労務費とは、企業が製品やサービスを生産するために必要な人件費のうち、従業員の給与や手当として発生するコストのことです。製造業、建設業、IT業など、どの業界でも事業運営に欠かせない重要な費用であり、労務費を効率的に管理することで企業の利益率や生産性の向上につながります。
しかし、労務費の計上や管理方法は業界や業務内容によって異なるため、適切な管理がされていないと、余計なコストがかかったり、資源が浪費されたりするリスクもあります。労務費を正確に理解し、最適に管理することは企業にとって非常に重要です。
この記事では、労務費の基本的な概要、人件費との違いや外注労務費との区別について解説します。また、労務費を適切に管理・効率化するための方法やおすすめのツールもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
労務費とは?
労務費とは、企業が製品やサービスを生産するために、直接・間接的に関わる従業員に支払う給与や手当のことを指します。具体的には、製品の生産現場で働く従業員に対して支払われる人件費です。労務費を適切に管理することで、企業の利益率やコスト効率の向上が期待されます。
労務費と人件費の違い
労務費は人件費の一部です。人件費とは、企業が従業員全般にかける費用の総称です。人件費には労務費のほかに、製品やサービスの販売に関する「販売費」、経営や管理に関する「一般管理費」が含まれます。あくまでも労務費は、生産に関わる従業員の人件費のみを指します。
たとえば、パン屋では製造スタッフの給与が労務費に、販売スタッフの給与が販売費に、オーナーの給与が一般管理費に該当します。この違いを正確に理解し、会計業務において適切に仕訳することが重要です。
労務費と外注労務費の違い
外注労務費とは、製品の一部作業を外部の第三者に委託し、委託先に支払われる費用です。労務費が自社従業員に対する人件費であるのに対し、外注労務費は外部の委託業者への支払いとなります。労務費と外注労務費を混同しないよう注意しましょう。
労務費の内訳
労務費は以下の5つに分類できます。まずは、内訳を整理して考えてみましょう。
賃金
賃金とは、生産に関わる従業員に支払われる給与を指します。ここには、残業や休日出勤に伴う割増手当も含まれます。月給制の従業員の給与は賃金として計上されますが、時給制の従業員の給与は賃金に該当しないため注意が必要です。
雑給
生産現場で働くパートタイマーやアルバイトに支払われる、時給制や日給制の給与を指します。また、これらの方々に対して割増手当が支給される場合も、「雑給」として計上されます。
従業員賞与手当
生産に関わる従業員に支給される「ボーナス」や「通勤費」「扶養手当」などの各種手当を指します。
退職給付費用
退職給付費用は、従業員の退職金支払いに備えて積み立てる費用です。なお、管理部門や営業部門など、生産部門以外の従業員に対する退職給付費用も企業負担として計上されます。ただし、これらは労務費ではなく、販売費や一般管理費として扱われるため、正確に区別する必要があります。
法定福利費
生産に関わる従業員に対して会社が負担する、健康保険、雇用保険、労働保険、厚生年金保険などの社会保険費用のことを指します。
労務費の種類「直接労務費」と「間接労務費」
労務費は生産に直接関わる「直接労務費」と、間接的に関与する「間接労務費」に分けられます。
直接労務費
- 直接労務費の例
製造担当者の加工・組立工程での作業時間、 IT企業の製品開発に従事するエンジニアの作業費用
間接労務費
間接労務費とは製品やサービスの生産に対して間接的に支援する従業員が、その業務を行うことで発生する人件費のことを指します。これには、間接業務を行う従業員への給与や賞与、法定福利費なども含まれます。ここでは、これらの従業員のことを「間接工」とよびます。
- 間接労務費の例
品質管理担当者、設備保全スタッフの人件費
さらに間接労務費は以下の8つに分類が可能です。
- 間接作業賃金:直接工が行う補助的な作業の賃金
- 間接工賃金:間接工が受け取る賃金
- 手待賃金:工具の手配不良や停電などにより、作業ができない時間に支払われる賃金
- 休業賃金:休業時に支払われる法定の賃金
- 給料:督者や事務職員に支払われる給与
- 従業員賞与手当:ボーナスや各種手当の支給
- 退職給与引当金繰入額:従業員へ支払う退職給与引当金の繰入額
- 福利費:健康保険法や労働基準法、厚生年金保険法などのさまざまな法律・法令によって定められた福利厚生の費用
ここでは、製品の製造に直接関わる人件費を「直接労務費」、製品に関わるものの直接的ではない人件費を「間接労務費」として理解しましょう。
労務費の計算方法
直接労務費の計算方法
- 賃率の求め方
賃率=直接工の賃金(賃金+各種手当)÷総労働時間 - 直接労務費の求め方
直接労務費=賃率×直接生産にかかった時間
間接労務費の計算方法
間接労務費の算出方法には、以下の2通りがあります。
-
労務費の総額から直接労務費を引く
間接労務費=労務費ー直接労務費 -
間接労務費として分類されている項目を加算する方法
間接作業賃金、間接工賃金などの各項目を合計します。 この方法を採用する場合、各項目の金額が明確になっている必要があります。細かく割り当てることが難しい企業では、労務費の総額から直接労務費を引く方法が望ましいでしょう。
また、これらの計算方法で算出した間接労務費を照らし合わせることで、費用を正しく計上できているかを確認することも可能です。
労務費率について
労務費率とは、建設業などの一部の業種で労災保険料を算出する際に使用される、請負金額に対する賃金総額の割合です。通常の事業では、労災保険料は「賃金総額」に「労災保険率」を掛けて算出されます。しかし、建設業では複数の請負契約が発生するため、労働者に支払う賃金総額の把握が難しくなります。これを解消するため、建設業などでは特例として「請負金額 × 労務費率」を賃金総額の代わりに用いることが認められています。
労務費率は、厚生労働省による3年ごとの「労務費率調査」に基づき、実際の建設事業での請負金額と賃金総額の割合を考慮して定められます。また、事業の種類に応じて労務費率は異なるため、正しい数値を確認して適用することが重要です。
労災保険料の算出方法
建設業などで労務費率を用いた労災保険料の計算式は以下の通りです。
請負金額×労務費率 ×労災保険率= 労災保険料
労務費率の改定(令和6年度)
令和6年度(2024年度)より、新たな労務費率が適用されています。主な改定内容は以下の通りです:
- 鉄道や軌道の新設事業:24%から19%に引き下げ
- その他の建設事業:24%から23%に引き下げ
事業の種類 | 労務費率 |
---|---|
水力発電施設、ずい道等新設事業 | 19% |
道路新設事業 | 19% |
舗装工事業 | 17% |
鉄道又は軌道新設事業 | 19% |
建築事業(既設建築物設備工事業を除く。) | 23% |
既設建築物設備工事業 | 23% |
機械装置の組立て又は据付けの事業 |
38% 21% |
その他の建設事業 | 23% |
出典:労務費率表(令和6年4月1日発行)
業界別労務費の特徴
製造業
製造業における総コストは「製造原価」と呼ばれ、「労務費」「材料費」「製造経費」で構成されます。労務費を含む製品の原価を適切に管理することで、コストを正確に把握することが可能になります。
- 特徴
工場や生産ラインでの作業が多いため、直接労務費が高くなる傾向があります。特に労働集約型の生産現場では人件費が製造コストの大部分を占めます。また、自動化が進むと、間接労務費(エンジニアの賃金など)が増加することもあります。 - 注意点
製造原価を抑えるためには生産性の向上が重要であり、効率的な人員配置や生産スケジュールの最適化が求められます。
以下の記事では、原価管理の重要性や、原価管理と原価計算の違いについて詳しく説明しています。併せてご覧ください。
原価管理とは?
建設業
建設業における「労務費」は、プロジェクトの進行において重要なコストの一つで、主に工事現場で働く作業員や職人にかかる人件費を指します。適切な労務費の管理は、建設業で利益を確保し、予算内でプロジェクトを完了させるために不可欠です。
- 特徴
工事種類や内容によって必要な技能や人数が異なるため、それに応じて労務費も変動します。公共事業の場合は、法令に基づく設計労務単価が設定されており、労務費がある程度固定化されています。 - 注意点
工期の延長が直接労務費の増加につながるため、スケジュール管理が重要です。また、安全管理も欠かせず、訓練や安全教育といった間接労務費が発生します。
IT業界
IT業における「労務費」は、ソフトウェア開発やシステム運用に従事する技術者やエンジニアの人件費を指します。IT業は、特に高度なスキルと知識が必要なため、専門性の高い人材が多く関わります。多くの場合、プロジェクト単位での労務費管理が求められます。
- 特徴
高度なスキルを要するため、労務費が高額になることが多いです。成果物が明確な場合には契約社員や外部委託を多用することもあります。 - 注意点
プロジェクトの遅延は直接的なコスト増加につながるため、スケジュール管理と進捗管理が重要です。また、スキルの高い人材の確保と教育も重要な要素です。
労務費の管理ツール
労務費は、従業員の給与や手当、福利厚生にかかる企業の大きなコストです。適切に管理しないと無駄な人件費や作業効率の低下を招き、企業利益に悪影響を与える原因となります。そのため、労務費をリアルタイムで把握し、勤怠や工数の追跡、コスト分析を行うことは、資源配分や生産性向上に欠かせません。ここでは、労務費管理に役立つツールを紹介します。
人事労務管理ツール
人材の確保・育成・配置といった社内の人的リソースの調整やマネジメントに加え、給与計算や勤怠管理を効率化するためのものです。労働時間を適切に管理することで、労務費の予測精度が高まり、コスト管理の精度向上に貢献します。
勤怠管理ツール
勤怠管理ツールは、出退勤や残業、有給休暇の管理を一元化し、労務費の基礎データとなる勤怠情報をリアルタイムで把握できるツールです。労働時間を適正に管理することで、労務費の予測とコスト管理の精度が向上します。
工数管理ツール
プロジェクト単位での工数や稼働状況を管理し、労務費をプロジェクトや部門ごとに把握するためのツールです。特にプロジェクト単位でのコスト管理が必要なIT企業や製造業に適しており、各作業にかかる労力を明確化することで、コスト意識と作業効率を高められます。
ERPシステム
ERP(Enterprise Resource Planning)システムは、会計、人事、在庫管理など企業全体のデータを統合管理します。労務費を含む各種コストデータを連携して管理し、経営判断に必要な情報を迅速に提供することで、戦略的なコスト管理とリソース配分を支援します。
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まとめ
今回は、労務費の概要や人件費との違い、計算方法について解説しました。
労務費は、企業の正確な原価管理に欠かせない重要な要素です。特に「働き方改革」が推進される中、より精緻な労務管理が求められています。また、離職率の低減や従業員トラブルの防止、コンプライアンス徹底のためにも労務費管理は欠かせません。より良い組織運営のために、今回の内容を参考に労務管理の範囲や計算方法を理解し、実務に活かしていただければ幸いです。
なお、当社では企業活動に必要な機能を豊富に備えたERPパッケージを提供しています。ユーザー視点で開発された「使いやすい」ERPとして、ワークフロー・BI・ECなどの拡張機能を標準搭載し、内部統制や多通貨対応など企業の多様なニーズに対応しています。原価管理や労務費の管理でお悩みの方は、ぜひERP導入をご検討ください。詳細資料もご用意しておりますので、ダウンロードしてご覧いただけます。
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