2025年の崖とは、複雑化&老朽化した既存システムが稼働し続けることで大きな経済損失を招く可能性があることを示唆したものです。システムを刷新するために必要なコストと手間は莫大になるため、2025年の崖をいかに克服するかが国内企業の課題とされています。
経済産業省は、DX(デジタルトランスフォーメーション)を早急に推進し、爆発的に増加するデジタルデータを活用した競争力の確保する必要性を「DXレポート」の中で提示しています。DXを実現することで、デジタル企業へと改革、新しい価値観を創出し続ける企業へとシフトすることが期待されています。
本記事では、企業が2025年の崖に対応するために向き合うべき課題と、克服するためのシナリオについて解説します。
2025年の崖とは?
経済産業省は、2018年に『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~(※)』を発表しました。
2025年の崖とは、このDXレポート内で定義された言葉で、老朽・肥大化・複雑化・ブラックボックス化した、いわゆる「レガシーシステム」を使用し続けた場合に想定される企業の競争力低下や経済リスクを表したものです。
このあと詳しく解説しますが、多くの経営者がDX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性を理解しているものの実現に向かっていない要因のひとつとしてこのレガシーシステムが挙げられています。2025年には、21年以上稼働しているレガシーシステムが、企業のシステム全体の6割を占めると予測されており、これによってDXが実現できず、2025年以降に最大12兆円/年の経済損失が生じる可能性があると予測されています。
レガシーシステムを刷新しなければデータの有効な活用ができず、市場の変化に対応できなくなると言われています。また、それだけではなくシステムの維持管理費の高騰や、管理人材の不足、システムのサポート終了や、それに伴うセキュリティに関する問題など、さまざまな問題が存在しています。
(※)DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~|経済産業省
2025年の崖が生まれた背景
2025年の崖の大きな要因は、老朽化した基幹システムが利用され続けていることです。現在、多くの企業は、老朽化・複雑化した基幹システムを利用しており、今後も爆発的に増加するデータはそのような老朽化したシステムでは活用できず、グローバル化した市場においてデジタル競争力を失うとされています。
なぜ老朽化した基幹システムが利用され続けているのかについては、主に以下のような理由が挙げられます。
業務の最適化を優先したシステム構築
既存の基幹システムは、事業部ごとに最適なシステムを構築することが優先されました。そのためオーダーメイドで独立したシステムを構築することが多く、業務に合わせて個別にカスタマイズが多くなり、複雑なシステムになってしまいました。
また、オーダーメイドでシステムを作ることが多かったため、システムのノウハウがユーザー企業ではなく、受託開発したベンダー企業側に蓄積されてしまった点もブラックボックス化の要因になりました。
IT人材の不足/知識を持った人材の退職
企業の情報システムを支えていた人材が2007年ごろに定年退職を迎えました。いわゆる「2007年問題」です。そのため、属人的に蓄積されていたシステムのノウハウが喪失されたこともシステムのブラックボックス化につながりました。
現在はIT人材が減少傾向にあることも問題であり、少子高齢化社会の進行に伴い最新のIT技術に対応した人材確保も課題とされています。
また、多くの経営者はDXに対する重要性を理解しているものの、IT知識や理解が十分でない場合も少なくありません。長年使用してきたシステムを刷新するには時間もコストもかかり、利用している従業員の理解も得る必要があります。そのためシステムの移行について先延ばしにしてしまうこともあります。IT人材の不足と併せて、意思決定者のITに関する知識不足もボトルネックのひとつといえます。
システムの過剰なカスタマイズ
個別最適のシステム開発を続けた結果、法改正や業務改善の際にはシステムに都度パッチを適用したり、追加でカスタマイズをしたりすることで対応してきました。このような作業を繰り返してきた結果、全体最適のシステム構成からは遠くなってしまい、システムの改修や刷新を困難にしています。
複雑化・ブラックボックス化したシステムを維持するには、多くのリソースを消費する必要があるため、最新技術へリソースを集中することが困難になるのです。そして近年は、急速なデジタル技術の発展に伴って消費者ニーズは多様化しています。データとリソースを有効活用できない老朽化した既存システムでは、競争力が劣ることは明らかであり、グローバル化した市場で優位性を獲得することは困難なのです。
2025年の崖とDXの関係
DXの本質は、デジタル技術を活用したビジネスモデルへの変革によって新しい体系的な組織を構築し、新たな価値観を創出することにあります。2025年の崖の原因である老朽化したレガシーシステムにIT投資予算や人的リソースを使わざるを得ない状態では、DXはなかなか進みません。
2025年の崖を克服するためには、老朽化&複雑化した既存システムを速やかに刷新して、競争上の優位性を確立するためのDXを推進しなければなりません。経済産業省のDX実現シナリオによれば、2025年までに既存システムを廃棄、もしくは刷新によってDXを実現することで、2030年には実質GDP130兆円超の押し上げが可能と示されています。
なお、2025年の崖とDXは大規模なシステムを使う大企業だけではなく、中小企業や個人事業主も向き合うべき課題です。2025年の崖が起こす恐れがある経済への影響は、経営者だけではなく従業員や消費者にも及びます。2025年までに多くの企業がDXを推進してシステムを刷新させていく中、取引先企業と連携ができなければ企業の存続に関わります。
DXの詳細は、以下の記事で解説しています。併せてご覧ください。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?「2025年の崖」との関連性や推進ポイントまで解説
2025年の崖における課題
企業が2025年の崖における課題は、多岐にわたります。老朽化した既存システムを稼働させ続けることに端を発するさまざまなリスクが、経営面、人材面、技術面、グローバル化にどのような課題をもたらすか、具体的にご紹介します。
経営面の課題
既存の基幹システムの多くは事業ごと稼働しているケースが多く、事業で蓄積したさまざまなデータを経営資源として横断的に社内で活用できていません。
社内データをシームレスに連携できないシステムはブラックボックスと化し、重要なデータを塩漬けにしてしまっているのが現状です。多角的にデータを解析・活用すべき昨今のビジネスにおいて、こうした状態は致命的といえるでしょう。
ブラックボックス化したシステムの課題は、「データの統合管理の煩雑・複雑化」「障害対応など運用にかかるリソースの増大」「経営資源として活用できるデータ判別の複雑化」などが挙げられます。さらに、AIやビッグデータが重要視される昨今において、データを経営資源として有効活用できる体制を構築しなければ、市場競争からはますます遅れを取るでしょう。
また、DX推進で新たな業務システムを導入する際には、業務プロセスの大幅な変更を伴うケースがあります。システム以外にも新たな設備投資が必要になるほか、従業員が新たな環境に対応するための教育費用が必要になる場合があるのです。
人材面の課題
DXを推進する必要性を感じながらも具体的な施策を実行できていない多くの企業では、人材不足が大きな課題となっていると言われています。具体的には社内に育成を担える人材がいない、人材育成に割くリソースが不足している、といった課題がDX推進の障壁となっているようです。
人材面に大きな影響を及ぼしているのが、少子高齢社会です。ERPをはじめとする基幹業務システムに関わってきた人材の多くが高齢化し、定年退職によってメンテナンスに必要な技術が失われるとされています。
さらに、少子化のため日本国内の若手デジタル人材の育成が鈍化していることも大きな問題です。RPAやAIなど最新のデジタル人材の育成が十分ではなく、業界全体で人材不足に陥ってしまうことが予測されています。
こうした状況では、ベンダー企業のスキルに頼り切る結果につながってしまい、社内に技術とノウハウが蓄積されません。そして、外注を頼って必要以上のコストがかさみ、さらに経営悪化の道を辿ってしまうでしょう。
技術面の課題
ここまでご説明してきた通り、2025年の崖を引き起こす大きな原因は老朽化・複雑化した既存システムです。特に内部がブラックボックス化した既存システムは、新しい基幹システムへの移行自体が困難です。実際、多くの企業がITシステムに支払っている費用の内、およそ8割が既存システムの維持に使われているとされています。多くの企業が新しいITにシステムへの刷新の必要性を理解しながらも、現在問題なく稼働している既存システムに頼ってしまっている現状があるのです。
業務で使用する既存システムはシステム障害が発生した際の迅速な対応が求められます。しかし、ブラックボックス化してしまった既存システムであれば、今後障害を解消できるリソースが不足することは免れません。さらに、既存システムと連携する他の業務システムにも悪影響を及ぼす可能性もあり、ブラックボックス化した既存システムが業務品質の低下を招く恐れは十分に考えられます。
SAP 2025年問題(2027年問題)とは?
近年、多くの企業が基幹システム「SAP ERP」で業務を一元管理していますが、SAP ERPは2027年末にサポート期限が終了してしまいます。サポート終了に伴ってSAP ERPユーザーは「SAP 2025年問題(2027年問題)」への迅速な対応が迫られています。当初、このサポート期限終了は2025年末を予定していましたが、2020年2月にSAP社がサポート期間の2年延長を発表しました。
多くの企業で採用されているSAP ERPは、業務に合わせてカスタマイズが施され、新しいERPに移行する際の障害になっています。業務プロセスと深く結びついたSAP ERPをSAP ERP最新版「SAP Business Suite 4 HANA(S/4HANA)」や他のERPに移行するためには、膨大な工数とスケジュールが必要です。
さらに、業務プロセスと依存度が高いSAP ERPから新しいERPへの移行は、業務プロセスとビジネスモデルに変革が必要になる可能性が高いとされています。SAP ERPユーザーは2027年末のサポート期限終了までに現在のシステム全体を見直し、新しいERPへと移行することが早急な課題といえるでしょう。
SAP ERPについては、以下の記事でも解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
2025年の崖とSAP ERP 2025年問題|解決すべき企業の課題とは
グローバル化への課題
経営層が2025年の崖に対処するために複雑化&老朽化した既存システムの課題に取り組むことはもちろんですが、国内企業と海外企業におけるDXの目的意識の違いも認識する必要があるでしょう。
国内企業はDX推進の優先事項を「データの資本化・収益化」とする一方で、海外企業は「製品開発」や「顧客体験向上」の分野への関心度が高い傾向です。
また、サプライチェーンや製品・サービスを通じた顧客体験向上に関しても、国内企業と海外企業は目的意識に差がみられた項目です。国内企業はDXを「データを中心にしたビジネスモデルへの変革」と捉えていますが、海外企業は多様化した目的のためにDXを活用しています。
また、日本の2015年から2020年までのIT成長率は1.1%とされており、海外企業の5.0%と比較すると大幅に遅れをとっています。この格差を生み出す原因は国内企業と海外企業の意識の違いです。国内企業もビジネスモデルや顧客体験の改善など多様化する目的のためにDXを推進し、グローバル化するIT産業で競争力を高めていかなければなりません。
2025年の崖を克服するためには?
2025年の崖を克服するために必要な道筋が、DXレポート内の「DX実現シナリオ」で示されています。2025年の崖を克服するためには、DX実現シナリオを実行してDXを推進することがいかに重要であるかが示されています。
ユーザー側のDXシナリオでは「ブラックボックス化した既存システムなど技術的負債を解消し、人材・資金を維持・保守業務から新しいデジタル技術の活用へシフト」「データの活用を通じてスピーディーな方針転換やグローバル化に対応可能に」「デジタルネイティブ世代の人材を中心にした新ビジネスの創出へ」が挙げられています。
DX実現シナリオは2025年までにDXを実現した結果として、2030年の実質GDP130兆円超の押し上げの実現を予想しています。ここでは2020年までをシステム刷新:経営判断/先行実施期と位置づけ、以降2025年までをシステム刷新集中基幹「DXファースト期間」としています。そして、2025年までに経営戦略を踏まえたシステム刷新を経営の最優先課題として、業種・業態ごとの特性に応じた形で計画的なシステム刷新を断行することが提案されています。
DX実現シナリオで期待される効果と展望
DX実現シナリオではブラックボックス化した既存システムを解消し、データを活用できる本格的なDXの実行によって、あらゆるユーザー企業がデジタル企業へとシフトできるとしています。DX実現シナリオではDXを推進することで、以下にご紹介するような効果・展望が期待されています。
一つ目は、技術的負債を解消しつつ、クラウドや共通プラットフォームなど新たなデジタル技術を活用した結果、ビジネス上の投資効果が高い分野に資金を集中できることです。IT予算比率(維持費:価値向上)は2017年度の8:2から6:4に改善され、GDPに占めるITに投資額がおよそ1.5倍へと向上します。
そして、マイクロサービスの導入やテスト環境の自動化で、開発効率化やリリース作業の時間短縮化が可能です。サービスリリースや昨日追加に必要な期間は、数ヶ月から数日まで短縮されます。
その他にも、ユーザー企業とベンダーの人材分布率の改善、既存システムの刷新によるコストメリットの増加、デジタル技術を活用した新規市場開拓によるIT産業の成長などが期待されています。
DXを推進して2025年の崖を乗り切るためには?
DXは新しいシステムを導入することが目的ではなく、新しいデジタル技術で製品やサービスに変革をもたらすためにあります。そのためには、一部の事業や部門だけでなく全社的な協力が必要不可欠です。全社的にDXを推進するためには、経営者自らがシステムの現状と問題点を把握できる、適切なガバナンスが必要です。具体的には、明確な指標を策定し(見える化)、技術的負債の度合いや情報資産、既存システム刷新のための体制や実行プロセスなどの現状把握することが求められます。
なお、「見える化」についてはガイドラインの策定や診断スキームの構築が経済産業省によって提言されています。
そして、既存システムで属人化を促す要因になっていたベンダー企業との関係を見直し、IT人材の分布率を適正に近づけることも重要です。システム刷新の段階からユーザー企業はベンダー企業に要件定義を丸投げするようなことは避け、両社がパートナーシップを組んでDXを推進することが理想です。システム再構築やアジャイル開発に適した契約ガイドラインの見直しや、技術研究組合の活用を検討できる規定を設けることで、事業部門に実践的なスキルを持ったIT人材を育成・確保することが可能になるでしょう。
バックオフィス業務改善ならシステムインテグレータ
多くの企業で人手不足が大きな課題となっていますが、バックオフィス業務にはいまだに属人化した作業やアナログ業務が残っており、企業の成長と発展を阻む大きな壁となっています。
バックオフィスの業務プロセスを最適化することで、コスト削減や属人化の防止だけでなく企業全体の生産性向上にもつながります。
当社はERPをはじめとする情報システムの豊富な導入実績をもとに、お客様一人ひとりのニーズに合わせた最適な改善策を提案します。業務の洗い出しや問題点の整理など、導入前の課題整理からお手伝いさせていただきます。
バックオフィス業務にお悩みをお持ちの方は、お気軽に株式会社システムインテグレータまでご連絡ください。
まとめ
「2025年の崖」が迫っている中、DXの推進を含め、自社内の課題解決へ注力して取り組む必要があります。「どのようにDXを推進すべきか」「どのような組織を作るべきか」という点は、多くの企業が抱える悩みです。
DXを推進するための組織戦略やシステム戦略などについて詳しく解説した資料がございますので、御社の課題解決にぜひお役立てください。
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