生産工程では、今まで検品や検査などの作業を人間が目で行ってきましたが、昨今のAIなどの技術進歩により、これらの緻密で繊細な作業もシステムで自動化することができるようになってきています。このようなシステム化は、検品や検査業務の平準化・省人化を強力に推進します。
外観検査業務にAIを活用
AIを活用して外観検査をシステム化するには多くの業務、システム、環境要件(以下まとめて「要件」といいます)を整理する必要があります。そしてAIにも得意なこと、不得意なことがありますので、うまくAIを活用していくためにも、業務とAIの両方をしっかり理解して、それぞれの特徴や要件を整理してあげる必要があります。これらの理解や整理が不十分だと、そもそもAIの導入という手段が目的化してしまったり、AIに過剰な期待をしたまま運用が始まり想定以上の効果が出ないままシステム化が中断することもあり得ます。
弊社では多くのお客様からAIによる外観検査システムのご相談をいただく中で、このような要件整理をお手伝いしています。そこで、弊社が整理するときに利用しているフレームワークを簡単にご紹介します。
AIによる外観検査システム化で考えておくこと
AI Design Canvas(5W3H) | |
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How(どのように) | |
Where(どこで) | How Many(いくつ) |
Who(誰が、誰を) | What(何を) |
Why(なぜ、どうして) | |
When(いつ、いつまでに) | How Much(いくらで) |
AIを活用した外観検査システムを検討していく中で、目的、必要な情報、手段、予算、スケジュールを整理、決定しておく必要があります。
- AIを必要とする現状→課題と期待する導入効果(優先度・重量度別)
- AIによる外観システムが必要とする画像情報の取得方法、取得場所、情報量
- AIの目的実現手段に関する条件(処理・精度・速度)
- 機材や環境整備も含めて想定している予算
- いつまでにAIによる外観システムを導入したいかのスケジュール
AIによる外観検査システム導入の要件整理
1.Why(目的
ご存知とは思いますが、これが最も重要な項目です。企業は何かしらの目的をもって多額の「投資」を行いますので、そのお金を何のために使うのか明確にすることが重要です。実現しようとする目的によってAIが適しているのか?AI以外の技術を採用した方がいいのか?など選択肢が変わってきます。
例)品質を向上させたい(検査判断の平準化)
例)検査工数を削減してコストをさげたい(省人化)
例)生産量を向上させたい(自動化・平準化)
など、さまざまな目的がありますが、
例えば、「自動化」を目的に掲げた場合は、検査部分だけの自動化なのか、検査後の仕分けまで自動化していくのか、AIの守備範囲以外の課題解決が必要になることもあります。
2.Who(作業者(誰の作業))
誰の業務をAIに任せることで先ほど定義したWhy(目的)を実現できるのでしょうか。
AIは画像の特徴を大量に学習していくことや、大量のデータから特徴を抽出して分類していくことが得意です。外観検査や数量チェックなどの作業には活用しやすいので、ぜひ検討してみてください。
例)ラインで流れてきた製品の外観チェックし異常品を除去している
例)ピッキングしたものと出荷指示書を突合して確認している
3.What(何を)
目的と人が決まったら対象のモノやコトを定義します。目的の達成(投資)には投資対効果が求められます。
以下のような特徴を持つ製品では、AIの導入で投資対効果が出やすいと考えられます。
製品の特徴
- 売上規模が大きい
- 大量に製造している
- 製品の規格変更が少ない
- 形状が比較的シンプル
- 検査対象面が少ない
システム化によるメリット
- 稼働時間の延長による生産量向上
- 検査業務の省人化 (人による検査工数の削減)
- 品質管理の平準化(属人的な検査判断の平準化)
例)主力製品A (検査工程のシステム化により検査員を2名削減)
4. Where(どこで、環境)
「目的」を達成するために「誰」「何」の対象が整理されましたので、システムを導入する場所「どこで(環境)」を整理します。
例)国内1拠点に試作機で導入。最終的には海外3拠点で展開
例)国内3拠点に導入。外部ネットワークの仕組みはセキュリティ上NG
外観検査をシステム化するには、カメラや照明、AIを搭載しているEdgeサーバーなどのハードウェアが必要になります。なお、国内、海外のロケーションや工場施設に存在するさまざまな制約事項(敷地面積や湿度やセキュリティ要件など)もあると思いますので事前に洗い出しておく必要があります。
システム化に発生する主な制約事項
- 敷地面積
- ネットワーク(ローカル/インターネット)
- ハードウェア調達・保守ネットワーク
- 湿度や外光や粉塵など環境
5. How(どのように)
段々と具体的になっていきますが、次は制約も含めて「どのように」実現すればよいかを描いていきます。
例)ルールベースの外観検査と搬入用ロボットの導入
例)ルールベースの外観検査とAI外観検査の組み合わせた仕組み
今まで抜き取り検査をしていて異常が発見されると、そこまでの製造分を全数検査していたようなケースでは、外観検査システムで全数検査を自動で行えるようになれば、原則異常品を見逃さない運用で過検知した製品だけを検査員がチェックする方法にすることで、平準化や省人化がある程度達成され投資対効果が見込まれます。
さらなる自動化が目的であれば、製品の搬入から検査、搬出まで、どの工程まで自動化の検討対象か整理して、ライン設備や装置系の開発を含めて投資対効果を狙うことになります。
製造工程の自動化が未着手の場合、人間が行っている目視検査は多岐にわたっているため、自動化する検査(製品の特徴・検査内容・検査面)を整理したうえで、製造工程の自動化手段を試行していくことをおすすめします。
製造工程の自動化への手順
- 製品を特定し、検査項目(製品の特徴・検査項目・検査面など)を定義
- 目標生産量からタクトを決定(装置の制約がきまります)
- 自動化の範囲を決定
- 要件を満たす装置を検証
6. When(スケジュール)
工場はできる限り製造ラインを止めたくありません。そこで設置、テスト、試行、本番稼働など本業に影響が出ないように最終的には細かなスケジュールを定める必要があります。ここではまず、導入までのマスタスケジュール(期限)を定めて実施すべき工程を整理しておきます。
検討からシステム導入までの期間 例
① 検査の適用性を検討(1カ月~1.5カ月)
- 対象製品の決定
- タクト要件
- 検査項目
- 検査レベル
- 検証からシステム化までの概算期間と費用
② AI実証実験(2カ月~3カ月)
③ システム化の要件定義~システム開発(3カ月~)
- 運用要件
- 検査画面要件
- 業務要件 など
④ 導入検証(0.5カ月~1カ月)
⑤ 導入/運用開始
7.How Much(いくらで)
予算範囲に収まる仕組みを調査して、実現性ある提案依頼を行い整理を進めていきますが、投資対効果が見込めるソリューションが見つからない場合は、例えば、「自動化」から「省人化」へ目的を変更する、製品の検査面を減らすなど、優先順位を見直していきます。
AIは学習/検証するデータが多いほど、精度の信ぴょう性を高めることができますが、学習データを蓄積するコストがかかるので、検査のシステム化を実現する際に、パターンマッチやルールベースのほうが適合率や投資対効果が高いことがあります。
また、「来年9月に外観検査システムを導入」と決めた場合、来年度の予算にシステム化を計画しておく必要がありますので、3月決算の会社では毎年12月~翌2月くらいの間に概算費用の見積をベンダーから取得し、予算化しておくことが必要です。特にAIの場合、PoC(実証実験)が必要となるため、システム開発が完了するまでに期間がかかることもありますので、それを見越した予算計上時期の見極めが重要です。
いかがでしたでしょうか?それぞれの項目を整理していくことで、目的を達成するために、必要なことが見えてきましたでしょうか。整理を進めることで、AIによる外観検査が適合しないこともあります。目的を達成するために投資対効果が一番高い手段を選択していくためにも、一旦ゼロベースで整理していきましょう。