本記事ではドメイン駆動設計(Domain-Driven Design、DDD)の概要や用語、開発の流れについて解説します。
ドメイン駆動設計とは
ドメイン駆動設計(Domain-Driven Design、DDD)とは、ソフトウェア開発の中心に業務知識(ドメイン知識)を置き、ビジネスエキスパートとの密な協力を通じて、ドメインモデルを構築することで、ビジネス価値の最大化を目指すアプローチです。主な目的は、複雑なドメイン知識を理解し、それをソフトウェアのコードに忠実に反映させることです。これにより、ビジネスニーズに最適化されたシステムを構築できます。
ドメイン駆動設計で用いられる主な用語
DDDでは特定の用語や概念が使用されます。以下は主要な用語です。
ドメイン
ドメインは、業務、つまりビジネスの対象領域を指し、ソフトウェアが解決する問題の範囲です。
ユビキタス言語
ビジネスエキスパート(業務の専門家)と開発者が緊密に連携するために用いる共通の言語です。これにより認識のズレをなくし、ビジネスの複雑なロジックもコードに反映できるようになります。
ドメインモデル
ドメインのビジネスルールやプロセスを表現するための抽象化した概念です。ドメイン駆動設計では、ドメインモデルを中心にして、ビジネスルールやプロセスを反映したソフトウェアを構築します。例えば、以下の例はECサイトにおける注文処理をモデル化したものです。
エンティティ
一意の識別子を持ち、長期間にわたりその同一性が重要となるオブジェクトです。例えば、上の図の「顧客」であれば顧客IDがエンティティです。顧客IDは一意の識別子であり、氏名、住所、メールアドレスなどの情報(属性)を持ちます。顧客IDが同じであれば、同一人物と判定されます。
バリューオブジェクト(値オブジェクト)
一意の識別子を持たず、不変のオブジェクトです。例えば上の例の「顧客」エンティティにおいては、「住所」がバリューオブジェクトに相当します。「住所」は郵便番号や都道府県、市町村などで構成されており、ある地点を示しますが、同じ住所が異なる地点を指すことはありません。
アグリゲート(集約)
関連するオブジェクトの集まりです。上の例では、「注文」「注文明細」は関連しているため、これら全体がアグリゲートとして定義されます。
リポジトリ
エンティティの永続化と取得を抽象化するオブジェクトです。上の例では、顧客や商品データの検索といった、それぞれのオブジェクトに対するデータのアクセス手段を示したものになります。
ドメイン駆動設計をするメリット
ビジネス要件の理解がしやすくコミュニケーションがとりやすい
DDDでは、開発チームとビジネスエキスパートがユビキタス言語でコミュニケーションをとるため、効果的なコミュニケーションが可能です。
具体的には、ビジネスの専門知識が開発チームに共有され、ソフトウェアの実装がビジネスのニーズに沿ったものになります。これにより、開発者はビジネスルールを正確に理解し、それをコードに反映させることができ、誤解やミスが減少し、プロジェクト全体の成功率が向上します。
ビジネスロジックの明確化による開発効率の向上
DDDのアプローチを採用することで、ビジネスロジックが明確に定義され、システム全体の構造が整理されます。これにより、開発者は実装時に具体的なガイドラインを持つことができ、開発効率が向上します。
保守性が向上する
DDDはシステムの保守性を大幅に向上させます。ドメインモデルがビジネスの現実を正確に反映し、コードがそのモデルに従って構築されるからです。新しい要件や変更が発生した場合でも、システム全体に及ぼす影響を最小限に抑えることができます。
また、コードがビジネスロジックに忠実であるため、バグの発見や修正が容易になります。結果として、システムの信頼性が向上し、長期的な運用コストが削減されます。
ドメイン駆動設計の流れ
(1)ドメインを定義する
DDDを始める第一歩は、システム化の対象となるドメイン(業務範囲)を定義することです。これは、ビジネスエキスパートと開発チームが協力して行います。
具体的には、ビジネスの目標や課題を理解し、その範囲を明確にします。この過程で、ビジネスにおける主要なプロセスやルールを特定し、それらがシステム内でどのように表現されるかを決定します。
(2)ドメインモデルを作成する
次に、定義されたドメインに基づいてドメインモデルを作成します。これには、エンティティ、バリューオブジェクト、アグリゲート、リポジトリなどの主要な要素が含まれます。これらの要素を組み合わせて、ビジネスロジックを忠実に反映したモデルを構築します。モデル作成にはビジネスエキスパートの協力が不可欠で、ユビキタス言語を用いて共通理解を形成します。
(3)ドメインモデルから業務のロジックを抽出し、コード化する
ドメインモデルが完成したら、そのモデルから業務のロジックを抽出し、実際のコードに反映させます。この段階では、モデルに従ってクラスやメソッドを設計し、ビジネスルールを実装します。
これにより、システムの動作がビジネスの期待に合致し、予測可能で信頼性の高いものになります。また、リポジトリを用いてデータアクセス層を抽象化し、ビジネスロジックとデータ操作の分離を図ります。
(4)継続的な見直し、改善
ビジネス環境や要件の変化に応じて、ドメインモデルや実装を適宜修正します。具体的には、定期的なレビューやリファクタリングを行います。ここでも、開発チームとビジネスエキスパートが密に連携し、新たな要件や変更点を迅速に取り入れます。継続的な改善により、システムは常に最新のビジネスニーズに対応し、競争力を維持できます。
まとめ
本記事では、ドメイン駆動設計について解説しました。
DDDは業務知識を中心に設計を進めるアプローチであり、ビジネスエキスパートと開発者がユビキタス言語によって緊密にコミュニケーションを取りながら開発を進めます。その結果、ビジネス要件とソフトウェアの不整合をなくし、開発効率および保守性が向上するなど、多くのメリットが得られます。
ビジネス要件は日々変化します。作成したドメインモデルはビジネス要件の変化に合わせて、継続的な見直しと改善が必要であることを忘れないようにしましょう。
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