製造現場で稼働する機械や設備に欠かせない制御装置が「PLC」です。PLCは接続した外部機器を自動化するために使用され、自動販売機から自動車工場の生産ラインまでさまざまなシーンで活用されています。機械や設備を効率良く確実に制御できるPLCは、生産効率向上やコスト削減に貢献します。
この記事ではPLCが行う機械や設備を制御する仕組みから、PLCを構成するハードウェア/ソフトウェアの詳細についてご紹介します。
PLCとは?
PLCは、Programmable Logic Controller(プログラマブルロジックコントローラ)の略称で、専用のコンピュータによって製造設備などのシーケンス制御を行うための装置です。
PLCは自動車や電気機器など製造ラインのFA(ファクトリーオートメーション)システムをはじめ、半導体製造から金属加工機械まで、さまざまな工場設備に用いられるほか、エレベーターなど身近な機械設備の制御にも利用されています。電磁リレーを利用した制御回路から発展したPLCは、プログラムによってシーケンス制御の変更と改良を可能にしました。
PLCによって製造設備の稼働を高度にコントロールできるようになったことで、サプライチェーンマネジメント(SCM)においても計画から実行、制御までを一貫して行えるようになりました。
PLCや機械設備の仕組みを理解するにはシーケンス制御とリレーシーケンス制御を正しく理解することが重要です。ここでは、シーケンス制御とリレーシーケンス制御を詳しくご紹介します。
サプライチェーンマネジメント(SCMについては)以下の記事で解説しています。
関連記事:SCM(サプライチェーンマネジメント)とは?必要性が高まる背景やシステムの構成要素をご紹介
シーケンス制御とは
シーケンス制御は電気信号を利用した自動制御の方式のひとつです。シーケンスには「順序」や「配列」などの意味があり、シーケンス制御は決められた順序に沿って機械を動作させます。
例えば洗濯機は給水、洗い、すすぎ、脱水の順序で動作します。この洗濯機の一連の動作がシーケンス制御であり、JIS規格では「あらかじめ定められた順序または手続きに従って制御の各段階を逐次進めていく制御」と定義されています。
リレーシーケンス制御とは
リレーシーケンス制御は、電磁リレーをスイッチに利用したシーケンス制御です。「有接点シーケンス」とも呼ばれ、電磁リレーのコイルが開閉する接点をスイッチに利用してシーケンス制御を行います。リレーシーケンス制御は、負荷容量の大きさや電気ノイズに強い特徴があり、電動機の制御などに応用されています。
機械的な接点の動きによって電気信号を制御する電磁リレーを用いることで、危険性の少ない低電流を信号にして、危険性の高い電流を遠隔から制御することが可能です。しかし、消費電力がほかの方式と比較すると大きくなる、機械的接点に開閉させるので動作が遅い、接点が消耗するといったデメリットもあります。
PLCのプログラミング方式
PLCに使われるプログラミングにはいくつか方式があります。
メーカーや機種などによって異なりますが、例として「ラダー方式」「ステップラダー方式」「フローチャート方式」「SFC方式」などが挙げられます。日本で最も使われているのはシンプルで設計者が理解しやすいとされているラダー方式です。ただしラダー方式には大規模で複雑な処理のプログラミングには不向きという弱みもあります。
PLCはどこで使われている?
電磁リレーの代替装置として開発されたPLCは、さまざまな自動機械の制御に用いられています。主に制御盤や機械内部に格納されているため、なかなか目にする機会はないでしょう。しかし、PLCはあらゆる分野の機械の制御を支えていて、工場設備だけでなく、家庭用家電製品にも使用されています。エアコンや食器洗浄機などの家電製品から、エスカレーターや自動ドアなどの設備、そして製造現場のFAシステムや発電所まで、PLCは効率的に機械を制御する必要があるさまざまな場面で活躍しています。
なかでもFAシステムの製造ラインや各種工作機械の自動制御技術はPLCによって飛躍的に向上しました。機械を制御する方法はPLCだけでなく、マイコンボード(組み込みボード)で行う方法もありますが、多くの製造現場ではPLCを使った制御方法が採用されています。
その理由は、PLCが機械を効率的に制御することに特化した装置だからです。あらゆる製造現場の制御装置には、耐久性、堅牢性、処理能力、信頼性、応答性などの性能、そしてプログラミングとメンテナンスの容易さが重要視されます。PLCは製造現場で使用される機器として優れた性能を発揮し、信頼性、堅牢性、そしてメンテナンスの容易さの点においても非常に高い性能を有します。
マイコンボードは安価でありながら信頼性や省スペース化した制御が可能ですが、メンテナンス面ではPLCが優れています。また、マイコンボードは基本的にユーザーが制御回路などの変更を行うことができませんが、PLCはユーザーがプログラミングによって制御回路を容易に変更することが可能です。PLCは単体でも複雑で柔軟な制御に対応する性能があるため、顧客の要望に応じて多様なカスタマイズが可能な制御装置として広く普及しています。
PLCの導入メリット
前述したとおりPLCは従来の電磁リレー回路から発展したもので、現在は身の回りにあるさまざまな機械を制御するために使われています。ここではPLCが普及した背景にある主なメリットを5つご紹介します。
制御盤の小型化による省スペース化
1つ目のメリットは、制御盤の小型化によって省スペース化できる点です。
リレー回路を使った制御ではリレー回線同士を直接電線でつなぐため制御盤が大きくなり、設置スペースを確保する必要があります。
一方でPLCはソフトウェアを使ってプログラムするため、必要なのはPLC本体の設置スペースだけとなり、省スペース化が可能です。
簡単に回路設計や動作変更ができる
回路の設計や動作の変更が簡単になる点もPLCのメリットです。
リレー回路による制御の場合、回路を設計する際に電磁リレーや電子タイマーなどの設置が必要となり、動作変更時には機械を停止して配線をつなぎ直す必要があります。PLCであれば、リレー回路方式で電磁リレーや電子タイマーを複数設置するようなシーケンスでも、ソフトウェアのプログラムに命令を入力するだけで実現できます。動作を変更する場合も、機械を動かしながらプログラムを変更するだけで済み、設計作業が簡単できるようになります。
生産効率を向上できる
前述したように、リレー回路を使った制御では電磁リレーや電子タイマーの設置や配線など手間がかかってしまいます。
これに比べてPLCは回路設計や動作変更が簡単になり、ソフトウェアのプログラムを変更する際に機械を止める必要がありません。回路設計にかかる工数を大幅に削減し、さらに生産性を維持しながら動作の変更もできるため、生産工程の効率性が上がる点もメリットの一つです。
故障の発生率が低い
複数の電磁リレーや電子タイマーを電線でつなぐリレー回路は部品の数だけ電気故障の発生率が高くなりますが、それに比べてPLCは使う寿命部品がはるかに少ないため、機械の保守性を向上させることができます。まったく故障がないわけではありませんが、故障の発生率が格段に低くなる点は製造現場において大きなメリットです。
コストの削減につながる
5つ目のメリットはコストを削減できる点です。PLCでは、電磁リレーや電子タイマーなどの電気制御機器が必要ないこと、回路設計・動作変更の工数を削減できること、機械動作中に動作変更を行えること、故障発生率が低くなることなどから、リレー回路方式に比べて大幅にコスト削減できます。
PLCの種類
PLCの内部構造は機能と役割で分けられていて、主に以下のような機能で構成されています。
- 入力モジュール:スイッチやセンサーから情報を入力する
- 演算部:入力された信号を演算する
- メモリ部:プログラム及びデータを格納する
- 出力モジュール:信号を機器に出力する
- 電源モジュール:各部へ必要な電力を供給する
そして、PLCは構造の違いから上記の機能をパッケージした「小型ブロック式」と、機能ごとに各部が独立した構成の「ビルディングブロック式」に大別できます。ここからはそれぞれのPLCの仕組みとメリット・デメリットをご紹介します。
小型ブロック式(パッケージタイプ、コンパクトタイプ)
小型ブロック式は各機能が一体化されたPLCです。
仕組み
基本機能の入力モジュール、演算部、メモリ部、出力モジュール、電源モジュールが一体化した構造です。小型ブロック式は入出力ユニットが一体化されているため、電源を接続すれば使用できます。パソコンのプログラミング支援ツールをPLCに接続してプログラムを書き込み、入出力端子に各機器を接続すれば制御動作の実行が可能です。
メリット・デメリット
小型ブロック式は一般的に後述するビルディングブロック式よりも安価なことがメリットです。各ユニットを一つひとつ選定し購入する手間を削減できるため、小型ブロック式のPLCは導入にかかるコスト抑えることができます。そして、アナログ信号を必要としない場合や入出力が10点程度の場合、仕様を検討する必要がなく、設計に組み込みやすい点も大きなメリットです。
一方で、拡張性と性能に関してはビルディングブロック式の方が優れています。そのため、小型ブロック式は大規模な制御には不向きとされています。
ビルディングブロック式(ブロックタイプ)
ビルディングブロック式はPLCを構成する各ユニットが独立しており、仕様に応じてユニットを組み合わせ使用するPLCです。
仕組み
基本機能をパッケージ化した小型ブロック式とは異なり、ビルディングブロックは必要な機能のユニットを個別に追加して、生産工程に必要な機能をカスタマイズできます。入出力ユニット、電源ユニット、演算ユニットなどの基本ユニットのほか、イーサネット通信やサーボモータ制御などの特殊ユニットも存在します。ビルディングブロック式は、複雑で大規模な制御に用いられることが多く、さまざまな製造現場で使用されています。
メリット・デメリット
ビルディングブロック式のメリットは拡張性と応用性の高さです。例えば入出力端子が不足したとしても、新たに入出力ユニットを増設して入力端子を追加できます。さらに、増設ベースを追加接続すれば、大規模な制御システムに拡張することも可能です。
一方で、小型ブロック式と比較すると高価格になる、各ユニットの選定に知識を要することなどがデメリットとして挙げられます。
しかし、その分小型ブロック式よりも高機能・高精度なので、複雑な制御や応用性が求められる場面ではビルディングブロック式の方が適しているでしょう。
PLCの選び方
PLCを販売している主なFA機器メーカーとしては、国内では三菱電機やオムロン、キーエンス、海外ではRockwellやSiemensなどが挙げられますが、メーカーや機種によってシステムの構成も処理能力も異なります。ここではPLCの選定基準を6つご紹介します。
選び方1:形式
前項で紹介したように、PLCの種類には主にパッケージタイプとビルディングブロックタイプがあります。
パッケージタイプはコンパクトタイプとも呼ばれており、PLCに必要な装置が本体に入っています。比較的安価で小型なため、予算や設置スペースが限られている場合におすすめです。
ビルディングブロックは入力部や出力部が独立しているタイプで、PLCの構成を自由に変更できる拡張性の高さが特徴です。
また、近年はソフトウェアタイプと呼ばれるものも販売されています。PLCの本体からソフトウェア部分が切り離されており、PCとPLC本体にインストールして使うため本体を乗り換えても使える点がメリットです。
選び方2:I/Oユニット
I/O点数とは、接続出入力機器の数のことです。PLCを選定する際は、機種の最大入出力点数を確認しておく必要があります。導入後に入出力機器が追加されることも考慮して、想定よりも最大点数が多いユニットを選ぶことをおすすめします。
選び方3:特殊ユニット
近年、製造現場のDXが進んでいますが、ロボットやIoTデータ収集プラットフォームと接続するためには、PLCに特殊なユニットやプロトコルが必要になる場合があります。OPC UAといった一般的なプロトコルが使われることもあれば、クラウドシステム固有のプロトコルが使われるケースもあります。いずれの場合も対応するユニットを用意する必要がある点を留意しておきましょう。
選び方4:モーション制御ユニット
モーション制御ユニットとは、モーターを使った位置制御や速度制御を行うPLCの拡張ユニットです。この制御に使われるパラメータは、制御対象の特性にあわせて適切に設定されていないと機器の振動や故障につながる可能性があるため、メーカーによってパラメータの自動調整や振動抑制といった機能が搭載されています。制御の性能を重視する場合はPLC選定時にも注意する必要があります。
選び方5:処理能力
PLCの処理能力は、プログラムを一巡するスキャンタイムや、プログラムや各種データが書き込まれるメモリの容量によって判断します。プログラムのステップが多い場合は特に、スキャンタイムが必要な処理時間に収まるかが重要になります。処理速度に不安がある場合は評価機で検証するといいでしょう。
選び方6:保守性・メンテナンス
PLCを選定する際には、機能面だけでなく導入後の保守・メンテナンスについても考慮することが重要です。現場における機器の故障・停止は製造業にとって大きなリスクと損失につながります。メーカーによるサポート体制や、海外に工場がある場合は現地のサービス内容も確認しておくといいでしょう。PLCは長期利用を想定し、保守とメンテナンスを含めて検討することをおすすめします。
PLCに必要な言語(プログラム)は?
先述のとおりPLCはプログラムを変更すれば機械の動作をカスタマイズできることが特徴です。プログラムはPLCメーカーから提供されるプログラミング支援ソフトウェアを使って作成し、ソフトウェアを使ってPLCに書き込む方法が一般的です。
PLCのプログラミング言語は各メーカー独自の言語が利用されていた時代があり、基本が同じ方式であってもメーカーごとに仕様が異なるため、プログラム言語が流用できないことが課題でした。現在、各メーカーのPLCはIEC(国際電気標準会議)発行の「IEC61131-3」で定義された、5種類のプログラム言語の採用が増加しています。
ここからは、「IEC61131-3」で定義された5種類のプログラム言語の概要をご紹介します。
LD(ラダー・ダイアグラム)
LD言語は論理回路を記述する方式のプログラム言語で、国内メーカーで最も使用率が高い言語です。ほかのプログラム言語と異なり、リレーシーケンス制御を仮想的に表現したものがベースになっています。そのため、リレーシーケンス回路図の知識がある技術者が理解しやすい、習得しやすいという点で優れています。
しかし、理解しやすいとはいえ、ある程度の知識と経験は必要です。三菱、日立、キーエンス、オムロンなど、各メーカーが自社製品向けのLD言語プログラミングツールを提供していますが、これはメーカーや機器に完全な互換性がないためです。また、同メーカーの製品だとしても型番の違いで記述が異なる場合があり、プログラム移植の際には既存プログラムの解読能力が求められます。
FBD(ファンクション・ブロック・ダイアグラム)
FBD言語は可読性が高いグラフィック言語で、ファンクション・ブロックの組み合わせで順序ロジックを作成、電子回路設計に近い感覚でプログラムを記述します。ファンクションブロック左側に入力パラメータ、右側に演算結果を置く形でデータの流れが理解しやすい利点からPLCで利用されるケースが増えています。
FBD言語は作成したファンクション・ブロックを流用しやすい点が特徴で、一度作成したファンクション・ブロックは再びプログラミングする必要がありません。効率的なプログラミング作業を実施できることは、FBDの魅力といえるでしょう。
ST(ストラクチャード・テキスト)
ST言語はテキスト形式でプログラムを作成する高級言語です。数値計算向き言語のひとつで、LD言語と比較すると論理式などの一般的な数式を使って記述します。
ST言語を使ったプログラムには全体をST言語だけで記述する方法のほか、制御にLD言語を使用しつつ数値計算にはST言語で記述する方法も可能です。また、記述方法が標準化されているST言語は、異なるメーカー間でもプログラム流用しやすいという特徴があります。
SFC(シーケンシャル・ファンクション・チャート)
SFC言語はシーケンス制御を実行するための歩進制御を簡易的に記述できるグラフィック言語です。製造ラインなど状態遷移を伴うプログラムを作成する際に向いていますが、状態遷移を伴わない場合はほかの言語の方が優れているため、主要な処理はSFC言語で作成して計算処理をLD言語やST言語で作成する方法が望ましいとされています。
ちなみに、SFC言語自体はデータ入出力や演算を行わないことから、正確には言語ではなく要素として定義されています。
IL(インストラクション・リスト)
ILはリスト形式で命令を記述する方法で、マイコンのアセンブラ言語に相当するものです。プログラムの小型化や処理速度向上に優れた方法ですが、ほかの言語と比較するとプログラムの生産性やメンテナンス性に劣るとされています。また、ハードウェア性能の向上がしていることもあり、ILが使用されるケースは減少傾向にあるようです。
まとめ
今回は、製造現場の機械や設備の制御に欠かせないPLCの仕組みや言語についてご紹介しました。
PLCを選ぶ際のポイントは、制御する機械や製造ラインの規模を考慮したうえで決定することです。制御する機械によって最適なPLCの種類や、必要な機能・性能は異なります。近年は超小型化したものや応答性を高めたものなど、各メーカーから多種多様な製品が販売されていますが、必要な機能と性能をもとに最適なPLCを選定するよう心がけましょう。そして、ハードウェアだけではなくソフトウェアにも注目し、プログラムの生産性にも注目すべきです。今後はIT分野との連携がますます進むため、制御設計だけではなく幅広い視点から製造現場の更新を試みることが重要です。
また、製造工程をより効率化するためには、生産スケジューラの導入も欠かせないでしょう。
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