高品質の製品を作り続けてきた日本においても、人員不足などの影響を受け、品質低下が不安視されています。高品質の製品を安定して生産し続けるためには、徹底した品質管理が必要不可欠です。そこで当記事では、品質管理とは何かといった基本から立ち返り、品質保証との違いや品質管理の手法、具体的な業務内容についてご紹介します。
品質管理とは?品質保証との違い
品質管理とは、製品やサービスの品質を検査・検証し、保証する重要な工程です。特に食品、自動車、医療機器や医薬品といった医療分野では品質問題が大きな問題に発展するリスクがあるため、厳密な品質管理が求められています。
かつては、品質管理において人の目での検査が主流でしたが、装置による検査も限定的な範囲で利用されていました。しかし、現在では品質管理のデジタル化が進み、高効率・高精度な検査が実現可能となっています。これにより、製造現場のデータ活用や問題解決が容易になり、継続的な品質改善が期待できます。また、適切な設備とサポートを導入することで、企業の生産力向上にも貢献することができます。
品質管理と品質保証の違い
品質管理は基本的に、生産から販売まで一連の流れを管理していくことを指します。一方、「品質保証」は、品質管理の中でも製品の品質の保証にフォーカスした業務です。品質保証を通じて、顧客満足や品質マネジメントシステムの継続的な改善を推進します。「ISO9001」などが有名な例です。
品質にフォーカスしているという点では、品質管理よりも業務範囲が狭いような印象も受けますが、品質を保証するための活動は多岐にわたります。原材料や構成部品などの品質チェックもあれば、途中の生産工程はもちろん、製品を販売したあとの取り扱いや顧客のサポートを行う体制を整えることなども品質保証の仕事です。顧客からのクレーム対応や不具合の対応も行い、収集した情報をまとめて関係部門へフィードバックなどを行うことでより品質を安定させるための活動も行っています。
生産工程にとどまらない、幅広い仕事であるといえます。
品質管理に関する規格・資格
前述したISO9001のISOは「International Organization for Standardization(国際標準化機構)」の略称です。製品やサービスを世界中で同じ品質・同じレベルで提供できるようにするための品質管理における国際的な規格として作られました。業種や業態を問わず取得でき、日本では2022年3月時点で30,371社が認証されています。
また、品質管理や品質保証に携わる人が取得できる資格としては日本規格協会グループが実施する「品質管理検定(QC検定)」があります。品質管理の業務を行うにあたって必要な知識を持っているかを客観的に評価する検定で、1級から4級まで設定されています。
ISO 9001についてはこちらのブログでより詳しく解説しています。
ISO 9001(QMS)とは?品質マネジメントの必要性と要求事項について
品質管理の業務内容
ここでは、品質管理の具体的な業務内容について解説します。
工程管理
まずは、商品やサービスを作る工程そのものを管理することが挙げられます。ものづくりに関していえば、生産工程に必要な労働力や原料、設備などを管理し、常に効率よく生産できる体制の維持を目指します。工程管理を通じて、品質の管理に加え、無駄なコストの削減や設備の維持などにつなげていきます。
具体的な方法としては、作業手順を標準化します。多くの人が生産に関わるほど、品質がばらつく可能性が高まります。これを未然に防ぐために、作業内容をマニュアル化し、人が入れ替わっても品質を維持できるようにします。もちろん、マニュアルを作成して終わりではなく、しっかりと実行されるように品質教育や作業訓練など、人材育成も同時に行います。
品質検証
品質検証も重要な業務です。具体的には、仕入れた原材料や部品などの製品を検査したり、管理したりすることを指します。いくら生産工程がしっかりとしていても、生産のもととなる原料や部品に不備があれば、それを使用して生産した製品の不備になりかねません。そのため生産工程が適切かどうかを監視する必要があります。
この品質検証の工程を効率化するにあたって、「外観検査システム」を活用する場合もあります。たとえば「AISIA-AD」は、AI(ディープラーニング)が搭載された、画像認識を駆使した最先端のシステムです。システムを通じて製品のキズや変色を検知したり、物体の形状不良や変形を検知したりでき、人間の作業負担を減らすことができます。
品質改善
品質改善とは、製造工程において生じるさまざまな問題点を洗い出し、その解決によって品質を改善し、未然に納品トラブルなどを防ぐことです。製造において、原則として製品の品質基準が定められています。大量に生産していると、時に基準に満たない不適合製品が生産されることもあります。これを改善対象として原因を突き止め、不適合製品の再発防止や未然防止につなげます。
流れとしては、まず不適合製品が生産につながった問題点の洗い出しを行います。そもそも原料に問題点があったのか、生産工程の問題だとしたらどの部分に問題があるのかなど、解決のアプローチはケースにより異なります。この問題点を洗い出すためには、やはり現状の把握が重要です。現場へのヒアリングを行いながら、仮説検証を繰り返します。問題点を特定できれば、あとはその原因を分析し、その対応策を立案します。一時的なものではなく、恒久的な対策を考えることがポイントです。
品質管理の手法について
それでは品質管理にはどのような手法があるのでしょうか?ここでは具体的な実施手法を3つご紹介します。
PDCAサイクル
「PDCAサイクル」とは、計画(Plan)・実施(Do)・評価(Check)・改善(Action)という4つのプロセスの頭文字をとった品質管理手法です。PDCAサイクルでは、それぞれの段階で以下の内容を実行します。
- 計画(Plan):これまでの実績や将来の予測を踏まえて、業務計画や目標を設定する
- 実施(Do):構築された業務計画に基づいて業務を実施する
- 評価(Check):計画通りに業務が行われているか確認する
- 改善(Action):計画通りでなかった箇所について、適切な改善を行う
PDCAサイクルでは、これら4つのサイクルを繰り返し行い、継続的に品質の改善を進めていくことを目的としています。
QC7つ道具
「QC7つ道具」とは、統計的な観点でデータを分析し、品質管理(Quality Control)を行う手法の総称です。文字通り7つの道具(分析ツール)を使用して品質管理を行うことから、俗に「QC7つ道具」と呼ばれています。以下、QC7つ道具で利用される分析ツールをご紹介します。
- グラフ(Graph)
「グラフ」とは、データを視覚化する際に用いられる方法のことで、主に棒グラフや円グラフ、帯グラフなどがあります。数値の大小や比率、推移などをわかりやすく示せるため、全体の状況を俯瞰するうえで便利です。 - チェックシート(Check Sheet)
「チェックシート」とは、あらかじめ決めておいた項目ごとに点検・記録する図表形式のシートのことです。チェックシートを適正に運用し、正しいデータを収集するためには、チェックと測定を正確に実行する必要があります。 - パレート図(Pareto Chart)
「パレート図」とは「不良項目」「機械別不良数」といったデータ項目を降順に並べた棒グラフと、各項目の累積比率を示す折れ線グラフを組み合わせた複合グラフです。パレート図を見ることにより、優先して実行すべき改善は何かを分析・把握できます。 - ヒストグラム(Histogram)
「ヒストグラム」とは、任意の区分ごとにデータ数を集計するタイプの棒グラフです。ヒストグラフを用いることによって、データがどのように分布しているかを可視化できます。 - 特性要因図(Cause and Effect Diagram)
「特性要因図」とは、問題となっている特性と、その特性に影響していると考えられる要因の関係性をまとめた図のことです。特性要因図は魚の骨のような形に見えることから、別名「魚の骨図(fishbone diagram)」と呼ばれることもあります。 - 散布図(Scattered Diagram)
「散布図」とは、関連する2種類のデータを点の集合で示した図のことです。散布図を見ることによって、2種類のデータがどのように関係しているかを視覚的に把握できます。 - 管理図(Quality Control Chart)
「管理図」とは、時系列で工程ごとのデータを表示した折れ線グラフです。管理図を見ることによって、各工程に異常がないかをチェックできます。
IE(インダストリアルエンジニアリング)
「IE」は、トヨタの現場や工場で採用されていることでも有名な、品質管理の手法です。IEでは工程・作業内容の科学的な分析を通じて、作業の無駄や属人化を排除します。
これによって、誰でも同じ時間で同等の作業ができるよう平準化を図り、生産性の向上を目指せます。そのほかIEの特徴として、一部の工程・作業内容に限らず、経営の手法全般を最適化できる点が挙げられます。
IEの分析手法は数多く存在しており、煩雑で分かりにくいといわれることが多いです。しかし、それらは主に方法の最適化を続ける「方法研究」と、作業時間を定量的に計測・分析する「作業測定」だけに分類できます。基本的には、この2種類のいずれか、もしくは両者を適切に組み合わせて分析が行われます。
品質管理の要素 5Sと4M
5Sとは
「5S」は現場を適切に管理・維持するために必要な5つの要素「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」のローマ字の頭文字をとった言葉です。生産管理の基本の考え方として知られており、現場で5Sが徹底されることで品質や生産性、安全性を高めることができます。
- 整理:必要なものと不要なものを分けて不要なものを処分する
- 整頓:必要なものを所定の場所で保管する
- 清掃:現場や機器・機材をきれいな状態に保つ
- 清潔:整理・整頓・清潔を維持する
- しつけ:清潔な状態を維持できるよう現場のルールとして習慣化する
4Mとは
「4M」は品質管理を行うために必要な要素「人(Man)」「機械(Machine)」「材料(Material)」「方法(Method)」を表します。製造に関わる要素を分類することで、問題の発見や解決、現場の改善に役立てることができます。
- 人:作業効率を上げるために適切に作業員の教育や配置を考える
- 機械:品質を維持するために適切な機械・設備の導入・配置・メンテナンスを行う
- 材料:安定した生産をするために材料の調達量・調達手段を管理し検査を行う
- 方法:作業効率を上げ品質を維持するためにマニュアルを整備する
4Mについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
「4M」とは?品質管理や変更管理の分析に活用するポイントを解説
品質管理の「TQC」「TQM」「SQC」とは?
全社的品質管理:TQC
「TQC」は「Total Quality Control」の略で「全社的品質管理」と訳されます。
JISC(日本産業標準調査会)は「品質管理に関するさまざまな手法を総合的かつ全社的に展開して適用し従業員の総力を結集してその企業の実力向上を目指すもの」と定義しています。1960年頃から、製品・サービスの品質を維持するための活動として導入されるようになりました。
TQCによって、品質向上やコスト削減のほか、社員の能力向上の習慣化、顧客視点で製品・サービスの生産・改善に取り組む体制ができるなどの効果が期待できます。
総合的品質管理:TQM
「TQM」は「Total Quality Management」の略で「総合的品質管理」と訳されます。
JSQC(日本品質管理学会)は「プロセスおよびシステムの維持向上、改善、革新を全社的に行うことで、経営環境の変化に適した効果的かつ効率的な組織運営を実現する活動」と定義しています。
前述したTQCは品質管理の主体が従業員ですが、TQMは経営陣がトップダウンで行うものとしています。現在の主流となっているTQMはTQCの取り組みを経営層まで広げたもので、製品・サービスだけでなく業務や経営の品質を向上するための活動と言えます。
統合的品質管理:SQC
「SQC」は「Statistical Quality Control」の略で「統計的品質管理」と訳されます。各製造工程や製品のデータを統計的方法に使って品質管理の改善を図ることを指しており、日本では1950年代に導入され始めました。
代表的な手法としては、管理図などのQC手法のほか、回帰分析や実験計画法、多変量解析法などが挙げられます。統計的手法を使うことで、製造の過程で偶然発生するバラつきと、偶然ではなく何らかの原因によって発生するバラつきとを区別することができ、問題の早期発見と改善につながります。
品質を改善する方法
品質を改善するための方法はいくつかありますが、その一つが外観検査の精度向上に取り組むことです。
検査を徹底することで不良品の市場流出を防ぎ、さらに不良が発生した原因を究明して工程を改善できれば、不良の発生を未然に防ぐことにもつながります。これにより品質改善だけでなく製造工程の最適化を図ることもできるため、外観検査の改善は製造現場における再重要課題の一つと言えるでしょう。
従来の外観検査は検査員の目視によって行われてきましたが、検査の複雑化や人手不足などに対応するためIoTやAIなどの技術や、技術を活用したソリューションを用いて自動化する事例が増えています。
外観検査についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
外観検査とは?目的や発見可能な不良など徹底解説
まとめ
品質管理は、自社製品が品質基準を満たしているか確かめる、重要な業務です。具体的な業務内容は多岐にわたるため、人手や手間が必要ですが、少子高齢化が加速する現状では人材確保に窮することも少なくありません。
そんななか、近年ではAIを活用した最先端の外観検査システムも登場しており、今後の活躍に期待が寄せられています。システムインテグレータの提供する「AISIA-AD」は、AIによる画像認識を採用した最先端の外観検査システムです。AIで正常品と異常品を判別できるほか、異常パターンを検知することも可能です。
AIを活用した品質管理についてまとめた資料もありますので、ぜひご覧ください。
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