製造業における生産管理でしばしば用いられるTOC理論(制約条件の理論)は、ひとつの企業という狭い枠にとらわれず、サプライチェーン全体のパフォーマンス向上にも活用できます。この記事では、TOC理論の概要を示したうえで、TOC理論を利用した2種類の問題解決手法や、TOC理論導入の重要ポイントについて解説します。
TOC理論(制約条件の理論)とは?意味と基本的な考え方を解説
TOC理論(Theory Of Constraints)とは、「制約条件の理論」や「制約理論」とも呼ばれる、システムを制約するものに着目した改善手法です。ここでは、企業が経営を改善したり、メーカーが生産性をアップさせたりするための有効な手法となり得るTOC理論について、その意味や考え方を解説します。
TOC理論(制約条件の理論)とは
TOC理論は、イスラエルの物理学者エリヤフ・ゴールドラット氏が唱えた、生産管理・改善のための理論体系です。
この理論の対象となるシステムとしては、企業や工場のような組織からサプライチェーンのような集合体まで、さまざまなものが挙げられます。そして、どのようなシステムを選んだとしても、その中には全体のパフォーマンスを下げる根源的な要因となる制約条件が必ず存在します。この制約条件だけに集中して改善を行うことで、システム全体の業績改善や向上が期待できる、というのがTOC理論です。
TOCの考え方をシステムに導入して定着させることで、どのような規模の組織や集合体であっても、短期間かつ最小の変化で改善成果を上げられます。
TOC理論の基本的な考え方
TOC理論の基本的な考え方は、「業務やシステム全体のパフォーマンスは、一番の弱点である制約条件によって決まるため、制約条件となっている部分を改善し続ければパフォーマンスは上がる」というものです。
TOC理論を適用して改善を行う際の流れとしては、5段階集中プロセスなどのフレームワークを使って、制約条件を改善し続けるのが一般的です。TOC理論を適用した改善ではスループット、つまり時間あたりの生産量、処理量、獲得利益などを向上させることが最終目的となります。
TOC理論の5段階集中プロセスを利用した問題解決手法
TOC理論では制約条件を改善するためのプロセスとして、5段階集中プロセスと思考プロセスの2種類が用意されています。ここでは、5段階集中プロセスを利用した問題解決手法を解説します。
ステップ1:制約条件を見つける
最初にやるべきは、改善すべき制約条件が何かを見つけることです。業務やシステム全体の流れを見て、どこで最も流れが悪くなっているのかを探しださなければなりません。たとえば、製造業の生産ラインで考えてみると、生産ラインを製造プロセスごとに細かく分けて全体を見渡したとき、生産能力が最も低いプロセスが制約条件になります。
流れが滞る原因を調べていると、複数の要因が複雑に絡んでいるために、最優先で改善しなければならない制約条件をなかなか特定できないことがあります。そのような場合には、見つかった複数の要因に対して、ひとつずつ根気よく検証していかなければなりません。
ステップ2:制約条件を最大限に活用した方針を決める
制約条件が具体的に見つかったら、次はそれを解消する方法を考えます。このとき、制約条件の解消のために検討すべき主なポイントは、新たな資金や人材の投入を行わずに、どのようにすれば現状を活かして最大の改善ができるかという点です。
たとえば、特定の製造プロセスにおける作業員の能力不足が制約条件となっている場合には、「他部署にいる熟練者を異動させて、問題のプロセスにおける処理能力の向上を図る」といった具合に、制約条件を最大限に活用して方針を決定します。
ステップ3:制約条件以外をステップ2の決定に従属させる
ステップ3では、制約条件以外の部分をステップ2の決定に従属させて、方針を実行に移し、制約条件の解消を目指します。制約条件単体での問題解消が難しいときには、ほかの業務を制約条件に合わせる方法が効果的です。
たとえば、生産ラインの特定プロセスにおける業務量過多が制約条件であり、ステップ2で生産ラインの業務量を制約条件に合わせると決めたとしましょう。その場合には、すべてのプロセスで制約条件に合わせて生産量を減らし、制約条件のプロセスへ投入される量が業務量として適切になるよう調整します。
ステップ4:制約条件の能力を向上させる
ステップ4では、ステップ2・3で決めたことを実践し、現状でできることをすべてやりきったうえで、制約条件の能力向上について検討します。ここでは、さらなる生産性向上のために、設備や人材育成などへの資金投入を行っても構いません。たとえば、制約条件となっていた作業員の能力を、教育訓練の実施や作業員の増員により高めるなどです。制約条件の生産能力を底上げできれば、全体の生産能力も自然に上がるはずです
ステップ5:プロセスを繰り返し生産性を上げる
制約条件が解消されたことを確認したら、ステップ1に戻って新たな制約条件を探しましょう。ステップ4が完了しても、制約条件の解消度合いが目標に達しなかった場合には、惰性的な繰り返しにならないよう注意しながら、再度ステップ1からやり直します。
以上のような5段階集中プロセスを回し続けることで、ひとつずつ着実に制約条件が解消されていき、システム全体の流れの改善、ひいては生産性の向上を継続的に実現できます。
TOC理論の思考プロセスを利用した問題解決手法
次に、TOC理論のもうひとつの改善プロセスとして知られる、思考プロセスについても押さえておきましょう。思考プロセスでは、以下の3ステップで問題を解決していきます。
ステップ1:問題の本質を見極める
ステップ1では、パフォーマンスを悪化させている問題の本質を見極めます。パフォーマンスの低下を招いている根本的な原因が何かを突き止めることから始めますが、そのためにパフォーマンスに関わるすべての問題をあぶりだす必要はありません。
ここでは問題全体の構造を明らかにして、根本的な原因を探るために現状問題構造ツリー(CRT)を使用し、問題の背後に隠れている対立構造をはっきりさせるために対立解消図(CRD)を使用します。
ステップ2:解決策を検討する
ステップ2では、ステップ1で探し当てた根本的な原因となる問題への解決策を検討します。ステップ1の方向性で解決を図ることで、思ってもみなかった副作用が生じる可能性があるので、副作用対策についても考えなければなりません。
議論している解決策で本当に問題が解決するか、解決策を実行したときに起こり得る副作用にはどのようなものがあるか、副作用を防止するために何をすればよいかなどを検討します。そのためのツールとして、ここでは未来構造ツリー(FRT)を使用します。
ステップ3:実行計画を立てる
ステップ2で立てた解決策について、実行計画を策定する作業がステップ3です。立案した解決策を実行することで生じる可能性のある問題や障害を洗い出し、それらを解決・回避するための行動や順序を決めます。
障害や問題を乗り越えた状態を細かく検討するために前提条件ツリー(PRT)を用い、その検討結果に基づき解決策の実行計画を練るために移行ツリー(TrT)を使用します。
TOC理論の導入で重要なこと
TOC理論を導入するうえで重要なのは、制約条件の発見と解消です。そして制約条件を発見するためには、製造プロセス全体を把握できる表の作成が効果的です。
また、製造プロセス全体で最大の弱点となっている部分を発見するには、プロセスごとにスループットを定量化し、定量化によって得られた数値を可視化する必要があります。このような作業は、適切なツールを利用すればスムーズに行えます。
まとめ
TOC理論は、任意のシステムにおいて一番の弱点となっている制約条件に着目し、その部分を重点的に改善することで、システム全体のパフォーマンスを確実に向上させる理論体系です。TOC理論の導入にあたっては、制約条件の発見と解消が肝となりますが、生産スケジューラなどのツールを活用することでこれら作業をスムーズに行えます。
「Asprova」は、製造業の現場で起こり得る問題を可視化できる生産スケジューラです。Asprovaには負荷平準化機能が搭載されており、TOC理論を導入した場合にも、リソースを最大限に活かした生産計画を作成して、生産性の向上をサポートできます。TOC理論の導入と併せて、ぜひご検討ください。
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