2022年現在、日本の雇用情勢は全般的に人手不足に陥り、どの業種においても根本的な改善の見通しは立っていません。
そんな中、製造業では長期化する人手不足を解消する方法の一つとして、マシンビジョン導入による検査の自動化が注目を集めています。近年、このマシンビジョンの技術は飛躍的に進歩し、市場での拡大と普及が進んでいます。これまで良否判定を行う目視検査は人の目によって行われていましたが、より精度を高めたマシンビジョンの導入によって、さまざまな検査や判定を適切に行えるようになりました。
しかし、いざ自社で導入してみようと検討した際に、どのようにマシンビジョンを運用したらよいか悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、マシンビジョンの導入メリットや検査の仕組み、検査の流れについて解説します。併せて具体的なマシンビジョンの活用事例もご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
マシンビジョンとは
マシンビジョンとは、機械が人間に代わって自動検査やプロセス制御などを行う産業用オートメーションシステムです。表面の小さなキズなどのチェックを、検査員が目視で行う代わりに機械がカメラやセンサーなどを使って行います。機械がすばやく処理するため、業務の効率化や作業精度の向上などが期待できます。
マシンビジョンによる検査の具体的なプロセスとして、イメージング・画像処理(自動分析)・出力が挙げられます。この処理過程をプロダクトやアプローチに合わせて適切に設定することで、安定的かつ信頼性のある測定結果を導き出すことを可能にしています。
なお、マシンビジョンは特定の機器を指す言葉ではなく、カメラ・ソフトウェア・ハードウェアなどを包括的に組み合わせたアプリケーションシステムを指します。
ちなみに、人の目の代わりに機械が画像を元に判断するという意味では、バーコードを読み取る一連の装置もマシンビジョンに該当します。マシンビジョンに必要な技術である画像処理アルゴリズムは、半世紀以上も前から考案されていました。ただ当時は機械の性能が足りなかったため、本格的なマシンビジョンの利用はコンピュータの性能が向上した90年代まで始められませんでした。
これまで機械にできなかった業務を可能にするマシンビジョンの活用に、現在注目が集まっています。次の見出しではその理由について、より詳しく説明します。
マシンビジョンが注目を集めている理由とは
現在のマシンビジョンのルーツとなる技術は1970年代の初め始めに登場しましたが、当時の典型的なマシンビジョンの処理方法はバーコード読み取りシステムのような初歩的なものでした。人工知能が普及していなかった当時は、規則性があり簡略化された情報でなければ機械が認識できなかったのです。
そのため、ナシとリンゴ、犬とオオカミのように違いが曖昧な対象の判別や、手書きの文章などの読み取りができないという問題がありました。
しかし、loTやAIの普及でマシンビジョンの判定機能が向上し、より複雑な条件でも高い精度で処理を実行できる技術が台頭し始めました。これによって精密な検査や品質管理というミスが許されない分野に関しても従来のように人の力に頼らず、プロセスを自動化できるようになったのです。
結果的にマシンビジョンは、労働力不足が大きな課題となっている製造業や物流業において、ヒューマンリソースを最大限に活かせる革新的な技術として多くの現場で導入されるようになりました。
マシンビジョン活用の代表的な例に、外観検査の自動化が挙げられます。以下の記事で詳しく紹介していますので、ぜひご覧ください。
観検査とは?目的や発見可能な不良など徹底解説
マシンビジョンを導入するメリット
技術革新によってさまざまな業務の効率化を実現できるマシンビジョンですが、具体的には以下の4つが主な導入メリットとして挙げられます。
- 短時間で多くの製品を検査できる
- ミリ単位のエラーを発見できる
- 検査工程を標準化し、属人化を防止できる
- 作業員の安全性を向上できる
- 保守関連の工数やコストを削減できる
ここからは、マシンビジョンを導入するメリットをさらに掘り下げて解説します。
短時間で多くの製品を検査できる
マシンビジョンの特性として、複雑で規則性がない要素を判断するのは難しく、体系化されたものの判断を得意としています。取り込む情報を最適化させることによって、人間の目で測定するよりも早く確実な測定が可能です。具体的には、マシンビジョン1台で1分あたり数百から数千ものパーツを検査できるスピードを持っています。これにより、検査工程の生産性を大幅に向上できます。
ミリ単位のエラーを発見できる
体系化された情報にミリ単位のごくわずかなエラーがあったとしても、人間の目では見落としてしまうでしょう。しかし、適切な解像度のカメラと高い画像処理能力を併せ持つマシンビジョンなら、ミリ単位のエラーも素早く発見し、高い検査品質を実現できます。
検査工程を標準化し、属人化を防止できる
人の手によって検査を行う場合、作業に慣れていなかったり、その日の体調が悪かったりといった原因で、正確な結果を抽出し続けることが困難になるケースがあります。しかし、マシンビジョンによって工程を自動化すれば、経験の差やコンディションの問題が発生しないため、検査結果にばらつきが生じることはありません。
また、作業担当者のスキルや感覚に左右されることがないため、限られた人しか作業ができないといった属人化を防ぐというメリットもあります。
作業員の安全性を向上できる
マシンビジョンの導入で、あらゆる製造工程に人間が介入する回数を減らせます。これにより、作業員の安全性を確保し、無菌室など特殊な環境で製品を扱う場合にも汚染や破損のリスクを軽減できます。
保守関連の工数やコストを削減できる
マシンビジョンを使った検査では、カメラなどのハードウェアと検査対象の製品は接触しません。そのため、マシンやパーツの摩耗や製品の損傷を防ぐことができます。その結果、経年劣化によるハードウェアの保守にかかる工数やコストが減り、維持費の削減にもつながるのです。
マシンビジョンの構成要素
マシンビジョンを構成する主な要素には、カメラ・フレームグラバー・照明・ソフトウェアの4つがあります。
カメラ
検査の精度を高めるためには、用途や目的に応じて適切なカメラを選択することが重要です。カメラの代表的な種類としては、モノクロカメラやカラーカメラが挙げられます。ほかにも、対象物を線状に読み取るラインスキャンカメラ、広範囲を読み取るエリアスキャンカメラなどがあります。この際、白黒かカラー、解像度、フレームレートなどを考慮して最適なカメラを選びましょう。
検査に使うカメラについては以下の記事でも説明していますので、ぜひ併せてご覧ください。
外観検査で使用するカメラ
フレームグラバー
画像入力ボードとも呼ばれており、アナログカメラの信号をデジタル信号に変換する際に使用されます。
照明
適切なデータ抽出を行うには、光源の確保も重要です。照明でよく採用されているのが蛍光灯、ファイバー駆動ハロゲン、キセノンストロボ光源です。近年ではコストパフォーマンスの良いLED照明がよく用いられています。
照明については以下の記事でも説明していますので、ぜひ併せてご覧ください。
異常検知に適したカメラと照明(Vol.5)
なぜ外観検査では特殊な照明を使うのか
ソフトウェア
対象物を撮影して画像処理を行い、合格基準を超えているか判断します。
画像処理にはいくつかの方法があるため、用途や目的に応じてカスタマイズし、精度を高めています。
マシンビジョンのタスクの流れ
マシンビジョンのタスクは、大まかに以下の3つの工程で実施されます。
- 画像取得
- 画像処理
- 出力
それぞれの工程について、詳しく見ていきましょう。
画像取得
画像取得で重要なのは、カメラの画像センサーがアプリケーションの解像度に適しているかという点です。解像度に適した画像センサーであれば、取得した画像がより鮮明になり、正確にオブジェクトを計測できます。カメラの画像センサーには、電荷結合素子(CCD)もしくは相補型MOS(CMOS)の技術が使用されており、光を取り込んでデジタル画像へと変換します。どの程度の解像度が適しているのかは、オブジェクトのサイズや検査の許容値をもとに判断します。
画像処理
画像処理は、画像取得で変換したデジタル画像から、オブジェクトの特徴に関する情報を抽出するメカニズムのことをいいます。画像処理では最初にデジタル画像を取り込みますが、ここでポイントとなるのが画像の前処理です。オブジェクトの特徴を最適化するためには、濃度補正やノイズ除去といった処理が欠かせません。そのほか、光学ゆがみ補正やコントラスト、エッジの強調などを行う必要があるオブジェクトもあります。
次に、最適化されたオブジェクトのデジタル画像の特徴が、仕様に合っているかどうかをソフトウェアが検査します。製品の品質基準をクリアしているかなど、合否の判定が行われます。
この画像処理には、さまざまな手法が活用されています。代表的な画像の処理方法について見ていきましょう。
エッジ検出
エッジ検出とは画像内にある物体のエッジを見つけるために用いられる手法です。 輝度の不連続性からエッジを検出し、物体の輪郭・特徴抽出・画像のセグメンテーションなどの画像解析に活用されます。
しきい値設定
しきい値とは境界となる値を指し、その値を境として画像の判定を行います。画像処理のしきい値設定は、グレー値の設定から始める場合が一般的です。設定したグレー値を使用して画像を分割します。場合によっては、グレースケール値に対する大きさによって、画像の各部分を単純な白黒に変換処理します。
光学文字認識
光学文字認識はOCRとも呼ばれ、テキスト画像を機械でも認識できる形式に変換する手法です。例えば、紙の注文書や請求書などの情報を読み取って、デジタルデータとして活用できます。
セグメンテーション
セグメンテーションとは画像を複数のオブジェクトに分割する手法を指します。画像をより分析しやすい形に処理します。
パターン認識
パターン認識は、画像のデータから特定の規則や意味を持つ領域を選別して取り出す手法です。例えば、多くの人物が映った画像ファイルから、身長・顔つき・声などといった特徴で特定の個人を探し出すことができます。
出力
マシンビジョンの出力では、ソフトウェアの検査の結果をもとに指示を出します。合格した場合は工場の生産ライン上の機械を動かす指示を出し、不合格だった場合は不適合品として取り除かれるという仕組みです。出力形式の例としては、アラート・信号・文字データ・数値などが挙げられます。
マシンビジョンの活用事例
マシンビジョンの技術は近年大幅に進歩し、すでに日本の製造業や物流業の現場でも導入されています。では、実際にどのような場面で活用されているのでしょうか。
ここでは、マシンビジョンの活用例をご紹介します。
コンタクトレンズメーカーの事例
コンタクトレンズは基本的に透明なため、画像を取得するには難易度が高いオブジェクトであるといえます。マシンビジョンで透明なオブジェクトを検査する場合、バックライト照明を使用しますが、この方法では表面の細部までは検査できません。そのため、コンタクトレンズメーカーにとってマシンビジョンを活用することは困難でした。
この問題を解決するために、コンタクトレンズメーカーはAIによる学習機能を備えたマシンビジョンを採用し、粒子や気泡などの欠陥を特定できるようにしたのです。その結果、従来の検査に比べて速度が50倍早くなり、欠陥を特定する精度が3倍向上しました。
タイヤメーカーの事例
中国には約600社ものタイヤメーカーが存在し、世界のタイヤ生産量の3分の1を占めています。タイヤのチェックはほとんどの企業が手作業で行っており、しっかりと訓練を積んだ人員でも検査精度は90〜95%しか維持できていませんでした。そのため、一貫した製品品質を確保するという課題が生まれ、ある企業ではこの課題を改善するためにAIの画像処理を導入しました。
その結果、欠陥検出の精度が99.9%まで向上し、約42,000米ドルの人件費の削減に成功しました。
まとめ
技術の進歩で私たちの仕事や働き方は大きく変化し、マシンビジョンも今までの業務の常識を大きく変えています。それぞれの技術の特性を理解して適切に活用すれば、大幅な業務の効率化や品質向上を実現できるようになっています。
もちろん、複雑で規則性のない工程など、まだ人間の力が求められる場面は少なくありません。しかし、労働力の確保が難しくなっている現代の日本では、オートメーション化による作業の効率化が急務となっている場面が多く残されているのも事実です。
近年では、人材不足や検査の複雑化といった課題を解消するために、マシンビジョンを導入して外観検査を自動化する現場が増えています。外観検査の自動化プロジェクトの推進方法についてまとめた資料をご用意しましたので、導入を検討している方はぜひご覧ください。
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