年末調整とは? 確定申告との違いや書類の書き方、各種控除について説明

 2023.10.25  株式会社システムインテグレータ

被雇用者であれば、ほとんどの人に毎年11〜12月に年末調整の時期がやってきます。年末調整という言葉を耳にしたことがあっても、年末調整が必要になる理由や確定申告との詳しい違いまではわからないという人もいるかもしれません。そこで本記事では、年末調整の概要や仕組み、提出書類について解説していきます。

年末調整とは、所得税の過不足を清算する手続き

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年末調整とは、源泉徴収した金額と本来納めるべき所得税の総額を再計算し、過不足を清算する手続きのことです。

従業員の所得税は、毎月の給与から天引きされ、納税者本人に代わって勤務先が納めています。ただ、毎月天引きされる所得税は概算の金額であり、その時点では年間の収入も控除額も確定していないため正確な金額ではありません。そのため、本来の金額よりも多く、あるいは少なく納めている場合があります。

年末調整は、その年の所得が確定する12月末の時点で正しい所得額から納税額を再計算し、これまでに給与から徴収された金額と比較して過不足を調整する手続きです。多く納めていた場合は還付という形でお金が戻り、少なかった場合は追加で徴収されます。年末の給与が支給されるタイミングでは会社による年末調整の手続きは終了しているため、過不足分は12月の給与で精算されることが一般的です。

年末調整の仕組み

そもそも、なぜ源泉徴収される所得税額に過不足が発生するのか、詳細に解説します。勤務先が従業員の給与から毎月天引きしている源泉徴収税額は、月々の支払金額に応じて所定の方法で計算されています。この税額を計算する際に使用される納税額表は簡略化されているため、実際に納めるべき納税額と誤差が生じます。また、源泉徴収税額の計算では生命保険料や社会保険料、地震保険料などの控除が考慮されていないことも過不足が起こる理由のひとつです。さらに、その年の途中で扶養家族の人数に変更が生じた場合、扶養控除の額が変わることによっても過不足が生じます。

各種の控除額が反映されれば、年末調整で多く納めていた金額が還付されることになります。反対に追加徴収されるケースには、勤務先の業績が良く、突発的に賞与が支給された場合や、社会保険料などの納付が前年よりも少ない場合、子どもの就職や配偶者の年収が103万円を超えるなどして扶養家族の人数が減少した場合などが挙げられます。
このように納税額に過不足がある場合、自動的にその年の12月分の給与から精算されるのが年末調整の仕組みです。

年末調整と確定申告との違い

年末調整と確定申告は、1年間に発生した収入から国に納める所得税額を確定する手続きであることは共通していますが、それぞれ手続きを行う対象者が異なります。

年末調整は勤務先が従業員の代わりに所得税の過不足を精算する手続きであり、勤務先から給与の支給を受ける従業員が対象です。一方で確定申告とは、個人事業主や年金受給者など、個人が行う手続きのことです。1〜12月までに得た収入から経費などを差し引いた所得金額を本人が計算し、翌年の2月16日〜3月15日までに申告、納税します。なお、被雇用者でも、副業などで給与以外に20万円を超える収入を得た場合や、医療費控除やふるさと納税の寄附金控除など年末調整では対応できない控除を受けたい場合にも、年末調整と確定申告の両方が必要です。年間の給与所得が2,000万円を超える場合も年末調整の対象外となるため、会社員や公務員であっても確定申告をしなくてはなりません。

年末調整は、自分ではできない

年末調整は従業員が納める税金を企業や学校、官公庁などの勤務先が国に申告する手続きです。つまり雇用者側が行う手続きであるため、従業員個人で行うことはできません。なんらかの理由で勤務先の年末調整に間に合わなかった場合は、勤務先から源泉徴収票を受け取って確定申告を行う必要があります。

年末調整の対象となる人、ならない人

年末調整は正社員や公務員だけでなく、パートやアルバイト従業員も対象です。ただし、すべての従業員が対象になるわけではありません。「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を勤務先に提出し、12月31日時点でそこに在籍している人が対象です。年の途中で海外転勤となって非居住者となった人、死亡によって退職した人、心身の障害によって退職し、年内に再就職ができないことが見込まれる人、退職したパート従業員などでその年の給与総額が103万円以下の人なども含まれます。

会社に勤めていない人や、会社や役所勤めでも申告書を提出していない従業員に対しては、年末調整を行う必要はありません。
他に対象外になる人は、前述した年間の給与総額が2,000万円を超える人や、12月の給与支給前に退職した人、2社以上に勤務していて「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を別の勤務先に提出している人、災害免除法の規定に基づいて源泉徴収の猶予を受けた人などが挙げられます。

転職者の年末調整

年の途中で転職した場合、12月31日時点で在籍している勤務先が年末調整を行います。その際に、転職前の勤務先が発行した源泉徴収書を提出しなくてはなりません。転職前と転職後の2つの勤務先で得た給与所得を合算し、その年の所得税を計算します。所得税法では退職後1カ月以内に退職者に源泉徴収票を発行する決まりで、退職後に必要な書類とあわせて郵送するケースが一般的です。年の途中で退職し、年内に再就職しなかった場合は本人が確定申告を行う必要があります。

年末調整手続きの時期

年末調整は毎年11月から翌年1月にかけて行われます。勤務先が行う大まかなプロセスは以下の通りです。

【11月上旬頃まで】
従業員に給与所得者の扶養控除等(異動)申告書、給与所得者の保険料控除申告書、給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書など各種の申告書を配布します。
転職者がいる場合は、転職前の勤務先から発行された源泉徴収票も回収しておきます。以前の勤務先から支給された給与を確認する際に必要です。

【11月下旬〜12月】
従業員から各種の申告書と控除証明書を回収します。提出された申告書に漏れなどがないか確認し、適宜修正を依頼します。提出された申告書を基に各従業員のその年の給与総額を計算し、所得控除額を差し引いて課税対象額を算出します。ここで算出した所得税額と年間の源泉徴収額を比較して過不足を計算し、12月の給与で精算します。計算が終わったら従業員ごとに源泉徴収票を作成して交付します。

【翌年1月10日まで】
税務署に所得税徴収高計算書(納付書)を提出して源泉徴収税を納付します。

【翌年1月31日まで】
従業員の給与や所得税額を記載した法定調書を作成して所轄の自治体・税務署に提出します。

年末調整の過程で企業がやるべきこと

ここからは、経理担当者がやるべき処理を手順ごとに詳しく解説します。

従業員に申請書を配布し、所得控除額を確認する

11月頃から、以下3種類の書類を従業員に配布して記入してもらうか電子媒体への入力を促します。

・給与所得者の扶養控除等(異動)申告書

給与所得者がその給与について扶養控除などの控除を受けるための申告書類です仮に独身で扶養家族がいない場合でも、年末調整の対象者は全員提出する必要があります。扶養控除申告書は扶養控除の有無を確認するだけでなく、所得税の課税区分を決定する役割もあります。

申告書が提出されている従業員の課税区分は甲欄が適用され、無提出の場合は乙欄が適用されます。乙欄は甲欄よりも税額が高くなり、源泉徴収にあたって受けられる各種控除の対象外となります。従業員にはこの仕組みについてよく周知しておくと親切です。

・保険料控除申告書

生命保険料や社会保険料、地震保険料など、従業員が支払った各種の保険料を申告し、控除を受けるための書類です。書き間違いがあると所得税額を正確に計算できなくなるため、添付されている保険料証明書の内容と記載内容に間違いがないかを確認してください。

・給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書

基礎控除、配偶者控除、所得金額調整控除という3種類の控除に関する申告書です。
基礎控除とは所得控除の一種で、所得から一定の控除額を差し引き、税金の負担を軽減するという仕組みです。基礎控除申告書を提出しなくても企業側に不利益はないものの、未提出の従業員は年末調整での基礎控除が受けられないため確定申告が必要です。
給与所得者の配偶者控除とは、年収が一定額以下の配偶者がいる場合、扶養する側の所得税が減額される控除のことです。
所得金額調整控除とは一定の金額を給与所得の金額から控除する制度です。

これらの申告書はすべて1枚の用紙にまとめられています。

年末調整の計算を行い、源泉徴収票を作成する

【ステップ1】
12月頃には、その年の1〜12月の給与や賞与の合計金額と、源泉徴収した徴収税額の合計金額を計算します。次に、給与や賞与の総額に応じて給与所得控除額を計算し、差し引きます。これが課税給与所得金額です。所得控除額は国税庁の公式サイトから確認が可能です。

参照元:国税庁「給与所得控除」

【ステップ2】
課税給与所得金額がわかったら、ここから各種の所得控除(社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除、扶養控除、配偶者控除、ひとり親控除、寡婦控除、障害者控除、基礎控除など)を差し引きます。
住宅ローンの借入がある場合は住宅借入金等特別控除の控除額も差し引きます。

【ステップ3】
最後に、所得税および復興特別所得税の額を算出します。ステップ2で算出した金額に102.1%をかけた税額(100円未満切り捨て)が、その人が1年間に納めるべき所得税と復興特別所得税(2037年まで)です。

納税額が計算できたら、従業員ごとに源泉徴収票を作成しましょう。

法定調書を作成し、提出する

所轄の税務署に法定調書合計票を提出します。
法定調書合計票とは、従業員への給料や役員報酬などの支払いと、外部に対しての報酬の支払い、徴収した源泉所得税の金額などを税務署に報告するための書類です。全部で60種あり、支払先ごとにその内訳を記載した支払調書や、1年間に会社から支給された給与や賞与の総額および納付した所得税額が記載された源泉徴収票も、法定調書に含まれています。法定調書の提出期限は、支払いが確定した年の翌年1月31日です。

また、1年間に事業者がどのくらいの給与を支払ったのかを確認するための書類である給与支払報告書の提出も必要です。給与支払報告書は、各従業員が居住する市区町村に提出します。提出期限は法定調書と同じく、支払いが確定した年の翌年1月31日です。期限までに提出しなかった場合は「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」(第242条)に処されます。

参照元:所得税法

年末調整で従業員が提出する申告書とその書き方

年末調整に必要な申告書の書き方について、要点を解説します。

扶養控除等申告書

正式名称は「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」といいます。
基本情報の欄には、氏名や個人番号(マイナンバー)、住所、生年月日、世帯主名、続柄、配偶者の有無などを記載します。
「従たる給与についての扶養控除等申告書の提出」欄については複数の勤め先がある人が対象となります。該当しない場合は空欄で構いません。

基本情報以外には「源泉控除対象配偶者」、「控除対象扶養親族」「障害者・寡婦・ひとり親・勤労学生」、「他の所得者が控除を受ける扶養親族等」、「住民税に関する事項」のブロックがあります。
源泉控除対象配偶者がいる場合は、その内容を記載してください。なお源泉控除対象配偶者とは、給与所得者(その年の所得見積額が900万円以下の人に限る)と同一生計の配偶者で、その年の所得の見積額が95万円以下の人を指します。事実婚や内縁関係の場合は配偶者とはみなされません。

控除対象扶養親族の欄には、12月31日時点で16歳以上の扶養親族がいる場合に記載します。扶養家族の要件として、納税者と生計を一にしている親族(配偶者、確定申告の青色申告者および白色申告者を除く)、児童福祉法の規定による里子または老人福祉法の規定による養護老人で、その年の所得見積額が48万円以下の人と定められています。

その他、扶養親族等の範囲については、申告書の裏面に記載されている要件を確認してください。
住民税に関する事項の欄には、16歳未満の扶養家族の氏名やマイナンバー、生年月日、住所などを記載します。ここに記載した内容は住民税の計算に利用されます。
また、毎年の制度改正の影響で申告書の記載内容は微妙に変わるため、最新の申告書で提出するよう注意が必要です。

参照元:国税庁「令和4年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」

基礎控除申告書

正式には「給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」という書類です。1枚の用紙に「給与所得者の基礎控除申告書」、「給与所得者の配偶者控除等申告書」、「所得金額調整控除申告書」が統合された様式になっているのが特徴です。基礎控除申告書の給与所得の「収入金額」にはその年の1〜12月までの収入合計(①)を記入します。給与所得の所得金額には、①から給与所得控除額を差し引いた金額(②)を記入します。給与所得以外の所得合計額(③)には、副業収入や配当所得、不動産所得などがある場合に記入します。
本年中の合計所得額の見積額には、②と③の合計金額(④)を記入します。最後に判定の表に基づき、④の金額から基礎控除額を算出して記載します。

参照元:国税庁「令和4年分 給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書」

保険料控除申告書

保険料控除申告書は正式には「給与所得者の保険料控除申告書」という書類です。給与支払者の名称や法人番号、所在地、給与所得者の氏名、住所などの基本情報のほか、生命保険料控除や地震保険料控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除など各種の保険料の控除額を記載します。本人が加入している保険会社などから郵送される控除証明書の内容を転記するか、年末調整が電子対応されている企業であれば電磁的記録印刷書面による提出も可能です。

参照元:国税庁「令和4年分 給与所得者の保険料控除申告書」

住宅借入金等特別控除申告書

「給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書(以下、住宅ローン控除等申告書)」は、住宅ローン控除を受けたい人が提出する申告書です。住宅ローン控除を受ける最初の年は確定申告が必要ですが、翌年以降は年末調整によって控除を申告できます。初年度に確定申告をすると、10月頃までに控除対象となる年数分の申告書が税務署から郵送されるので、これを毎年1枚ずつ使用していきます。
申告書には、給与支払者(勤務先)の名称や住所、給与所得者の氏名、世帯主、続柄などを記入します。また、借入先の金融機関から毎年10月頃に郵送される住宅ローンの年末残高等証明書の内容に従って住宅借入金等の内訳を記載します。

年末調整で受けられる控除

年末調整で受けられる控除は以下です。

  1. 基礎控除
    納税者本人の合計所得金額に応じて受けられる
  2. 扶養控除
    納税者に所得税法上の控除対象となる扶養親族がいる場合に受けられる
  3. 生命保険料控除
    納税者が生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料を支払った際に受けられる
  4. 地震保険料控除
    納税者が特定の損害保険契約などにかかる地震等損害部分の保険料や掛金を支払った場合に受けられる
  5. 小規模企業共済等掛金控除
    納税者が小規模企業共済法に規定された契約に基づいて掛金などを支払った際に受けられる
  6. 社会保険料控除
    納税者が本人や本人と生計を一にする配偶者やその他の親族が負担すべき社会保険料を納めた際に受けられる
  7. 障害者控除
    納税者本人、生計を一にする配偶者、扶養親族が所得税法の障害者に該当する場合に受けられる
  8. ひとり親控除
    納税者がひとり親である場合に受けられる
  9. 寡婦控除
    納税者本人が寡婦である場合に受けられる
  10. 勤労学生控除
    納税者が勤労学生である場合に受けられる
  11. 配偶者控除
    納税者に所得税法上の控除対象となる配偶者がいる場合に受けられる
  12. 配偶者特別控除
    配偶者に48万円を超える所得があり、配偶者控除の適用が受けられない場合でも配偶者の所得金額に応じて一定額の控除が受けられる

年末調整だけでは受けられない控除

以下の控除は、後に確定申告を行うことで受けられます。年末調整を行うだけでは受けられません。

  1. 医療費控除
    その年の1〜12月までの間に納税者本人および本人と生計を一にする配偶者やその他の親族のために医療費を支払い、その額が一定額を超える場合に受けられる
  2. 寄付金控除
    納税者が国や地方自治体、認定NPO法人などに寄付をした場合に受けられる
  3. 雑損控除
    災害や盗難、横領で一定の要件を満たす資産について損害を受けた場合に受けられる

年末調整を行わなかった場合

年末調整は所得税法で定められた企業の義務であるため、故意に年末調整を行わないと企業に罰則が科せられる場合もあることに注意が必要です。また、税務署から指摘があった後も年末調整を行わず納税が滞った場合、督促状が届きます。それでも納税が行われなければ電話や書面での催促ののち、会社資産が差押になるケースもあります。必ず期限までに必要書類を提出し、年末調整を終えるようにしてください。一方で従業員の都合で申告書を提出しなかったケースでは、従業員個人が確定申告をしなければならなくなります。発生した所得に対して無申告でいると、税金が加算されたり延滞税を徴収されたりする恐れがあるため、個人で確定申告を行う場合も期限を守って手続きを行うことを推奨します。

ERPを適切に活用することで業務の負担を軽減

年末調整に関わる処理は多岐にわたり、企業の労務管理は煩雑です。そこで労務管理系の専用システムや、ERPを活用すれば、業務を省力化できます。経理担当者の負担軽減を目指すのであれば、以下のERP比較資料を参考にしてみてください。

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まとめ

年末調整は、従業員を雇用しているすべての給与支払者が行わなければならない義務です。税額や保険料の計算など煩雑な作業を伴う年末調整の手続きも、ERPシステムを活用すれば各種申告書の作成や保険料の計算、役所への提出などを効率化できます。年末の多忙な時期に行わなければならないことから経理・労務担当者の負担が大きくなりがちな企業は、ぜひシステムを活用して年末調整の負担を軽減してはいかがでしょうか。


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