店舗の分析をECサイト等の改善に活かすためには?

 2018.01.17  佐藤 嘉彦

米国Macy'sがオムニチャネル企業を目指すと宣言してから早幾年。オムニチャネルに対するアプローチは企業によって様々ですが、対応のポイントはリアル店舗とECで相乗効果を出すこと、と考える企業が多いのではないでしょうか。

店舗受取や、ECの受注に対して店舗在庫を引当てて店舗から発送する仕組みなどを導入する企業も増えてきています。

これはあくまでも私個人の抱いている印象ではありますが、各社のオムニチャネルの取り組みについて振り返ってみると、デジタルのチャネルが起点でその後にアナログのチャネルが着いてくるような、そんな印象があります。

なので今回はアナログ、実店舗を起点にデジタルチャネルを改善するような取り組みについて考えていきたいと思います。

 

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店舗分析の現状

これも根拠は私の肌感覚だけになるのですが、未だに店舗の分析に活用出来るデジタルデータはPOSシステムのデータのみという店舗が大多数ではないでしょうか。

少し極端な話になりますが、ECサイトの改善を命じられたWEBマーケターがいたとして、改善に使えるデータは受注データだけだと言われたら、そのWEBマーケターはまるで目隠しされたように感じることでしょう。

WEBの世界では当たり前で行われているアクセス分析とそのデータに基づく改善が出来ていないのがアナログ店舗の実情と言えます。

 

一方、来店者数をカウントする仕組みや、beaconやカメラを使って店舗内の顧客の流れを計測する仕組みは、決して真新しいものではないですし、一部企業では以前から取り組んでいる分析でもあります。

そこまで導入が進んでいない背景としては、分析する仕組みを導入しても分析した結果をもって改善につなげる事の出来る人材が不足していることや、そういった人材が社内にいないが故に導入の費用対効果について判断がつかないといったことがあるのではと思います。

難しい判断にはなりますが、アクセス分析ツールの入っていないECサイトが考えられないように、IoTの普及も止められないので、店舗に分析の仕組みが導入する流れは止められないと言えるでしょうから、如何に活用を進めるか今後の競争を勝ち抜く肝と言えるでしょう。

 

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店舗分析の仕組み

例えば近年ではAIを活用した店舗分析の仕組みも登場しています。株式会社ABEJAが提供するABEJA Platform for Retailは、ディープラーニングを活用した画像解析技術によって、来店者の数だけでなく、年齢・性別を高度に判別することができるツールです。

 

ABEJA Platform for Retail

(出典:https://service.abeja.asia/)

来店者数や店内の回遊状況、顧客属性といった店舗データと、POSやシフト、天気といった既存データを組み合わせることで、データに基づいて店舗の課題を見つけ出し、店舗が取るべき施策を導き出す、といったデータドリブンな店舗の改善が行うこと可能になります。

また店舗で得られるデータは店内のディスプレイや従業員の動きを最適化する為に役立つだけでなく、製品戦略やプロダクトマーケティングにとっても重要な示唆を含んでいると言えます。

シリコンバレーの中心地であるパロアルトに店舗を構える「b8ta」では、店内にディスプレイされている商品を、どれくらいの人が立ち止まって見ているか、どれくらいの時間見ているか、などのデータを商品のベンダーに提供することをビジネスとしています。クールなガジェットを販売するだけでなく、ベンダーのマーケティング支援をも担っている格好ですね。

b8ta Austin interior.jpg

(出典:https://b8ta.com/)

 

そのモデルは「リアル店舗のCPC広告」と評されることもあるようです。ウェブサイトに表示された広告がクリックされると広告主に広告料が請求されるCPC広告の仕組みと、来店した顧客が商品の前に立ち止まると顧客がどのような行動を取ったかを計測し、そのデータをベンダーに提供するb8taのモデルが似ているからです。

b8taでは主にデジタルガジェットが中心に陳列されているようですが、同様の取り組みはアパレルでも恐らく役に立つでしょう。どのディスプレイが顧客を惹き付けるのかを可視化することは商品開発に大きく役立つと考えられますね。

これまで、店舗の担当者と同様に情報が不十分であったメーカーも、店舗での顧客行動を可視化することで得られるインサイトを活用していくという流れは加速していくでしょう。

 

繰り返しになりますが、何がどれくらい売れたかだけでECサイトを改善しろというリクエストに、Webマーケターはまるで目隠しをされたと感じるように、店舗でのカスタマーエクスペリエンスの改善や商品の改善にはPOSシステムのデータだけでは不十分と言えます。

Googleアナリティクスなどのアクセス分析ツールを入れていないECサイトが考えられないことと同様に、実店舗に来店者の行動を理解するための仕組みが入っていないことが考えられないという未来は、すぐそこに来ていると言えるでしょう。 [RELATED_POSTS]

 

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店舗で得られたインサイトをどう活用するか

店舗をデジタルに分析しようにする取り組みにフォーカスすると、それはオムニチャネルへの対応というよりはデジタルトランスフォーメーションの一環と捉えた方が理解し易いでしょう。

それにより得られた顧客インサイトを活用することを考えると、カスタマージャーニーマップに応じた顧客行動をベースとした打ち手を繰り出していくという、所謂オムニチャネル的なアプローチというよりも、得られたインサイトに対して既存のバリューチェーンのプロセス毎に顧客を満足させるための打ち手を考え、繰り出していく、というアプローチになっていくと考えられます。

これまでのオムニチャネル対応は顧客視点での購入検討プロセスに沿って作られるカスタマージャーニーマップの視座で考えられることが多く、今でもオムニチャネルと聞くとまずカスタマージャーニーマップを連想することが多いでしょう。

カスタマージャーニーマップは顧客の購入プロセスとチャネルとアクションを網羅的に可視化することで、各タッチポイントでの打ち手の抜け漏れがないかをチェックし、強化すべきポイントを明確化していくという仮説思考に基づいたアプローチだと言えます。

一方で分析を行うに充分なデータが手元にある場合、考えられる打ち手はこれまで以上にダイレクトになってきます。

retail-value-chain.png

 

オムニチャネルで得られたデータを使った改善は続いていく

Webサイトで得られたデータはWebサイトの改善にしか使えないわけではないですし、店舗で得られるデータは店舗の改善にしか使えない訳でもありません。

各チャネルで得られたインサイトの活用はチャネルに縛られることはなく、バリューチェーンにおける各プロセスの改善にも役立てることができることは想像に難くありません。

店舗の来店者属性と購入者の属性の差は、店舗ディスプレイの変更だけでなく、仕入の改善にも役立ちますし、商品前の滞在時間はマーケティングにも役立てることができます。

 

店舗のデジタルトランスフォーメーションにより、あらゆるチャネルでの顧客行動をより深く理解することができるようになりつつある今、顧客にこれまで以上に素晴らしいカスタマーエクスペリエンスを提供するためにできることは、顧客とのタッチポイントの改善に留まりません。

店舗だけでなくあらゆるチャネルで得られた顧客インサイトをあらゆるバリューチェーンのプロセスの改善に役立てる「オムニチャネル」は今後も続いていくでしょう。


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