日本の主力産業のひとつである製造業ですが、近年は人手不足に悩まされています。そこで製造現場の多くは自動化に着手して省人化を進めて、生産性を上げる取り組みをはじめています。
生産性を向上させつつ人手不足を解消できる方法として注目されているのが、ディープラーニングを活用した異常検知です。データを大量に収集・蓄積できるうえに、分析しやすいことから、すでに多くの製造現場や製造業以外の分野でも導入が始まっています。
そこで今回の記事では、画像による異常検知にディープラーニングを用いるメリットやディープラーニングで使われるアプローチや手法を解説します。
異常検知とは
異常検知は、「過去の大多数のデータとは振る舞いが異なるデータを検出する技術」です。
ほかのデータパターンあるいは標準とするパターンとは異なる挙動を見せるものを分析して、識別します。多くのデータを読み込ませたうえで、データ間で見られる共通点や相違点を比較・分析し、パターンを学習することで不良品や設備の不具合を検知します。ほかにも、エラーが出る予兆を特定することも可能です。
異常行動検知、クレジットカードの不正利用検知、システムの故障予知といった幅広い分野において異常検知の技術が用いられます。
異常検知にはディープラーニング(深層学習)が用いられるほか、製造業では画像データをもとに不良を検知する技術が活用されています。
ディープラーニング(深層学習)を活用した画像による異常検知
そもそもディープラーニングはAIを支える機械学習の一種であり、音声の認識、顔画像認識、手書き文字認識、対話システム、予測といった人間が行うタスクをコンピューターに学習させることができます。
可能な機能 |
入力データ |
出力 |
画像認識(物体の認識) |
画像 |
カテゴリ(何の画像なのか) |
物体検出 |
画像 |
物体と位置(何がどこに写っているのか) |
文章を自動で仕分け |
文章 |
文章(記事やスパムメールの分類など) |
音声認識 |
音声 |
文字列 |
翻訳 |
英単語列や日本語列 |
日本語列や英単語列 |
対話システム |
入力発語の単語列 |
期待応答の単語列 |
ロボット制御 |
センサ信号 |
アクチュエータ出力 |
異常検知 |
センサ信号 |
異常の度合いなど |
十分なデータ量さえ確保できれば人間の力を借りなくても機械が自分でデータから特徴を抽出してくれる、ディープニュートラルネットワーク(DNN)を用いていることが特徴です。
DNNは、ニューラルネットワークというパターン認識できる設計になっており、人間や動物の脳神経回路をモデルとしたアルゴリズムを多層構造化したものです。
ディープラーニングを活用した異常検知には、以下のような手法が存在します。
- 外れ値検知:予想外のデータ点を検出
- 異常検知:異常が発生している部分の時系列を検出
- 変化検知:時系列データのパターンが急激に変化する箇所を検知
上記のような手法を、製品や目的に合わせて選ぶことで、高い効果を得ることができます。
ディープラーニングを活用した異常検知の潮流については下記の記事でご紹介しています。
関連記事:異常検知におけるディープラーニング(深層学習)の活用
では、異常検知にディープラーニングを活用することでどんなメリットがあるのか、次で詳しく見ていきましょう。
画像による異常検知にディープラーニングを活用するメリット
以下は、画像による異常検知にディープラーニングを活用するメリットです。
- 生産性の向上
- 属人化の防止
- 高度な検知の実現
上から順番に説明していきます。
生産性の向上
1つ目のメリットは、生産性の向上です。
異常検知にディープラーニングを活用すれば、人間の目視検査による課題を解決できます。
例えば、コンディションに左右されやすい検査精度の向上、検査に必要な工数や人員の削減などが可能です。特に新しい不良の発生や不良項目が増えた場合は、さらに検査員を増員して対応せざるを得ないので、生産工程かの人員を借りて配置するしかありませんでした。生産工程から人員が減ると品質がさらに低下するなど、悪循環が起こっていたのです。
ディープラーニングによる異常検出を行うことで、増員だけでなく検査員も大幅に削減できます。従来の検査員を生産工程へ配置することで、製品の品質の維持・向上にもつながります。
生産性や品質を向上させたい製造現場にこそ、ディープラーニングの異常検知がおすすめです。
属人化の防止
2つ目のメリットは、属人化の防止です。
「目視検査」や「従来型の画像認識」には、属人化の問題があります。
目視検査は知識や経験によって検出精度が左右されるため、熟練工と呼ばれる検査員に頼らざるを得ませんでした。また、少子高齢化などの影響によって後継者不足が起こっているため、属人化に拍車がかかっていたのです。
また、検査を自動化するために導入された従来型の画像認識ですが、単純な不良の検出しかできないうえに「各検査項目のモデル化」を要します。モデル化には高い技術やセンスが要求されることから、技術面では属人化していました。
ディープラーニングを活用した異常検知は人間の判断を代行するので、偏りのない判断が可能で人間の負荷も軽減してくれます。検査員の属人化だけでなく、技術者による属人化も防止できます。
以上の理由から、属人化を防止するならディープラーニングの異常検知がおすすめです。
高度な検知の実現
3つ目は、高度な検知の実現です。
ディープラーニングには高度なコンピュータの処理能力のほか、高画質な画像センサーも備わっています。
特に近年では精密化が著しい製品も多いことから、人間の肉眼だけに頼った目視検査では限界があります。例えば、プリント基板などの電子機器の場合は2倍から4倍、カメラのレンズは最大300倍まで拡大しないと検査ができません。
ほかにも、ネジやナットといった生産数が多い割に単価が安い製品の検査も困難です。
不具合が微細で検査に時間がかかるうえ生産数も多いことから、全数検査を実施しようとすると多くの人員が必要になり、採算が取れなくなってしまいます。
ディープラーニングを活用した異常検知であれば、短時間で多くの製品を検査できるので、上記のような問題を解消することができるのです。
高度な検知を実現するのであれば、ディープラーニングを活用した異常検知の導入をおすすめします。
画像を用いた検査についてはこちらのブログで詳しく解説しています。
画像検査の仕組みや検出できる範囲とは?おすすめのシステムまでご紹介
ディープラーニングを用いた画像による異常検知手法
ひと括りにディープラーニングといっても、さまざまな異常検出手法が提案されています。それらの手法は大きく3つのアプローチに分けられます。
- 自己符号化器
- 敵対的生成ネットワーク
- ハイブリッドモデル
下記では、3つのアプローチにおける仕組みをご紹介していきます。
自己符号化器(オートエンコーダー)による異常検知
自己符号化器は、ニューラルネットワークを利用した「教師なし機械学習」のひとつです。
入力されたデータを符号化して別のものへと変えて、全く同じデータへと復元するようプログラムされていることが自己符号化器の大きな特徴です。このときの入力データと復元データの誤差を「複合誤差」といいます。
はじめに自己符号化器に正常なデータを学習させたあと、判定したいデータを学習済みの自己符号化器へ入力して復元させます。しかし、自己符号化器は異常なデータを学習していないので、うまく復元することはできません。
この復元誤差の大小によって異常を検知するのが、自己符号化器による異常検知なのです。
以下は、自己符号化器に該当する手法の一例です。
- AutoEncoder
- SSIM AutoEncoder
- VAE-M
- AE-Grad
なお、自己符号化器(オートエンコーダー)による異常検知については、こちらの記事でも詳しく解説しています。
関連記事:正常データだけを学習する異常検知(Vol.3)
関連記事:オートエンコーダを使った異常検知をPythonで構築するには?
敵対的生成ネットワーク(GAN)による異常検知
敵対的生成ネットワークとは、2つのニューラルネットワークを併用してデータの生成分布を学習するモデルのことです。
- 生成器(Generator)
- 識別機(Discriminator)
データ生成のモデルをお互いに競わせて、入力データの学習を深めることが特徴です。正常データで学習した生成器は異常データを生成できないことから、テストデータと生成データの誤差によって異常を判定します。
製造現場では良品の画像のみを学習して、その画像とは異なる画像を不良とします。精巧な良品画像の生成が実現できれば、効果的に不良品を検出することも可能です。
以下は、敵対的生成ネットワークの一例です。
- AnoGAN
- ADGAN
- f-AnoGAN
- EfficientGAN
余談ですが、白黒の写真をカラー写真にしたり、この世に存在しない人の顔を作成したりするのも、敵対的生成ネットワークの技術によるものです。
敵対性生成ネットワーク(GAN)についても、こちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひご一読ください。
関連記事:敵対的生成ネットワーク・GANを用いた異常検知とは?
ハイブリッドモデルによる異常検知
ハイブリッドモデルによる異常検知は、ニューラルネットワークで特徴を抽出し、古典的な異常検知モデルによって異常を判定します。
そもそも従来の機械学習による異常検知は、例えば画像や言語は高次元のデータであり、うまく異常検知できないという問題がありました。そのため、深層学習を用いて次元を減らしたのがハイブリッドモデルの発想で、深層学習と従来の異常検知モデルを組み合わせているのです。
まず深層学習によって特徴の抽出が行われて、入力データの次元数よりも圧倒的に少ない次元数で表されます。その抽出された特徴は、機械学習モデルへと入力データとして送信されて、適切な異常検知が行われるのです。
以下は、ハイブリッドモデルの一例です。
- AE+GMM
- DAGMM
- DeepSVDD
- DeepSAD
ハイブリッドモデルでは、この一連の流れがエンド・トゥ・エンドで実装されます。
ディープラーニング外観検査システム「AISIA-AD」
AISIA-ADは、ディープラーニングを活用した画像認識による外観検査システムです。
さまざまな業界で利用できる点もAISIA-ADの大きな特徴ですが、製造業界の外観検査に対しては特に幅広く活用することができます。
外観検査において、対象ワークや検査環境に応じたAIモデルを採用することが可能です。検知した異常の結果の表示したり、追加で画像を読み込ませて学習させたりすることができます。
また、外観検査を行う際は「目視」や「判断」が要求されますが、そうした工程に対して広い範囲で適用できることも特徴です。
具体的には、以下のような工程での適応が可能です。
- 精密機器の最終検品における異常品検知
- 輸送用機械の生産加工における工程抜け検知
- 医療、化学薬品シリコンのキズ・バリ検出
- 農産物加工品の異物検知
- 加工食品加工品の抜け漏れ検査
- 製紙加工の異常分類
現在でも人の目による目視検査を実施している製造現場は多く、人材不足、後継者不足、属人化、検査精度のばらつき、育成コストといった問題に悩まされています。
AISIA-ADではAIに学習させることで、製品の不具合を熟練工と呼ばれる経験豊富な検査員が検査するのと同じように自動検知することができます。
システムインテグレータでは照明、カメラ、センサー、搬送といった周辺機器との組み合わせもご提案できますので、まずは気軽にご相談ください。
まとめ
多くの製造現場では、人の目で行う目視検査や従来型のルールベースの検査装置が主流です。しかし、近年ではディープラーニングを活用した検査装置の認知度も上がってきていることから、導入する製造現場も増えています。
人材の確保や検査員の教育などを行える体力のある企業であれば問題はないかもしれませんが、少子高齢化や属人化に悩まされている企業ほどディープラーニングによる異常検知をおすすめします。
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ご相談は無料ですので、ぜひお気軽にご利用ください。
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