製造業の外観検査は長年人が目視で行っており、今でも主流の検査は目視検査といえます。
しかし近年はAIの発展もあり、外観検査におけるカメラやセンサーの活用も増加、実用化が進んでいます。
なかには、これからカメラセンサーを活用して自動化を推進する企業もあるでしょう。検査が自動化できれば、人材不足の問題解決にもつながります。
そこで今回の記事では、外観検査で使用するカメラについてお話していきます。
外観検査で使用するカメラに必要なこと
製造現場における外観検査で使用されるカメラは、スマホに搭載されているような一般的なカメラではありません。一般的なカメラの性能では製造現場からの要求に答えられないからです。
では、外観検査で使用するカメラとは一体どんなものなのか、理解しやすくするために基本的な内容から説明していきます。
そもそも外観検査とは
外観検査とは、製品や部品の表面をチェックする検査のことです。製品の表面についてしまったキズ、バリ、汚れ、異物のほか、欠けや変形といった欠陥を確認したあと、良否判定を行います。
製造業で外観検査を行う目的は大きく2つあります。
- 不良品が市場へ流出するのを防止する
- 製品に不具合が発生する原因を突き止めて改善する
不良品が市場へ流出してしまうと、顧客クレームが発生して企業の信頼を大きく損ねてしまいます。製品や欠陥の内容によっては、人の健康や命に悪い影響を与えてしまうこともあります。
また、外観検査で検出された不良品や発生原因などのデータを設計や前工程にフィードバックすることで、不良品が発生しないように改善することができるのです。
以上の理由から、製造現場では外観検査が行われています。
外観検査やAI外観検査については以下の記事でご紹介しています。
関連記事:外観検査とは?目的や発見可能な不良など徹底解説
関連記事:AI外観検査とは?画像処理の仕組みや事例・メリット、導入費用相場まで徹底解説
外観検査で必要となるカメラ
工場の外観検査は「製品が正しく製造または取りつけができているか」という点をチェックするため、検査したい対象物を安定させて正確に撮影できるスペックが必要です。
また、実際の製造現場での撮影における要求はさまざまです。
例えば、対象物が大きかったり極小であったり、捉えたいのはキズの違いなのか色や形の変化なのか、あるいは素材の違いなのか。さらに対象物は動くものかもしれません。このように、あらゆる要求に対して1つ1つ的確に対応する必要があります。スマホで撮る写真とは違い、動いていてブレたり画質が荒くてキズや汚れが写らなかったりすれば、意味がありません。
外観検査で使用するカメラは、上記のような要求を満たす必要があり、産業用カメラには要求に答えられるだけの機能や選択肢があるのです。
押さえておきたいカメラの基本
まずはカメラそのものの基礎知識について解説します。
カメラにはデジタルとアナログの2種類があります。大きな違いは「フィルムを使っている」のがアナログで、「センサーを使っている」のがデジタルです。アナログカメラの場合は、大きなフィルムで撮影した画像を30分近くかけて現像(光の抽出)します。
しかし、センサーの登場によって画像がデジタル化され、データとして扱えるようになったことでカメラの利便性は大きく向上しました。スマホに搭載されて送受信を手軽に行えるようになったのは、デジタルカメラが普及したことがきっかけといえます。
そんなカメラの説明をわかりやすくするため、以下の2つに分けて説明します。
- カメラの構成
- 「画素」について
上から順番に見ていきましょう。
カメラの構成
カメラは大きく3つの部品で構成されています。
部品 |
役割 |
フィルムまたはセンサー |
光を感じ取り記録するための部品。 |
レンズ |
光を集めて像を作る部品。 |
シャッター |
フィルムやセンサーに撮影時だけ光を当てる装置のこと。撮影以外のときは光を遮っている。 |
カメラは、以下のような動作を行います。
- 撮像の対象に向かってボタンが押される
- シャッターが開く
- 対象が発する光がレンズを通ってフィルムやセンサーに届く
- 光が記録される
つまり、記録された光を抽出することで写真ができあがるのです。
画素とは
画素とは、色情報を持つ最小単位の点のことです。
ピクセルとも呼ばれていて、カメラのスペックで使われる「画素数」という単語は撮像素子(イメージセンサー)に配置された画素の数を表しています。例えば、横1,280個、縦960個を敷き詰められるカメラの場合は約120万画素(1,280×960)の写真を撮影できます。
画素数が多くなるほど画質は向上しますが、1枚あたりのデータ容量も大きくなることから、処理をするパソコンやスマホといった媒体にも十分なスペックが必要です。近年では、廉価なデジタル一眼レフでも2,000万画素であったり、スマホに1,000万画素以上のカメラが搭載されていたりするなど、高画質化の傾向にあります。
外観検査において製品の細かい不具合を探すには、画素数の大きなカメラが必要です。
外観検査で使用するカメラの種類
画像処理による外観検査では、カメラ選びが重要です。製品や現場に合ったカメラ選びができていないと性能を引き出せなかったり検査精度が落ちてしまったりするからです。
製造業の外観検査で使用されるカメラには、大きく「エリアスキャンカメラ」と「ラインスキャンカメラ」の2種類があります。
エリアスキャンカメラ
エリアスキャンカメラは、対象物を面で撮影するカメラです。
最も一般的に使用されているカメラであり、ラインカメラと比較すると安価です。目視と同じように撮像できることが特徴で、設定や設置も容易なことから手軽に導入できます。
産業用カメラとしての市場規模はエリアスキャンカメラの方が大きく、伸び率も高い傾向にあります。富士経済の調べでは、エリアスキャンカメラの販売台数は約170万台であり、市場規模の伸び率は177%であることがわかりました。
ラインスキャンカメラ
ラインスキャンカメラは、展開図のような画像を取り込めるカメラです。
素子が1列になっており、対象物やカメラを移動させて1列ずつ合成させて撮像します。コピー機やスキャナー機の光が前後左右に移動するようなイメージです。
エリアセンサーでは撮像が難しい、円筒形回転物や大きなシート状の搬送物といった製品の撮像にも対応できます。近年では、省スペースに取り付けられる「コンタクトイメージセンサー」や三次元情報の撮像が可能な「3Dビジョンセンサー」の精度が向上するなど、産業カメラの分野の技術は日進月歩で発展中です。
なお、ラインスキャンカメラの販売台数は約12万台、伸び率は155%でした。
エリアスキャンカメラとラインスキャンカメラについては、以下の記事で詳しく解説しています。
エリアスキャンカメラとラインスキャンカメラの違いとは
カメラに必要な照明
産業用カメラに必要な照明は、検査対象物の特徴や特性を考慮したうえで最適な条件のものを選ばなければなりません。
検査対象物の検査位置を明確にするために必要なのが照明装置なので、照明の当て方や形状などを知っておく必要があります。
照明の当て方
種類 |
方法 |
反射照明 |
対象物に光を斜めから当てて、検査物からの反射光をCCDで捉える |
同軸落射照明 |
対象物に照明の光軸とカメラの光軸を合わせて光を照射する |
透過照明 |
対象物の背面から光を当てて、透過光によって検査物の外形などを写す |
照明の形状
形状 |
配置 |
特徴 |
バー照明 |
リング状 |
長尺エリアに均一に照射できる |
リング照明(ローアングル照明) |
直線状 |
エッジ部などを白く際立たせられる |
フラット照明 |
平面上 |
バックライト照明としてハレーションが起こりやすい検査物全体に直接光を当てる |
同軸落射照明 |
同軸落射用 |
検査面を均一に照射できる |
ドーム型照明 |
ドーム型 |
不安定な対象物でも全体に光を照射でき、表面を均一な状態としてコントラストを明確にする |
ほかにも、検査対象物の背景に合った照射をするための「照明の色」も要素に含まれます。
外観検査で利用する照明については以下のブログで詳しく解説しています。
なぜ外観検査では特殊な照明を使うのか
外観検査で使用するカメラの選び方
それでは、外観検査にカメラを活用したい場合はどのように選べば良いのでしょうか?ひと括りにカメラといっても、さまざまなパーツで構成されています。
パーツの種類や性能によって検査の精度やコストは違うので、現場の環境や予算などで選ぶ必要があります。それぞれの特徴について、順番に見ていきましょう。
イメージセンサー
イメージセンサーには、主に「CCD」と「CMOS」があります。CCDセンサーは長年主流だったこともあって研究が進んでおり、画質の良さが大きな特徴です。ただし、高価であるうえに消費電力が高いというデメリットもあります。
一方のCMOSセンサーはCCDセンサーよりも後に登場したセンサーです。
当初はCCDセンサーと比べて性能面で見劣りしていましたが、近年の技術改良によってCCDセンサーとそん色のないレベルまで性能は向上しています。CMOSセンサーは安価なので、外観検査としての需要は高いです。
微細な不具合を検出するなど画質を重視するのであればCMOSセンサーがおすすめですが、それ以外の製品を検査するのであればCCDセンサーで問題ないでしょう。
関連記事:CCDとは?概要・メリット・デメリットやCMOSとの違いなどを解説
画素
先述のとおり、画像の最小単位のことでピクセルとも呼ばれます。〇万画素とは、イメージセンサー内の画素の数を表現したものです。
画素数が大きいほど、高精細な撮像ができるカメラになります。スマホなどの小さな画面ではある程度の画素数からは見分けがつかなくなってしまいますが、拡大すると画素数の大きなカメラで撮影した写真の方が明確に写っていることがわかります。
外観検査で小さなキズや異物を検査するときは、画素数が大きいカメラを選びましょう。
カラー
カラーカメラとモノクロ(白黒)カメラがあります。大きな違いは、色味の判定が行えるか否かです。
カラーカメラは文字通りカラー撮像ができるので、色味の違いや変化の判定を行いたい場合に適しています。一方のモノクロカメラは、キズの有無や変形などの欠陥をみつけるのに適していて、同一画素数であればモノクロカメラの方が高精細な撮像が可能です。
以上のような理由から、多くの製造現場ではモノクロカメラを選ぶ傾向にあります。
シャッター方式
カメラのシャッター方式には「ローリングシャッター」と「グローバルシャッター」という2つの方式があります。
ローリングシャッターは、センサー素子の上部ラインから順番に露光が開始される方式です。1枚の画像の上部と下部で撮影のタイミングが異なることから、動きのある対象物を撮影すると画像が歪みます。静止した対象物を撮影するなら解像度の割に安価なことから、ローリングシャッターのカメラを選択する方が合理的といえます。
一方のグローバルシャッターは、センサー素子のすべてのラインで同時に露光を開始して同時に終了する方式です。ベルトコンベアで流れてくる製品を撮像するような場合は、グローバルシャッターが適しています。
静止した製品を撮像するならローリングシャッターのカメラ、動きのある製品を撮像するならグローバルシャッターを選ぶといいでしょう。
フレームレート
フレームレートは「1秒間に撮像する回数」のことであり、「fps」という単位で表します。10fps前後から300fpsを超える製品まで幅広くあります。
例えば、10fpsなら1秒間に10回の撮像が可能なカメラということです。外観検査はライン上で流れる製品を撮像することが多いので、重要な要素といえます。
生産ラインのスピード、1つの対象物に対して何回の撮像を行うかなどを考慮してカメラを選択します。
インターフェース
インターフェースは、ケーブルの規格のことです。
カメラで撮像した画像は画像処理装置やPCに送信されますが、その2つを繋ぐケーブルには規格が存在します。カメラからのデータは解像度やfpsが高いほど大量になりますが、スムーズに連携するにはインターフェースが重要です。
インターフェースには、以下のような種類があります。
- Camera Link
- CoaXpress
- GigE
- USB3.0
インターフェースには、ケーブルの長さや転送速度、価格などに違いがあることから、カメラを設置する環境や予算から最適なものを選ぶ必要があります。
外観検査にカメラを用いるメリット・デメリット
前章までは、外観検査で使用するカメラについて説明しました。ここでは、そのカメラを用いてどのように検査を行うのか見ていきましょう。
カメラを使用した外観検査の仕組みと流れ
カメラを使用した外観検査では、人間に代わって機械が検査を行います。
人間が外観検査を行うときは目視で検査が行われ、限度見本と比較して脳で判断して良否を判定します。外観検査で使われるカメラは人間の「目」と同じ役割があり、撮像したデータは処理されて「脳」の役割を持つ「画像処理システム」へと送信されます。
送信されたデータは、対象物の位置、形状、寸法、数量などを事前に登録されたデータと照合したうえで合否判定が行われます。
カメラを使用した外観検査のメリット
外観検査にカメラを使用することで、検査効率向上や検査品質の改善などのメリットがあります。
検査の自動化による生産性向上
検査を自動化することで、検査工程に配置されていた作業者を生産工程に回せるようになります。
例えば、検査工程に10人の作業員を配置している場合、自動化によって1人まで削減できれば残りの9人を生産工程に配置することができます。
目視で検査を行う場合、品質上のトラブルなどで不良項目が増えると検査員を増やす必要があり、生産工程の人員は減ってしまいます。生産工程から人員が減ると、さらに品質が悪化する悪循環に陥ってしまうのです。検査の自動化に成功すると、生産工程に重点を置いた配置が可能なうえ、不良項目が増えても生産工程から人員を減らす必要がなくなります。
したがって、生産性を向上させたい製造現場には、カメラを使用した外観検査がおすすめです。
微細なキズ・欠陥の判別による検査品質の改善
外観検査にカメラを使用することで、微細なキズ、異物、欠陥などの判別が可能です。
近年では、特にプリント基板などの電子部品は精密化が進んでいることから、拡大鏡や顕微鏡などを使わないと検査が行えなくなってきています。しかし、カメラも同様に高画質化しているため、目視での検知が難しい製品の不良も捉えることができます。
つまり、カメラの外観検査には品質を改善できるメリットがあるのです。また、微細な検査であってもオフラインではなく生産ラインの稼働中に検査を行うことができるので、前述の生産性向上にもつながります。
カメラで撮像した画像データの保存
外観検査にカメラを使用すると、検査データの保存が可能になります。
検査データは、設計や前工程における不具合の原因を特定する好材料であり、原因を特定することで品質の向上にもつながります。製品の品質が向上すれば不良品が減るので、処分などのコストを削減できます。
したがって、製品の品質向上を目指す製造現場にも、画像データを保存できるカメラを使用した外観検査がおすすめです。
カメラを使用した外観検査のデメリット
カメラを使用した外観検査は、イニシャルコスト(初期費用)がかかってしまいます。導入にあたっては、開発費や設置費のほか、ライン設備の見直しも必要になるからです。
目視検査の場合は設備面の準備が不要なので、その日から検査を開始できるうえにイニシャルコストはほぼ発生しません。ただし、検査員を確保するには人件費の高騰や後継者不足のほか、検査品質のバラツキなどの課題もあります。
カメラを使用した外観検査の導入にはメリットもあればデメリットもあります。また、ひと括りにカメラといってもパーツが違えば性能やコストも大きく変わります。
以上の内容を踏まえたうえで、自社の製品や環境に合ったカメラを選びましょう。
まとめ
製造業において欠かせないのが外観検査です。
しかし、従来の目視検査では課題が多く、長い目で見ると企業にとって利益につながらない可能性もあります。イニシャルコストは発生しますが、自動化を進めていけば現状の課題を解決できるだけでなく将来的な投資にもなるでしょう。
弊社ではAI外観検査ソリューション「AISIA-AD」と検査機、カメラ、照明といった機器との組み合わせにより、外観検査の省人化や検査精度の向上をサポートしています。
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