近年、急速なスピードで経済成長を遂げている中国。
GDPではすでに日本を追い抜き、アメリカに次ぐ世界2位の規模を誇っています。
そんな中国をターゲットにEC事業・通販事業を展開しようと考えている方も多いはず。
そこで今回は、中国におけるEC、インターネット通販の市場規模や主要なECサイト、日本との商習慣の違いなどについて、詳しく解説します。
中国のEC市場規模
総務省が2019年5月に発表した「平成30年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」によると、中国国内でのBtoC EC取引の市場規模は2018年時点で約1兆5,267億ドル、日本円に換算すると160兆円を超えるほどの規模を誇っています。
これは全世界で見ても他の追随を許さぬ圧倒的なナンバーワンで、2位のアメリカの倍以上。
対前年(2017年)比では約137%となっており、成長率で見ても世界トップクラスです。
ちなみに日本はというと、2位のアメリカ、3位のイギリスに次いで4番目の規模を誇ります。
2018年時点での日本の対前年比は108.96%。
市場規模と成長率の観点から、多くの起業が海外のEC(越境EC)に目を向けるのも納得できます。
しかし、中国においてここまでECが普及したのはなぜなのでしょうか。
その背景には、インターネット・スマートフォンの普及が関係しています。
中国インターネット情報センター(CNNIC)の調査では、2017年時点で中国国内でのインターネットユーザーは約7億7,000万人。
これは中国の全人口の55%超にも及ぶ数字です。
2007年には約2億人だったため、10年で約4倍にも伸びたことになります。
スマートフォンが本格的に普及しはじめた2010年前後から急速にインターネット利用者は増加し、現在では人口の97%以上がインターネットへスマートフォンからアクセスしているようです。
中国の通販市場における主要ECサイト
ここからは、中国における主要なECサイトをいくつかピックアップしてご紹介しましょう。
天猫(Tmall)
天猫(Tmall)は中国で圧倒的な存在感を誇るEC事業者「アリババ」が運営しているBtoC ECサイトです。
売上高は日本円にして約36兆円で、中国全土のECサイトで約55%ものシェアを誇ります。
中国で社会問題化している非正規品――いわゆる偽物――に対して厳正な対応をしており、天猫へ出店するにあたっては厳格な審査をパスする必要があります。
- 売上規模(日本円換算):約36兆円
- 市場シェア:約55%
- 運営会社:アリババグループ
- ターゲット:BtoC
- 特徴:正規品の商品のみ登録可能で、出店には厳格な審査が必要
京東(JD)
天猫に次いで中国国内で高いシェアを誇るのが、京東商城が事業を展開している京東(JD)です。
天猫は自社のECにモールとして出店させている形態をとっており、日本でいえば楽天のようなビジネスモデル。
一方で京東の場合はメーカーや小売各社が提供している自社のECサイトといったイメージが近いでしょう。
また、事業のルーツとして家電やPCの販売を行っていたため、現在も「家電製品の通販といえば京東」というイメージを持っている中国人も非常に多いようです。
- 売上規模(日本円換算):約16.5兆円
- 市場シェア:約25%
- 運営会社:京東商城
- ターゲット:BtoC
- 特徴:家電製品に強みを持ち、自社で仕入れた商品を販売
拼多多(pinduoduo)
拼多多(pinduoduo)は2015年にサービス開始されたECサイトです。
複数のユーザーが共同で購入することにより割引を可能にするシステムで注目を集め、中国国内でSNSによって認知を拡大。
その結果、「3番目のEC勢力」として食い込んでいます。
- 売上規模(日本円換算):約3.5兆円
- 市場シェア:約5.5%
- 運営会社:拼多多
- ターゲット:BtoC
- 特徴:SNSを駆使して集客をアップし、新興ECとして注目を集める
中国のECと日本のECの違い
中国と日本にはさまざまな商習慣の違いがありますが、ECにおいてはどのような違いがあるのでしょうか。
いくつか具体的に見ていきましょう。
中国の通販ではどんなものが売れている?
まずは、中国においてどのようなものがECで売れているのか。
日本製品のなかでも特に人気の高いジャンルが、日用品、家電製品、そして衣類です。
- 日用品:紙おむつ、シャンプー、洗顔料
- 家電製品:イヤホン、LED電気スタンド、美顔器
- 衣類:ユニクロの各種製品
中国最大のECサイトである天猫において、常に上位を占めているのが日本メーカーの日用品です。
特に紙おむつはトップクラスの人気を誇り、常にトップページに掲載されているほど。
さらに、日本を代表するアパレルブランドであるユニクロの製品も高い人気を誇ります。
Tシャツやフリース素材の製品などは常に人気で、セール開催時には即完売するほどです。
日本国内で買い物をする中国人観光客も、ドラッグストアや家電量販店で商品を大量に買い込む、いわゆる「爆買い」が数年前までよく見られました。
中国国内におけるECサイトを見てもその傾向は同じのようです。
ニュースなどで中国国内のユニクロで「開店と同時に人がなだれ込む映像」をしばしば見ることがありますが、私たち日本人にとっては身近ですぐに手に入るものであっても、中国人にとってはそうではないというケースも多くあります。
日本製の日用品、家電製品、衣類はその代表例。
日常生活の範囲内では簡単に手に入らないため、これらをECサイトで購入する消費者が多くいることが想像できます。
中国の物流事情
ECサイトの構築を検討する上で欠かせないのが、「物流事情」を考慮することです。
日本国内で荷物を発送する場合は日時などを指定できますが、中国国内でそのようなきめ細かなサービスは提供されていません。
また、通販で購入した荷物のダンボールの潰れや破損、水濡れといったことも日常茶飯事。
日本国内でサービス提供している宅配事業者とクオリティは大きく異なると思っておいたほうがいいでしょう。
ただし、中国では運送会社が商品を破損した場合でも店舗が交換品をすぐ発送してくれます。
また、日本では交換する際に返品を求めることがほとんどですが、中国では返品が不要なケースが大半です。
こうした対応が求められることも覚えておきましょう。
まとめ
それほど中国において日本製品の需要が高いのであれば、インバウンドの中国人観光客向けに通販サイトを構築し、中国人ユーザーを対象にしたEC事業を運営してみたい――と考える方もいるでしょう。
たしかに、日本国内の量販店で大量にお土産を買い込み、荷物を抱えている中国人観光客を見るとそのようなアイデアが浮かんできます。
しかし、そもそも日本人の考えと中国人の考えは根本的に異なります。
多くの日本人は旅行のお土産を大量に買い込んだら宅配便などで別送するという発想を持ちそうですが、中国人の場合は「直接手に抱えて持って帰りたい(配りたい)」という気持ちが強くあるようです。
これは文化の違いであり、どちらが良い(悪い)というものではありません。
少なくとも中国人は、どれだけ大量の荷物であっても自身で抱えて持って帰ることに魅力を感じているケースが多いようです。
市場規模としてはとても魅力的ですが、中国人観光客向けのインバウンド用ECサイトを成功させるのはそう簡単なことではありません。
文化の違いを考慮しながら慎重に進める必要があります。
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