データ中心アプローチ(Data-Centric Approach)は、システムやアプリケーションの設計手法の1つです。特に、大規模なシステムや複数システム間でデータをやり取りするような場面で、データの正確性・一貫性を保ちながら効率よく処理を行える点が大きな特長です。
本記事では、データ中心アプローチの概要やメリット、開発手順を詳しく解説します。
データ中心アプローチとは
データ中心アプローチの基本知識
データ中心アプローチでは、「業務プロセス」よりも「扱うデータそのもの」に重点を置きます。システムは、データの生成・更新・管理といった一連のライフサイクルを軸に設計され、特にデータの整合性や再利用性の確保を重視します。
一方、従来のプロセス中心アプローチ(POA)は業務フローに重点を置き、プロセスが変化した場合にシステム側の修正も必要になる傾向があります。
プロセス中心アプローチ(POA)との違い
従来は、プロセスや業務フローを中心に考えてシステムを設計する、プロセス中心アプローチ(Process-Oriented Approach、POA)という手法が使われてきました。具体的には、業務の流れや処理手順を最適化することに重点を置いて設計を行います。
プロセス中心アプローチでは、データはプロセスに含まれる要素に過ぎません。扱うデータが大規模かつ複雑になると、処理フローに従うプロセス中心アプローチと、データの可視化と整合性を最優先とするデータ中心アプローチで設計方針が大きく異なります。
オブジェクト指向アプローチ(OOA)との違い
オブジェクト指向アプローチ(Object-Oriented Approach、OOA)は、オブジェクトと呼ばれる実世界のエンティティを基にシステムを設計する手法です。データとメソッドを一体とする「オブジェクト」を中心に、カプセル化、継承、ポリモーフィズムなどの概念を使用して設計を行います。JavaやPythonなどのオブジェクト指向プログラミング言語を用いた開発に適しています。
近年では、オブジェクト指向の考え方はドメイン駆動設計(DDD)などを通じて進化しており、単なる構造設計にとどまらない活用も進んでいます。
データ中心アプローチで開発するメリット
データの一貫性と信頼性が高まる
DOAでは、全システムで統一されたデータモデルが使用されるため、重複や矛盾のないデータ運用が可能になります。特に複数の部門や外部サービスと連携するような大規模システムにおいては、この整合性がビジネス上の信頼性に直結します。
保守・拡張がしやすくなる
データと業務ロジックを分離して設計するため、業務フローの変更があっても影響範囲を最小限に抑えることができます。たとえば、顧客管理システムで住所形式が変わった場合でも、他の業務ロジックへの影響を避けやすくなります。
データ資産の再利用が容易
一貫したデータ構造を設計しておけば、新たなアプリケーションやBIツール、AI分析などにも転用しやすく、DX推進の土台としても機能します。
既存のデータモデルを活用して新しいシステムを素早く構築することは、開発コストや時間の削減につながります。
データ中心アプローチの開発手順
システム化する対象業務の明確化
対象業務の流れと重要なデータ項目を洗い出し、データとして扱う範囲を定義します。ヒアリングや業務フロー図を活用して、要件定義に落とし込みます。
概念設計
概念設計は、抽象度の高い構造で、全体像を把握する工程です。業務で登場する「モノ」や「コト」をエンティティ(データのまとまり)として定義し、ER図などで関係性を整理します。概念設計で重要なのは、業務要件に即したデータモデルを作ることです。適切な抽象化を行うことで、設計変更が発生しても柔軟に対応できます。
論理設計
論理設計は、概念設計で定義したエンティティや関係性をもとに、より詳細なデータ構造へと落とし込む工程です。
具体的には概念設計を基に、テーブル構造やデータ型の選定、正規化(重複排除)などを通じて、データの整合性や拡張性を確保します。
物理設計
物理設計は、論理設計の内容を基に、実際のデータベースにどのようにデータを保存するかを定義します。この工程では、使用するDBMSの特性(例:PostgreSQLのJSON型、MySQLのインデックス制限など)、運用環境、パフォーマンス、セキュリティ、可用性などを考慮し、データベースオブジェクトの作成や設定を行います。具体的には、以下のような作業があります。
・テーブル、ビューなどのオブジェクトの作成
・インデックスの設定
・パーティショニングの定義
・ストレージの最適化(ミラーリング、RAID構成など)
まとめ
データ中心アプローチは、データの整合性と再利用性を重視することで、業務の変化にも柔軟に対応できる堅牢なシステム設計手法です。クラウドサービス、ビッグデータ分析、AI活用など、データ活用が鍵となる現代のシステム設計において、DOAの導入は今後さらに重要性を増していくと思われます。
特に「部門をまたぐ業務連携」や「長期的・大規模なデータ資産の活用」を視野に入れる企業にとって、DOAは有力な選択肢となります。まずは既存システムのデータ構造を棚卸しして、DOAの導入可能性を検討してみるとよいでしょう。
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