本記事では「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」の概略や構成、OCI・AWS・Azureとのサービス比較について解説します。OCIの導入メリットや成功事例も併せてご紹介しますので、導入を検討している企業担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
Oracle Cloud Infrastructure(OCI)とは?
「Oracle Cloud Infrastructure(以下OCI)」とは、Oracle社が提供するパブリッククラウドサービスで、50を超えるサービス群を統合しています。Oracleクラウドと略して呼ばれることもあります。OCIはIaaSとPaaSの両提供により、多種多様なサービスを利用できます。お客様のデータセンター内に設置することも可能で、クラウドサービスのために自社サーバーを構築する必要がありません。これまで多くの企業が使用してきたオンプレミスのよさを残しつつ、柔軟性のあるクラウド環境を構築できる、次世代のパブリッククラウドサービスといえます。
オンプレミスからクラウド移行がスムーズ
OCIはパブリッククラウドサービスながら、Oracle社のオンプレミス製品と同じ環境が用意されています。近年、オンプレミスからクラウドに移行する企業が増えていますが、環境が変わることで使える技術の違いに苦労するケースも少なくありません。
Oracle社のオンプレミス製品ユーザーであれば、OCIのクラウドサービスに移行しても使い方が変わらないため、双方向に移植しやすいでしょう。自社のデータセンター内にクラウド環境を構築し、Oracle社が管理・運用を行うため、堅牢なセキュリティと既存システムとの連携を実現できます。
柔軟性と拡張性
小規模な仮想マシン環境から、高い性能が求められるベアメタル環境まで、企業の規模やビジネス要件に合わせて選べます。大規模ワークロード向けの高速サーバーとストレージによるビックデータ対応が可能で、コストパフォーマンスにも優れます。オンプレミスをクラウドに移行する場合も同様です。
ストレージのクラウドサービスも、ビックデータ保管に最適な超低価格アーカイブ、オンプレミスのバックアップに最適な業界準拠の汎用オブジェクト・ストレージ、コンピュート・クラウドサービスと組み合わせられる高速ストレージがそれぞれ用意されています。
高性能・高品質
高速ストレージを標準採用し、ネットワークやCPUのオーバーサブスクリプションのない安定した帯域と性能により、各階層間で帯域不足が発生しないネットワーク接続形態を実現します。少ない遅延でセキュリティを確保するために、専用の高帯域でフラット・ネットワークを構築するなど、盤石な基盤が整えられています。データベースは、高度な人工知能と最新の機械学習(ML)アルゴリズムを使用した、次世代の自律型です。
高可用性
業務の遂行に欠かせないシステムは24時間365日稼働することが前提で、災害やシステムトラブルによる停止や誤作動があってはなりません。OCIはシステムトラブルや障害の影響を受けないよう、独立したActive Directoryを設置し、近いエリア間を高速ネットワークで接続するため、クラウド基盤の高可用性を実現します。
Oracle Cloud Infrastructureの構成
OCIは、IaaSとPaaSの2つのサービスで構成されています。それぞれのサービスについて詳しく解説します。
IaaS
「IaaS(イァース)」とは「Infrastructure as a Service」の略で、システム稼働に必要な仮想サーバーなどの機材や、ネットワークなどのインフラをクラウド上で提供するサービス形態のことです。従来のホスティングサービスとは異なり、サーバーを利用する際、ハードウェアのスペックやOSを自由にカスタマイズし、運用コストを下げつつシステムの拡張が可能です。
OCIのIaaSは、目的に合わせてストレージや高速・高セキュリティのネットワーク、可用性を実現し、オンプレミスからクラウドへの移行を円滑化します。さらにIT基盤のコアとなる機能を備えており、ビジネスに求められる即応性を実現したインフラを、低コストで手間なく構築できます。また、世界初の自律型データベースで、稼働・修復・保護を自己管理するため、ヒューマンエラーの排除が可能です。
IaaSでは、ほかにも「Google Compute Engine」「Amazon Elastic Compute Cloud」などがありますが、OCIは他社と比較して最新リリースのコストパフォーマンスが非常に高くなっているのが特徴です。
PaaS
「PaaS(パース)」とは「Platform as a Service」の略で、アプリケーションを稼働させるハードウェアやOSなどのプラットフォームを、クラウド上で提供するサービス形態のことです。エンドユーザーにクラウド上でソフトウェアサービスを提供するように、プラットフォームを規模の大きなデータセンターに用意し、外部ネットワークに開放するため、企業ユーザーの開発者などがクラウド上で利用できます。
PaaSを利用すれば、OSやミドルウェアの管理は必要ありません。IaaSによりサーバーやネットワークインフラも整備されているため、開発者は低コストでスピーディーなシステム開発が可能です。PaaSの代表的なサービスとしては、「Google App Engine」や「Microsoft Azure(以下Azure)」などが挙げられます。
OCIのPaaSは、ビジネスに必須のデータウェアハウスやトランザクション・アプリケーション、ビックデータ分析まで、データ管理のあらゆるニーズに対応できます。モバイル対応に必要な画面実装や、エンタープライズ・グレードのブロックチェーンなど、迅速なアプリケーション開発と立ち上げを支援するフォームが揃っています。
また、オンプレミス・クラウドを問わず迅速なID・アクセス管理が行えるうえ、マルチクラウドサービスの利用監視とガバナンス、機械学習技術の活用によりセキュリティも強化されるため、運用管理の効率化が可能です。
OCI、AWS、Azureとのサービス比較
OCIと、ほかの代表的なパブリッククラウドサービスであるAmazon Web Services(以下AWS)やAzureとでは、一体どのような違いがあるのでしょうか。セキュリティや料金など、サービスの項目ごとに比較してみましょう。
ネットワーク・コンテンツ配信
○AWS
仮想プライベートクラウド(VPC)・負荷分散サービス(Elastic Load Balancing)・Amazon Route53により、ドメイン名と仮想サーバーやクラウド管理のDNSとの紐づけが可能です。コンテンツ配信サービス(Amazon Cloud Front)によってトラフィックを分散し、業務処理への影響を防ぎます。
○Azure
仮想プライベートクラウド(VPC)・負荷分散サービス(Cloud Load Balancing)・Azure DNSにより、ドメイン名と仮想サーバーやクラウド管理のDNSとの紐づけが可能です。コンテンツ配信サービス(Azure CDN)によってトラフィックを分散し、業務処理への影響を防ぎます。
○OCI
仮想クラウドネットワーク(VCN)・負荷分散サービス(Load Balancing)・OCI DNSにより、ドメイン名と仮想サーバーやクラウド管理のDNSとの紐づけが可能です。トラフィック管理機能はOCI DNSに付随します。
コンピュートリソース
○AWS
仮想マシン(Amazon EC2)はAPIにより、EC2の複数モデルを最適化します。ECSによりコンテナ環境も最適化されるほか、EC2 P3は次世代汎用GPUに対応しています。
○Azure
仮想マシン(Compute Engine)を使用し、Google GPUで高い画像処理能力を有しています。コンテナ管理はオープンソースシステム「Kubernetes」を使用します。
○OCI
画像処理能力の高いGPUで仮想マシン(Virtual Machines)を使用し、ベアメタル・コンピューティングによる大容量データの高速処理が可能です。コンテナ管理はKubernetesを使用します。
ストレージ
○AWS
Amazon EBSはさまざまなボリュームタイプで、ワークロードのストレージパフォーマンスとコストを最適化します。
○Azure
ファイルや性能別に4種類のブロック、オブジェクト・ストレージ、メッセージングサービスが利用できます。
○OCI
オンデマンドのローカルやオブジェクト、ファイル、高速IOPSブロック、アーカイブ、安全なデータ転送サービスなど、クラウドストレージ・オプションが一貫した低コストで利用できます。
セキュリティ
○AWS
Nitro Systemにより、多くの仮想化機能を専用ハードウェアやソフトウェアにオフロードし、セキュリティを向上させています。
○Azure
コントロールとサービスを組み込むことで、IDやデータ、ネットワーク、アプリのセキュリティを簡素化しています。
○OCI
ハイブリッド・データセンター全体で一貫したセキュリティを確保します。
データベース
○AWS
リレーショナルデータベース(RDB)のOracle Database/PostgreSQL/MySQLにそれぞれ対応しています。
○Azure
リレーショナルデータベースのMySQL/PostgreSQLに対応しています。
○OCI
リレーショナルデータベースで世界一のシェアを持つOracle Databaseを、もっとも安く使用できます。NoSQLやインメモリキャッシュ、ネットワーク入出力も他社より非常に優れています。
料金
○AWS
アウトバウンド通信料が高額になりがちで、Private subnetのNAT GWに割高感があります。
○Azure
プライベートクラウドの回線利用料がほかのクラウドサービスより割高と言われています。
○OCI
アウトバウンド通信料は毎月10TBまで無料で、仮想サーバーやストレージも低コストで利用できます。
Oracle Cloud Infrastructureを導入するメリット
OCIを導入すると、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか?AWSやAzureなどと比べて優位性がある点を中心に解説します。
クラウド環境への迅速な移行
従来であれば、既存のオンプレミスをクラウドへそのまま移行しようとすると、要件がマッチしないケースがありました。結合するデータの種類やフォーマットへの理解が足りず、あとからデータの変換・削除・修正などを行うのでは移行に時間がかかるため、移行前に既存オンプレミスの要件の洗い出しが必要です。また、事業部門ごとに先行して社内システムをクラウドに移行すると、他部門との連携がしづらく、管理も行き届きにくくなります。クラウドのメリットを十分活用するには、既存のオンプレミスを全社で計画的に移行させなければならず、決して簡単ではありません。
OCIであれば、ベアメタル・コンピューティングサービスやネットワーク・トラフィックの分離などにより、オンプレミスからクラウドへの移行をスムーズに行えます。さらに自律型データベースやデータサイエンスツール、クラウドの利点を最大限に活用した開発ツールを利用することで、移行したアプリケーションからイノベーションを生み出すまでの時間短縮も可能です。
圧倒的コストパフォーマンス
OCIは、既存のオンプレミスアプリケーション用に、より高いパフォーマンスと低コストで簡単に移行できるよう構築されています。AWSやAzure、Google Cloud Platform(GCP)など、他社のパブリッククラウドサービスより低価格で高いコストパフォーマンスを発揮します。たとえば、アウトバウンド帯域幅コストはAWSの約1/4、HPCコンピューティング・コストは約44%の低料金です。
汎用コンピューティングの機械学習開発環境用の管理ワークステーションは、コストパフォーマンスが3倍以上優れています。ブロックストレージでは、高速データの読み書きができるIOPS性能がAWSの20倍ながら、半分以下のコストで提供されています。OCIを活用することで、さまざまなクラウド運用コストの削減ができるため、コストカットを目指す企業におすすめです。
豊富なラインナップ
OCIはオンプレミスやクラウドへの移行、画面の描画処理に最適なGPUを活用した高いパフォーマンスのコンピューティング、コンテナやサーバーを使用しないフレームワークを基盤としたクラウドネイティブまで、多種多様なワークロードに対応します。サービスラインナップの豊富さにより、自社の基幹システムをオンプレミスからOCIのクラウドに移行する企業も増えています。
ワークロードが安定した基幹システムは一般的に、クラウド移行によりトータルコストが上昇するケースが少なくありません。その中でもコスト削減が見込めるOCIは、コストパフォーマンスの高さを証明しています。利用料は日本円での支払いに対応し、クレジットカード以外に請求書払いも可能です。支払い方法を選べる点も、日本企業にとって使いやすいサービスといえます。
Oracle Cloud Infrastructureの成功事例集
OCIは多くの日本企業や団体で導入されています。導入目的を「既存システムの移行・拡張」「新規導入・展開」「自社開発・検証・分析」の3つに分け、それぞれの成功事例をリストアップして簡単にご紹介します。
既存システムの移行・拡張
○アイデム
Web求人広告のデータ分析のため、Oracle Database Cloud Serviceを採用
○アズワン
Oracleの自律型データベースで在庫データ提供をリアルタイム化し、基盤を強化
○NTT西日本
地域創生クラウドの拡大を支える基盤として、Oracle Cloud@Customerを採用
○JTB
海外旅行業務のシステム基盤にOracle Cloud@Customerを採用
○楽天カード
ビジネスの加速と急成長を盤石にするため、Oracle Cloud@Customerを導入
新規導入・展開
○朝日新聞社
AIによる見出しの自動生成ツール構築のため、OCIを導入
○愛媛銀行
お客様対応のチャットサービスをOCIのモバイル開発クラウドで構築
○東京ガスiネット
ガス・電気のお客様向けチャットボット・サービス提供基盤をOCIで構築
○統計センター
OCIを活用し、国勢調査などの統計データをオープンデータ(LOD)として公開
○一橋大学
小中高の統計教育に使用する「基本統計量に基づいた度数別数値パターン検索」に、OCIの自律型データベースを活用
自社開発・検証・分析
○NTTデータ
グループの開発環境にOCIを導入し、AIやIoTなど先進テクノロジーと結びつけ、新しい価値創造を支援
○損保ジャパン日本興亜
フィンテックやデジタル技術の新サービス導入のため、OCIのJavaクラウドサービスによる検証環境でJavaアプリを開発
○外為どっとコム
OCIによりFXシステムの安定稼働とサービス品質の向上を実現
○関西電力
Oracle Real Application Testing(Oracle RAT)で約23,000のSQLをすべて事前検証し、本番稼働後の性能トラブルを防止
○トヨタ自動車
Oracleのクラウド型データ可視化サービスで、小型EVカーシェアリングサービスの利用動向を分析
まとめ
Oracle Cloud Infrastructureは、IaaSとPaaSを提供するパブリッククラウドサービスです。クラウド環境へ迅速に移行できるうえ、圧倒的な低コストとサービスの豊富なラインナップから、運用コストを削減したい多くの企業や団体で導入されています。
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