変化の激しい市場に対応するために、S&OPに注目する企業が増えています。しかし、日本ではまだS&OPの成功モデルが多くないため、具体的にどのように取り組めばよいのかお悩みの企業も多いのではないでしょうか。
そこで、本記事ではS&OPの基礎知識や求められている理由、プロセス構築のポイントなどについて詳しく解説します。
S&OPとは?基礎知識と求められている理由
元々は海外で広まったS&OPですが、企業のグローバル化とともに市場が変化するスピードが上がり、日本国内でもS&OPの考え方を積極的に取り入れる企業が増えてきました。そこで、まずはS&OPの基本的な考え方や求められる理由を解説します。
S&OPの基礎知識
S&OP(Sales and Operations Planning)とは、日本語で「販売・操業計画」を意味する言葉です。経営や製造、販売をはじめとした業務部門全体が、社内の情報を可視化・共有できる環境を整えて、意思決定を速めることで、サプライチェーンを最適化する経営手法を表します。
S&OPの徹底によって納期遵守や在庫適正化を促進するとともに、コストの圧縮をはかり、利益目標を達成しやすくなる成果が期待できます。
S&OPの概念は日本でも少しずつ取り入れられ始めていますが、完成されたS&OPを運用できている企業は、まだ少数に留まっているのが実情です。
SCMとS&OPの違い
S&OPと同じ意味合いに捉えられやすい言葉としてSCM(Supply Chain Management)があります。
SCMとは、製品を製造するための原材料を調達する初期段階から、完成した製品が消費者の元に届くまでの一連のプロセスを管理し、サプライチェーンの効率化をはかるマネジメント手法のことです。SCMにおいて管理されるのは主に「モノ」であり、金額は含まれません。
一方のS&OPは、SCMと同様に原材料の調達から製品が消費者に届けられるまでのプロセスを管理する点では同じですが、「金額」を軸に管理するのが特徴です。この特徴から、SCMを発展させた形がS&OPであるともいわれています。
S&OPが求められている理由
S&OPが注目を浴びている背景には、近年、企業のグローバル化や収益性重視の考え方が広まっていることが挙げられます。
S&OPは、1988年にアメリカで生まれた考え方で、オリバー・ワイト社が初めて提唱しました。
従来に比べて変化の激しい市場で競争力を失わないためには、次々と移り変わり続けるトレンドや消費者ニーズを敏感に察知し、対応する必要があります。そこでSCMの「モノ」を中心に管理する考え方に「金額」を加えて、事業計画達成度を高めるために生まれたのがS&OPです。
S&OPのプロセス構築の5つのポイント
実際にS&OPに取り組む際は、事前準備をしないままやみくもに始めるのではなく、あらかじめ計画を立ててから実行に移すことが重要です。ここでは、S&OPに取り組むときの5つのポイントを解説します。
ポイント1. 事業目標を達成するための明確なシナリオ
S&OPの取り組みを成功させるためには、事業目標を達成するための明確なシナリオを準備する必要があります。まずは自社の現在の実力を冷静な視点で評価し、目標に到達するためにはどのようなシナリオが適しているのかを見極めなければなりません。
シナリオを作成する際は、シナリオごとに具体的な目標値を設けましょう。「なぜその目標値を設定するのか」の根拠も明確に示して、実現可能なシナリオを作成することが重要です。
ポイント2. グローバルに統合されたIT環境
シナリオを作成するにあたって、グローバルに統合されたIT環境の構築も必要不可欠です。正しい意思決定を行うためには、社内のあらゆるデータを可視化し、意思決定のために必要なデータを迅速かつ正確に得られる環境を整えなければなりません。
全社的に統合されたIT環境を構築できれば、経営層と製造現場がスムーズに意思疎通を図り、スピーディな意思決定を行えるようになります。また、整合性がとれたデータを参照することで、意思決定の精度向上にもつながります。
ポイント3. シナリオと実行計画との整合性がとれた評価指標
S&OPへの取り組みを成功させるためには、実現可能なシナリオの作成とともに、実行計画の評価指標との整合性チェックを徹底する必要があります。
優れたシナリオを作成できたとしても、事業目標と関係のない指標を設定してしまうと、目標到達に支障をきたすおそれがあります。自社の事業目標を達成するためにふさわしい指標はどれなのかを、慎重に判断しましょう。
代表的な指標としては、コストや売上などの財務指標のほかに、顧客や業務プロセスなどに関する非財務指標があります。
ポイント4. スピーディに意思決定を行うための明確な基準
S&OPにおいてスピーディに意思決定を行うためには、明確な意思決定基準を設けることも重要です。S&OPに取り組むにあたって、意思決定者は誰なのか、プロセスごとにどのような意思決定基準を設定するのかを、あらかじめ明らかにしておきましょう。
意思決定者と意思決定基準を明確に設定することで、意思決定のタイミングで「誰が・どのような基準で」判断するのか迷うことがなくなり、プロセスごとの意思決定が迅速になります。
ポイント5. 定期的な評価と見直し
S&OPの運用開始後は、定期的に評価・見直しを行いましょう。作成したシナリオと目標値や実行計画を評価して、課題や不足している部分があれば、都度改善を繰り返すことで、さらに洗練されたS&OPの実行につながります。
最初に作成したシナリオや意思決定基準は、市場の変化とともに適切ではなくなる可能性があります。そのため、定期的に見直しを行い、事業や市場の変化にスムーズに対応できる環境を整えることが重要です。
S&OPの精度を高めるために必要なこと
S&OPの精度をさらに高めるためには、販売計画や供給計画の見直しや、段階的な導入が有効です。ここでは、S&OPの精度向上につなげるための3つのポイントを紹介します。
1. 販売計画や供給計画の精度を上げる
S&OPを導入する前に、まずは軸となる需要予測や販売計画、供給計画の精度を高める必要があります。S&OPを導入する時になってから需要予測や供給計画を立てても、予測や計画の精度が低いと、S&OPの精度が低下してしまいます。
S&OPへの取り組みによって在庫の適正化や収益の最大化を実現するためにも、シナリオを作成する前に、大元となる需要予測や供給計画を見直し、精度を高めましょう。
2. 段階的に導入する
最初から全社的にS&OPに取り組もうとすると、関わる人数が増えて社内に浸透させるための難易度が上がり、途中で挫折してしまう可能性が高まります。まずは小規模な範囲だけでS&OPへの取り組みをスタートさせて、成果が出始めたら他部門に段階的に運用を拡大させていく「スモールスタート」が効果的です。
スモールスタートによって得られた成果が可視化されれば、S&OPに対する社内の意識も好意的になり、S&OPを全社に広げていくにあたって従業員の協力を得やすくなる効果も期待できます。
3. 適切なKPIを設定する
部門別に適切なKPI(重要業績評価指標)を設定し、自社の経営状況を正確に把握することも、S&OPの精度を引き上げるうえで重要です。
全社的な事業目標を達成するためには、各部門の「需要」「供給」「生産」に関連するKPIを設定する必要があります。しかし、初めから数多くのKPIを把握し、正確に管理・運用するのは現実的ではありません。まずは小規模な範囲で関連するKPIを管理し、段階的に拡大していく方法が有効です。
まとめ
企業のグローバル化に伴い、日本国内でもS&OPの考え方が取り入れられ始めています。S&OPを成功させるためには、目標を達成するためのシナリオ作成や意思決定基準の明確化のほか、適切なKPIの設定が求められます。
適切なKPIの設定には、自社に適した生産計画を作成し、最新のデータを取得できる環境を構築することが重要です。生産計画の最適化に向けてDXの推進をご検討中の方におすすめの資料もありますのでぜひご覧ください。
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