ECサイトにおいてユーザビリティテスト(ユーザーテスト)を実施する理由は、ユーザーインターフェース/UI(画面デザインや使いやすさ)やユーザーエクスペリエンス/UX(ECを通じて得る体験)の「改善箇所を見つけ出すこと」です。
UI及びUXが売上に与える影響は大きく、米国Staples社では表示速度を1秒短縮しただけで年商1,200億円増を達成したと言います。確かに、ECサイトユーザーにとって表示速度は速いほどストレスなく利用できますし直帰もしません。また、画面デザインや使いやすさなど細部までこだわっていると、それだけで利用することに価値を感じます。
本稿では、これからECテストを行おうとしている方に向けて、事前に知っておきたいポイントや効率化の方法についてご紹介します。
ユーザビリティテストの目的=定性的データで判断
多くのECサイトは定量的なデータから現状を判断しています。つまり、訪問者数やコンバージョン率、離脱率や滞在時間などの数字から良し悪しを決め、改善するポイントを見つけています。ごく一般的な方法であり、皆さんの会社が運営しているECサイトでも定量的データを監視することは、日ごろから行っている改善施策ではないでしょうか。
問題点が見つかれば、次に「どう改善するか?」を考えます。しかし、多くのECサイトはここでつまずきます。定量的データはあくまで現状の良し悪しを判断するための材料であり、どうすれば改善されるかまでの答えやヒントは教えてくれません。
では、どうすればいいのか?その答えが「定性的データから改善点を判断し、施策に取り組む」ことです。定性的データというのは単純な数字では表されないデータのことです。たとえば「こんな機能があったらいい」というユーザーの願いや、「この商品表示方法は見づらい」といったユーザーの不満などです。
つまりECサイトにおけるユーザビリティテストにおいては定量的データからの改善策に加えて、定性的データからECサイトの現状を判断し、改善点を見つけ、具体的な改善施策を展開することが重要なのです。定量的データは改善のきかっけや気付きを与えてくれる補助的なデータなので、それですべてが解決できるわけではありません。
ユーザビリティテストの種類
それではECサイトにおけるテストにはどのような方法があるのでしょうか。
リアルでのユーザビリティテスト
モニターと呼ばれる被験者を専用施設に招き、モデレーターと呼ばれる進行役がテストの順路を示し、質問を行います。モデレーターはテスト中にモニターの心情(インサイト)を引き出すという重要な役割を担っており、「なぜその様な行動を取ったか?」「なぜ気に入ったのか?」「何が分かりづらいのか?」などの情報を得ることが重要です。
高度なECテストになると、モニターの視線を追うEYEトラッキングを取り入れてECサイトのどこが見られて、どこが見られていないかなどのデータを収集する場合もあります。
ただし、モデレーターが付き添うことでモニターに心理的負担が働き、自然な行動とは違ったアクションを取ってしまう恐れがあります。モニターをどれだけリラックスさせて、様々な心情を引き出せるかが成功のカギです。
リモートでのユーザビリティテスト
モニターを専門施設に招くのではなく、モニター自身の自宅やカフェなど、リラックスした状態でいられる場所からECテストを実施します。リモート環境でECテストを実施するため、モデレーターによる進行やアイトラッキング等は取り入れられません。
ただし、モニターが心身ともにリラックスした状態でECテストを実行できるので、心理的負担が働かず、普段行っている自然な行動を起こしてくれる可能性が高くなります。
リモートでのECテストは実行時間が短く、素早く情報を引き出せることから頻繁にテストを実施する場合に向いています。また、安価でテストを実施できるためコスト面の負担も少ないでしょう。
ECサイトのユーザビリティテストの流れ
ユーザビリティテストの大まかな流れについてご紹介します。
1. モニター選出
ユーザビリティテストに参加してもらうモニターの人数は5人で十分であると言われています。そして、小さなテストをできる限り多く実施することが最良の結果を生み出します。
参照:『Why You Only Need to Test with 5 Users(5人のユーザーでテストするだけでよい理由)』
正しいモニター選出をするためには、「ECテストを何のために実施するのか?」という目的意識を持つことが肝要です。
2. シナリオ作成
どのような目的でテストを実施するかを中心に、その目的を達成するためにモニターにどのような順路でテストを行ってもらいたいか、というシナリオを作成します。一般的には「特定の商品を探し出すまで」「商品を閲覧し、カートに入れるまで」「カートで商品を吟味する」「決済を行うまで」などの過程に大きく分けて、それぞれにおける問題点を探ることが目的です。
ポイントは、ある程度の自由をモニターに与えることです。たとえば商品の検索方法まで指定してしまうと、モニターはその通りの行動しか取らないためECサイトの改善点を見つけ出すことが難しくなります。随所に自由を取り入れて、モニターがどういった行動を取るのかをつぶさに観察しましょう。
3. テスト実行
モニターの選出とシナリオ作成が完了したら最後にECテストを実行します。テスト実行は可能な限り計画通りに行い、イレギュラーが発生しないようにしましょう。また、ECテストそのものも改善していく必要がある場合もあるでしょう。そのためには計画と実行、それと評価がセットで必要になります。
ユーザビリティテストを効率化するには?
ユーザビリティテストは本稿で紹介した方法以外にも多くの自動化されたテストツールが存在します。これらのツールと組み合わせながら最適なECサイトへと発展させていくことが望ましいでしょう。たとえば以下のようなテスト自動化ツールが存在するので参考になさってください。
- PICT:効率的な組み合わせテストのテストケースを設計する
- PictMaster:ExcelからPICTを利用する
- FMPict:マインドマップツールのFreeMindのモデルからPICTを利用する
- Selenium:ブラウザの自動操作フレームワーク、Nightwatch.jsやGebといったテストフレームワークのベース
- Nightwatch.js:テストケースを開発する人がJavaScriptやNode.jsを得意としている際に利用する
- Geb:テストケースを開発する人がJavaやGroovyを得意としている際に利用する
- Slenide:テストケースを開発する人がJavaを得意としている際に利用する
- Appium:Windowsアプリケーションにも利用でき、AndroidとiOSの両アプリケーションにエンドツーエンドのテストを自動実行する
- UI Automator:Androidアプリケーションにエンドツーエンドのテストを自動実行する
- XCTest/XUITest:iOSアプリケーションにコンポーネントテストやUIテスト、エンドツーエンドテストを自動実行する際に利用する
ECテストを自動化したとしても、基本的なポイントを押さえていないと効果的なテストは実行できません。本稿でご紹介した内容を踏まえて、効果的なECテスト実行を目指していただきたいと思います。
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