工場の建物や看板などに書かれた「ISO 9001」という文字を、見かけたことがある方も多いのではないでしょうか。ISO認証を取得すると、企業は様々なメリットを得ることができるため、多くの企業が取得を目指しています。
しかし、実際にISO認証を取得している企業は意外と少ないのが現状です。
2018年に日本能率協会が行ったアンケートによると、比較的取得しやすいといわれる「ISO 9001」で58.8%、「ISO 14001」では35.4%という取得率に収まります(※)。
今回の記事では、ISO9001の概要をはじめ、品質マネジメントの必要性や要求事項について説明します。
(※)ISO の取得・運用状況に関する調査|一般社団法人 日本能率協会
そもそも「ISO」とは?
ISOは、「International Organization for Standardization(国際標準化機構)」の略称のことです。「アイエスオー」あるいは「イソ」などと呼ばれます。
1947年に設立した、世界162ヵ国の国家標準化団体で構成される非政府機関であり、スイス・ジュネーブに本部が置かれています。国家間で共通する標準規格を提供することが主な活動で、ISOによって制定された規格が「ISO規格」です。
ISO規格は、工業製品だけでなく、食品・医療・農業・安全・技術といった分野を網羅しています。ISO規格を用いることで、安全性、信頼性、品質の高い製品やサービスの創出に役立ちます。
マネジメントシステムとは?
マネジメントシステムは、「組織運営ルール」や「経営の仕組み」のことです。
組織が目標を定めて、その目標を達成するために組織を管理する仕組みもISO規格によって制定されています。これが、「マネジメントシステム規格」と呼ばれるものです。
目標には「安全な運営、製品の品質、従業員の管理、経済的な成功、環境への配慮、クライアントへの配慮」などがあります。製品の品質には「品質マネジメントシステム」、環境への配慮には「環境マネジメントシステム」といった規格が存在します。
ISOは、「ISOマネジメントシステム」と呼ばれるマネジメントシステムに関する規格を策定していて、認証取得の有無で企業の力量や信頼度が判断されることも珍しくありません。
ISOマネジメントシステムの種類
以下は、ISOマネジメントシステムの例です。
- ISO 9001:品質マネジメントシステム規格
- ISO 14001:環境マネジメントシステム規格
- ISO 22000:食品安全マネジメントシステム規格
- ISO 27001:情報セキュリティマネジメントシステム規格
- ISO 45001:労働安全衛生マネジメントシステム規格
- ISO 50001:エネルギーマネジメントシステム規格
- ISO 55001:アセットマネジメントシステム規格
広く知られているのは、「ISO 9001」や「ISO 14001」です。
「ISO14001」は、企業活動の環境リスクを分析して、そのリスクの低減や環境への貢献を目指す環境マネジメントシステムの規格です。「ISO 27001」なら、組織が持つ情報に関するリスクを適切に管理するためのセキュリティマネジメントシステムの規格を指します。
次章からは、ISO 9001(品質マネジメントシステム)について詳しく説明していきます。
ISO 9001(QMS)とは?
ISO 9001とは、製品やサービスを提供するまでのガイドラインのようなものです。
その最終目標は「顧客が満足できる製品やサービスの提供」であり、提供プロセスを改善する仕組みを継続して運用することで、良い製品やサービスを提供し続けることができます。
たとえば、加工肉の製造工場でベーコンを作る際に「食塩を3g使う」というルールがあるとしましょう。従業員が目分量で食塩の量を調整していると品質(味)にバラつきが発生しますが、計量器を使うことで品質を一定に保つことができます。
ほかにも、「継続的な改善が可能な仕組みの構築」も要求されます。
手順書などでルールを厳守しても、不良品の発生をゼロにすることはできません。しかし、同じ理由で不良品が発生しないように調理の方法や手順などを見直して改善することで、できる限り不良品の発生を減らしていく必要があります。
では、ISO9001にはどんなメリットがあるのでしょうか。
ISO9001(QMS)のメリットは?
製造業におけるISO9001認証取得の3つのメリットです。
- 品質マネジメントシステムの確立
- 生産効率の改善
- 信頼につなげる
上から順番に説明していきます。
品質マネジメントシステムの確立
ISO 9001取得によるメリットのひとつが、組織の品質マネジメントを確立できることです。
品質マネジメントシステムの確立によって、製造現場での作業がスムーズになるほか、責任の所在を明確にできます。
たとえば、製造現場に仕様書や手順書といったマニュアルを作成することで、どの従業員が作業をしても一定の品質を保てます。各作業の担当者を明確にしておくことで、トラブル発生時に誰が責任を持って対応するのかわかります。
ISO 9001認証取得にはリーダーシップも重要であり、組織のリーダーが率先して品質管理方針を策定したり各役職の権限や役割を明確にしたりしなければなりません。
管理体制を最適化することで、漏れや不合理の少ないシステムを構築できるのです。
生産効率の改善
製造業におけるISO 9001のメリットは、生産性にもあります。
ISO 9001認証取得では第三者の認証機関からの監査を受けるので、業務上の問題点や改善点が明確になるからです。
単なる書面だけの審査とは異なり、実際に立ち入り検査をして品質管理を行うための仕組みや、ルールが正しく運用されていることが認められなければ、認証を受けることができません。仮に品質管理上に問題があると判断された場合は、認証機関から厳しい指摘を受けてしまいます。
また、構築されたマネジメントシステムを運用することで、製品の品質を継続的に改善・向上させる仕組みを構築できます。従業員の品質への意識も高まることから、製品に対する意見が増える場合もあります。
信頼につながる
ISO 9001を取得することで、社会的な信頼が得られます。
「認証機関」という外部の第三者機関が評価した結果によって認証を与えられるので、一定以上の品質や安全性が保証されるからです。しかも、PDCAサイクルの手法で業務の改善を行っていれば、「継続的な改善ができている企業」という印象を与えられます。
同じような製品やサービスを提供する企業であれば、ISO 9001を取得した企業の方が製品やサービスの信頼性が高いと判断されるでしょう。
つまり、ISO 9001取得によって顧客の信頼を得ることができるという点が大きなメリットです。
ISO9001(QMS)とPDCAサイクルについて
マネジメントシステムの構築で重要なのは、取り組むべき課題の設定です。
課題を設定するには、組織の内外にあるリスクを洗い出して管理する必要があります。
たとえば、情報セキュリティマネジメントシステム(ISO 27001)の構築において、組織を取り巻く環境(企業内、従業員の家族、取引先など、すべてのデバイスなど)を完全に管理することはできません。時間やコスト、労力といった資源からも、情報セキュリティのためだけにすべてを注ぎ込むのは難しいでしょう。
その場合、まずはどこから対応すべきか優先順位を決めるのがよいでしょう。
情報セキュリティ上の問題を洗い出して、組織における影響の大小を評価して、影響の大きいなものから優先に管理を行います。
この流れは、別のマネジメントシステムを構築するときも同じです。
安全、品質、環境など、管理する対象における組織の問題点を抽出して、リスクの大小で優先順位を決めてから課題を設定します。そして、課題解決のための計画を立てて、その計画を実施します。次に、その結果の検証を行って課題を見直したり方法を変更したりするなど、改善をすることで新しい活動へとつなげていくのです。
上記のように、「Plan(計画)⇒実施(Do)⇒検証(Check)⇒改善(Act)」という循環した流れのことを、頭文字を取って「PDCAサイクル」と呼びます。
ISO 9001(QMS)の要求事項について
ここでは、ISO 9001で求められる要求事項について解説します。
要求事項とは、ISO9001認証取得にあたり企業が満たすべき基本的な要件のことであり、取得を希望する企業や取得済みの企業は要求事項を満たさなければなりません。
IOS9001の要求事項においては、製品やサービスの仕組みや管理に関するものが機能しているか判断されます。
要求事項一覧
以下は、ISO9001の要求事項一覧です。
- 適用範囲
- 引用規格
- 用語および定義
- 組織の状況
- リーダーシップ
- 計画
- 支援
- 運用
- パフォーマンス評価
- 改善
ISO 9001の要求事項は、126項目もあります。
数年に一度は改定されていて、元の規格書は英語で記載されています。実際に取り組む場合には、日本語で翻訳された「JIS Q 9001」を読むのが現実的です。
要求事項に関するポイント
要求事項を、以下の3つに絞ってご紹介します。
- 組織の状況を明確にする
- リーダーの権限を明確にする
- 文章化の実施
上から順番に説明していきます。
組織の状況を明確にする
要求事項の4章で求められるのが、組織の状況を明確にすることです。
ISO9001認証取得を目指す場合、現状と目的を把握しておく必要があります。
代表的な手法が1項で要求されるSWOT分析であり、組織の目的を明確にしたうえで強みと弱みを抽出します。現状を見える化することで、客観的に組織のあり方を捉えることが可能です。組織の現状が把握できれば、構築するマネジメントシステムの範囲を決定します。
なお、前記した「PDCAサイクル」の確立は、この章で要求されます。
リーダーの権限を明確にする
5章での要求は、リーダーの権限や責任を明らかにすることです。
具体的には、各部門や各階層において責任の所在や意思決定者を明確にして、トップがリーダーシップを取れるような組織が求められます。仕事の担当や意思決定者が明確になっていなければ、責任の所在が曖昧になるうえに業務がスムーズに進みません。
トップはリーダーシップを発揮することで、組織の目標を示す必要があります。また、リーダーだけでなく、従業員が一丸となって参加する状況を生み出すことも役割としています。
全員が同じ方向へと進めるような強い組織としてのあり方が、この章では問われるのです。
文章化の実施
組織で業務内容を標準化していたとしても、誰が見てもわかる内容になっていなければ意味がありません。
従業員同士で共有できていなければ、人によって作業方法が異なってしまい、同じ品質の製品は作られないからです。誰が見てもルールを把握できるような状況にしておかなければ、高品質な製品やサービスを提供できるようにはなりません。
そのため、作業内容の必要に応じて手順書や仕様書といったマニュアルの書面化が求められます。終えた作業をもう一度点検や改善へとつなげるには、チェックシートなどの記録として残しておくことも重要です。
書類化すること自体がゴールと捉えられがちですが、あくまでもマネジメントシステムを構築することが目的であることを忘れないようにしましょう。
まとめ
ISO9001は、品質マネジメントシステム(QMS)の国際規格です。
これはあくまでも仕組みの話なので、企業はその仕組みを構築するだけでなく、常にPDCAサイクルをまわして改善していく必要があります。「一度仕組みづくりができればOK」というわけではないので、継続して改善を続けられるようにしましょう。
以下の資料でも、品質管理について詳しく解説しています。無料でダウンロードできますので、ぜひ参考にしてみてください。
- カテゴリ:
- 製造業
- キーワード:
- iso 9001