工事業において正確な見積書の作成は重要です。しかし、見積書の作成に時間をかけても、赤字工事が解消できないといった課題を抱えている方も多いのではないでしょうか。黒字で工事を行うためには、正しい見積書作成を行う必要があります。特に、工事関係の見積書作成で重要とされている「積算」についてはより理解を深めることが必要です。
本記事では、積算の概要から見積もりとの違い、そして主な流れについて解説します。併せて、積算を行う際のポイントについてもご紹介します。積算業務に関する知見を広げることで、見積書作成の効率化と企業収益の向上につながるでしょう。
積算とは
積算とは、あらかじめ工事に必要な費用を予測し、工事にかかる全体の費用を積み上げて算出することです。設計図・仕様書・建物の施工環境などに応じて、実際に使用する材料名や数量をリストアップし、各費用を合算します。具体的な費用として、人件費や材料費、工事費などが挙げられます。
ただし、同じ工事であっても、建築工事・電気設備工事・機械設備工事・昇降機設備工事など、工事内容によって算出方法に違いがあるため注意しましょう。
具体例として、ケーキを作って売るまでの流れを想像してみてください。ケーキを作るには、卵や小麦粉など(材料費)がかかります。また、ケーキを作る人(人件費)も必要です。さらにはお店の賃料や光熱費、販売にあたって広告費(経費)も必要となるでしょう。しかし工事業では、ケーキの製造とは異なり、一件ごとの工事によって材料費や人件費、経費が異なります。このとき積算を行うことで、全体の費用を正確な価格で算出することが可能になるのです。
積算の仕事内容ややりがい
具体的な仕事内容としては以下のようなものがあります。
- 工事に必要な材料の算出
- 作業員の人件費の算出
- 建設工事の原価管理
- 建設に必要な材料のコスト算出
やりがいとしては、積算した予算の中で工事をつつがなく終えることができたときの達成感があげられます。建設業などは特に一つの工事の金額も大きく、積算でミスがあった場合は大きな損失になりかねません。逆に、適切に積算を行うことで企業利益に貢献できます。
また、積算は工事を受注するかどうかを判断するポイントにもなります。費用をいかに抑えて利益を出していくのかを考えるという点も含めて、企業にとって重要なポジションであるといえます。
積算の必要性
製造業であれば、同じ製品を作るのに必要な材料や人手をその都度変更する必要はありません。しかし、工事業では設計図や仕様書など、さまざまな要件ごとに積算を行う必要があります。特に費用が変わりやすいのは、施工内容・施工環境・作業者数の3点です。
どんぶり勘定で見積書作成を行っていては、利益の確保は難しいでしょう。より多くの利益を出すためには、積算で正確な費用を算出する必要があるのです。また、発注者側がおおよその工事費用を把握するためにも、積算は確実に行っておきたい業務といえます。
工事業では正しい積算を行うことで、発注者からの信頼獲得にもつながります。発注者・受注者にとっても良好な関係となることから、工事業では積算が必要不可欠とされているのです。
積算と見積もりの違い
積算と見積りは混同しやすい言葉のため、それぞれの違いを確認しましょう。積算は、利益を考慮しないで工事の総費用を算出します。一方で見積もりは、積算額に利益を加算した金額となります。両者は以下の計算式のように表すことが可能です。
見積額=積算額+一般管理費+粗利益
さらに具体的にすると、積算が原価で見積もりが販売価格という関係性になります。積算が正しく計算できなければ、発注者に対して見積もりの提示ができません。積算に利益分を上乗せしたものが見積もりになるので、工事業においては積算が欠かせない業務といえるのです。
おもな積算の流れ
積算を行う際は、どのような流れで行われるのでしょうか。積算は、人工の算出・材料の算出・総工費の算出、そして書類作成までの4つの手順を踏んで行います。ここでは、実際の積算の流れを工程別にご紹介します。
人工の算出
人工(にんく)とは、1日(8時間)における人件費のことです。同じような工事でも、それ以外の要件が異なれば、人工も当然変化します。そのため、事前に設計図・仕様書から工事の施工条件の確認をし、必要な職種や資格、人数の把握を行いましょう。
人工は、歩掛から計算できる工数の単位を表しています。下記の計算式から、1人工とは1人当たりが8時間で可能な作業量を表していることが確認できます。
1人工=(1人×作業時間)÷8時間
作業員2人で2時間かかるとされる作業は、(2人×2時間)÷8時間=0.5人工と算出できるでしょう。
つまり、材料一つ一つの歩掛がわかれば、適切な作業時間も把握できるのです。例えば、作業員2人で2時間かかる作業は0.5人工でした。同じ現場で同じ作業を10箇所行うとすると、0.5×10=5人工です。その結果、作業時間は5人工×8時間=40時間と見積もることができます。
実際に人工の算出を行う際は、令和4年に改訂された国土交通省の「公共建築工事標準単価積算基準」を活用してみてください。
材料の算出
人工を算出したら、材料の算出を行います。工事は同じ材料でも工法次第で必要数が変化するためです。事前に設計図や仕様書から、必要な材料や数量を正確に把握しましょう。
材料の算出を行う際は、国土交通省により作成されている「土木工事標準歩掛」を参考にしてみてください。
総工費の算出
総工費を算出する場合は、人件費単価と材料費単価を算出する必要があります。人件費の単価を算出する場合は、国土交通省の「令和4年3月から適用する公共工事設計労務単価表」から、特殊作業員・軽作業員などの職種別に確認が可能です。例えば、労務単価では一般の運転手だと17,000円、鉄筋工だと22,000円としています。
なお、労務単価は積算を行う際に活用されるものであり、作業員に賃金として支払うことを約束するものではありません。また、1日の作業時間(8時間)あたりの単価になるため、時間外労働における割増賃金の手当も含まれないと規定しています。
また、材料費単価の算出を行う際は、一般財団法人建設物価調査会の「建設物価」、一般財団法人経済調査会の「積算資料単価データベース」などを参考にしてみましょう。
各単価の算出を終えたら「数量×単価」の計算を行いましょう。労務費の場合は人件費単価×人数、材料費の場合は材料費単価×数量で算出可能です。両者に直接経費を加算することで、直接工事費の算出が完了します。その後、間接工事費と合算することで、総工費の算出が無事に完了するのです。
書類の作成
最後に内訳明細書などの書類作成に取り掛かりましょう。内訳明細書には、内訳書・明細書・仕訳表がツリー構造で記載されています。記載内容は細部にわたるので、無料のテンプレートも上手に活用するのが作成のコツです。
書類作成時は各工事ごとに規格・数量・単価を記載しましょう。作成内容に誤りがないか確認をしたら、積算業務を一通り終えたことになります。
積算を構成する要素
見積額は、積算額・一般管理費・粗利益を合算することで算出できます。中でも積算は複数の要素から構成されており、細かな計算などが必要となります。積算を構成する費用項目と費用内容は、下表をご確認ください。
費用項目 |
費用内容 |
||
---|---|---|---|
積算額 (総工費) |
直接工事費 |
直接経費 |
水道光熱費・機械経費 |
材料費 |
各仕入先からの仕入れ値など(数量×単価) |
||
労務費 |
人件費などが該当し、「歩掛」を用いて算出 |
||
間接工事費 |
共通仮設費 |
仮設物の費用(足場や仮囲いなど) |
|
現場管理費 |
現場管理のために必要な経費(労務費・福利厚生費など) |
||
一般管理費(本社経費)・販売費(営業費用) |
企業の経営維持に必要な経費 |
||
粗利益 |
税引前利益 |
上記表における積算の構成要素の中でも、「歩掛(ぶがかり)」は特に重要です。歩掛とは、1つの作業を行う際に、必要な作業時間の手間を数値化したものを表します。材料や工事現場、施工方法などによって異なる作業量を設定しています。
作業量の基準を設けずに積算や見積もりを行ってしまうと、適正価格を付けることができません。なんとなくで設定した価格は、価格の根拠を示すことができないため、受注者との信頼関係にも悪影響を及ぼします。また、想定より赤字工事になってしまうといったリスクも避けられないでしょう。
歩掛を使用することで、なんとなくの価格設定を防ぎ、適正価格の根拠を明確にできます。そのため、積算を行う上で歩掛の使用は欠かせないのです。
歩掛のほかにも、積算で算出しなければならない費用は多く存在します。作業員を募集する際の費用や、機材を運搬する費用など、工事そのものの費用ではないが必要となる「間接工事費」というものもあるのです。前述でもご紹介した、材料費・人件費・経費は「直接工事費」に該当します。なお、間接工事と直接工事は「純工事費」と総称されます。
企業ごとに人件費は異なりますが、多くの企業では、歩掛を設定する際の参考に国土交通省の「公共建築工事標準単価積算基準」を活用しています。無料で閲覧でき、各材料ごとの種類・サイズで設定されている「標準歩掛」の確認が可能です。
ただし、上記の基準は技術革新や実態調査によって改訂される場合があるので、常に最新の情報を確認するようにしましょう。また、作業員の力量や現場環境などの違いで、実際の歩掛にも差が生じやすくなります。
積算業務はある程度コツをつかむことと、臨機応変に対応することが重要といえます。歩掛はわかりづらい分、正確に算出できるようになれば、より精度の高い積算と見積もりの作成が可能です。積算業務の際は、ぜひ歩掛の算出に注力してみましょう。
積算を行う際に必要な能力・スキル・資格
積算業務に必要な能力やスキルについては以下のようなものがあげられます。
積算に必要なスキルについて
豊富な専門知識
業務の特性上、建設工事に関する専門知識が必要です。例えば以下のような能力が求められます。
- 設計図・仕様書を読み解く
- 施工計画を作成できる
- 建設に関する専門用語や工事過程の理解がある
- 建設材料の相場の理解
計算のスキル
専用ソフトなどはありますが、高い計算力が求められます。数字に強く、根気強い人が向いているでしょう。
コミュニケーション能力
積算業務は建築主や現場監督、請負業者など、建設に関係する様々な人とかかわる必要があります。専門知識を持ったうえで、適切にコミュニケーションをとれることも重要です。
積算に必要な資格について
積算業務に必須の資格はありませんが、有利になる資格もあります。
建築積算士
建築積算士は、「建築生産過程における工事費の算定並びにこれに付帯する業務に関し、高度な専門知識及び技術を有する専門家」と定義されています。
実際に工事費や材料費の積算を行う、高度な知識を持つ専門家のことです。
資格試験は選択問題の一次試験と、実技の二次試験で構成されています。近年の合格率は50%~70%程度ですが、実技試験はかなり実践的な内容になっています。
出典:公益社団法人 日本建築積算協会 建築積算士認定事業 規程
建築コスト管理士
建築コスト管理士とは、建築のライフサイクル全般にわたって、コストマネジメントを担当する高度な知識及び技術を有する技術者のことです。
建築積算士に求められる知識が求められるため、建築積算士の上位資格といえます。
資格試験は学科試験と短文記述試験の筆記試験のみで構成されています。
試験内容はやや難しく、高度な専門知識が必要です。近年の合格率は60%程度です。
積算を行う際のポイント
積算の概要から主な流れ、そして構成する要素まで解説しました。一見すると難しそうに見える積算でも、順を追って確認することで一通りの計算が可能となります。
しかし、ある程度積算に慣れてきた時に、あまり成果が出ないことや、積算業務に時間がかかりすぎるといった問題に直面することもあるでしょう。ここでは、積算を行う際に意識して欲しいポイントを3つ紹介します。「より正確な積算や見積もりを作成したい」や「積算業務を効率化したい」と考えている方は参考にしてください。
施工計画を細かく練っておく
積算を成功させるためには、施工計画を細かく練っておくことが重要です。施工者は工事に必要な施工内容をあらかじめ図にする必要があり、施工計画書を作成する必要があります。
また、施工計画書には施工工程から仮設・工法・安全衛生までさまざまな内容を記載しなければなりません。積算時に使用する工程表などをしっかり作成できれば、より正確な積算が可能になります。まずは、施工計画書の段階から丁寧な書類作成を意識してみましょう。
現場の環境を考慮する
施工や設計は、現場の天候や地形によっても変化します。作業人数や使用する機械も同様で、毎回オーダーメイドの工事になります。そのため、着工前に現場の環境を考慮した積算を行うことが重要です。また、工事に取り掛かる季節にも注意しましょう。夏は熱中症対策費、冬は除雪作業費が必要になるので、積算業務では別途考慮する必要があります。
仕様書・設計図から現場の環境が把握できない場合は、事前に担当者に問い合わせるのがおすすめです。
積算ソフトを利用する
積算の概念や計算方法を正確に理解していても、手動で行うには時間と手間がかかります。さらに、計算ミスが発生することで、赤字工事につながるリスクもあります。
積算業務の自動化には、Excelで積算ができる無料のテンプレートを活用するという方法もあります。しかし、チェック機能は備わっていないため、計算ミスが発生する危険の根本的な解決には至りません。
こうした計算ミスをなくし、作業効率を高めるには、積算ソフトを利用するのがおすすめです。建設業向けの積算ソフトを使えば、材料の選択と数量入力を行うだけで自動計算が実現できます。また、利益率の設定が完了していれば、見積書も簡単に作成可能です。積算をミスなく短時間で行いたい方は、積極的に専用ソフトを活用してみましょう。
バックオフィス業務改善ならシステムインテグレータ
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まとめ
積算とは、あらかじめ工事に必要な費用を予測し、全体にかかる費用を積み上げて算出することを指します。
特に工事業において、正しい積算を行うことは見積書作成の効率化や企業利益の向上の際に重要です。しかし、積算は各工事で基準が異なり、業務も複雑化しているため、対応には手間と時間がかかります。また、手動で積算業務を行っている場合、入力ミスが生じると赤字工事になるリスクも伴います。そのため、積算ソフトを利用して積算・見積書作成を自動化することで、正確な積算ができ、リスク回避も実現できます。
積算におけるミスを大幅に削減し、より負担を軽減したい場合は、ぜひ積算業務に対応したシステムを導入しましょう。当社では基本の10のモジュールに加えて、「工事管理アドオンモジュール」の提供も行っています。「積算ルール」「見積もりシミュレーション」にも対応しているので、業務の効率化が実現できます。
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