かつてファッションECは、「試着ができない」「現物を手に取れない」といった点から、ECには向かないジャンルといわれていました。しかし、サイズ感や着用感など、情報の伝え方が洗練されたことや、返品条件など安心して買い物ができる環境が整ったことで、現在EC業界において、ファッション分野は盛り上がりを見せています。
当記事では、ファッションECにフォーカスして、EC化率・市場規模といった業界事情から、ファッションECのタイプ(種類)とその特徴、ファッションECが抱える課題と解決策までをご紹介します。
今後、ECに注力したいアパレル企業の方は、ぜひ参考にしてみて下さい。
ファッション業界のEC化率と市場規模
ファッション業界自体はファストファッションの台頭による低価格志向や景気の低迷により、市場全体は縮小傾向にありますが、ファッションECに関しては年々成長しており、EC化率も高まってきています。
経済産業省の調査では、ファッション業界のEC化率とEC市場規模の推移について以下のように示されています。
■ファッションECの市場規模とEC化率の推移
年度 |
市場規模 |
EC化率 |
---|---|---|
2015年 |
1兆3,839億円 |
9.04% |
2016年 |
1兆5,297億円 |
10.93% |
2017年 |
1兆6,454億円 |
11.54% |
2018年 |
1兆7,728億円 |
12.96% |
2019年 |
1兆9,100億円 |
13.87% |
出典:令和元年度 内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業|経済産業省
日本国内のファッションEC市場は順調に伸び続けており、2019年には1兆9,100億円を超えています。2兆円を超えるのも時間の問題でしょう。また、EC化率についても順調に伸びており、国内EC全体の6.76%を大幅に超える数値となっています。
ファッションECは今やEC業界においてトップクラスの巨大な市場を形成しており、アパレル企業にとってEC化への取り組みは必要不可欠であるといえるでしょう。
新型コロナウイルスの感染拡大による変化
今後のファッションECを考えるうえで欠かせない要素が、現在多方面の経済に打撃を与えている新型コロナウイルスの感染拡大です。外出制限や密接の回避によって、店舗型ビジネスは特に大きな打撃を受けており、アパレル業界も例外ではありません。
このような状況下で伸びている分野が、巣篭もり需要に対応したEC業界です。今後はデジタルシフトに活路を見いだした企業の参入が増え、ファッション分野のEC化率・市場の拡大はますます加速することは明白でしょう。
同時に競合となる企業の増加や競争の激化が予測されるため、EC事業者はこれまで以上に競合と差別化できる取り組みを強化する必要があります。
ファッションECの分類【BtoCタイプ】
現在日本国内で主流となっているファッションECは、EC事業者(企業)が個人を対象に商品を販売するBtoCタイプのECです。
BtoCのファッションECは、大きく分けて3つのビジネスモデルに分類されます。ここでは、日本国内のBtoCファッションECで主流となっている3つのビジネスモデルについてご紹介します。
メーカー直販型
メーカー直販型のECとは、実店舗で直販を行っているアパレルブランドやアパレルメーカーが、オンラインの販路として運営しているECサイトのことです。
自社サイトで自社ブランドのアイテムのみの販売を行なうため、オリジナリティやブランドイメージを前面に押し出したECサイトを展開することができます。また、他者と比較されずに独自のイベントやキャンペーンによる集客や販売を行うことが可能です。
メーカー直販型の事業者(企業)は基本的に自社の実店舗を持っているため、近年のトレンドであるOMOやオムニチャネルといった戦略の実施に適しているといえるでしょう。
その特性を活かして、オンライン・オフラインの垣根を越えた販売により、顧客の利便性や満足度を高めようというアパレル企業が多く見られます。
このようなメーカー直販はD2Cとも呼ばれ、今注目されているビジネスモデルです。メーカーが直接ユーザーとコミュニケーションをとることができるので、自社のストーリーやメッセージをダイレクトに発信することでファンコミュニティが形成されていきます。
D2Cに関してはこちらの記事で詳しくご紹介しています。
「D2C」とは?注目される背景やメリット、成功事例まで解説!
モール出店型
モール出店型ECとは、ショッピングモールのような役割をもつECサイトに、さまざまなショップが出店するタイプのECのことです。楽天市場・Yahoo!ショッピング・ZOZOTOWN等がモール型ECサイトに該当します。
モールは出店している各ショップの膨大な商品を取り扱っており、ユーザーはモール内で欲しいアイテムを絞り込んで、ブランドを横断して買い物を楽しめることが特徴です。また、モール主催のイベントやキャンペーンが盛りだくさんであり、これらを楽しみにしているユーザーも多くいます。
出店者側はモールが持つ集客力・イベント・広告を活用できることがメリットです。しかし、自社ECと比べて差別化やブランディングが難しい点や毎月の出店料が必要となる点がネックとなるでしょう。
個人販売型
個人販売型とは、個人で複数のブランドを販売しているタイプのECサイトのことで、多くは仕入れ売りの形態で経営を行なっています。実店舗と両立している場合もありますがEC専業として活動しているケースが多く見られます。
個人販売型は規模は小さいですが、店舗運営者の趣味やこだわりがECサイトに色濃く表れているケースが多く、独自性の高い商品ラインナップを展開していることが特徴です。
ファッションECの分類【CtoCタイプ】
ファッションECはスマホの普及やプラットフォームの充実など、誰でも気軽に商取引ができる環境が整ったことで、個人対個人で取引を行うCtoCタイプのECも盛況を見せています。
BtoCほどの市場規模はありませんが、近年CtoCのファッションEC市場は急速に成長・拡大を続けており、販売者・購入者ともに高いニーズがあるため、今後の動向が注目されています。CtoCについては以下の記事で詳しくご紹介しています。
CtoCとは何か?BtoB、BtoC、BtoEとの違いやそれぞれの取引形態を解説
ここでは、CtoCタイプのファッションECの主なビジネスモデルについて解説します。
フリマアプリ
CtoCのファッションECが急拡大したきっかけになったのが、フリマアプリの普及です。ファッションECにおいては、不用品やリユース品からハンドメイド品の販売まで幅広い取引が行われています。
フリマアプリとは、販売者が価格を決定して購入者が価格に合意して申し込みを行なえば、取引が成立する仕組みを指します。スマホ1台で誰でもCtoC取引を始められる手軽さが、フリマアプリが普及した大きな理由といえるでしょう。
代表的なフリマアプリとして、海外進出も果たした「メルカリ」や、楽天が運営する「ラクマ」などが挙げられます。
フリマサイトについては以下の記事で詳しくご紹介しています。
メルカリ、ラクマ、オタマート。「フリマサイト」の作り方や機能とは
オークションサイト
フリマアプリ登場以前のCtoCファッションECを支えていたのが、オークションサイトを活用した個人間取引です。
オークション形式であるため、固定価格ではなく競売(競り)によって商品価格が決定されるのが特徴で、最も高い金額を付けた入札者が商品を落札できる仕組みとなっています。
代表的なオークションサイトには、2000年以前から運営されている老舗・最大手の「ヤフオク!」などが挙げられます。
現在CtoCのファッションECシェアは、フリマアプリに集中しつつあります。しかし、オークションサイトは、稀少な商品を扱うユーザーや、できるだけ高く売りたいユーザーを中心に、現代においても根強い支持を得ています。
変化するファッションEC
近年はさまざまな業界で、定額料金でサービスを利用できる「サブスクリプション」が流行の兆しを見せていますが、ファッションECにおいても新たなECの系統として注目を集めています。
ファッションECでのサブスクリプションは、毎月定額の料金で洋服やアクセサリーをレンタルできる形態のサービスで、アイテムを返却すると同時に次のアイテムが送付される仕組みが採用されています。また、気に入ったアイテムはレンタル期間後に購入することも可能です。
同サービスは、トレンドを追いかけたい方や普段購入しないアイテムに触れてみたいユーザーから好評を得ています。
ファッションECの事業者は、継続的に売上を上げてビジネスを成長させるために、アイテムのトレンドだけでなく世の中の消費動向も把握してECサイトの運営に反映させていくことが重要です。
サブスクリプションのファッションECは拡大傾向を見せており、EC事業者は今後の動向に注目しておく必要があるでしょう。
国内ファッションECの売上ランキング
ここでは、通販新聞社が行った調査データを参考に、国内ファッションECの売上ランキングをご紹介します。
順位 |
企業 |
売上高 |
---|---|---|
1位 |
UNIQLO(ユニクロ) |
832億円 |
2位 |
アダストリア |
405億円 |
3位 |
ベイクルーズ |
395億円 |
4位 |
TSIホールディングス |
341億円 |
5位 |
WORLD(ワールド) |
329億円 |
出典:ファッション通販売上高ランキング(2018年10月~2019年9月)|通販新聞社
通販新聞社が2018年から2019年にかけて行った調査によると、売上高トップはオムニチャネルの成功モデルとして知られるユニクロで、832億円という他の追従を許さない圧倒的な売上を上げています。
2位のアダストリアもオムニチャネルに尽力した企業であり、実店舗との連携やオンライン接客の強化といった施策が成功を収め、大きな売上を上げています。
3位のベイクルーズは、アイテムの説明やコーディネート例など写真をふんだんに使用したコンテンツ充足や、占い・診断によるアイテム紹介など、顧客体験の向上に繋がる施策により売上を伸ばしています。
4位はアパレル大手のTSIホールディングス、5位も大手のワールドが続いています。
上記のランキング上位企業に共通する特徴として、EC業界のトレンドである戦略をいち早く実践して顧客獲得や顧客体験の向上に繋げている点が挙げられます。
ファッションECの課題と解決策
EC業界は、ジャンル・業種によってECサイト運営上の課題が異なります。ここでは、ファッションECにフォーカスして、多くのEC事業者が抱える課題とその解決策をご紹介します。
ファッションECを運営する事業者の方や、これからファッションECに参入する方は、より良いECサイト運営を行なうためにもビジネスを成長させるためにも、ぜひ参考にしてみて下さい。
課題
国内ファッションECが抱える課題には、以下が挙げられます。
集客の難しさ
良いアイテムやお得な価格設定を行なっても、集客ができなければはじまりません。
ファッションECは店舗数(サイト数)が非常に多く、よほどの知名度や認知度が無い限り、数多くの競合サイトと顧客を奪い合う状況となります。
ブランドは顧客から支持されて初めてブランドとしての価値を持ちます。後発としてファッションEC市場に参入する場合、どうやってブランドをターゲットに認知させるかの戦略を立て、着実に実行していく必要があります。
アパレルとECの相性問題
アパレル業界はサイズ感や色合いを確認したいという商品特性上、ECサイトでの販売に向かない業界のひとつです。ですので食品などのカテゴリと比べると、1つの商品に対して多くの画像や写真を掲載し、着用したイメージを伝わるようにする見せる努力が必要となります。バーチャル試着ができるアプリや、店員によるコーディネート写真など様々な工夫が凝らすなどいろいろな方法がありますが、いずれの手法も販売にするために必要な運用コストが高くなってしまうという課題があります。
またたくさんの工夫を凝らしても返品率は他のカテゴリの商品と比較し高いため、返品を効率化するオペレーションを構築する必要があります。「返品は多いもの」「返品のしやすさが購入を促進する」という考え方から、返品しやすいUXを設計することも増えてきています。
在庫管理の難しさ
ファッションECの難しい点は、在庫管理です。在庫が少なすぎるとチャンスロスにつながり、多すぎると不良在庫を抱えてしまいます。商品特性上季節・年度が変わるとトレンドが変わって売れなくなるため、在庫管理はECサイト運営上非常に大きな問題となります。
またブランドという観点においても大量の在庫を破棄してしまっていることがユーザーに伝わると、ブランドイメージの毀損となり、不良在庫以上の収益へのネガティブな影響があります。大量に在庫が残り廃棄されてしまうものに価値を感じることはないですし、サステナブルでないビジネスは現代のユーザには受け入れられません。
解決策
続いて、上記の課題に対する解決策をご紹介します。
特定の集客手段に依存しない
ファッションECに効果的な集客方法は、広告・SEO(コンテンツSEO)・SNS・動画など複数存在します。これらを複合的に駆使して露出を増やすことで、効果的な集客を行なうことができます。
また、集客に苦労する業界だからこそ、一度獲得した顧客をリピート化・ファン化するための施策に注力することも重要です。
サイズ・着用感が明確に分かるコンテンツを制作する
ファッションECが伸びた理由は、商品を着用できない点や手に取って確認できない点を払拭した、詳しいコンテンツ制作が普及したためです。例えばアプリで簡単な質問に答えることで自分に合ったサイズの洋服を提案してくれたり、商品の色だけでなく、透け感や伸縮性を詳しく表記していたりといったサービスを各社が提供しています。
企業は、実店舗での購入に負けないくらいの分かりやすいコンテンツ制作を、常に模索し続ける姿勢が重要となります。
在庫管理は可視化・情報共有・管理方法の整備で適正化する
在庫管理については、まずは在庫情報を可視化して正確に把握することが重要です。
不明瞭な在庫を無くし、情報共有・管理方法を整備することで、曖昧な管理によるロスは減らすことができます。ファッションECは商品ライフサイクルが短く、不要な在庫を多く抱えてしまうと経営にダイレクトな影響を与えてしまいます。とはいえ在庫が少なくても販売に影響してしまうため、できる限り過剰在庫や在庫の不足が起きないようシビアな取り組みを行うことがポイントです。
EC戦略に関しては、こちらの記事でも解説しているので、あわせてチェックしてみてください。
ファッションECの成功事例
ファッションECで成功を目指すなら、実際にファッションECで成功している企業の事例を研究することが非常に重要です。
事例研究をたくさん行うことで、効果的な戦略・施策・アイディアの引き出しも自然に増えて、自社ECサイトの戦略・施策を考える際に効果的な打ち手を見いだすことができます。
ここでは、国内・海外のファッションECでの成功事例を厳選してご紹介します。学べることが多くあるため、ぜひ参考にして下さい。
世界的ファッションEC「ファーフェッチ」
ファーフェッチは、世界中の高級ブランドを集めたロンドン発の巨大インターナショナル・ファッションECサイトです。700店舗以上のショップと連携して3,400以上のブランドを販売しており、今最も勢いに乗っているファッションECサイトとなります。
ファーフェッチが巨大化できた理由は、以下が挙げられます。
- 最新テクノロジーを活用して高度にシステム化されたサービス
- 自社の在庫管理を不要とするリアルタイム在庫管理
- 販売商品を主体とした検索流入による露出増加
- 明確な情報提供と手厚いサポート体制
ファーフェッチも商品提供者もリスクが無く、高度なシステムで確実性・安定性の高いサービスを提供したことが、世界的に拡大し続けることができた要因といえます。
商品主体の検索流入によりサイトへのアクセスを稼ぎ、定価もしくはそれを下回る販売価格やクーポン配布、手厚いサポートで購買行動のハードルを下げていることも、ファーフェッチが支持される要因です。
テクノロジーを徹底的に活用して信頼性・安定性を担保しつつECサイトを拡大するファーフェッチの戦略は、EC事業者が規模の拡大を図る際の良い参考となるでしょう。
新規顧客の獲得・ファン作りに注力「古着屋JAM」
古着屋JAMは、国内最大級の規模を誇る海外買付古着専門店です。関西を拠点に複数の実店舗と自社ECサイトを展開しており、ECサイトを旗艦店のように前面に押し出した運営を行って、多くの顧客を獲得しています。
古着屋JAMの成功の秘訣は、先にご紹介したファッションECが抱える「集客」の課題をクリアして、かつファン化・リピート化して高いLTVを得ている点です。ファッションECと相性の良い写真主体のSNS「Instagram」を積極的に活用して、情報発信と双方向コミュニケーションに尽力することで、上記の課題をクリアしているのです。
難しい施策ではありませんが、手間暇を惜しまずにソーシャル施策を積み重ねたことが成功につながったと考えられます。
同じファッションEC事業者の方は、古着屋JAMのECサイトならびにInstagramをチェックしてみると、学べることは多いでしょう。古着ファンに訴えかける6,000件近くもの投稿が行われています。
まとめ
オンライン・オフラインを合わせたファッション・アパレルの市場規模は低価格志向や景気の悪化により縮小傾向にありますが、EC市場は年々拡大を続けており、コロナ禍によるデジタルシフトがその傾向に拍車をかけています。
ファッションECは市場の拡大に伴い競争も激化しつつありますが、売上が好調なアパレル企業は積極的に情報提供や利便性の向上に取り組み、顧客満足度・顧客体験の向上など金額以外の部分に自社の魅力を見いだしています。
今後ファッション・アパレル業界でECに参入する場合は、成功事例の研究や競合分析を十分に行い、緻密な戦略を考えることが必要といえるでしょう。
弊社では、EC業界へのデジタルシフトを検討している方を対象に、EC市場やECサイト構築方法などを基礎から学べるガイドブックや資料を多数ご用意しています。ECについて学びたい方や知識を補完したい方は、ぜひご活用下さい。
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