敵対的生成ネットワーク・GANについてご存知でしょうか。GANは、Generative Adversarial Networksの略で、AIのアルゴリズムの一つです。現在、このGANが異常検知の領域に対して応用されることで、品質管理に役立つ画期的なAI技術として注目されているのです。
今回は敵対的生成ネットワークGANの概要から、その特徴、GANの応用例について説明します。また、外観検査システムを導入することで効果的にGANを利用する事例について紹介し、品質管理や外観検査に対する効果を詳細に解説します。
GAN(敵対的生成ネットワーク)とは
敵対的生成ネットワークと呼ばれているGANは一般的にAIのアルゴリズムの一種であると捉えられており、2014年にイアン・グッドフェロー博士によって導入された機械学習システムです。GANとはどういったものか特徴を順に解説します。
GANとは何?
GANは敵対的生成ネットワーク、あるいは競争式生成ネットワークと呼ばれています。これは機械学習におけるAIのアルゴリズムの一種であり、教師データなしで学習することができるアルゴリズムとして注目されています。
従来の機械学習では人間が人的コストを払って、ラベル付けした訓練用データを用いることで特徴やパターンを理解して学習を行っていました。しかしこれではAIの学習のためにラベル付けした膨大な訓練用のデータが必要になってしまいます。そこで、グッドフェロー博士は2つのニューラルネットワークを協力させることで、この問題を解決させる方法を思いつきました。
ラベル付けされたデータ、つまり人間による訓練用データがない、教師がいない状態での学習を行うことを実現させたのです。
GANを利用することで非常に良好な結果をもたらし、実際に教師なしでの学習を実現しました。
GANのメカニズム
GANは2つのニューラルネットワークを敵対させ、互いに競わせて学習を深めていきます。この動作メカニズムから、GANは敵対的生成ネットワークと呼ばれるようになりました。
実際には、一つのネットワークのことを生成ネットワーク、もう一方は識別ネットワークと解釈されており、生成ネットワークの役割はデータセットについて学習を行い、訓練用データを作成するのが役割です。識別ネットワークの役割は、生成ネットワークが作成した訓練用のデータを本物か偽物か判別させることです。
最初の段階では学習が浅いため、すぐに偽物と判断されます。その結果をもとに、生成ネットワークは識別ネットワークが偽物と識別できないデータを作るように試みます。このプロセスが繰り返されることで、双方のネットワークが学習するというのがGANのメカニズムとなっています。
結果的にグッドフェロー博士の想定通り、ニューラルネットワーク同士を敵対させるGANのアプローチによって、ラベル付けされていないデータによる学習を大幅に改善することにつながりました。例えば、収集したイメージの特性を学習することによって、イメージの解像度の向上につなげることや、本物と遜色ない模造写真を作成することが可能になっています。
GANが画期的とされる特徴とは
GANが画期的とされるのは、今までの機械学習に必要だった訓練用のデータの準備が必要なくなることです。特に2つ生成したニューラルネットワークがお互いの存在のみで「鍛え合う」ことで自動的に学習するというところに特徴があります。2つの生成されたニューラルネットワークと、収集されたラベル付けしていないデータが膨大に存在していれば自動的に効率の良い機械学習が行われるということです。
従来の機械学習に必要とされた教師ありの概念を覆す画期的な特徴であるといえるでしょう。
GANを応用した異常検知
GANを利用した、異常検知の領域への応用が近年試みられています。AnoGANをはじめとした、様々なGANの応用によって、異常検知の手法が高度化し、より一層GANの利用頻度は高まってきているのです。詳細を順に説明します。
AnoGANによる異常検知
AnoGANとはAnomaly Detection with Generative Adversarial Networksの略で英訳の通り、GANを用いて異常検知をするという意味となっています。最初の異常検知の試みとしてAnoGANは認知されているのです。
AnoGANのメカニズムは非常にシンプルで、GANには正常な画像だけ絞って十分に学習を行わせます。これによって識別ネットワークは「正常な画像」が判断できるようになり、「正常な画像ではないもの」=「正常ではない画像」という識別も可能になります。また、異常がある画像を与えられることで、正常か異常かを高度に識別できるようになるため、異常検知が実現されます。
その結果、従来の精密でリアルな画像を作り出すことが主流と考えられていたGANの役割から、画像が異常なのかどうかの判別ができるようになるAnoGANというGANによる異常検知をはじめて提案したとされています。
この背景には、医療現場などが関わっています。例えば特例の病理など、正常な画像はあっても異常な画像のデータセットが少ないパターンが存在しています。最適な学習を行おうと思ってもパターンがなければ検知はできません。そのため正常な画像を学習することで、異常があれば検知するという逆転の発想が生まれたといえるでしょう。
その他の異常検知手法
AnoGAN以降、GANはその他の試みが行われてきました。以下はその参考となっており、上から順に解説を行います。
- Efficient-GAN:Generatorの逆を行うEncoderを導入することで高速化する
- GANomaly:AutoEncoderという第3のネットワークを追加する
- Skip GANomaly:GANomalyにさらにSkip Connection構造を導入する
Efficient-GANは画像をノイズに変換するEncoderを学習することで異常検知を行います。AnoGANでは推論時に与えられている画像に対応するノイズを探索するために、リアルタイム性に欠けるという欠点がありましたが、Efficient-GANでは、このEncoder学習により処理速度の高速化を実現したのです。
GANomalyはGANの敵対的な構造に対して、さらにAutoEncoderというネットワークを導入しました。AutoEncoderは画像の圧縮と復元を行うネットワークであり、ノイズの除去や圧縮に利用されることで、安定した画像の生成が可能になりました。
Skip GANomalyは、GANomalyをベースにして、新たにSkip Connectionと呼ばれる構造を取り入れました。SkipConnectionによって、入力画像の情報を画像生成時に利用できるようになり、生成の精度が向上することがわかっています。これによって、異常検知の精度が向上することが期待されているのです。
ディープラーニング外観検査システムAISIA-AD
AISIA-ADはディープラーニングを用いた画像認識による外観検査システムのことです。特に製造業界における外観検査に対して幅広く活用することが可能です。また、現実の業務に合わせたソリューションを提案しており、顧客の課題や業務に合わせて、個別に最適化を行ったAIソリューションとして提供することが可能なシステムです。
例えば、外観検査を行う際に「目視」や「判断」が必要になってくる様々な工程に対して広い範囲で適用することが可能になっています。用途としては以下のような工程に適応が可能です。
- 精密機器最終検品異常品検知
- 輸送用機械生産加工工程抜け検知
- 医療、化学薬品シリコン傷・バリ検知
- 農産物加工品異物検知
- 加工食品加工品抜け漏れ検査
- 製紙加工異常分類
現在、多くの製造業では外観検査を人の目による検査で行っているところも多く、属人化や人による精度のばらつき、人材確保や育成コストなど様々な課題を抱えています。
AISIA-ADは熟練者の技術をAIに学習させることでキズや凹み、異物混入といった異常を、まるで人が検査するような形で自動検知が可能になります。
目視検査や異常検知でお悩みの場合はぜひお気軽にご相談ください。
まとめ
敵対的生成ネットワークGANの概要から、応用例、GANをベースに発展してきたGANの種類について解説しました。機械学習はめざましい発展を遂げる中で、人による検品の限界や効率化に対して非常に効果的に対応してきています。
製造業界の異常検知は課題が多く、効果的な生産を行うためには新しい技術を取り入れることも必要です。
外観検査にAIを活用するポイントについてまとめた資料などご用意してありますので、ぜひご覧ください。
- カテゴリ:
- キーワード: