どのような企業、どのような業界においても必要な労務管理。特に年末調整の時期などになると、労務面での作業も増え、財務経理・総務の担当者は連日忙しくなるでしょう。特に業務が複雑化した昨今において、労務管理も非常に難しくなっており、より便利な仕組みづくりが求められています。
また、コロナ禍でテレワークが進んだことによって、従業員の残業時間や勤怠管理システムといった労務システムの導入も当たり前になりました。それと同様に、ビジネスに欠かせない「労務費」の管理も欠かせません。特に製造業においては労務費が生産数に影響するため、非常に重要な管理項目になります。利益にも大きな影響を与えるため、しっかり把握・管理することが求められています。
そこでこの記事では、労務費の概要や人件費との違い、外注労務費や労務費の種類などについて解説します。労務費など原価計算を効率化するための具体的な方法についてもお伝えするので、ぜひ参考にしてください。
労務費とは?
労務費とは人件費の一つで、製造に直接関わる従業員の人件費のことです。製品を製造するためにかかった部分の費用になりますので、例えば、製造部門のスタッフに支払う賃金や給与などが労務費に該当します。製品製造には欠かせないコストです。
特に製造業では加工や組立といったさまざまな作業が必要になりますが、これらの仕事は労働の対価として扱われるため消費税はかかりません。
労務費は「直接労務費」「間接労務費」の2種類に細分化され、以下のような区別がされています。
- 直接労務費:製品を直接生産する人が、製品生産に関わる直接的な作業をしたときに発生する賃金
- 間接労務費:製品生産に対して、間接的に発生する賃金や手当
なお、労務費は原価管理において「製造原価」に含まれています。
以下の記事では、原価管理の重要性や、原価管理と原価計算の違いについて詳しく説明しています。併せてご覧ください。
労務費と人件費の違い
先ほど解説したように、労務費とは「製造に関わる従業員の人件費」を指す言葉です。
一方、人件費は企業の給与や賞与として従業員に支払われる経費を指し、労務費のほかにも「販売費」「一般管理費」が含まれています。販売費は営業・販売に関わる従業員の人件費で、一般管理費は会社全般の管理業務にかかる費用を指しています。
パン屋を例に考えてみると、「労務費」はパンの製造スタッフに支払われる賃金です。「販売費」は販売スタッフの賃金、「一般管理費」は店のオーナーの賃金に該当します。労務費と人件費はどちらも共通する費用を指して用いられる場合がありますが、労務費は人件費の種類の中に含まれる費用です。会計業務の際などは2つの言葉の意味を理解して正しく使い分けるようにしましょう。
労務費と外注労務費の違い
外注労務費とは、自社で製造する製品に発生する作業を第三者に委託して、委託先の企業側から請求される費用です。外注費とも呼ばれますが、外注費には委託先の労務費だけでなく、材料費、経費が含まれます。外注労務費は、外注費とイコールではないので注意しましょう。
労務費は自社の従業員に対価を支払う費用であるのに対して、外注労務費は他社に外注して報酬を支払う場合に用いられます。費用の支払い先に気をつけて、労務費と外注労務費を混同しないように注意しましょう。
労務費の内訳
労務費は以下の5つに分類できます。まずは、内訳を整理して考えてみましょう。
賃金
製造部門に関わる正社員や派遣社員への給与で、残業や休日出勤などにかかる割増賃金分も賃金に含まれます。月給制の従業員の給与のみ賃金に該当するので注意しましょう。
雑給
製造部門に関わるパートタイマーやアルバイトなど時給で働く方への給与が該当します。もし、割増賃金が支給される場合も、正社員や契約社員の賃金とは別に雑給で計上します。
従業員賞与手当
製造部門の従業員に支払われる「ボーナス」や「通勤費」「扶養手当」などの各種手当が従業員賞与手当に含まれます。
退職給付費用
退職給付費用とは退職金支払いに備えて一定金額を積み立てている費用です。製造部門以外の部門の退職金積立は労務費として認められていないため気をつけましょう。
法定福利費
健康保険や雇用保険、労働保険や厚生年金保険などの製造部門の従業員に対する社会保険の会社負担分は法定福利費に分類して考えます。
労務費の種類「直接労務費」と「間接労務費」
先ほど触れたように、労務費には大きく分けて「直接労務費」と「間接労務費」の2種類に分かれます。ここからは、それぞれの費用の特徴や具体的な計算方法について詳しく解説します。
直接労務費
製造業において、機械工や組立工、試運転工など直接的に製品を生産した人を「直接工」と呼びます。工場でライン作業をしている人や機械の組立・加工をしている人などが該当し、直接工が作業を行った際に発生する賃金は「直接労務費」と呼ばれています。
例えば、製造ラインAのみを担当している直接工Bがいるとした場合、この直接工Bに支払われる労務費は「直接労務費」です。
ちなみに、複数の製品で共通している作業をするときには特定の製品を作っているとみなされず、間接的な作業と判断されます。
直接労務費の計算方法
直接労務費を算出するには、まず「賃率」を計算する必要があります。賃率とは作業員の作業時間1単位当たりの直接労務費です。賃率は以下の計算式で算出されます。
賃率=直接工の賃金÷製品製造の直接作業時間
賃率が計算できたら次は、製品製造にかかる時間とかけて直接労務費を算出しましょう。
直接労務費=賃率×製品製造にかかる時間
間接労務費
運搬や修理工など、間接的に製品の製造へ関わった人を「間接工」と呼び、直接労務費以外にかかる労務費を「間接労務費」といいます。間接労務費は、以下の8つに分類可能です。
間接作業賃金
直接工が機械の修繕など製品の生産に「直接関わらない作業」を行った際に発生する賃金のことを指します。
間接工賃金
間接工が受け取る賃金が該当します。
手待賃金
工具の手配不良や停電などにより、管理者の指揮監督下にはあるが作業を行うことができない時間に支払われる賃金のことを指します。
休業賃金
従業員の休業に対して支払われる賃金です。これは労働基準法26条によって「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない」と定められています。
給料
工場など現場の監督者、事務職員などへ支払われる給与などが含まれます。
従業員賞与手当
従業員のボーナスや家賃補助・通勤交通費・家族手当などの各種手当が従業員賞与手当に該当します。
退職給与引当金繰入額
工場など現場の従業員へ支払う退職給与引当金の繰入額が分類されます。退職給付費用という科目で処理される場合もあるため注意しましょう。
福利費
健康保険法や労働基準法、厚生年金保険法などのさまざまな法律・法令によって定められた福利厚生の費用で、厚生年金や健康保険料、労働保険の会社負担分のような法定福利費はここに分類されます。
間接労務費の計算方法
間接労務費の場合は、対象となる項目の金額を加算していくことで求められます。間接作業賃金や間接工賃金などといった金額が明確になっているのであれば、それぞれの金額を合計して間接労務費を算出してみましょう。
また、間接労務費は労務費のうち「直接労務費ではない部分」の金額なので、労務費から直接労務費を引くことでも計算可能です。これを計算式に示すと、以下のようになります。
間接労務費=労務費ー直接労務費
それぞれの計算方法で間接労務費を算出してみると、費用を正しく計上できているか確かめることも可能です。
一部の業種では「労務費率」の指標も必要
労務費率とは、建設事業など一部の業種で労災保険料を計算する際に用いられる請負金額に対する賃金総額の割合を示す数値です。一般的な事業で労災保険料は「賃金総額」に「労災保険率」を掛け合わせることで算出できます。しかし、建設業などは複数の請負によって行われるケースがほとんどのため、労働者へ支払われる賃金総額の算定が簡単ではありません。そうした問題を解消するために、特例として賃金総額の代わりに「請負金額×労務費率」の使用が認められています。
労務費率は厚生労働省が3年ごとに公表される労務費率調査によって、実際の建設事業の請負金額と賃金総額の割合を鑑みて定められます。また、労務費率は実際の工事の内容によって割合が細かく設定されているため、行っている事業の種類を確認して正しい数値を適用することがポイントです。
建設事業などで労務費率を用いて労災保険料を算出する際の計算式は以下です。
請負金額×労務費率 ×労災保険率= 労災保険料
なお、平成30年4月1日施行の建設事業における労務費率は以下の通りです。
事業の種類 | 労務費率 |
---|---|
水力発電施設、ずい道等新設事業 | 19% |
道路新設事業 | 19% |
舗装工事業 | 17% |
鉄道又は軌道新設事業 | 24% |
建築事業(既設建築物設備工事業を除く。) | 23% |
既設建築物設備工事業 | 23% |
機械装置の組立て又は据付けの事業 |
38% 21% |
その他の建設事業 | 24% |
出典:労務費率表
労務費など原価計算はERPで効率化
労務費の計算と原価管理をするうえでは、「標準原価」と「差異原価」の把握が重要です。
標準原価とは、製造にかかる標準的な時間をあらかじめ見積もり、それに対して賃率と生産量を掛け合わせて算出する原価を指します。いわば「製造時に目標とすべき原価」と言えるでしょう。
これには最大操業度を前提とした理想的な標準原価である「理想標準原価」や実際の業務環境を前提とした「現実的標準原価」のほか、過去の指標や実績などを統計的に分析して、将来的な予測を加えた「正常原価」や、翌年度以降も継続することを前提とした標準原価「基準標準原価」といった種類があります。
一方、差異原価とは標準原価との比較・分析を行うため、実際にかかった時間で算出する原価のことです。この2つのデータを用意することで、原価改善や原価低減を行えます。ちなみに、この標準原価の算出に必要な標準作業時間も過去の工数実績から算出するのが一般的です。
そして、こうした労務費や原価の計算などに役立つのが「原価管理システム」です。活用する原価管理システムにもよりますが、把握したい単位ごとに管理ができたり、外部のシステムと情報を連携させて転記作業などを減らしたりすることもできます。分析機能などが搭載されているシステムであれば、管理以外の業務工数を減らすことも可能です。
部署や組織、製造に関わる部門が多ければ多いほど、システムがバラバラで管理されている場合が多くあります。システムによって連携機能の範囲や対象が異なるため、他システムとの連携を考えている場合は注意が必要です。導入した後に思ったような連携ができないと発覚した、というようなトラブルを未然に防ぐためには「ERP」の活用がおすすめです。労務費を含む人件費などの原価管理も、ERPを活用すれば自動的に最新のデータを反映するので効率化が可能になります。
バックオフィス業務改善ならシステムインテグレータ
多くの企業で人手不足が大きな課題となっていますが、バックオフィス業務にはいまだに属人化した作業やアナログ業務が残っており、企業の成長と発展を阻む大きな壁となっています。
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まとめ
今回は労務費をテーマに、概要や人件費との違い、計算方法などをご紹介しました。
労務費は適切な原価管理をするうえで、正確に把握して管理する必要があります。特に近年では国をあげて「働き方改革」が推し進められており、より整った労務管理が求められるようになりました。今回は製造業における内容にフォーカスしましたが、それ以外のシーンにおいても、離職率の低減や従業員トラブル、コンプライアンス徹底のためには欠かせな要素でしょう。より良い組織・事業運営を実現するためにも、今回解説した内容などを参考に範囲や計算方法を理解して、労務管理に活かしてみてください。
なお、当社では企業活動に必要な機能を数多く盛り込んだERPパッケージ「GRANDIT」を提供しています。コンソーシアム企業のノウハウを結集して、ユーザー視点の「本当に使いやすい」ERPとしてGRANDITを開発しました。ワークフロー・BI(ビジネスインテリジェンス)・ECといった拡張機能を標準搭載し、内部統制対応や多通貨機能など、企業活動に役立つ機能を揃えています。
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