DXへの取り組みや、EV市場の拡大などの急激な需要の高まりから、基板市場は大きく拡大しています。
また、テレワークの普及や5GやIoTといった技術革新から、スマホやパソコン、自動車や家電に至るまで基板の存在は欠かせません。
そこで今回の記事では、プリント基板製造における不良パターンや効率化の方法まで詳しく解説していきます。
プリント基板とは?
基板の一種であるプリント基板は、以下2つの総称のことです。
- プリント配線板:「絶縁体」で作られた板の表面や内部に導体の配線を施したもの
- プリント回路板:プリント配線板に電子部品がはんだ付けされたもの
絶縁体とは「電気や熱を通しにくい性質を持つ物質」のことで、配線が施される前の絶縁体で作られた板は銅張積層板と呼ばれます。
また、プリント配線板に電子部品をはんだ付けして、電子回路として動作できるようにすることを「実装」といいます。
プリント基板の製造について
この章では、プリント基板の製造についてお話します。
プリント基板の製造工程は、以下のとおりです。
- プリント基板の製造フロー【内層工程】
- プリント基板の製造フロー【外層工程】
内層工程、外層工程の製造フローについては、後述するサブトラクティブ法での解説をします。
プリント基板の配線パターン
製造工程を解説する前に、まずはプリント基板の配線パターンについてお話します。
プリント基板の配線パターンの作成方法は、主に2種類あります。
- サブトラクティブ法
- アディティブ法
サブトラクティブ法は「引き算型」と呼ばれ、一方のアディティブ法は「足し算型」と呼ばれています。
サブトラクティブ法
サブトラクティブ法は、全面に銅箔が貼られたプリント基板から不要な部分を取り除いて回路パターンを形成する方法です。
配線として残す部分に、光で性質が変化するフォトレジストと呼ばれる材料をマスキングして、残さない部分は腐食(エッチング)させることで、必要な回路だけを残します。
アディティブ法との大きな違いは、回路を平坦に形成できる点です。そのため、実装が必要な基板の製造に向いた作成方法であるといえます。
サブトラクティブとは、英語の「サブトラクト(減算)」から名づけられている用語であることからも、「引き算型の工法」とも呼ばれています。製造コストがかからないので、プリント基板を製造する際の主流の方法として採用されるケースが多いです。
アディティブ法
アディティブ法は、絶縁体基板に回路パターンをあとで加える方法です。
銅パターンを形成したくない部分に「レジスト」と呼ばれる保護膜を形成し、レジストのない部分にメッキ処理を行って回路パターンを形成します。
回路パターンをあとで付け加えることから、「足し算型の工法」と呼ばれています。アディティブは、英語の「アッド(足す)」という単語から名づけられた用語です。
アディティブ法は大きく2つに分類されます。
- フルアディティブ法:絶縁体基板に直接、回路パターンを形成する
- セミアディティブ法:全面に銅を積層したあと、サブトラクティブ法で回路パターンを作成する
アディティブ法はサブトラクティブ法よりも、精度の高いパターンを形成できることが大きな特徴です。微細なパターンが要求されるBGA用(パソコンやゲームのCPUやGPU)パッケージ基板の製造に採用されることが多い工法でもあります。
プリント基板の製造フロー【内層工程】
ここからは、プリント基板を製造する際の主流である「サブトラクティブ法」での製造フローを解説します。
プリント基板は、大きく3種類に分類されます。
- 片面基板(1層基板):基板の片面にだけ回路パターンがある
- 両面基板(2層基板):基板の両面に回路パターンがある
- 多層基板:ウエハースのように絶縁体とパターンを積み重ねた4層以上の基板
回路結線が複雑で、両面だけでは回路配線を収容しきれない場合の対応として、多層基板が製造されます。多層基板の製造は、内層の製造からスタートします。
その内層の製造フローは、以下のとおりです。
- 材料切断:サイズに合わせて基板を切断
- フィルムラミネート:ドライフィルムの貼り付け
- 露光:マスクを重ねて紫外線を照射
- 現像:不要なドライフィルムを溶解
- エッチング:回路パターン以外の銅箔や焼き付いたドライフィルムを薬液で溶かす
- 黒化処理:基材表面を黒色化して凹凸を形成する
- 積層:基板を構成する材料を重ね合わせる
黒化処理は、銅素材との密着強度を上げるために行われますが、各種金属に防錆、反射防止、防眩といった効果も加わります。
プリント基板の製造フロー【外層工程】
外装工程のフローは、多層基板の内層製造後だけでなく片面基板や両面基板にも共通します。製造フローは、以下のとおりです。
- 材料切断:サイズに合わせて基板を切断
- 穴あけ・銅メッキ:ドリルなどで穴をあけ、銅メッキを施す
- フィルムラミネート:ドライフィルムを貼り付ける
- 露光・現像:回路パターンにだけドライフィルムを焼き付ける
- エッチング:不要な銅箔やドライフィルムを除去する
- ソルダーレジスト:回路パターンを保護するため、ソルダーレジストを塗布する
- シルク印刷:ソルダーレジストの部分に型名や電子部品の位置などの情報を印刷
- 表面処理:銅の酸化やはんだ漏れ性を高めるため、はんだコートや金メッキを施す
- 外形加工・Vカット:基板の不要な部分を切断
- 検査:製品の導通検査や外観検査を行う
基板にあけた穴はスルーホールと呼ばれていて、穴をあけた後に銅メッキが施されることで電気的な接続ができるようになります。スルーホールは電子部品を接続するためのものと、多層基板で基板を重ねる際に異なる層同士を接続させるビアホールの2つがあります。
ソルダーレジストとは、プリント基板の表面を覆う回路パターン保護のための緑色のインクのことです。ほこり・熱・湿気から回路パターンを保護する役割があるほか、不要な部分に付着したはんだのショートを防いでくれます。
プリント基板の検査とは?
製造されたプリント基板は、問題なく動作するか、品質を保証するために検査が行われます。
冒頭で説明した通り、電化製品や自動車といったあらゆる製品には電子基板が使われています。基板に装着された電子部品の一つが故障すると、機械そのもののが使えなくなってしまいます。
電子部品が大きかった昔は、はんだのショートを目視で見分けることができました。しかし、細かく集積化された近年の電子基板の不具合を見分けるのは極めて困難です。
そこで、人の代わりに検査を行う検査装置が使われるようになりました。
検査装置には、大きく2つの種類があります。
- AOI:電子基板の検査装置
- SPI:はんだの良否判定を行う
2つの検査装置を使って、部品の欠陥やはんだの不良をチェックします。
プリント基板の検査でよく見られる不良
ここでは、プリント基板の検査でよく見られる不良を2つに分けてご紹介します。
- 部品の不良
- はんだの不良
基板欠陥の不良は種類がさまざまですが、代表的なものをピックアップしました。
順番にみていきましょう。
部品の不良
以下は、主な部品の不良です。
不良の名称 |
状態 |
---|---|
部品未実装 |
部品が正しい位置に実装されていない |
部品の位置ずれ |
パッドから部品が外れ、正規の位置からずれて実装されている |
部品の浮き |
部品が片側だけはんだ付けされ、もう片方が立ち上がっている |
部品未実装については基板の機能不全のため、目視検査の際に注意が必要です。
部品の浮きはマンハッタン現象とも呼ばれていて、パッドの加熱不良の可能性があります。
はんだの不良
以下は、はんだの不良です。
不良の名称 |
状態 |
---|---|
断線 |
はんだが付いていない |
ショート |
はんだ量の過剰により、隣接したパッドに付着している |
ボイド |
はんだ内部で発生したガスの気泡が浮き上がっている |
漏れ不良 |
外観上はきれいなはんだ付けでも、電気的接続が不完全 |
はんだボール |
はんだが飛び散り、ボール状に固まったもの |
ブリッジ |
隣接したICピンの間にはんだがつながった状態 |
クラック |
はんだの表面にひび割れが生じている |
イモハンダ |
はんだが母材に馴染まず、はんだが山型ではなく丸型である |
はんだの不良は、部品の不良に比べて多いことがわかります。
はんだ量の過剰や過少といった問題は、電気的にはつながるために基本的な条件は満たします。しかし、耐久性に欠けるなどの問題があり、将来的にみると基板の機能不全を起こしかねません。
はんだの検査については、下記の記事でも詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
プリント基板の外観検査装置とは?
プリント基板の外観検査装置は、基板上に装着された部品の不具合を調べる装置のことです。
基盤の検査は主に、問題なく部品が実装されているかを確認する「基盤外観検査」と、基盤が正常に動作するか確認する「機能検査」に分けられます。電子基板全体の検査は「AOI」と呼ばれるほか、動作の正常・異常の検査は「機能試験」といいます。
電子基板の主な不具合は、前章でご紹介した部品やはんだ付けの欠陥であり、それらを検査するのが「基板外観検査(基板検査・実装検査)」です。こちらは目視検査か「AOI(光学式自動外観検査装置)」で検査されます。AOIとは対象の基盤をカメラでスキャンすることで、設計通りに実装されているか、部品の欠落や歪みなどがないかといった点を検査します。
基板外観検査を問題なくクリアした基板は、機能検査によって設計どおりに動作できるか、「ファンクションテスタ」という装置を使った確認が行われます。基盤をファンクションテスタに取り付けると電気信号が流れるので、設計通りの出力が得られるかを確認します。
プリント基板の外観検査装置の仕組み
プリント基板の外観検査装置は、もともと人間による目視で行われていた検査を機械が代わりに行うものです。人間と同じく、外観をチェックする「目」と良否を判断する「頭脳」が必要です。
外観検査装置は、目の代用であるカメラ、頭脳の代用である画像処理ソフトウェアを搭載したコンピューターで構成されています。
先述のとおり、電子基板の不良で最も多いのは、はんだ付けの不良です。基板外観検査におけるはんだ付け品質評価は、電子部品の接着面と基板の接着面との境界を結ぶ直線をしきい値として、そのしきい値の超過で判断します。
しきい値は電子基板によって異なるため、検査を行う前にしきい値データを画像処理ソフトウェアに取り込んでおかなければなりません。
技術が進歩した近年では、3次元画像処理カメラやX線カメラといった従来のカメラでは検出できない高度な性能をもったものも登場しています。
外観検査装置の懸念
プリント基板は細かい部分の検査が難しく、そういった部分の検査は目視で行う必要があります。理由は、外観検査装置でチェックできる範囲に、まだ限りがあるからです。
専用の外観検査装置もありますが、高価なことから導入できない製造現場も多いのが現状です。近年は電子部品が小型化・集積化しているため、目視での不良検出が難しくなってきています。そのため、拡大鏡や顕微鏡を使った検査が必要になることも珍しくありません。
しかし、人の目を使った検査は検査員によって判定にばらつきが生じてしまいます。検査項目が増えると人員を増やす必要があるので、新規で検査員を雇用したり生産工程の人員を割いたりして検査工程に人員を補填する必要も出てくるでしょう。
まとめ
基板とは日常の生活において欠かせないもので、長期間の利用を見据えた耐久性の理由からも不良品の排出はできる限りないようにしなければなりません。
外観検査装置の導入が進みつつありますが、細かい部分の検査が難しいなどの課題があり、どうしても目視検査が必要なケースもまだまだあります。
近年になって製造業でも浸透しはじめたAI技術を活用すれば、こういった細かな部分の検査も装置で行えるようになるかもしれません。
弊社では、外観検査のAI化に関する資料を無料で公開しているので、ぜひご参考にしてください。
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