように対応するのか、手直しする場合はその手順なども細かく記載しておかなければなりません。検査する製品によって形状や性質、検査項目が違うのであれば、それぞれの製品にあった個別のルール設定が必要です。
明確な検査基準を定める
外観基準書に記載する基準は、誰が検査をしてもわかるよう明確にしましょう。
検査の基準が明確でないと、判定のばらつきが生じてしまいます。
たとえば、不適合判定になるための条件として、不良個数の数や不良の発生個所など数値化できるものははっきりと記載する必要があります。ほかには、実際に不良が発生している写真やイラストを活用するなど、直感的に理解できるよう工夫することも重要です。
さらに、限度見本、不良見本、標準見本といった見本を用意しておくと、より具体的でわかりやすくなるでしょう。「明確な基準を決めてわかりやすく記載すること」を意識することで、外観検査基準書の策定がスムーズに進みます。
数値化が難しい検査は「見本」を作成
目視検査は寸法検査のように数値化できないことが多く、判定基準が曖昧になりやすい点が課題です。検査員が多い場合は全員に正しく伝える必要があるので、基準書のような文字と写真だけでなく、現物で確認できる見本を作成します。
外観検査に用いられる見本は、主に4つあります。
- 限度見本
- 不良見本
- 標準見本
- ドットゲージ
それぞれ、順番に見ていきましょう。
限度見本
限度見本とは、製品を自社の基準に適合した「良品」と基準に適合しない「不良品」に分別するための限度を示した製品の見本のことです。主に、品質上問題のないキズ、汚れ、色味を判定する際に用いられます。
外観検査では「視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚」といった人間の五感で品質を判定する官能検査が用いられます。目視検査も官能検査のひとつです。
官能試験では結果を明確に数値化できないことから、合否判定の基準が曖昧になりがちです。
この曖昧さを解消するために用いられるのが限度見本です。キズの深さや色ムラの範囲、汚れの程度といった良品の限度がわかるので、検査員による品質のばらつきやオーバーキルを抑えられます。
ただし、限度見本は定期的な更新や適切な管理が求められます。
不良見本
限度見本の一種である不良見本は、不適合品の条件を示すものです。
外観検査では、大きな変化は検出しやすいものの、小さな変化は気づきにくいという問題があります。
たとえば、濃い色のムラや深いキズはとらえやすくても、少しずつ濃くなっていく色ムラや少しずつ深くなっていくキズは見逃しやすい傾向にあります。また、検査の範囲が広い製品の中に小さな異物がある場合も検出は困難です。
そこで、事前に見逃しやすい不良を不良見本として見える化しておくことで、検査の精度を高めることができます。
標準見本
品質の基準を示すのが標準見本です。
簡単に説明すると「良品の見本」であり、標準見本に近い状態のものは良品と判定することができます。あくまでも製品の標準的な品質を示す見本なので、「良品判定できる範囲」の基準にはなりません。
限度見本や不良見本は、標準見本からどれだけ逸脱しているかわかることから、不具合の度合いを知ることができます。
ドットゲージ
キズや異物などの形状を、さまざまな面積で示した標準ゲージのことです。
ドットゲージは透明なシートに印刷されていることから、良否判定の判断に迷うときに直接製品を乗せて確認することができます。キズや異物の比較を直接行えることから、ノギスなどの測定器で計測するよりも個人差が生まれにくいメリットがあります。
外観検査基準書(手順書)を作業員に遵守させるには?
ここでは、外観検査基準書を作業員に遵守させる方法について解説します。
そもそもどんなに明確でわかりやすい外観検査手順書を作成しても、検査員全員が遵守しないと意味がありません。手順書が遵守されない現場では、検査した製品の品質が一定以上をクリアできていない可能性もあります。実際、製造現場をよく観察すると「検査員の作業と外観検査標準書の内容が一致していない」というケースもあります。
それでは、どのように外観検査基準書を作業員に遵守してもらうのか、その方法をご紹介していきます。
手順を守らなかった要因を見つける
外観検査基準書を遵守しない原因は、2つに絞ることができます。
- 作業員が独自の判断で検査を行わない
- 守ることができない外観検査基準書を作成していた
1つ目は、作業員の独自判断です。
経験や知識の増加や現場の状況によって、作業員が独自判断を行うことがあります。たとえば、基準書に書かれている内容の不良であっても長く発生していなければ、その不良をみつけるための検査を省略する恐れがあります。また、欠員などの理由から検査員一人当たりの負担が大きくなると検査精度よりも数を優先しがちです。
2つ目は、外観検査基準書そのものの不備です。
ルールの設定がきちんと行われていないと、正しい検査が行えない可能性があります。
たとえば、新しく検査が追加あるいは変更されても検査時間が設定された時間を超えてしまうようでは、納期に間に合わせるために検査が省略されてしまう可能性もあります。
外観検査基準書が遵守されない場合、手順を守らなかった要因を探しましょう。
外観検査基準書(手順書)を遵守させる具体的な方法
上記のように「外観検査基準書を正しく守れていない」「そもそも守れない外観検査基準書が作成されている」といった問題があると、不良品が市場へ流出するリスクが高まります。
そこで、作業者に外観検査基準書を遵守させる具体的な方法をご紹介します。
- 作業の観察を行う
- 作業員とともに外観検査基準書を更新する
- その場で適切な注意を行う
これらを実施することで、外観検査基準書が遵守されなくなる可能性を大きく低減することができます。
それでは、上記の方法を順番に見ていきましょう。
作業の観察を行う
1つ目は、管理者が作業の観察を行うことです。
外観検査基準書には、検査項目だけでなく検査の手順などがまとめられているので、管理者はそれが守られているか確認する必要があります。
作業員に外観検査基準書の教育を行うだけでなく、外観検査において作業員が作業手順書を遵守しているか現場で観察します。検査の観察時は、外観検査基準書と実際に行われている検査が一致しているか1項目ずつ確認することが大切です。
万が一作業員が外観検査基準書とは違う検査を行っていれば、検査を一旦中止して正しい検査方法を守ってもらいましょう。
作業員とともに外観検査基準書(手順書)を更新する
2つ目は、作業員とともに外観検査基準書を更新することです。
実際に検査を行っていない管理者が外観検査基準書の更新を行った場合、定められた方法で検査を行うのが困難な内容や、既定の時間内に検査を終えられなくなるような方法になっている可能性もあるからです。
そのため、特に新規項目を追加する場合には作業員と一緒に外観検査基準書を更新するようにして、作業可能な内容になっているか自ら確かめてもらうようにすると良いでしょう。
また、作業員自身が外観検査基準書に記載された方法よりも良い検査方法を考えつくこともあるので、そういった場合には上司に報告してもらい、一緒に検証して外観検査基準書を更新するようにします。
その場で適切な注意を行う
最後は、その場で適切な注意を行うことです。
外観検査では、作業員が外観検査基準書に則って検査を行うことで、効率よく品質の良い製品だけを市場へ送り込んでいます。そのため、一部の作業員が外観検査基準書を守らずに検査を行っているのなら、その場で注意する必要があります。
「最近はこの不良が発生していないので目視検査を行わなくていいと思った」のようなケースであれば、外観検査基準書の重要性をきちんと説明すべきです。「この検査は意味がないと思うので守らなかった」といったように、怠慢によって外観検査基準書を遵守しない作業員には、厳しく注意して守ってもらうようにしましょう。
柔軟な判断基準の設定が可能「AISIA-AD」
記事でご説明したとおり、キズや色味といった不良は自動化が難しく、人の目に頼る製造現場は多く存在します。
しかし、検査員に頼りきる現場には以下のようなリスクがあります。
- 後継者不足
- ランニングコストの増加
- ラインを増やしたくても検査人員の確保が難しい
ベテランの検査員の能力を模倣するのは簡単ではありません。2倍の量を製造するのに検査員を2倍に増やさなくてはならないとなると採用も困難ですし、人件費も高額になります。
しかし、AIを活用した外観検査システム「AISIA-AD」であれば、自動化が難しいとされてきた検査も、人による目視検査と同等のレベルで実施が可能です。
AISIA-ADはディープラーニング(深層学習)を活用したAI外観検査システムです。正常品と異常品の分類や異常パターンを記憶して学習することで、ベテラン検査員と同じような精度で外観検査を行うことが可能です。
従来のAI外観検査では一からモデルを作成する必要があり、多くの学習サンプルを揃える手間やコストがかかっていました。
AISIA-ADはカメラで撮影した動画データをラベル付けするだけで学習でき、「正常データのみ」「正常と異常の両方」を学習する2つのモデルがあるので、状況に応じて導入できます。
まとめ
品質の基準を満たさない不良品を市場へ流出させないためには、外観検査が不可欠です。しかし、外観検査基準書を策定したとしても最終的な判断は人によって行われるため、品質を均一にするのは困難です。
また、画像認識を使って自動化を進める場合にも、従来の画像認識は専用の設備を要するためにコストがかかるほか、過検出や技術者の属人化といった問題があります。
AIによる外観検査ソリューション「AISIA-AD」であれば、従来自動化が難しかった検査もカバーできます。カメラやセンサーといった機器を含むトータルソリューションを提供していますので、外観検査に課題をお持ちであれば、ぜひお気軽にご相談ください。
また、弊社では外観検査の自動化に関するお役立ち資料も無料で公開しています。ぜひチェックしてみてください。
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