従来のERPは、主にコンポーネント型や統合型が使われていましたが、近年コンポーザブルERPという新しいERPが登場しました。これまでのERPより細かいシステムの構築が可能となったコンポーザブルERPを導入する企業は今後増加していくでしょう。
本記事では、従来のERPとコンポーザブルERPの違いやメリット、導入方法に加え注意点を解説します。また、ERPの導入を検討している方向けに、ERPを選ぶ際のポイントも紹介しています。
コンポーザブルERPと従来のERPの違い
なぜ、コンポーザブルERPが注目を集めているのでしょうか。従来のERPとはどう違うのか、そしてどのような背景があって注目されているのか解説します。
ERPとは
ERP(Enterprise Resources Planning)とは、企業全体の基幹システムやデータベースが統合されている、統合基幹業務システムのことです。企業全体の情報・経営資源を一括で管理するため、常に最新の企業全体に関する情報を参照できます。また、ERPは業務の多くを自動化するという特徴から、業務効率化や標準化につながる上に不正防止やガバナンスを強化できるメリットがあります。
ERPについての詳細は、「ERPとは?意味や導入のメリット、基幹システムとの違いも解説」でも解説しているため、併せてご覧ください。
コンポーザブルERPとは
コンポーザブルERPとは、ERPのコンセプトを長年提案してきたガートナー社が2020年に提案した新しいERPです。必要な構成要素を組み合わせたり、拡張機能によって異なる形のプログラムを追加したりして、自社の業務に合わせたシステムを構築します。
また、コンポーザブルERPはシステムの土台としての役割を持っており、アプリケーションの組み換え作業を安定した動作で行えるよう維持します。さらに、大規模で複雑な業務工程であっても、詳細なカスタマイズが可能なため、従来のERPよりも数多くの要件を達成できるのがコンポーザブルERPの特徴です。
ビジネス環境が変化することは多々あることですが、コンポーザブルERPはビジネス環境の変化にも柔軟に対応しやすいERPだといえます。
コンポーザブルERPが注目される背景
ERPシステムの構造は企業の需要に応じて改良され続けています。ERPはもともと全て同一のモジュールとして設計された物が主流だったため、一つのERPにさまざまな機能が実装されていました。しかし、機能の新規開発や改修が困難な上、アップデートやメンテナンスに多額の費用がかかるという課題があったのです。
この課題を改善するために、業務ごとにシステムの構築と連携をするポストモダンERPという構造が考案されましたが、さらに細かい機能の構築を可能とするコンポーザブルERPが登場したことにより、多くの企業がコンポーザブルERPに注目するようになっています。
コンポーザブルERPのメリット
コンポーザブルERPのメリットの中でも代表的といえるのが、柔軟性と拡張性の高さです。他にもさまざまな効果が期待できます。詳しく解説していきます。
柔軟性と拡張性が高い
業務効率化や会社情報の可視化などの一般的な機能は、従来のERPシステムにも搭載されています。しかし、特殊な事例に対しては細かなカスタマイズが必要です。加えて、思い通りのプロセス構築が困難であったり、手動で対応しなければならない業務が生じたりするなど手間がかかるケースがあります。
対してコンポーザブルERPは、従来のERPと比べて柔軟性と拡張性が高く、特殊な事例にも臨機応変に対応できます。プラットフォーム上に異なるサービスを組み合わせて構築できるため、業務内容に合ったシステムが組み立てられるのです。
また、機能の追加や仕様変更が容易になることで、ビジネスの変化にも柔軟に対応でき、ビジネスリスクの軽減にもつながります。さらに、第三者製品と組み合わせて活用すれば、より自社に合ったERPの構築を実現できるでしょう。
保守性が高い
コンポーザブルERPは設計や実装のやり方を工夫すると、保守性の高いERPシステムが構築されます。構成要素同士のAPI連携は設定するだけで構築できるため、新しいシステムをコンポーザブルERPに導入する場合でも容易に連携可能です。
連携以外にも、機能の修正や削除なども実施可能なため、試行錯誤しやすい点がメリットです。ビジネス要件が急に変更されたとしても、迅速な対応ができるでしょう。
スモールスタートが可能でコスト面に優れる
スモールスタートとは、事業を最小限のシステムで始めることです。ERPを導入する場合、最初は必要なソリューションだけを選択してシステムの構築と導入をします。そして、導入後にシステムの再構築、ソリューションの追加を行うため、スモールスタートで行えるのです。
また、コンポーザブルERPは、従来のERPシステム開発と比較してもSEやプログラマーの人件費が抑えられているため、開発コストを削減できます。
従来のERPよりもスピーディーに対応できる
コンポーザブルERPは、試行錯誤しやすい特徴があるため、ビジネス環境の急な変化にスピーディーに対応できます。もちろん、実装した機能の修正や削除なども簡単で、状況に合わせてシステムのスペックを変更することも可能です。
業界や企業規模を問わず活用可能
ERPシステムの特徴の一つに、調達・生産・販売・在庫管理・品質・会計・人事などの幅広い業務領域をカバーできる点が挙げられます。コンポーザブルERPもこの特徴を引き継いでいるため、どのような業界でも活用可能です。
また、企業規模も問わずに活用可能な点もメリットといえます。たとえ小規模の企業であってもスモールスタートで構築が可能な上、予算に合わせて要件を優先付けして実装できます。
コンポーザブルERPの導入方法・手順
コンポーザブルERPを導入する際は、以下の流れで行うのが一般的です。具体的には、6つの手順で進めていきます。
目的を定める
従来のERPと同じように、コンポーザブルERPでも目的を明確にすることは大切です。既存ERPは何が問題だったのか、今後のビジネス要件では何が必要か、将来的にITシステムをどう構築するのかなどを具体的に検討しましょう。目的を明確にしておくと、ソリューションの選定や優先順位付けがスムーズになります。
また、導入の目的をERPシステムを扱う関係者と共有することで、「導入したが社内に普及しなかった」などの失敗が防げるでしょう。
プロジェクトチームの構築
プロジェクトチームを構築するときは、要件定義からスタートし、どのようなシステムを構築するのかを決めます。ERPが関係する部署は多岐にわたるため、それぞれの部署の担当者を交えてプロジェクトチームを組む必要があります。
また、ERPを導入する際は、実際の業務と製品仕様が合致しているか「フィット&ギャップ分析」を行いましょう。
他にも、パフォーマンスやセキュリティといった非機能要件についても明らかにしておくと、システムを構築する際のハードウェア、ソフトウェアを選びやすくなります。
プラットフォームの選定
プラットフォームを選定する際は、自社が何を求めているのか理解した上で適切なものを選定します。プラットフォーム上にさまざまなソフトウェアを導入するため、拡張性が高いかどうかも選定のポイントです。
コンポーザブルERPは従来のERPよりも少ないコーディングで開発できますが、状況によっては開発作業が必要になる場合もあります。そのような状況に備えて、開発エンジニアを確保しておくと良いでしょう。
設計
プラットフォームを設計する際は、柔軟な対応ができるよう工夫することで、コンポーザブルERPのメリットを最大限に生かせます。ビジネスの変化に合わせて柔軟に機能の追加や改修ができるよう設計しましょう。
具体的には、プラットフォーム上でのデータ管理やデータ構造をどのようにするか、ソリューションの連携方法を目的に合う形で設計します。しかし、この段階で導入可能なソリューションの数が膨大になることもあります。システムが複雑になってしまうと運用・保守が難しくなってしまうため、そうならないために設計段階で対策することが大切です。
実装
コンポーザブルERPでは、コーディングの代わりにソリューションを導入して、システムの実装をします。もし第三者のソリューションで自社の要件を満たせない場合、アドオンを開発することもありますが、基本的にはソリューションを選定して設計するのが一般的です。そのため、ソフトウェア開発をするよりも少ない工程でシステムを構築できます。
運用保守
コンポーザブルERPを導入した後は、自社の要件を満たすための効果を発揮しているのか確認しましょう。想定と異なる結果になった場合は原因の追究や改善を行います。時には導入したソリューションと新しいソリューションを入れ替える作業が必要になることもありますが、コンポーザブルERPなら入れ替え作業も簡単に行えます。
コンポーザブルERP導入の際の注意点
多くのメリットを得られるコンポーザブルERPですが、導入する際は注意点もいくつかあります。自社に合ったERPを選定するためにも押さえておきましょう。
優先順位をつける
ERPを導入する前に、現在の業務フローや業務にかかる工数の洗い出しなどを行い、どの業務でERPを活用するのか決めておくことが大切です。システムの導入を最優先にしてしまうと、ERPの活用法や目的があやふやなままのため、現場が混乱してしまいます。混乱を避けるためにも、どの業務でERPを活用するのか決めておきましょう。結果として、ERPの効果を実感できるようになり、より良い方向に企業が変化します。
システムのブラックボックス化を避ける
コンポーザブルERPはソリューションを組み合わせてシステムを構築しますが、その影響でシステムが予想以上に複雑なものになってしまうことがあります。
システムが複雑になるほど、システムの構築(開発)過程が残っておらず、運用・保守が属人化していることがほとんどです。属人化してしまうと運用・保守に影響が出る恐れがあるため、システムがブラックボックス化(業務の工程が分からなくなること)しないよう、過程を記録しておくことをおすすめします。
他にも、自動テストの導入やテスト計画策定など、コストを抑えた環境を構築することも効果的です。プロジェクトに合った方法を検討しましょう。
コストと機能性のバランスを考える
ERPに限ったことではありませんが、新しくシステムを導入する際はコストと機能性のバランスを考えなければなりません。特に「自社の規模に合ったコスト・機能か」が重要です。
自社の規模に合ったコスト
グローバル対応が必要なら大型のシステムが必要ですが、グローバル対応が不要なら必要最小限のコンポーザブルERPでも十分な場合があります。
自社の規模に合った機能
自社の要件に合った機能にするためには、どのソリューションを組み合わせるのが効果的なのかを検討します。業界特有の機能が必要な場合、その機能を有しているかどうかを確認しましょう。
使いやすさやサポート体制も確認する
ERPをメインで操作するのは社員です。そのため、操作性やインターフェースが既存システムよりも優れているかもポイントになります。ERPの試用期間で使いやすさを確認し、社員からのフィードバックを集めておきましょう。
他にも、「運用保守に必要な物は何か」「社員だけで運用が可能か」「ベンダー(販売会社)のサポートは受けられるか」「サポート体制はどうなっているか」などの点も確認します。きちんと確認しておけば、コンポーザブルERPの導入後の運用がスムーズになります。
脆弱性の発生に注意する
コンポーザブルERPは複数のソリューションを組み合わせるため、連携部分に脆弱性が発生する恐れがあります。自社のセキュリティポリシーを再確認し、組み合わせたいソリューションがセキュリティルールを遵守していないなら導入しないといった取り組みが必要です。
また、システムの構築が完了した際に、セキュリティルールを遵守していないソリューションが導入されていないか、チェックする体制を整えることも大切です。
まとめ
従来のERPは、統合型で企業全体の情報や経営資源を一括管理できる特徴がありました。しかし、細かいカスタマイズができないのが欠点として挙げられます。一方、コンポーザブルERPは、ERPの経営資源を有効活用できる点はそのままに、細かいカスタマイズも可能です。
コンポーザブルERPを効果的に活用するためには、自社の課題やニーズを明確にした上で適切なソリューションを組み合わせることが大切です。ERPについて課題やお悩みがあればシステムインテグレータにおまかせください。
また、弊社では、ERPの導入を検討する際に必要なポイントをまとめた比較表もご用意しております。ぜひ併せてご覧ください。
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