以前から日本のものづくりは高い品質で世に知られてきました。その品質を実現しているのは、製造過程における技術力に加えて、製品が市場に流通する前に行われる徹底した品質検査です。必ず行われる検査の代表例が外観検査ですが、目視による外観検査は課題が多く、近年は検査の自動化が進んでいます。
本記事では、外観検査の自動化のメリットや手法、成功のポイントを中心にご説明します。これから外観検査の自動化に着手する場合は、ぜひ最後までご覧ください。
外観検査とは
外観検査の自動化とは、製造された製品や部品の外観検査を、人の目による検査(目視検査)からシステムや機械での検査に置き換えることです。
外観検査では主に、製品や部品の表面の傷やシミ、異物の混入や、変形といった外観の欠陥をチェックして製品としての良否を判断します。視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚の五感を使った官能検査のひとつとして、従来は検査員が自らの目で見て判断する目視検査が主流でした。
外観検査については、以下の記事でも詳しく解説しています。併せてご覧ください。
外観検査とは?目的や発見可能な不良など徹底解説
外観検査の目的
外観検査の目的は不良品の流出を防ぐことです。当然ながら不良品が流出すると使用したユーザーに何かしらの不都合が生じます。場合によっては企業の信頼を大きく失墜させ、損害賠償などを求められることもあります。
このようなことから、外観検査の目的は不良品の流出防止だけと考えがちですが、本来の目的は不良発生の原因を突き止めることです。不良の発生を未然に防ぎ、生産効率や品質の改善につなげることが必要なのです。
そのため、外観検査の工程で発見した不良の種類と発生原因をデータで検証し、関連部門へフィードバックすることも検査の重要な役割です。そして、不良品が発生しないように工程の改善と体制づくりを図ります。
関連記事:製造現場で発生する不良品は?画像を活用した検知システムの種類と有用性を解説!
外観検査の種類
一言で外観検査といってもいくつかの種類があります。外観検査の種類は以下をご覧ください。
- インライン検査
- オフライン検査
- 抜き取り検査
- 全数検査
インライン検査は生産ラインのなかで外観検査を行う方法です。生産ラインを止めずにスピーディな検査ができますが、検査員が目視で行う場合は人件費、検査機を導入して自動化する際は設備費がかかります。
オフライン検査は生産ラインから外れて検査をするため、じっくりと精密な検査ができます。ただし、時間やコストがかかるため後述する全数検査の際は向きません。
抜き取り検査は一部のサンプルを抜き取って検査する方法です。時間やコストをおさえることができますが、抜き取る量や回数の調整が必要となります。また、検査の対象外となった製品のなかに不良品があった場合に検知できない点がデメリットです。
全数検査は生産されたすべての製品を検査します。不良品を限りなくゼロにおさえられる反面、多大な時間や人件費がかかるため、生産量が多い場合は向かない検査方法です。
外観検査の種類は以下の記事でも解説しています。併せてご覧ください。
外観検査とは?目的や発見可能な不良など徹底解説
目視検査の課題とは?外観検査を自動化する目的
検査員の目視による検査は、人の目で行うため特別な設備を必要とせず、イニシャルコストやランニングコストをおさえることができます。また、熟練の検査員になると高精度で柔軟な不良品の判定が可能になります。
しかし、目視検査には以下の課題があります。
- 検査員の人手不足
- 検査員の教育の難しさ
- 検査員のスキルや体調などによる検査精度のばらつき
少子高齢化による労働人口の減少に伴い、検査員の人手不足が大きな課題となっています。
また、検査員として人材が確保できたとしても熟練度を向上させるには一定期間の実務経験や教育が必要です。しかし、熟練度の高い検査員が教育にあたることが多いため、新たに検査員を育てる間にも現場の人手が足りない状況が更にひっ迫してしまうことになります。
さらに、検査精度のばらつきも検査員が実施する目視検査だからこその課題といえます。検査員それぞれが持つスキルレベルは異なるうえに、熟練度の高い検査員であっても体調などによっては検査精度を保てないことがあります。常に同じコンディションで検査を行うのは、ほとんど不可能なため、検査品質をいかに安定させるかは重要な課題です。
このような目視検査の課題を背景に、システムによる自動化が重要視されています。
なお、目視検査については以下の記事でも解説しています。併せてご覧ください。
目視検査の作業方法や内容は?よくある課題とその解決策についても解説
外観検査を自動化するメリット
目視検査におけるさまざまな課題についてご紹介しましたが、その課題に対処する方法として検査機やAIを使った「外観検査の自動化」が近年注目を集めています。主なメリットは以下のとおりです。
高精度な検査を実現できる
外観検査に使われる検査機はプログラムされた基準に沿って作業を行うため、不良がある製品をほぼ確実に検知できるため、検査員による目視検査よりも高精度かつ一定品質で検査を行えます。検査精度が向上することで不良品が市場に出回る確率が減り、取引先や消費者からの信頼向上につながります。
検査工程の人手不足を解消できる
検査を自動化すると検査員を確保する必要がなくなるため、人手不足を解消できます。人手不足が年々深刻化する製造現場では、検査の人員不足をほかの製造ラインの人員で補うケースも少なくありません。作業員の負担が増加するだけでなく、製造や検査の品質を低下させかねない問題となっています。外観検査を自動化することで検査員の負担を軽減して検査工程の人手不足を解消するだけでなく、検査で不要になった人員をほかの工程にあてることで生産ライン全体の効率性向上も図れる点は大きなメリットです。
検査員の育成コストを削減できる
前述のとおり、検査員の熟練度を向上させるための教育には時間とコストがかかります。検査を自動化することで必要な検査員の人数が減り、検査員の教育コストも大幅に削減できます。
検査時間を短縮できる
検査機を導入することによって、検査時間が短縮されます。自動化したからといって人間が行う作業が完全になくなるわけではありませんが、それでも従来より大幅に作業時間を短縮できます。また、目視検査で発生するヒューマンエラーとそれに伴う再検査やトラブル対応の負担が低減されます。自動化によって作業時間が短縮された分をほかの業務に時間を費やすことで、全体の生産性向上につながるでしょう。
データを確保できる
検査機を活用することによって、検査結果のデータをより効率的に蓄積・保管することができます。不良の発生を繰り返さないためには、不良が発生した原因を分析して対策を講じる必要があります。その際には正確で詳細な検査データが必要です。外観検査の自動化は、データの蓄積や共有、活用のしやすさにもメリットがあります。
コストカットにつながる
外観検査を自動化する場合、莫大な設備投資が必要になるというイメージをお持ちの方も多いでしょう。導入する設備によっては、初期投資の金額がかさむこともあります。しかし、目視検査にかかる人件費などのコストと比べると、多くの場合ランニングコストを削減できます。外観検査の自動化は、人件費の削減や作業効率の向上などによって、総合的なコストカットにつながります。コストを抑えて良質な製品が製造することで、マーケットにおいても優位性を保てるでしょう。
外観検査自動化の手法
続いて、自動化の具体的な手法について詳しくご紹介します。
検査機を使った外観検査では、以下のような工程を踏みます。
- ワークを証明で照らす
- カメラでワークを撮像する
- 撮像データを画像処理装置に送り、異常があるか判定する
- 不良品が発生した場合は対応を行う
このうち、不良品が発生した場合の対応方法については以下のように分かれます。
- 不良品を検査員が確認する
- 不良品を機械が対応する
- 不良品を自動搬出する
まず1つめは、検査装置で不良品が発生したときに検査員が確認・対応する方法です。画像処理装置が不良品を識別すると警報を発し、警報が鳴ったら待機している検査員がエラーの内容を確認します。不良品は仮置き場に置いてから製造ラインを再開させるという流れです。警報に対応できる検査員が確保できるならば、この方法で取り組むといいでしょう。
次に、機械(ロボット)に不良品の対応をさせる方法があります。画像処理装置が不良を発見するとロボットに不良品を不良品を取り除く指令を出して、ロボットが不良品を仮置き場に置く流れです。この方法では製造ラインを停止させずに済みますが、ロボットが対応するスピードに合わせて製造ラインの速度を調整する必要があります。
3つめの手法として、不良品を自動搬出する方法があります。画像処理装置が不良品を見つけると、不良品をNGラインに送るために、製造ラインコントローラーに対し製造ラインを切り替える指令を出します。製造ラインが切り替わると不良品がNGラインに送られます。良品はそのままOKラインで流れていくため、製造ラインを停止させる必要がありません。
なお、近年ではAIを使った外観検査システムの普及も進んでいます。AIは手本となるデータをもとに傷や形の不具合などについて自動的に学習できるため、不良品判定の基準を設定・調節する手間を大幅に減らすことができます。また、もともと個体差のある製品の複雑な検査にも対応可能です。
AIを活用することで、より柔軟で高精度な検査が実現できるでしょう。
外観検査自動化に用いる装置
外観検査を自動化するためには、新しいハードウェアとソフトウェアの導入が必要です。ソフトウェアは依頼する会社がどのような製品を開発しているかによりますので、事前の比較検討が大切です。一方、ハードウェアは外観検査を実施する対象製品の特徴に応じて、都度適切なものを選ぶ必要があります。また、両方を兼ね備えたシステムとして提供するパターンもあります。
<外観検査装置の一例>
この外観検査装置は、ラインを流れるワッシャーとスポンジを検査するためのものであり、カメラ、レンズ、リングライトに加えてコンピューターと接続するためのUSBで構成されています。細かく言えば、外観検査装置を設置するための土台もハードウェアに含まれるので、それぞれが検査に合致したものでなくてはいけません。ちなみにこの外観検査装置は、下図のように動画ベースで検査を実施しています。
このように、システムをどう構成するかによってどんな検査が実施できるかが変わります。外観検査自動化の導入を依頼する取引先としっかり協議を重ね、支援をあおいだ上で適切な外観検査の環境を整えることを目指しましょう。
外観検査を自動化するポイント
外観検査の自動化はいくつかの手法がありますが、導入のポイントは共通しています。ここでは外観検査を自動化するポイントを3点ご紹介します。
自社の検査の課題を定義する
まずは自社の検査の課題を定義しましょう。検査の課題が抽出できていないと、具体的な導入方法が定められず、いざ稼働しても期待する効果は得られません。外観検査の自動化には半年以上の時間がかかるケースが多く、スムーズな導入のためにも課題の定義は非常に重要です。
自社の検査の課題を定義する際は、まず以下の点について現状を振り返ってみてください。
- 生産数に対して検査能力が十分か
- そもそも検査員が足りているか
- 求められる品質に検査員の能力が適応しているか
- 検査員によって検査精度にばらつきがないか
- 検査記録などのデータを電子化できているか
- 不良品の原因解明を的確・効率的に行えているか
これらについて振り返ることで、現状の課題点がより明確に可視化され、外観検査の自動化をよりスムーズに進められるでしょう。
自動化する範囲を決める
課題を定義したら検査で自動化する範囲を決めます。ここでポイントになるのは、すべての工程を自動化しようとしないことです。全工程を自動化するとなれば、莫大なコストと時間がかかります。
検査システムにも得意・不得意があり、不得意な検査を行う場合は高いスペックが要求され、コストが増加します。検査システムは、「微小な欠陥の検出」や「高速な検査」は得意ですが、「細いキズの検出」や「ホコリなど欠陥でないものの判別」が苦手です。キズ以外の欠陥を検査システムで検査して、キズは人間の目で目視検査するなど、より高い生産効率を実現できるよう、機械と人間の対応範囲を明確にしましょう。
適切なシステム・レンズ・照明を選ぶ
課題と自動化する範囲を踏まえて、検査システムを選定します。近年ではAIを搭載した外観検査装置も多く登場していますので、検査対象にマッチしたシステムを選ぶことが重要です。また、レンズや照明選びも非常に重要です。
高精度かつ安定した外観検査を行うには、「ピントが合っていること」「対象物が大きく映っていること」「明るい画像が撮れること」が求められます。検査する製品や部品に合ったレンズや照明を使わないと、上手く画像処理できないのです。
レンズ選びのポイント
安定した検査を求めるのであれば、2つのポイントが重要です。
- 焦点距離
- 被写界深度
焦点距離とは、レンズの中心点である「主点」から撮像素子(※)までの距離のことです。
工業用レンズでは、主に8mm/16mm/25mm/50mmといったレンズがあります。
被写界深度とは、被写体にピントを合わせたときにその前後のピントが合っているように見える範囲のことです。つまり「ピントの合う高さ」です。
焦点距離が短いレンズほど深度が深くなることから、被写体の前や奥がぼやけなくなります。また、対象物までの距離が遠くなるほど深度の範囲は深くなり、絞りを絞っている状態であるほど深度の範囲は深くなります。
高低差のある製品の外観検査を行う際は、接写リングやマクロレンズを使わずに対象物の距離が遠くなるレンズと明るい照明を使った方がピントが合いやすくなるのです。
※ 撮像素子:被写体の光を画像データに変換する部品のこと
関連記事:外観検査に適したカメラとは?
照明選びのポイント
ピントの合った画像の撮像には、照明を均一に明るくすることが不可欠です。同時に、検出する製品の形状や材質、検査内容によって照明を選ぶ必要があります。
製品や検査の種類 |
最適な照明 |
---|---|
金属表面の刻印有無検査 |
正反射タイプのLED照明 |
透明テープ越しのチップ印字検査 |
拡散反射タイプのLED照明 |
リード端子の寸法測定 |
透過タイプのLED照明 |
金属表面の凹凸を検出する場合は正反射タイプのLED照明を使うことで、刻印のエッジが際立ちます。
透明テープ越しの印字検査では、透明の映り込みが起こりやすい点が問題です。斜めから反射する拡散反射タイプのLEDにすることで、フィルムに照明が映り込まずに印字を撮像できます。
リード端子の寸法測定では、対象物の輪郭をシャープに映すことができる透過タイプのLED照明を選ぶことで、正確な寸法の計測が可能です。
関連記事:なぜ外観検査では特殊な照明を使うのか
導入後も継続的なメンテナンスを行う
外観検査の自動化は稼働を開始してからが本格的なスタートです。装置や機械には継続的なメンテナンスが必要です。定期的なメンテナンスを怠ると、検査システムや照明、カメラに不具合が生じる可能性が高まります。一連の設備に不具合が生じると検査が滞り、納期にも影響が出るでしょう。また、システムを継続的に運用するためにはパラメータの修正など、常に新たな学習を続けることも重要です。
長期的に一定の精度で検査を行うためにも、定期的なメンテナンスは運用において重要なポイントです。
まとめ
外観検査は製品の外側に不良がないかを確認する検査です。外観検査にはいくつかの方法がありますが、従来は検査員よる目視検査が一般的でした。しかし、人手不足や検査の複雑化などによって目視検査の実施が難しいケースもあります。そこで近年、検査装置を導入して外観検査を自動化する企業が増えています。ただし、自動検査装置を導入しても必ず検査の効率化が成功するわけではありません。検査精度が思うように上がらず、期待通りの成果が得られないと悩む現場も多くないのです。
そこで注目を集めているのが、AIを活用した外観検査の自動化です。高精度の検査を実現するためにも、興味のある方はぜひこちらの資料をご覧ください。
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