「LiDAR(ライダー)」とは、レーザー光によって物体との距離や形状などを測定する技術です。スマートフォンをはじめとする機器に搭載されており、近年は自動運転や防犯システムなどにも活用されています。この記事では、LiDARに関する要点や活用事例、普及にあたっての課題などを解説します。
LiDARとは?
「LiDAR(ライダー)」とは、レーザー光を照射し、反射光の情報から対象物までの距離・形状などを測る技術です。「Light Detection And Ranging」の略称であり、「LiDARスキャナ」と呼ばれることもあります。高い測定精度を持ち、元々は航空測量や地形図作成などに応用されていました。
自動車の自動運転システムなどには、ミリ波と呼ばれる電波を送信し、その反射によって障害物を検知する「ミリ波レーダー」という技術があります。LiDARはミリ波レーダーよりも高い精度の計測技術を持っており、近年はスマートフォンやAIヘッドセット、競技の計測など、さまざまなシーンで活用されています。
レーダーとLiDARの違い
レーダーとLiDARの違いは、照射するものの種類です。レーダーは電波を照射することで対象物を検知しますが、LiDARはレーザー光を使用します。レーダーは対象までの距離を判別できますが、「対象物は何か」「どのような形状をしているか」などの判断はできません。そのため、対象物の詳細を知る場合はステレオカメラやAIなどを併用するのが一般的ですが、暗闇や逆光などの状況下では精度が落ちてしまうという課題がありました。
一方で、LiDARは対象物を識別し、3次元で距離、形状、および位置関係を計測できる能力を持っています。レーダーとステレオカメラを併用した自動運転システムでは、突然飛び出してくる車両や歩行者、道路にはみ出している植木、周囲の建物などをすべて検知するのは困難です。しかし、LiDARはそのような刻一刻と変化する情報を正確に検知できるため、自動運転の精度を向上する新たな技術としても注目を集めています。
LiDAR普及にあたっての課題
LiDARは、従来のレーダーよりも高い精度を持つ最新技術です。しかし、LiDARを社会に普及させるには価格や特性などの課題があります。
精度が高いLiDARは高額である
近年、スマートフォンや航空測量など、LiDARは以前よりも私達の身近なところで活用されています。しかし価格帯が幅広く、精度の高いものを使おうとすると数百万円ほどの費用がかかります。導入コストが高額になりやすいため、なかなか普及が進んでいません。
LiDARは自動運転の新たな技術としても有力ですが、とても高額なために実装が難しい状況です。今後は自動車向けの改良が進み、小型化や低コスト化が進むと考えられています。
特定の気候条件に弱い
LiDARは赤外線を使用するため、気候条件などによっては対象物にレーザー光が届きづらくなるケースがあります。たとえば、雨や霧、雪などの状況下ではレーザー光が散乱してしまうため、離れている対象物を検知できません。気候条件によって検知感度が下がるおそれがあります。
検知できない物体がある
LiDARは、レーザー光の反射を読み取ることで対象物を検知します。ただし、対象物の種類によっては反射光を認識できず、検知が難しいものもあります。たとえば、黒い物体や鏡、カーブミラー、水面などはLiDARで検知しにくい物体の代表例です。これらは反射光が見えづらかったり、計測機が認識できないほど微量の反射であったりするため、距離や形状、位置関係などを認識するのが困難です。
LiDARの活用事例6選
注目の最新技術であるLiDARは、さまざまな領域で活用されています。以下では、代表的な活用事例を6つ紹介します。
1. スマートフォンやタブレット端末のカメラ
一部のスマートフォンやタブレット端末のカメラにはLiDARが搭載されています。たとえば、2020年に発売された「iPad Pro」や「iPhone 12 Pro」、「iPhone 12 Pro Max」などには、LiDARを活用したナイトポートレート機能があります。暗闇に強いLiDARの特性を活かして、夜間や照明の暗い場所などでも被写体との距離を認識し、きれいに背景をぼかすことが可能です。また、アプリの「計測」にもLiDARの技術が活用されています。
一方、Androidでは3DスキャンアプリなどにLiDARが活用されています。スマートフォンをゆっくりと動かして被写体を撮影すると、被写体の3Dデータを作成できます。
2. お掃除ロボット
近年では、LiDARを搭載したお掃除ロボットが手ごろな価格で販売されています。LiDARを用いて障害物の位置を把握し、最適な経路を構築できます。
また、従来のお掃除ロボットはカメラによって部屋の状況を認識していましたが、暗い部屋では使用が難しいという課題がありました。しかし、暗闇に強いLiDARを搭載することで、昼夜を問わず同じ精度で稼働できるメリットがあります。
3. 航空計測
LiDARは、もともと航空測量などに使われている技術であり、現在も森林計測などで活用されています。
航空計測では、まずLiDARを搭載した航空機が上空から地表面にレーザー光を照射し、樹木や地物からのレーザー反射を取得・分析します。航空機の位置情報を取得できる機器を併用することで3次元空間での位置を正確に測定します。LiDARを用いた航空測量によって、地盤標高データや表層標高データなどの作成が可能です。
参考資料:3. 航空機 LIDAR による森林計測|農林水産省(P1~2)
4. 電線検査
国土の広いアメリカや中国、カナダでは、電線の検査にドローンとLiDARが活用されています。
電線検査とは、電線と周辺の樹木などの距離測定や、たるみ具合の検知などによって断線のリスクを軽減するための調査です。もともとは目視によって確認していましたが、人が立ち入れない山奥での作業があったり、一度に検査できるエリアが限られていたりするといった課題がありました。しかし、ドローンとLiDARを併用することで、人が立ち入りづらい場所の対応が容易になり、検査スピードが向上しています。
5. 自動運転
LiDARは、自動運転の実現に向けて近年注目を集めている技術です。従来のミリ波レーダーよりも障害物までの距離を正確に測定できるため、歩行者や自転車などが多い市街地での自動運転に役立ちます。
しかし、LiDARによる自動運転の普及には、価格やソフトウェアなどの課題があります。自動運転には非常に高性能なLiDARが必要なため、現時点では導入に高額な費用がかかってしまいます。また、LiDARによる自動運転には、3次元情報を持つ地図が必要です。そのソフトウェアの開発に時間を要しており、現在も世界中でダイナミックマップの作成が進められています。
6. 防犯システム
LiDARは防犯システムにも活用されています。従来の防犯システムは、カメラによる侵入経路のモニタリングや、AIによる顔認証が一般的です。しかし、暗闇での検知が困難であることや、形状などの詳細を認識できないといった課題がありました。
LiDARは3次元の空間認識ができるため、暗い環境下でも侵入検知や対象物の認識ができます。また、専用ソフトを活用すれば人や動物などを見分けることも可能です。優れた認識性能により、昼夜を問わず高度なセキュリティ対策を行えます。
まとめ
LiDARとは、従来のレーダーに替わる高性能な測定技術です。赤外線を用いたレーザー光を照射することで、対象物までの距離、形状、位置関係などを捉え、3次元情報を入手できます。現在はスマートフォンのカメラや航空測量、防犯システムなど、私たちの身近なシステムにも活用されています。
価格や特性などの課題はあるものの、今後自動運転の精度を向上させる技術として注目されています。
また、画像や物体の認識についてはAIも多く活用されています。AI技術の最新動向やトレンドについてまとめた資料がございますので、こちらもぜひあわせてご覧ください。
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