マイクロスコープは顕微鏡の一種ですが、従来の顕微鏡とはいくつか違う点があります。近年の科学技術によって進化しており、幅広い分野で活用されるようになりました。この記事ではマイクロスコープの原理や従来の顕微鏡との違い、メリット・デメリットなどについて詳しく解説します。
マイクロスコープとは? 顕微鏡とはどう違う?
マイクロスコープと顕微鏡は、基本的な原理は同じですが、モニターや接眼レンズに違いがあります。
マイクロスコープはデジタルカメラを搭載した顕微鏡と言って差し支えありません。マイクロスコープ=デジタルマイクロスコープとして扱われています。
マイクロスコープには画像表示用のモニターがついており、使用者はデジタルカメラで映した画像をモニターで観る構造になっています。
一方、顕微鏡は接眼レンズが搭載されており、デジタルカメラやモニターはなく、肉眼で直接観察します。
マイクロスコープを利用する5つのメリット
マイクロスコープを利用することにより、作業効率化に寄与する5つのメリットが発生します。
1. 複数人同時の観察が可能
一般的な顕微鏡では、接眼レンズを通して1人がサンプルを観察するので、共同観察には適していません。しかし、デジタルカメラとモニターを搭載したマイクロスコープは、サンプルの拡大画像をリアルタイムでモニター上に表示できる機能があります。
そのため、複数人で同時にモニターを見ながらの情報共有が可能なため、リアルタイムでディスカッションや意見交換ができ、共同作業がスムーズに進行する強みがあります。
また、目が疲れにくいという身体的なメリットもあります。
2. ピント幅が広い
高性能な対物レンズや光学システムの搭載により、対象物に対してピントの合う幅が広く、鮮明に観察できます。被写界深度が広いことは、対象物の全体や詳細な部分を同時に観察する際に有用です。
凹凸のある対象物の観察にも適しています。例えば生物の細胞、表面の微細な構造、微粒子などは、通常、平坦な表面と比べてピント合わせが難しい物体です。マイクロスコープの被写界深度の広さは、この種の対象物を詳細に観察する際に役立ちます。
3. 作動距離が長い
マイクロスコープは、高倍率のレンズを使用する際でも長い作動距離(Working Distance/ワーキングディスタンス、WD)を持っています。作動距離とは、顕微鏡の対物レンズと観察対象物との間の距離を指します。高倍率の対物レンズを使用した場合、WDは一般的に短くなりますが、マイクロスコープではこの問題が緩和されます。
WDが長いことで、対象物を動かしたり焦点を合わせたりする際、レンズとの接触を心配せずに作業できます。
4. 倍率の変更が容易
マイクロスコープはズームレンズを使用しており、容易に倍率を変更できます。レボルバー式の固定レンズを使う顕微鏡が、倍率を変えるたびに位置やピントを合わせなければいけないのに対し、マイクロスコープは位置・ピントを合わせたまま倍率を変えることができます。
5. 用途に応じた柔軟な使用が可能
ソフトウェアとの統合により、マイクロスコープの用途が幅広く拡大され、観察から測定、解析までさまざまな用途に適用できます。
例えば自動車・航空業界では、肉眼では確認しにくい油圧部品の観察や測定に活用されています。他にも医療・薬品、化学、食品など幅広い分野で活用されるようになりました。マイクロスコープの導入により、多くの業界で効率化が進められています。
工業用デジタルマイクロスコープの用途
工業用デジタルマイクロスコープは、品質管理・検査、研究開発・分析など広い用途で活用されています。
1. 品質管理・検査用途
工業用マイクロスコープは、製造プロセスでの品質管理や製品の検査に広く使用されています。特に電子機器、自動車、半導体など、精密機器関連の産業では重宝されています。
自動車業界ではブレーキパッドや塗装の検査、半導体ではワイヤボンディングの検査、食品や医薬品の異物混入検査などが代表的です。マイクロスコープの活用により、不良品の早期発見と修正が可能になり、高品質な製品生産につながっています。
2. 研究開発・分析用途
製品の開発段階から試作品の品質確認、不良品の原因分析に至るまでさまざまな役割を果たせることもマイクロスコープの特徴です。
例えば製品の設計・開発段階では、部品や材料の特性を調査し、設計仕様に合致しているかどうかを確認します。電子機器の製造や組み立てでは、はんだ付けの品質確認でクラックやボイドを早期発見し、信頼性の高い電子機器を製造できます。また、摩耗チェックのほか、微細な損傷や異常を観察し、問題の原因を特定します。
マイクロスコープ以外の顕微鏡の種類
顕微鏡にはマイクロスコープ以外の種類もあります。用途や性能がそれぞれ異なっており、分野にあわせて必要な機能を選択できます。
光学顕微鏡
いわゆる「普通の顕微鏡」として一般的に知られており、物体や試料の微細な構造や細胞などを観察するために使われます。
普通の顕微鏡ではありますが、数千倍の倍率で観察できる性能をもっています。これにより、微細な構造や微生物、細胞の観察が可能です。肉眼ではほとんど見えない透明、または薄い断片の微小な構造の対象物を、接眼レンズを通して拡大して観察できます。
このような光学顕微鏡は、用途に応じてさらに3種類に分けられ、現代でもさまざまな科学分野で使用されています。
1:生物顕微鏡
生物学の研究に使用される顕微鏡です。生体試料(薄い組織スライドや細胞の観察、微生物など)の観察に特化しています。
2:実体顕微鏡
昆虫のようなサンプルの観察に使用される顕微鏡です。双眼鏡のように左右が分かれた構成になっています。WDが長いため、観察しながら解剖するといった作業も可能です。
3:金属顕微鏡
透過性を持たない物体を観察する際に使用する顕微鏡です。対物レンズと同じ方向に照明があり、標本に光を反射させて観察します。材料科学、金属工学、電子工学などの分野で広く活用されており、金属の組織解析や微細な欠陥の検出に役立ちます。
電子顕微鏡
電子顕微鏡は、対象物に光ではなく電子を照射して観察します。光学顕微鏡とは異なり、電子顕微鏡は電子の波動性を利用するため、非常に高い倍率で観察が可能であり、ナノレベルの観察に適しています。
その高い解像度と倍率は、科学研究、品質管理、材料設計、医学的研究など、さまざまな用途に貢献しています。
レーザー顕微鏡(共焦点レーザー顕微鏡)
レーザー顕微鏡、特に共焦点レーザー顕微鏡は、高い解像度で試料を観察し、非破壊的に観察する顕微鏡です。通常の顕微鏡では難しい、厚みのある試料や多層構造の試料の観察に向いています。
倍率は約1万倍です。高倍率で観察することで、微細な試料構造や細胞内の構成要素などを詳細に観察できます。物理学、医学、材料科学、細胞生物学、神経科学、微細構造解析など、微細なサンプルを取り扱う多くの分野で使用されています。
走査型プローブ顕微鏡(SPM)
走査型プローブ顕微鏡(SPM)は、非常に高い分解能をもっています。試料表面の形態や性質を観察し、表面の凹凸や粗さを数値として捉えるための顕微鏡です。
試料表面を非常に高い精度でスキャンすることで、表面の凹凸や構造を可視化します。これにより、原子や分子レベルの表面特性の観察が可能です。品質管理プロセスにおいて重要な役割を担っており、表面処理や製品の粗さの測定、微細構造の評価にSPMを使用する分野もあります。
まとめ
マイクロスコープは現代の各産業において欠かせない顕微鏡の一種です。高い機能を活用することで、精密な観察と正確性の高い情報が共有しやすくなります。
分野によっては他の顕微鏡が適していることもあるので、必要な機能を把握した上で、最適な種類を選択しましょう。
品質改善のポイントをご紹介した資料もありますので、ぜひあわせてご覧ください。