デジタルツインとは?仕組みやメリット、活用事例を解説

 2022.12.09  株式会社システムインテグレータ

製品の製造やシステムの構築、特定の環境整備を行う場合、その性能評価や将来予測をするために、通常は実際に現物を作ってみて評価する手法が取られます。現物を評価するため解析精度は高いものの、大きなコストと多くの時間・手間を要するのが難点です。

そこで解析精度を維持しつつ、より合理的な評価環境を構築する手法として、「デジタルツイン」という技術が注目されています。デジタルツインは、現実世界のモノや環境からデータを収集して、デジタル空間上にあたかも双子がいるかのように全く同じ環境を再現する技術概念です。

この記事では、デジタルツインの概要、デジタルツインを活用するメリット、デジタルツインで活用される主な技術などについて解説します。 

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デジタルツインとは

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デジタルツインという言葉が本格的に広まったのは2010年代後半です。まだ歴史は短いですが、多くの業界で注目が集まっています。英語で書くとDigital Twinとなり、直訳するとデジタル空間上に生成された双子という意味を持つ言葉です。ここでは、注目が集まる理由と他の技術との違いを解説します。 

デジタルツインに注目が集まる理由

デジタルツインという技術概念が広がったのは、IoT、AI、VRなどのデジタル技術の発達が影響しているといわれています。これまで、物理空間の情報をデジタル化するには多くの人手とコストを要することから、物理空間を忠実に仮想空間に再現するのは困難とされていました。しかし近年、デジタル技術の発達によって精度の高いデジタル空間をより容易に構築・分析できるようになり、デジタルツインは現実世界における将来の変化を予測できる技術として注目が集まっています。

デジタルツインはさまざまな分野で多くの効果をもたらすと期待されており、特に製造業では大きな効果が期待されているようです。例えば、製品の利用状況をデジタルツインの技術を使って仮想空間にリアルタイムで収集・分析すれば、より具体的な利用状況に基づいた設計や製造の改善が可能となります。 

デジタルツインとシミュレーションの違い

デジタルツインとシミュレーションの違いは主に2点あります。

1つ目は現実空間と仮想空間との連動性です。シミュレーションでは考え得るシナリオを想定の上、仕様を設計して実験を行うため現実空間との連動が難しく、多くの人手を必要とします。一方デジタルツインでは、リアルな現実空間での情報を基にして双方向に情報が行きかうように設計するため、より現実空間に連動した分析が可能です。

2つ目はリアルタイム性の高さです。シミュレーションではコンピューター上で実験して、その結果を基に対策方法や改善方法を導き出します。そのため、実行から結果が出るまでのリードタイムが長く、リアルタイム性に欠けます。デジタルツインでは、リアルな現実空間の情報を仮想空間に連動させ、双方向に情報のやり取りが可能になっています。あくまでシナリオベースで実行するシミュレーションとは違い、実際の情報やデータを利用するためタイムラグのない現実的な分析が可能です。 

デジタルツインとメタバースの違い

デジタルツインとメタバースとでは違いがあります。

1つ目は仮想空間の作り方です。メタバースは仮想世界での出来事を主とするもので、現実世界とは何の関係もない世界であっても問題ありません。一方デジタルツインは、あくまでも現実にある空間を仮想空間に忠実に再現するものであり、現実世界に存在しない事象は仮想空間にも存在しないのです。

2つ目は使用目的で、メタバースは自分の分身であるアバターを使って仮想空間内で人とコミュニケーションをしたり、会議をしたりなど、イベントに参加することが主たる使用目的です。一方デジタルツインは製品の時間経過の検証など、現実世界では実行が難しい状況を仮想空間内で模擬的に検証したり、現実世界へのフィードバックを行ったりするのが主たる使用目的となります。 

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デジタルツインを活用するメリット

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デジタルツインを活用するメリットとして2点挙げられます。1つは「リードタイムの短縮」、もう1つは「品質の向上」です。 

リードタイムの短縮

製造業を例に取ると、従来、製品の製造や開発では試作を何度も繰り返し、設計書の作り直しや生産ラインのプロセス変更、人員変更などを随時整備する必要がありました。デジタルツインでは、現実の世界を再現した仮想空間内で試作のプロセスをさまざまな方法で最適化でき、製品の発案から実際の製品提供までのリードタイムを短縮することが可能です。 

品質向上

デジタルツインでは製品を物理的に試作・検証する前に、仮想空間上で事前に検証を行えます。また、目に見える形で検証が可能なことから、経験者の知見を盛り込んで細かな欠陥を前もって洗い出せるため品質向上に寄与するのです。他にも、コスト削減や物理的な制約からの解放、それに予知保全の実現など多くのメリットがあります。 

デジタルツインで活用される主な技術

Future woman with cyber technology eye panel concept-1

デジタルツインはさまざまなデジタル技術で成り立っています。デジタルツインで活用される主な技術は以下の通りです。 

IoT

IoTとは、Internet of Thingsを略した言葉で、モノのインターネットと呼ばれる通信技術の一つです。IoTを活用することで、あらゆるモノはインターネットに接続して双方向通信が可能となり、あらゆるモノのデータを収集することで高精度な仮想空間の構築・検証ができます。

従来は、インターネットに接続しているものはパソコンやスマートフォンなどの端末が主流でした。しかし近年では、家庭のテレビやスピーカー、エアコン、それに工場の生産設備に備え付けられたカメラやセンサーなど、あらゆるものがインターネットに接続され、データ通信が可能になっています。これらの情報をインターネット経由でデジタルツインに反映することにより、仮想空間上でよりリアルに現実世界を再現することが可能です。 

AI

AIとは、Artificial Intelligenceを略した言葉で、日本語では人工知能と呼ばれる自然言語処理技術の一つです。AIによって、膨大なデータを効率的に分析・予測することもデジタルツインには欠かせない技術となります。

上述したIoTによって現実世界から収集したデータは、画像や文字、音声など、多岐にわたるため、そのまま活用することは困難です。AIは多様なデータを高精度に分析することが可能であることに加え、IoTの発展でデータ量が増えたことによってAIの自己学習機能が働き、より正確な将来予測が可能になりつつあります。関連性が不明瞭なデータでも、AIに機械学習・深層学習(ディープラーニング)させることにより、従来の手法と比べて高度で高精度な分析・予測が可能です。高レベルで迅速な分析を必要とするデジタルツインにとって、AIは非常に有用な技術といえるでしょう。 

5G

5Gとは、2020年の春からサービスが開始された第5世代移動通信システムのことで、それまでのシステムと比べて、大容量のデータを超高速・超低遅延で送受信できる通信技術です。IoT技術で取り込んだ膨大な現実世界のデータをリアルタイムで仮想空間に連携させるためには、5Gのような大容量で高速な通信技術が不可欠になります。特に、高解像度・高精度な画像や動画などのデータをデジタルツイン上でリアルタイムに再現する際は、5Gの高い通信能力は大きな効果を発揮するでしょう。

従来の移動通信システムで起こりがちだった遅延やタイムラグも、5Gであれば問題ありません。5Gには多数で同時に高速接続できる特徴もあり、複数のデータリソースとの高速通信も可能です。今後、デジタルツインで5Gが活用される場面は増えるでしょう。 

AR・VR

仮想空間の情報を現実世界に重ね合わせるAR(拡張現実)や、ヘッドマウントディスプレイなどを使って現実を疑似体験させるVR(仮想現実)も、デジタルツインに欠かせない技術の一つです。

デジタルツインは現実世界を仮想空間の中で再現して分析や予測を行うものであるため、仮想空間でのコンテンツを視覚的に現実世界に伝えられるARやVRの技術は重要な要素といえます。ARは現実世界にデジタル情報や3Dにモデリングされたグラフィックを拡張表示するもので、VRはユーザーが3Dの仮想世界に入り込むものです。

ARやVRを活用することにより、仮想空間で起きた不具合やトラブルの現実味を視覚的に体感でき、物理空間へのリアルなフィードバックが可能になります。 

CAE 

CAEとは、Computer Aided Engineeringを略した言葉で、日本語ではコンピューターの力を借りて製品の開発プロセスを仮想空間で模擬的な検証を事前に行うことを意味します。

試作品を実際に作るとなると材料費や試作用の生産設備など多くのコストを要しますが、CAEを活用すれば仮想空間内で検証ができるため、コストを大幅に削減し、期間も短縮可能です。

CAEの概念は製造業の世界では早くから用いられてきていましたが、多くは製品や生産設備の図面をCAD化して2D上で検証するものでした。時代を経て、コンピューターの性能向上とIoTの発展で多くの情報を取り扱えるようになり、多くの情報を基にして、現実世界に近い3Dモデリングをデジタルツインで構築して現実感のある分析が可能になったのです。CAEはリアルタイムで高度な分析が可能であることから、デジタルツインにとって重要な技術となります。 

CAEについては以下のブログで詳しく解説しています。
CAEとは?基礎知識から導入メリット、活用例をわかりやすく解説

DXにおけるデジタルツインの有用性

Young woman touching future technology social network button

デジタルツインは近年多くの企業で必要性が高まっているDX(デジタルトランスフォーメーション)においても有効な技術です。

現在あらゆる企業が業務の効率化、企業風土の変革、持続可能なビジネスの事業目標達成など、さまざまな改革の切り札としてDXを推進する機運が高まっています。株式会社電通デジタルが2019年に実施した調査によると、すでに日本企業の約7割がDXに着手しており、約1割の企業についてはDXを完了していると報告されています。DXは今後も、日本の産業界に広く浸透していくでしょう。

DXを進める課題として、日々増え続けていく膨大なデータを効果的に活用していくにはどのようにするべきか、という点が挙げられます。IoTで収集したデータをAI・CAEで分析し、AR・VRでフィードバックできるデジタルツインは、ビッグデータを効果的に活用できる技術としてDXと深いつながりがあるといえるでしょう。 

参考:「70%が着手」と本格化進む日本企業のDX成果創出のカギは経営トップのコミットメント- 電通デジタル、日本企業のデジタルトランスフォーメーション調査2019年版を発表 -

デジタルツインの活用事例

ここでは、デジタルツインを実際に活用して効果が出た事例を紹介します。 

シンガポール:都市計画の事例

シンガポールではBIM(Building Information Modeling)をベースに、国家全土をデジタルツイン化して都市情報を可視化するバーチャル・シンガポールを展開しています。

これは国立研究財団(NRF)やシンガポール土地局(SLA)、シンガポール政府技術庁(GovTech)など多くの国家機関が関わっている国家的プロジェクトです。シンガポールは狭い国土の中に多くの人口を抱えていることから、活発な都市開発・インフラ整備が行われています。しかしながら、縦割りの行政構造が原因で工事計画が重複するなど、都市計画の無駄・弊害が指摘されていました。また、公共交通網の慢性的な渋滞や建設工事のやり直しなども、都市開発上の課題として指摘されてきた歴史があります。

国土をデジタルツイン化し都市情報を可視化することで、各機関で情報共有できるようにし、国土に整備するインフラの工事計画を最適化する試みがなされているのです。 

参考:バーチャル・シンガポール|Dassault Systèmes 

鹿島建設:遠隔管理システムの事例

建設業界では慢性的な人手不足を背景に、工事管理業務の生産性向上が急務とされており、デジタルツインによる建設現場における管理業務の自動化・省力化が急がれています。鹿島建設では、デジタルツイン技術を活用して、3次元の建設現場の遠隔管理システム「3D K-Field」を開発し、パブリッククラウド上に構築しました。

3D K-Fieldでは、IoTを利用して資機材や作業員の位置データや稼働データを建造物の3D図面データと組み合わせてパソコンの画面に表示できます。これによって、資機材の稼働状況や作業員の現在地などの全体像を、オフィスにいながら把握できるようになりました。工事管理責任者は遠隔で現場の状況をその場にいるかのように確認でき、現場管理の業務負担が軽減され、資機材の運用管理に伴う手間が減ったのです。 

参考:リアルタイム現場管理システム「3D K-Field」をスマートシティに初適用|鹿島建設株式会社 

ゼネラル・エレクトリック:エンジンメンテナンスの事例

ゼネラル・エレクトリック(略称GE)はアメリカ合衆国を主な拠点とする多国籍コングロマリット企業で、世界最大の総合電機機器メーカーです。その中で航空機エンジンの製造を手がけるGEアビエーションは、エンジンに取り付けたセンサーからの情報を基に、エンジンのデジタルツインを同社が提供するクラウド上に構築しました。これにより個々のエンジンの状況をリアルタイムで把握できるようになり、従来は統計から推測していたエンジンの状況を可視化し、管理・把握できるようになったのです。

その結果、航空機を運用している最中の故障や、上空を飛行している最中の事故などのトラブルを事前に回避可能になりました。デジタルツインで作成されたモデルは、1フライトごとに大量のデータを収集して精度向上に役立てられています。 

参考:GEアビエーション(航空)|GENERAL ELECTRIC 

バックオフィス業務改善ならシステムインテグレータ

多くの企業で人手不足が大きな課題となっていますが、バックオフィス業務にはいまだに属人化した作業やアナログ業務が残っており、企業の成長と発展を阻む大きな壁となっています。
バックオフィスの業務プロセスを最適化することで、コスト削減や属人化の防止だけでなく企業全体の生産性向上にもつながります。
当社はERPをはじめとする情報システムの豊富な導入実績をもとに、お客様一人ひとりのニーズに合わせた最適な改善策を提案します。業務の洗い出しや問題点の整理など、導入前の課題整理からお手伝いさせていただきます。
バックオフィス業務にお悩みをお持ちの方は、お気軽に株式会社システムインテグレータまでご連絡ください。

まとめ

マーケットリサーチを手がけるBCC Research社が2022年2月に発表した資料によると、デジタルツインの世界市場規模は2020年では75億3000万ドルだったと報告されています。また、2026年には460億8000万ドルにのぼり、59%の年平均成長率で推移すると予測されています。

日本国内でも同様の市場規模と成長率が見込まれており、デジタルツインがデジタル社会の市民権を得るのもそう遠くないでしょう。デジタルツインの導入に積極的なのは製造業が中心ですが、製品の開発プロセスだけでなく建設業、都市開発、医療現場などでも導入が進んでいます。現在の状況は、経営戦略やオペレーション戦略において、デジタルツインを活用して変革を実現する好機です。 

デジタルツインの活用によるDXのさらなる推進について、製造業をテーマとし、「製造業DX推進の3つのステップとDX成功の4つのポイント」と題した資料をご用意しました。参考として、ぜひご覧ください。

製造業DX推進の3つのステップとDX成功の4つのポイント

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