決算は、会計年度末に企業ごとの財務・経営状況を把握するための大切な業務です。投資家など、外部のステークホルダーに会社の状態をアナウンスする役割を担っています。特に大企業においてはグループ企業全体の経営状況を知るために連結決算が行われます。
この記事では、企業活動における重要業務である連結決算にフォーカスして詳しく解説します。
連結決算とは
決算とは、一年間の収益や現時点での資産、負債等を計算し、財務状況を明確化する業務です。経営状況を把握するためだけでなく、株主や取引先、金融機関に財務・経営状態を開示する側面もあります。
連結決算とは、大企業において親会社だけでなく子会社や関連会社を含めたかたちで行う決算のことを指します。連結決算はグループ全体の財務・経営状況を把握する方法で、M&Aや子会社を新設した際などに行われます。連結決算がグループを一つの企業として捉えた決算である一方、その企業単体での決算を単独決算といいます。
決算に関する内容は、以下の記事で詳しく解説しているので、併せてご覧ください。
決算とは?基礎知識や決算の流れ、決算早期化のポイントを詳しく解説
連結決算の対象
大企業は多くの子会社や関連会社を有しており、連結決算の対象となっています。連結決算を説明する前に、子会社の定義について明確にしておきましょう。
一般的には、議決権が過半数を占める企業は子会社となります。ただし、議決権が過半数を下回る場合でも、一定の条件を満たすことで子会社として扱われる場合があります。議決権保有率と一定の条件について以下にまとめました。
議決権保有率 |
子会社として判断される基準 |
50%~ |
・議決権の過半数を保有している。 |
40~49% |
・議決権の40~49%を保有している。 ・緊密者の議決権や役員関係が一定の条件を満たしている。 |
0~39% |
・議決権の0~39%を保有している。 ・緊密者と合わせて過半数の議決権を保有している。 ・役員関係が一定の条件を満たしている。 |
一定の条件について
条件1:緊密者、同意者の議決権
親会社となる企業の役員が所持している議決権が、当該企業の議決権の過半数を占めている。
条件2:役員、使用人の関係
親会社となる企業の経営者や役員が当該企業の役員として在籍しており、取締役会といった経営意思決定機関における構成員の過半数を占めている。
条件3:契約関係
親会社となる企業が当該企業の財務・経営・事業方針の決定を支配するような契約が存在する。
条件4:資金関係
親会社となる企業が当該企業の貸借対照表における負債の部に計上される資金調達額の総額の過半について融資を行っている。
条件5:そのほかの事実関係
そのほか、当該企業の経営意思決定機関を支配していることが推測される事実が存在する。
連結決算を行うメリット
連結決算を行う最大のメリットは、子会社や関連会社を含めたグループとしての財務・経営状況が明確になる点です。
上場企業は多くの子会社や関連会社を抱えており、それぞれの単独決算だけでは経営状況が見通せません。そこで連結決算を行うことで、グループとしての健全性が可視化されるのです。
また、親会社と子会社の間の不正会計などを防げる点も、投資家や株主、金融機関にとって大きなメリットです。例えば、親会社の損失を子会社へ移す「飛ばし」や、子会社に対する架空売上の計上、循環取引などは、金融機関や取引先などの利害関係者の信用を著しく失墜する行為です。連結決算はこういった不正を防止する側面もあります。
連結決算を行うデメリット
連結決算は、連結財務諸表の作成に手間がかかることが最も大きなデメリットです。
大企業になると数百の連結子会社を抱えている場合もあります。子会社・関連会社の経理担当者と連携を取り、単体決算書類を回収して合算するのは非常に大変な業務でしょう。
近年ではペーパーレスで連結決算書類を作成できるシステムが数多く存在しますが、システム導入には一定のコストがかかるため、本業への投資を優先してシステムを導入せず、経理担当者がExcelなどで書類を作成しているケースも珍しくありません。
また、連結決算書類は会計監査役および会計監査人の監査を受ける必要があり、人的リソースが限られる中小企業においては大きな負担となります。
連結財務諸表とは
連結財務諸表とは、親会社と子会社・関連会社をひとつのグループ企業ととらえ、財務状況をひとつの帳票で表した財務諸表を指します。連結貸借対照表・連結損益計算書・連結キャッシュフロー計算書・連結株主資本等変動計算書などで構成されています。
連結財務諸表はグループとしての財務状況を表すため、グループ内での取引や賃借は相殺消去しなければなりません。子会社・関連会社ごとに個別の財務諸表を作成したのち、投資と資本の相殺消去・債権債務の相殺消去・未実現利益と未実現損益の消去・持分法の適用を行った上で合算します。
連結財務諸表を作成するメリット
連結財務諸表のメリットとしては、グループ全体としての利益を把握できる点が挙げられます。
例えば、製造・販売を親会社・子会社で分担して行っている場合、個別の財務諸表では親会社から子会社への売上が記載されますが、グループ全体で見た場合、利益には繋がりません。こういったグループ間取引を相殺し、グループ全体での業績を把握できる点が連結財務諸表の良い点です。
もう一つのメリットとしては、経理上の不正を防げる点が挙げられます。前述の通り、グループ間での取引や貸借については相殺消去対象となるため、グループ間での不正な取引は意味を成さなくなります。
連結財務諸表の構成要素
連結財務諸表は連結貸借対照表(連結B/S)・連結損益計算書(連結P/L)・連結キャッシュフロー計算書(連結C/F)・連結株主資本等変動計算書(連結S/S)などで構成されます。
それぞれの帳票の概要と特徴について説明します。
連結貸借対照表
連結貸借対照表は、グループ企業全体の資産や負債などの財務状況を表したものです。親会社と子会社・関連会社の単独賃借対照表を単純に合算したものではなく、親子間取引などを相殺して作成されます。
議決権や役員関係が一定の条件を満たしている子会社は全部連結され、親会社の影響下にある関連会社は持分法が適用されます。
全部連結は、親会社と子会社の財務諸表を100%合算してから、少数株主持分を控除する決算方法です。100%子会社の場合はすべて合算できますが、60%子会社の場合は40%分を控除する必要があります。
一方、持分法は、親会社の持分に応じた収益のみが計上されるため、全部連結よりも簡易な決算処理です。
連結損益計算書
連結損益計算書は、グループ企業全体の営業成績がまとめられたものです。
連結貸借対照表がグループ全体の資産と負債の状況を表しているのに対し、連結損益計算書はグループ全体の営業状態がどのような状況なのかを把握できます。
連結貸借対照表と同様に、グループ間での売買や仕入れなどを相殺消去して作成されます。子会社は全部連結、関連会社は持分法となる点も連結貸借対照表と同様です。
連結キャッシュフロー計算書
連結キャッシュフロー計算書とは、グループ企業全体における会計年度ごとの資本の増減など、収入と支出の状況を表す帳票です。
作成方法には原則法と簡便法があり、原則法では親会社および子会社の個別キャッシュフロー計算書を作成して合算し、グループ間の取引等を相殺消去して作成されます。一方、簡便法は連結貸借対照表と連結損益計算書から作成する方法です。
原則法は個別キャッシュフロー計算書の作成やグループ間取引の相殺消去などが煩雑なため、現在は簡便法で作成する企業が多くなっています。
連結株主資本等変動計算書
連結株主資本等変動計算書とは、会計年度ごとの連結貸借対照表の純資産の部における変動額のうち、主に株主に帰属する部分である株主資本の各項目の変動事由を報告するために作成される帳票です。
連結貸借対照表に設けられている純資産の部の項目に対し、前期末残高・当期変動額・変動事由・当期末残高が明記されます。グループ全体の純資産が1年間にどのような事由でどれだけ変動したのかが分かります。
また、連結株主資本等変動計算書には当期純利益(損失)という項目があり、資本金などの項目に割り振られていない金額が入るため、企業に利益が出ていることを示しています。
連結決算の流れ
それでは、実際の連結決算の流れについて見ていきましょう。連結決算は「個別財務諸表の作成・収集」「個別財務諸表の合算」「連結修正仕訳の作成」「連結財務諸表の作成」の流れで行われます。
個別財務諸表の作成と情報収集
まずは企業ごとに個別に財務諸表を作成します。財務諸表には損益計算書・貸借対照表・株主資本等変動計画書が含まれます。
個別財務諸表にはグループ会社内での取引や貸借の情報も含まれており、連結決算ではこれらの情報の相殺消去を行わなければなりません。したがって、グループ会社内の取引情報・グループ会社内の商品の期末在庫金額・グループ会社で購入した固定資産などの情報を収集する必要があります。
同時に、子会社・関連会社を連結決算の範囲に含めるか否かを判断するため株式異動明細・融資増減・債務保証増減・出向者情報・役員兼任状況・支配取得日・持分比率などの情報も収集します。
個別財務諸表の合算
個別財務諸表を作成し必要な情報を収集して連結範囲も決定したら、合算して連結調整前財務諸表を作成しましょう。
連結調整前財務諸表の作成にあたっては、グループ会社での勘定科目の統一・在外子会社の外貨ベースの財務諸表の円貨への換算・決算期ずれの調整などが注意点として挙げられます。子会社の決算日と連結決算日のずれについては、3ヶ月以内であれば許容されるためそのまま連結できます。ただし、3ヶ月を超える場合は連結決算日に仮決算を行わなければなりません。
連結修正仕訳の作成
次の工程は連結修正仕訳の作成です。連結修正仕訳とは、グループ会社間での取引や貸借を相殺消去する処理です。
連結修正仕訳は、親会社の投資と子会社の資本を相殺する資本連結、親会社・子会社間の内部取引を相殺する成果連結に分かれます。前期の連結修正仕訳を取りまとめる開始仕訳や、グループ間取引で実現していない利益を消去する未実現利益の消去、連結税効果会計などもこちらに含まれるため注意しましょう。
流れをまとめると、「開始仕訳」「資本連結」「未実現利益の消去」「連結税効果会計」の順番で行われます。
決算の最終調整として行われる決算整理仕訳については、こちらの記事で詳しく説明しているので、併せてご覧ください。
連結財務諸表の作成
最後の工程は連結財務諸表の作成です。連結財務諸表は、連結調整前財務諸表と連結修正仕訳を用いて調整・作成されます。
作成する財務諸表は連結貸借対照表・連結損益計算書・連結キャッシュフロー計算書・連結株主資本等変動計算書の4種類です。
連結財務諸表の勘定科目については、内閣府が定める連結財務諸表規則などのガイドラインに基づいている必要があります。
連結決算時の注意点
連結決算を行う上で、注意点が2つあります。
1点目は、連結決算が親子間取引を相殺消去する必要がある点です。連結決算で適切な修正を行うためには、日頃から情報をやり取りし親子間取引を適切に管理しなければなりません。
2点目はスケジュール管理です。上場企業は決算日から45日以内の連結決算情報の開示が義務付けられています。期日までに親会社と各子会社・関連会社で個別財務諸表を作成し、各種情報を集約して連結財務諸表を作成しなければなりません。そのため、連結決算に向けて逆算して各社の決算スケジュールを立てる必要があります。
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まとめ
この記事では連結決算について解説しました。連結決算は、企業のグループ全体の経営状況を把握するために行われます。適切に連結決算を行うことは企業活動に欠かせません。
効率的にさまざまな処理を進めるためには、連結決算に関する理解を深めると同時に積極的なシステム導入が推奨されます。小規模な企業などではExcelなどで集計しているケースも少なくありませんが、業務の負荷を減らすためにはERPの導入などが有効です。
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