貿易という言葉は、国際取引に関わっているビジネスパーソンや現場の方ではなくても、日々のニュースで耳にする機会も多いのではないでしょうか。貿易とは、海外と商品やサービスを売買することをいい、昨今においてはサービスの多様化から拡大しつつある業界です。
この記事では貿易の概要について、国内取引との違いや貿易の流れ、日本と世界の貿易の動向を解説します。
貿易とは
貿易とは、海外の相手との間で行う商品やサービスの売買取引のことです。商品やサービスを海外に売り出すことを「輸出」といい、また商品やサービスを海外から買い入れることを「輸入」といいます。二者間での貿易のほかに、輸入した商品やサービスをさらに別の国・地域に転売する「三国間貿易」という形態も存在します。公正かつ双方に利益がある貿易取引を成立させるためには、「輸出」および「輸入」の質と量が釣り合っていることが重要です。
輸出
輸出は、自国の商品やサービスを国外の市場へ出して販売する貿易方法です。輸出を成功させて世界に販路を広げていくためには、現地における十分信頼できる提携先を選定したり、その商品やサービスに関する法律や規制を認識したりしなければなりません。
国内の優秀な商品やサービスを世界に向けて売り出していくことによって、国内だけのビジネスでは得られなかった巨大な市場へとアプローチできます。昨今においては、電子商取引(EC)による輸出事業を行う会社も多くなっているのです。
輸入
輸入は、外国(海外)の商品やサービスを国内の市場に受け入れて販売する貿易方法です。外国の優秀な、あるいは新奇で面白い商品やサービスを国内の市場で売り出すことによって、ビジネスの新しい可能性が開ける場合もあるでしょう。一方、品質の担保については注意する必要があります。
国内取引と貿易の違い
前述の通り、貿易とは海外との売買取引です。では、国内取引と貿易とでは具体的にどのような違いがあるのでしょうか。ここでは5つの違いを紹介します。併せて、違いがあることによって発生する問題点についても解説します。
国・言語・文化が異なる
国によって、通関手続きや貿易を管理する法制度はさまざまです。国が異なれば、使用する言語も異なります。言語が異なるとコミュニケーションがうまくできずに、誤解を招いてしまうリスクにつながるでしょう。そのため、海外のビジネスパーソンとの間では、いずれかの国の言葉、あるいは事実上の国際共通語である英語を利用することになります。
言葉が通用したとしても、ビジネスに関する文化が異なるという問題も発生します。商慣習やビジネスに対する思考方法も、一意的に定まるわけではありません。
危険を回避するためには、口頭だけではなく必ず書面で、交渉とその結果の内容を記録に残し、双方で細かく確認を入れる作業が不可欠です。ここでいう書面とは、あくまでも信頼性が十分に保証されているメディアのことを指し、紙でも電子でもどちらでも問題ありません。交渉成果は、契約書の文字に反映させます。日本人同士では書かないような内容までも、国際貿易交渉においては言語化して記録することが重要です。
なお、日本および相手国の輸出入に関連する法規制は、必ず確認しましょう。相手国によっては、特別な許可が求められたり、その国が定める基準に当てはまらないと通関を拒否されたりすることも考えられます。加えて、輸入した商品やサービスを日本国内で販売するにあたっては、販売に関連する日本の法規制も考慮する必要も出てきます。
特に、発展途上国との間で取引する場合、紛争など政治的な事情によって、取引に問題が生じることもあるでしょう。例えば為替送金がストップしてしまったり、輸出入が突然できなくなってしまったりすることです。こういったリスクを低減させるために、関係各国の政治・経済・社会などの最新情勢はこまめにチェックしておく必要があります。また、株式会社日本貿易保険などから発売されている「貿易保険」というものがあります。日本企業が行う海外取引において、輸出不能や代金回収不能といったリスクをカバーする保険になりますので、こちらに投資をしておくことで、リスクのある国や地域との貿易取引でもある程度安心できるかもしれません。
取引通貨が異なる
為替レートの変動リスクがあることから、取引通貨の違いも大きな問題となります。自国の通貨、すなわち日本円ではない通貨による取引では、為替の変動リスクは非常に重要視されています。
昨今の急激な円安など、外国為替相場はいつどのように動くのか予測が困難です。この危険を回避するためには、未来の特定の期日に特定の為替レートで売買する「為替予約」で契約する方法が効果的でしょう。
取引相手の信用度が測りづらい
特に相手が外国の際には、本当に信頼して取引できるのか測りづらいことも問題の一つでしょう。国際貿易では、取引先と直接顔を合わせることは頻繁にはできません。そのため、経営状態、生産能力、実績、誠実さなど、どれくらい信用できるのかを測りにくいのです。
また、契約内容を誠実に履行してくれるのかどうかの信用度合いについても見極めにくいのが現状です。この場合の対策として、信用調査機関を探して利用する方法があります。信用調査機関には、米国のダン・アンド・ブラッドストリート社や、東京商工リサーチ、日本貿易振興機構(ジェトロ)などが利用できます。
輸送距離が長い
海外との取引においては、輸送に必要な距離が長大なため、かかる時間も多大なうえに、事故や事件による商品の損傷や変質のリスクも少なくないでしょう。
輸送上のリスク低減のためには、貨物海上保険の利用をおすすめします。貨物海上保険は条件によりますが、CIF(運賃保険料込み条件)価格に10%の希望利益を加算した金額を限度として、保険金支払いを受けられます。
商品の受け取りと代金の支払いに時間差がある
商品の輸出入貿易においては、基本的に受け取りと代金支払いが同時にできません。輸出において後払いした場合には、商品を輸出した後で代金を受け取ることになります。そのため、代金を回収できなくなるリスクがあるのです。輸入で先払いの場合にも、代金支払い後に商品を輸入することになるので、こちらが商品を入手できないリスクがあるでしょう。
代金未回収リスクや商品未入手リスクが避けられる見込みだとしても、こちらに一時的な資金負担リスクは発生します。輸出で後払いの場合は、出荷から代金回収までの一時期はコストをこちらが負担することになり、輸入で先払いの場合は、支払いから商品入手販売までの一期間、こちらの費用立て替えとなるのです。
時間差によるこれらのリスクは、銀行が発行する「信用状」で保証してもらうことによってある程度は回避できます。
世界の貿易の動向
現在の貿易業界において、コロナ禍やウクライナ侵攻などが影響している中、日本と世界とでは大きな差が生じています。ここでは、日本と世界それぞれの動向について解説します。
※記載の情報は2022年9月26日時点のもので、最新の情報とは異なる場合があります
日本の動向
2022年9月15日の財務省発表によると、輸出額から輸入額を差し引いた2022年8月の貿易赤字は、比較可能な1979年以降で過去最大となる2兆8173億円でした。円安や原油など資源価格の高騰により、輸入額が前年同月比で49.9%増の10兆8792億円にまで膨らみ、輸出額の伸びを大きく上回ったのです。輸出額は前年同月比22.1%増の8兆619億円となり、18カ月連続で前年同月を上回っています。貿易赤字は過去2番目の長さとなる13カ月連続で、輸入額が前年同月を上回るのも19カ月連続です。
ロシアによるウクライナ侵攻で原油価格が上昇したことに加え、円安の急進行により原粗油の輸入が数量ベースでも金額ベースでも増加傾向が止まりません。
世界の動向
一方、世界の貿易の動向や情勢はどうでしょうか。2021年における世界貿易(財貿易、名目輸出金額ベース)は、前年比で26.2%増の21兆7,534億米ドルでした。特に、輸出金額は初めて20兆米ドルを超え、過去20年間で最高額となっています。また、実質貿易の指標となる貿易数量(輸出ベース)は前年比で9.4%増加し、金額・数量ともにプラスに転じました。
世界貿易が大きく増加したように見える原因は、コロナ禍で大きく落ち込んだ2020年の反動によるものだと考えられます。また、貿易額の伸び率に比較して数量の伸び率が低いことから、資源価格などの高騰が貿易額全体を押し上げたようです。
サービス貿易の拡大
サービス貿易は、海外の事業者によってさまざまなサービスを利用することで成立します。なお、サービス産業は具体的に、電車などの運送サービス、インターネットなどの通信サービス、銀行などの金融サービス、スーパーマーケットなどの流通サービスといったものが挙げられます。
世界全体の貿易額(輸入)の約20%はサービス貿易であるといわれており、2030年頃までには25%まで増加するとされていることから、サービス貿易は拡大しつつあるのです。
貿易の流れ
では、実際の貿易活動はどのような流れで行われるのでしょうか。海外との貿易取引も、国内での取引と同様に、契約・輸送・決済の3段階です。ただし、海外貿易には、国内ビジネスにはない手続きや書類も必要になります。ここでは、一般的な貿易の流れを確認しましょう。
商品や取引先の選定
まずは、取引する商材や相手を選びましょう。輸入貿易の場合は、はじめに自社で購買したい商品やサービスは何かを明らかにします。この際、自社のビジネスプランや国内市場の状況を考えて商品を決めるのが一般的です。そして、取引先となる企業と市場を探します。この段階で、その商品やサービスが国内外の法規制をクリアできるのか、関税はどのくらい必要なのかなども確認しておくと良いでしょう。
輸出貿易の場合は、自社の扱う商品やサービスのうち海外でも利益が出せそうなものはどれなのかを分析して定め、インターネット・国際展示会・エージェントなどを通してビジネスをスタートさせます。
もし自社の商品やサービスを買いたいと海外からの引き合いがあった場合は、応じるかを検討しましょう。ここでも、その商品やサービスが国内外での法規制の対象になるかの確認が必要です。輸入の場合も輸出の場合でも、取引先の選定にあたっての信用調査は重要です。この最初の段階でしっかり調べておきましょう。
取引交渉と契約
商品や取引先の選定を終えたら、取引相手と交渉し契約を行います。双方の希望条件をやり取りして、合意に至れば契約を交わします。
国際的な売買契約では、価格・決済通貨・決済方法・決済時期・品質・数量・輸送方法・引渡時期・アフターサービス・トラブル対応などを決めましょう。インコタームズ(貿易条件)についてもしっかり取り決めることが重要です。
なお契約書は、基本的には英文で2部作成します。双方がサインして、1部ずつ保管します。
輸送手段の確保
「インボイス」や「パッキングリスト」といった文書をフォワーダー(※)に送付し、通関手続や船積み(船腹予約)を依頼して、輸送手段を確保します。
インボイスとは、輸出入の際に税額を計算する根拠となる書類です。輸出する側にはインボイスを作成することが義務付けられており、品名・価格・数量・運賃・取引条件などが記載された納品書としての役割も果たします。
パッキングリストとは、インボイスを補足して、貨物の個数や包装後の重量・容積などを表示する文書です。
※フォワーダーとは、自身では輸送手段を所有せずに、船舶・航空機・鉄道・貨物車などを利用し、荷主との直接契約で貨物を輸送する事業者です。一方、自社で輸送手段を所有している輸送事業者は、「キャリア」と呼びます。
本記事で扱っている輸出入の際に使われる「インボイス」と、仕入税額控除の方式である「インボイス制度」の違いについてこちらの記事で解説しております。併せてご覧ください。
貨物の搬入
輸送の準備ができ次第、通関のため保税地域へ貨物を搬入していきます。保税地域とは、税関から輸出許可を受けた貨物、および輸入許可を受ける前の貨物を保管・加工・製造・展示できる区域で、輸出入のときに貨物を置いておくためのエリアです。
通関手続き
多くの場合、輸出者が輸出通関手続きを行います。なお、輸入通関手続きは輸入者が行うのが通常です。手続きはフォワーダーへと依頼するのが便利で、オンライン化も進んでいます。
積込・輸送
手続きが完了し輸出が許可されると、積込作業に入ります。積込作業が完了すると、船会社からB/L(船荷証券)が発行されます。
輸出者が海上運賃を負担するとされている条件の際は、船会社に海上運賃を払ってB/Lを受領します。フォワーダーを利用している場合、輸出者は手続き費用とまとめて払うことになります。
これらの流れを経てようやく商品が輸送されます。なお取引を行う際は、万が一の事件や事故に備えて、保険へ加入しておきましょう。
決済・貨物の受け取り
最後に、輸入者が代金支払いし貨物を受け取ります。ただし、決済のタイミングは契約条件によりいくつかのパターンがあるため注意しましょう。事前に決済通貨を決めておく必要があり、一般的には自国通貨や、相手国通貨、第三国通貨(米ドルなど)が採用されます。
なお、決済方法には、「電信送金決済」および「荷為替手形決済」があります。電信送金決済は、銀行口座振込に近い方法です。一方荷為替手形決済は、輸出側が荷為替手形を送付して、輸入側がその書類を確認して代金を支払う方法です。また荷為替手形決済においては、信用状付荷為替手形決済(L/C決済)と、信用状なし荷為替手形決済(D/P決済・D/A決済)があります。
バックオフィス業務改善ならシステムインテグレータ
多くの企業で人手不足が大きな課題となっていますが、バックオフィス業務にはいまだに属人化した作業やアナログ業務が残っており、企業の成長と発展を阻む大きな壁となっています。
バックオフィスの業務プロセスを最適化することで、コスト削減や属人化の防止だけでなく企業全体の生産性向上にもつながります。
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まとめ
本記事では、海外との貿易取引について、国内取引との違いや流れ、国内外の情勢について解説しました。
貿易業界には、国内ビジネスにはない貿易業界特有の業務が多くあります。そのため、情報システムも対応したものを利用する必要があるでしょう。当社が提供するERP(統合基幹業務システム)「GRANDIT」には、多言語対応や他通貨対応など、貿易に必要な業務が一通り備わっています。
貿易に携わっている、あるいはこれから貿易の実施を検討している企業は、業務効率化のために、ERPの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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