液晶ディスプレイやスマートフォン、洗濯機や自動車部品など、私たちの日常生活に欠かすことができないあらゆる製品は樹脂成型品によって作成されています。樹脂成型品は、用途に応じた加工が施され、私たちの身の回りにある製品に利用されています。
樹脂成型品に囲まれて生活しているといっても過言ではありませんが、樹脂成型品の種類や加工方法については詳しく知らない方がほとんどではないでしょうか。
そこで今回の記事では、そんな樹脂成型品の種類や加工方法、よくある不良と効率的な検査方法をご紹介します。
樹脂成形品とは?
樹脂成型品とは、簡単にいうと、樹脂(プラスチック)を形づくったもののことです。
基本的には加熱して溶かした樹脂を金型などへ流し込んで形づくり、冷却して固めたあとに取り出して作成します。成形材料の特性を活かしたうえで、目的や形状に合わせて最適な方法で成形が行われます。
成形品の種類
樹脂は、大きく2つに分かれます。
- 熱硬化性樹脂
- 熱可塑性樹脂(ねつかそせいじゅし)
「熱硬化性樹脂」では粉末状の樹脂、「熱可塑性樹脂」は米粒状の樹脂であるペレットが用いられることが一般的です。どちらも、機能性を高める添加剤などを樹脂へ混ぜる「コンバウンド工程」を経た粉末やペレットを使うことがあります。
熱硬化性樹脂
「熱硬化性樹脂」は、加熱によって硬化する性質を持つ樹脂のことです。
「安定性があって強固」という特徴をもつ分子結合の構造により、温度変化や化学的な影響に対して強い耐性を持っていることが特徴です。そのため、一度生成されると加熱しても再び液体になることはありません。ただし、加熱することで若干可塑性が出るものもあります。
熱硬化性樹脂を食品に例えるなら、ホットケーキです。
もともとは液状ですが、フライパンで加熱すると固体化します。固体化したあとは加熱しても冷却しても液体に戻ることはありません。
主な素材に、フェノール系樹脂やエポキシ系樹脂などがあります。
熱可塑性樹脂(ねつかそせいじゅし)
「熱化塑性樹脂」とは、温度変化によって液体化したり固体化したりする性質を持つ樹脂のことです。
そもそも「可塑性」には、「個体に外力を加えて変化させたあと、力を除いても元に戻らない性質」という意味があり、加熱によって可塑性が出るものを「熱可塑性」といいます。
熱可塑性樹脂を食品で例えるなら、チョコレートです。
チョコレートは個体ですが、熱を加えて液状にしたあとに型へ流して冷やすと好きな形にできます。こうした性質を持つことから、熱可塑性樹脂の素材をリサイクルして再活用されることも多いです。
主な素材には、ポリエチレン・ポリプロピレン・ポリスチレン・ABS・ポリエステル・ポリアミドなどがあります。
成型品の加工方法
成型品の加工は、樹脂の種類に応じた方法が用いられます。
そもそも成型品の加工方法は、樹脂の種類によってほぼ定まります。どういった形状の成型品を製造するのかによって、適切な加工方法を選択するのが一般的です。
それでは、それぞれの加工方法について説明していきます。
熱硬化性樹脂の主な加工方法
熱硬化性樹脂の主な加工方法です。
- 真空成形
- 圧縮成形
- 積層成形
上記は一部であり、手法によっても分類は異なります。
真空成形
真空成形は、空気の圧力を利用した加工方法です。
あらかじめ押出し形成された熱可塑性樹脂のシートに熱を加えて軟化させたあと、すぐに金型とシートの隙間を真空状態にして、樹脂を金型に吸いつけて形成します。
真空成形の主な特長は、以下のとおりです。
- 金型の制作コストが安い(雄型・雌型どちらか片側で成形できるため)
- 多品種・少量生産に対応できる
- 製作期間が短い
- 生産数に合わせた材質を選択できる
- 樹脂シートに3次元印刷成形が可能
真空成形によって作られる主な製品は、卵のケースやコンビニ弁当のケース、自動車のエアロパーツやスポイラー、フィギュア、液晶ディスプレイなどがあります。近年では、ウイルス感染防止用のアクリルパーテーションが注目を浴びました。
圧縮成形
圧縮成形は、金型に入れた樹脂に圧力を加える加工方法です。
加熱した金型の凹部(キャビティ)へ計量した成形材料を入れて、熱を加えて軟化させたあと、圧縮成形機で加圧して硬化させます。
プラスチック成形方法としては、最も長い歴史のある加工方法でもあります。
以下は、圧縮成形の主な特長です。
- 金型の製作コストが安い(構造を複雑にできないため)
- 高密度の成型品を製造できる(圧力の損失が少ない)
- 成形材料をムダなく使える
- 高い強度の成型品を製造できる(材料が配向しにくい)
一方で、量産が難しいというデメリットもあります。
材料の計量や投入、形成準備に時間を要するほか、成型品に発生したバリを除去する必要があるからです。
圧縮成形によって作られる製品には、椀、皿、キャップなどがあります。
積層成形
積層成形は、紙、布、ガラス不織布といった表皮材に樹脂を含浸させたものを必要数量重ね合わせて、プレス鋼板によって熱と圧力をかける加工方法です。
加圧の程度によって、高圧積層(50MPa以上)と低圧積層(0~50MPa)に分けられます。
一般的に、ユリア、フェノール、メラミン樹脂といった成形時に揮発物(ガスなど)が副生されるものは高圧積層、不飽和ポリエステル樹脂、エポシキ樹脂といった揮発物の発生を伴わないものは低圧積層法が用いられます。
積層成形の主な特長です。
- 熱硬化樹脂の強度不足を補強できる(ガラス繊維の積層)
- 材料のムダが少ない
積層成形は、板状やそれに近い形状のものを作る際に用いられます。
作られる主な製品は、電子部品に使われるプリント基板、航空機や漁船に使われるFRP製品などです。
熱可塑性樹脂の主な加工方法
熱可塑性樹脂の主な加工方法です。
- 射出成形
- ブロー成形
- 押出し成形
熱硬化性樹脂の加工方法と同様に、上記はあくまでも一例です。
射出成形
射出成形は、溶けた樹脂を射出機から金型へ射出・圧入する加工方法です。
そもそも「射出」という言葉には、「注入・充填」といった意味があります。樹脂成形で最も多く用いられているほか、幅広い分野で使用されている加工方法です。熱可塑性樹脂の加工に用いられる方法ですが、熱硬化性樹脂に用いられる場合もあります。
射出成形には、以下のような特徴があります。
- 肉厚の薄い製品や複雑な形状の製品を加工できる
- 大量で早く加工できる
- 仕上げの工程がほぼ不要
初期投資として、金型の製作があります。
しかし、金型を一度制作してしまえば製品の製造時は材料だけ揃えることで、加工を行うことができます。
射出成形では、スマートフォン、パソコン、自動車部品、文房具、テレビ、洗濯機、プリンター、プラモデルなど多種多様な製品、または製品を作るための部品を作ることができます。
ブロー成形
ブロー成形は、溶融樹脂の内側から空気を入れて膨らませる加工方法です。
押し出されたばかりの軟化したチューブ状の樹脂を金型で挟み、空気を吹き込んで型どおりに成形します。空洞の樹脂を製造するのに適した技術であり、ガラス瓶の製造工程が応用されています。
以下は、ブロー成形の特長です。
- 金型の製作に必要なコストが安い(金型が簡素なため)
- 完成する製品が軽量である
- 生産効率が良く、大量生産に適している
ただし、成型品の内側は金型に触れないために制御が困難であり、精度が悪くなりやすいというデメリットもあります。
ブロー成形によって作られる製品には、ペットボトルやシャンプーの容器といったボトル形状のものや、自動車のガソリンタンクやポリ袋などがあります。
押出し成形
押出し成形は、加熱溶融させた樹脂を押し出して連続的に成形する加工方法です。
押出機の注入口から入った樹脂はシリンダーへと送り込まれ、熱を加えられながらスクリューの回転によって前方に送られます。送られると同時に練られ、溶けて口金から押し出されます。ダイと呼ばれる押出し口から押し出されるまでは、冷却・固化されることはありません。
押出し成形の特長は、以下のとおりです。
- 金型の交換によって多様な形状にできる
- 量産性に優れている(連続で成型品の製造が可能)
- 長い製品でも小さな金型で製造できる
- 成型品の表面が滑らかに仕上がる
- 同じ断面形状の製品を連続で安定させて製造できる
ただし、押出し成形は金型が必要になることから小ロット生産に向かないうえに同じ断面形状の製品しか製造できないデメリットがあります。
押出し成形で作られる製品には、チューブやパイプ、フィルムやシートなどです。
成型品の加工で発生する不良
以下は、成型品の加工で発生する代表的な不良です。
- バリ
- そり
- ヒケ(シンクマーク)
- 気泡
- シルバーストリーク
上から順番に、詳細を説明していきます。
バリ
成型品の形状から、樹脂がはみ出ている状態のことです。
【主な発生原因】
- 樹脂の量が多い
- 射出圧力が高い
- 型締め力の不足
- 金型の歪み
そり
成型品が歪んでいる状態のことで、「曲がり」「ねじれ」などとも呼ばれます。
【主な発生原因】
- 金型の温度にバラつきがある
- 流動方向による溶融樹脂の収縮率の違い
- 離型時の外力(成型品を無理に取り出す)
ヒケ(シンクマーク)
成型品の表面に凹みやくぼみがある状態のことで、成型品の内部に表れるヒケは「気泡(ボイド)」「内ヒケ」と呼ばれます。
樹脂の種類により異なりますが、冷却された成型品は溶融樹脂と比べて収縮するため、金型内面と同じ形状にはなりません。この収縮によって発生した不良がヒケです。
【主な発生原因】
- 製品設計が均等でない
- 樹脂や金型の温度が高い
気泡
成型品の内部に空孔が発生した状態のもので、肉厚のある製品に発生しやすい傾向があります。設定を変更しても問題が解消されない場合は、設計を見直して肉厚を薄くするなどの対応も必要です。
【主な発生原因】
- 金型温度や射出圧力が低い
- シリンダの温度が低い
- 乾燥不足
シルバーストリーク
成型品の表面に、輝くスジ状の模様が発生する状態です。材料の中に含まれる空気や揮発ガスが表面に現われ、スジは銀白色であることから「シルバー」「銀状」とも呼ばれます。
類似する不良には、シリンダー内の加熱で炭化した樹脂が成型品に混ざって発生する「ブラックストリーク」もあります。
【主な発生原因】
- 成形材料の乾燥不足
- 金型と材料に温度差がある(水滴が発生)
- 射出速度が速く、空気を巻き込んでいる
- シリンダの温度が高い
- 異物の混入
従来の目視検査の課題
樹脂成型品には前章でご紹介したような不良がよく起こりますが、従来そのような不良を見つける方法として、目視検査が実施されてきました。
しかし、目視検査にはいくつか懸念点があるので、ここでご紹介します。
人手不足
製造業全体の問題ですが、十分な検査員の数を確保できない問題があります。
短時間で正確で確実に製品をチェックするにはベテラン検査員の存在が不可欠です。しかし、バブル経済崩壊後から長く新規採用を絞っていたため、多くの製造現場で30~40代の中堅社員が不足しています。
日本社会全体においても少子高齢化という大きな問題を抱えていることから、ベテラン社員の技術を継承する人材もいません。退職した人材の再雇用などを検討する企業もありますが、今では限界に近づきつつあります。
このように、目視検査を行う技術を持つ検査員の人手はどこも不足しています。そのため、習熟度の高い検査員を確保しようとすると相応の人件費が発生してしまうのです。
検査品質の均一化が難しい
検査員の経験あるいは検査員のコンディションによって、品質にばらつきが生じる恐れがあります。
良品と不良品の判定基準を示す「限度見本」が設けられていない場合やマニュアルがなく検査内容を検査員の口頭だけで伝えるような場合は、均一化は困難です。人によっては「問題ない」「異常ではない」と捉えることもあるからです。
また、習熟度の高いベテラン検査員と検査の経験が浅く習熟度の低い検査員では、精度に差が出てしまいます。しかし、目視検査は経験がものをいう部分もあることから、経験の浅い検査員の教育は難しいといえます。
中には講習や試験を導入して認定資格を設けてベテラン検査員の水準までの引き上げを狙った企業もありますが、人材や予算に余裕のある会社でなければ導入できません。
目視検査については、こちらの記事でも詳しくご紹介しています。
外観検査の自動化が進む?
前章でご紹介したような課題があることから、成型品加工の現場では外観検査の自動化が進んでいます。外観検査装置(システム)を導入することで、自動化は実現されます。
AI外観検査システム「AISIA-AD」
AISIA-ADは、最先端のディープラーニング画像認識技術を使ったソフトウェアパッケージです。汎用性が高い「Azure Machine Learning」を活用したAIにより、工場、現場、倉庫で培われたベテラン検査員のノウハウを学習させることができるため、高い精度の検査を実現します。
人材不足や判定のばらつきを解消できるので、貴重な人材を生産工程に配置して製品の品質を強化したり、不良の流出やオーバーキルを防いでムダな労力やコストを抑えたりすることができます。
システムインテグレータでは、AIモデルの限定をせずに現場に適合するAIモデルや機器類を選んで、お客様の条件に適合するAI外観検査システムをご提案いたします。
まとめ
樹脂・プラスチック等の成形品について、概要とよく見られる不良についてご紹介しました。不良品をできるだけ減らす必要はありますが、不良品をゼロにできない以上それを確認するフローも必須です。
外観検査を自動化する手法についてはその他資料も多数ご用意してありますので、ぜひご活用ください。