単一サーバーに依存したシステムでは、障害が発生するとシステムが停止してサービスを提供できなくなり、顧客からの信頼を失うリスクがあります。こうした問題を解決する技術として注目されているのが「クラスタリング」です。本記事では、クラスタリングの基本的な仕組みやメリット、関連する技術について解説します。
クラスタリングの概要
最初にクラスタリングがどのような目的で使われるのか、どのような種類があるのかなど基本的な情報を解説します。
クラスタリングの目的
「クラスタリング」とは、複数のサーバーやノードを連携させて冗長性や高可用性を提供し、システム全体の処理性能やスケーラビリティを向上させる技術のことです。主にビッグデータの集計やECサイトのような大規模なサービスや業務システムにおいて、トラフィックが急増する場面でも安定稼働を実現し広く利用されています。
クラスタリングの種類
データベースのクラスタリングの代表例として「アクティブ-アクティブ(Active-Active)」と「アクティブ-スタンバイ(Active-Standby)」の2つが挙げられます。アクティブ-アクティブは複数のノードが同時に処理を行い、負荷分散と障害対応を兼ね備えます。この動作を行うにはデータの整合性を保つために、特別な同期メカニズムが必要です。
一方、アクティブ-スタンバイは、通常は1台のノードが稼働し、もう1台が待機する構成です。障害が発生し稼働ノードが停止した場合、フェイルオーバーにより待機ノードが稼働ノードに切り替わります。これにより、サービス停止時間を最小限に抑えられます。
クラスタウェアの例
クラスタリングを構築・管理するためのソフトウェアを「クラスタウェア」と呼びます。
代表的なものに、アクティブ-アクティブ構成では「Oracle Real Application Clusters(RAC)」があります。RACはノード間通信(キャッシュフュージョン)機能により、データの整合性を保ち複数ノード間の同時処理を実現します。
アクティブ-スタンバイ(Active-Standby)構成の代表的なソフトウェアには「Pacemaker」や「Corosync」があり、クラスタのノード間での通信や障害検知、フェイルオーバーの際に重要な役割を果たします。これらのツールは、クラスタリングシステムの可用性を高めるために不可欠なコンポーネントです。
また、最近では「Kubernetes」などコンテナオーケストレーション環境(複数のコンテナを自動的に管理・配備する仕組み)と組み合わせたクラスタ構築も進んでおり、データベースだけでなくアプリケーション層全体を含めた高可用性基盤として活用されています。
クラスタリングのメリットと課題
データベースクラスタリングを導入することで得られるメリットは「高可用性」「負荷分散」「拡張性」の3つです。これらは単一構成のデータベースでは実現が難しく、大規模サービスや24時間365日稼働が求められるシステムでは必須ともいえる要素です。詳しく見ていきましょう。
高可用性
クラスタリングは可用性を大きく高め、高可用性(HA:High Availability)を実現します。単一サーバーでは、ハードウェア障害やOSトラブルが発生するとサービスは停止し、復旧まで長時間を要することがあります。しかしクラスタリングでは複数のノードが連携して動作し、一部ノードに障害が起きても残りのノードが処理を引き継ぐ仕組みを備えています。これによりサービスダウンを回避し、ユーザーへの影響を最小限に抑えることが可能です。
特に金融、医療など、24時間のサービス稼働が求められる業界においては、この高可用性の実現は重要になります。
負荷分散
アクセス数が多いサービスでは、一台のサーバーにリクエストが集中すると応答速度が低下し、場合によってはサービス停止に追い込まれることもあります。「アクティブ-アクティブ(Active-Active)」構成のクラスタリングでは、複数のノードにクエリを分散して処理させるため、一台あたりの負荷を大幅に軽減できます。これにより処理速度が安定し、突発的なアクセス増加にも耐えられる体制が整います。
拡張性
ビジネスの成長に伴い、扱うデータ量やアクセス数は増加していきます。単一サーバーの構成では、性能の限界に達した場合、システム全体のリプレースを検討せざるを得ないケースもあります。一方でクラスタリングを採用していれば、新たなノードを追加するだけで処理能力を段階的にスケールアウトできます。これにより初期投資を抑えつつ、将来の需要に柔軟に対応することが可能です。特にクラウドとの組み合わせでは、短期間でリソースを増減できる柔軟なスケーリングが大きな魅力です。
デメリット
このように、クラスタリングには高可用性や負荷分散、拡張性といったメリットが得られます。しかし、導入にあたってはコストや運用管理の複雑さが増すといったデメリットもあります。例えばアクティブ-スタンバイでは複数ノード分のコストがかかりますが、稼働ノードは1台です。またフェイルオーバーなどの切り替えタイミングの検討も必要です。クラスタリングの導入では、これらの要素を考慮することが重要です。
クラスタリングに関連する技術
クラスタリングの構成を利用し、関連する技術を組み合わせることでシステムの性能を高める事が可能です。代表的な技術として「レプリケーション」と「シャーディング」が挙げられます。
レプリケーション
レプリケーションとは、あるデータベースの内容を別のデータベースに複製し、同じデータを複数の場所で保持する仕組みです。これにより、一方のノードに障害が発生しても、もう一方からデータを読み出すことでサービスの継続が可能となります。例えば、東京にメインとなるデータベースを配置し、大阪にデータをレプリケーション(複製)すれば、BCP対策として活用できます。
またレプリケーションは、読み取り専用の問い合わせをレプリカサーバーに分散させることで、本来のマスターデータベースへの負荷を軽減し、パフォーマンス向上も期待できます。代表例として、MySQLの「マスター・スレーブ」構成や、PostgreSQLのストリーミングレプリケーションがあります。レプリケーションはクラスタリングと併用されることが多く、特に可用性と障害復旧の観点から重要な技術です。
レプリケーションについては、以下の記事で詳しく解説していますので、合わせてご覧ください。
https://products.sint.co.jp/siob/blog/replication
シャーディング
シャーディングは、大量のデータを複数のデータベースサーバーに分割して格納する技術です。これにより水平方向のスケーラビリティが実現します(ただし、クラスタリングとは目的が異なり、主にスケーラビリティ向上を目的とした技術)。
通常、ユーザーIDや地域コードなど特定のキーに基づきデータを分散することで、一つのサーバーあたりのデータ量を減らして負荷分散を実現します。これにより、データベースの水平方向へのスケーラビリティ(スケールアウト)が実現でき、大規模サービスでもスムーズに動作可能です。
例えば、ソーシャルネットワークやECサイトのようにユーザー数が爆発的に増えるサービスでは、データベースの性能限界をすぐに迎えてしまうことも多いため、クラスタリングとシャーディングを併用することで長期的な拡張性を確保できます。
しかし、データの分割方法(シャーディングキー)の選定や分散環境での一貫性管理が重要な課題です。適切にデータを分割できないと、設計や運用が複雑化したり、パフォーマンスの低下を招いたりする恐れがあります。
シャーディングについては、以下の記事で詳しく解説しています。こちらも合わせてご覧ください。
https://products.sint.co.jp/siob/blog/sharding
まとめ
データベースのクラスタリングは、単一サーバー構成では実現できない高可用性、負荷分散、拡張性を実現するために欠かせない技術です。
また、レプリケーションやシャーディングといった関連技術を組み合わせることで、より強固で柔軟なシステム基盤を構築できます。これからデータベース基盤を検討する際には、単なる性能強化だけでなく、将来的な事業成長やBCPを見据えてクラスタリングの導入を検討するとよいでしょう。
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