個人住民税の納付方法には、「普通徴収」と「特別徴収」の2種類があります。会社員や公務員といった給与所得者であれば、原則として特別徴収になるため、あまり意識したことがない方も多いかもしれません。普通徴収と特別徴収では納付に関して徴収する回数や方法が異なるため、経理担当の方、経営者の方などは十分に把握しておく必要があります。
この記事では、住民税における普通徴収と特別徴収の違いや特別徴収の手順、特別徴収に関して知っておきたいポイントなどについて解説します。
そもそも住民税とは
住民税とは、居住する地方自治体に対し納付する地方税の一つです。住民税には、「道府県民税および都民税(都道府県に納付する税金)」と「市町村民税および特別区民税(市区町村に納付する税金)」の2つの税金が含まれます。納付された住民税は、「教育」「福祉」「緊急」「ごみ処理」など公共サービスに使用されます。また、住民税の税額は以下の2つから成り立ちます。
均等割
一定の所得がある住民に対し、均等に課される税金です。前年の所得などの影響を受けません。
所得割
前年の所得金額に応じて算出される税金です。税額は前年の1月1日〜12月31日までの所得をもとに算出されます。
住民税は、均等割と所得割の合計額となり、その年の1月1日時点に住所のある市区町村で課税される仕組みです。
住民税の徴収方法
住民税の徴収方法には、「普通徴収」と「特別徴収」の2種類があります。一般的に、会社員や公務員などの給与所得者の場合は、住民税の納付は「特別徴収」です。一方、自営業やフリーランスの方など給与所得でない場合は、「普通徴収」で住民税を納付します。
ここでは、普通徴収と特別徴収それぞれについて、納付方法やメリット・デメリットを解説します。
普通徴収
普通徴収とは、住民税を納税者自身で納付する方法のことです。普通徴収の場合、6月になると市区町村から「住民税納税通知書(納付書)」が届き、その納付書を使って納税者自身で住民税を納めます。また、納付の際は「一括払い」または「年4回の分割払い」から選ぶことが可能です。
注意点として、住民税は前年の所得をもとに算出されるため、現在無職で収入が無かったとしても、前年に一定の所得がある場合は住民税を納付する必要があります。
また、普通徴収のメリット・デメリットは以下の通りです。
メリット:納付方法が複数ある
普通徴収の場合、納付書を使って「金融機関」「役所の窓口」「コンビニ」などで現金納付をします。また、最近では市区町村によって、「クレジットカード払い」「スマホ決済アプリ」で住民税の納付が可能です。クレジットカード払いでは、住民税をスムーズに納められるほか、ポイントも付くためお得に支払えます。ただし、自治体によっては決済手数料が発生するので、事前によく確認するようにしてください。
デメリット:一回当たりの納税額が大きい
普通徴収の場合、「一括」か「年4回(6月・8月・10月・翌年1月)の分割払い」で納付を行います。そのため、年12回払いの特別徴収に比べて、一回当たりの納税額が高くなるため負担に感じる方もいるでしょう。また、納付期限までに自身で納付する必要があるため、納付をし忘れる恐れもあります。
特別徴収
特別徴収とは、会社に勤める従業員や公務員など、給与所得者に適用される徴収方法です。給与所得者が納付する住民税を、勤務先の企業などが月々の給与から天引きし、本人に代わって納付します。「所得税の源泉徴収義務のある事業者」については、地方税法により、住民税を特別徴収により納付することが義務化されています。また、原則として特別徴収から普通徴収に切り替えることはできず、特定の条件を満たした場合のみ特例として普通徴収への切り替えが認められます。
特別徴収のメリット・デメリットは以下の通りです。
メリット:納付の手間がなく忘れる心配がない
特別徴収では勤務先が住民税を納付するため、納税者である給与所得者は納付の手間がなく、忘れる心配がありません。また、月々の給与から天引きされるため、1回当たりの納付に対する負担が少なく感じられる点もメリットと言えます。
デメリット:勤務先側の事務負担が増す
特別徴収は、給与所得者側にとってはメリットがありますが、勤務先側にとっては「特別徴収に関する事務処理の負担が増す」というデメリットがあります。毎月、全従業員の住民税を控除し納付する必要があるため、さまざまな手続きが発生するのです。
住民税の特別徴収と普通徴収の違い
住民税の特別徴収と普通徴収には、大きく「徴収方法」「徴収回数」「納付作業を行う人」に違いがあります。それぞれ具体的に見ていきましょう。
徴収方法
普通徴収の場合、6月に各市区町村から「住民税納税通知書(納付書)」が届くため、その納付書を使って納税者自身で納めます。納付をする際は、「金融機関」「役所の窓口」「コンビニ」などで現金納付をするほか、自治体によってはクレジットカード払いにも対応しています。また普通徴収の場合、期限までに納付しないと住民税を滞納することになり、納付期限から30日以内に督促状が届きます。それでも納付できない場合は、財産が指し押せられるため注意が必要です。
一方、特別徴収の場合は、勤務先が毎月の給与から住民税を控除し、翌月の10までに従業員の住む自治体に納付します。
徴収回数
特別徴収の場合、住民税は給与所得者の毎月の給与から天引きされるため、12回に分けて徴収されることになります。一方、普通徴収の場合は、「年4回の分割払い」か「年一括払い」から選択して納付が可能です。普通徴収による年4回の分割払いの場合、納付期限は以下のようになります。
普通徴収による住民税の納付期限
第一期分 |
第二期分 |
第三期分 |
第四期分 |
6月30日 |
8月31日 |
10月31日 |
翌年1月31日 |
また、普通徴収で住民税を「年一括払い」で納付する場合は、第一期分の6月30日が納付期限になる点に留意してください。
仮に、1年間の住民税が36万円だったとすると、特別徴収の場合は1ヵ月あたり30,000円の住民税が給与から天引きされます。一方、普通徴収の場合、年4回の分割払いにしても一回あたりの納付額は90,000円となり、税負担が大きいと感じるでしょう。
納付作業を行う人
普通徴収の場合は、納税者本人が自身で納付を行います。銀行やコンビニなどで現金納付をするか、クレジットカード払いなどで納付するのが一般的です。
一方、特別徴収の場合は納付を行うのは勤務先です。この際、住民税は給与所得者の給与から天引きされるため、一般的には給与支払い担当者が納付作業を行います。また、多くの企業では、給与の支払いに関する業務は人事担当者か経理担当者が行っているでしょう。
実際に行う作業としては、まず従業員が住民税を納付する市区町村から送付される、「特別徴収税額決定通知書」を確認します。次に、特別徴収税額決定通知書に記載されている税額を給与から天引きし、納付書を使って銀行窓口で納付するか、ATMやインターネットバンキングなどで納付するのが一般的です。
住民税の特別徴収の手順
住民税は、前年の1~12月までの所得に応じて課税され、当年の6月~翌年の5月までの間に納付する税金です。特別徴収の場合、この納付作業を勤務先が行います。では、特別徴収を行う際、実際に勤務先が行う作業にはどのようなものがあるのでしょうか。ここでは、特別徴収を行う際の4つの手順について解説します。
給与支払報告書の提出
勤務先が行う作業として、まずは「給与支払報告書」の提出が挙げられます。給与支払報告書とは、前年1~12月の1年間の間に、従業員ごとにどのくらい給与を支払ったのかを確認するための書類のことです。給与支払報告書には、従業員の「氏名」「住所」「生年月日」「個人番号」「給与額」「社会保険の控除額」などを記載します。
記載された給与支払報告書は、1月31日までに、従業員ごとに居住する市区町村に提出する必要があります。各市町村区は提出された給与支払報告をもとに住民税額を算出し、従業員の住民税額が決定します。
特別徴収税額決定通知の受け取り
5月ごろになると、従業員が居住する市区町村から「特別徴収税額決定通知書」が送られてきます。特別徴収税額決定通知書とは、提出された給与支払報告書をもとに、算出された住民税額が記載されている書類のことです。
特別徴収税額決定通知書を受け取った勤務先は、記載されている内容や金額に間違いがないか確認する必要があります。もし記載内容に間違いがあった場合は、市区町村に連絡し対応を行う必要があるでしょう。
給与から住民税を控除
「特別徴収税額決定通知書」には、従業員ごとに決定した住民税が記載されています。そして、決定された住民税を確認した勤務先は、従業員ごとに毎月の給与計算に反映させます。5月に通知された住民税額は翌月の6月の給与計算から反映され、翌年の5月まで毎月の給与から住民税を控除する必要があります。
住民税の納付
勤務先は、各従業員の給与から天引きした住民税を、翌月の10日までに市区町村に納付する必要があります。納付の際は納付書を使い銀行などの金融機関や各市町村区の窓口で行うほか、ATMやインターネットバンキングでも納付可能です。
なお、期限を過ぎて納付した場合、「納付した税額」と「期限を過ぎてから納付されるまでの日数」に応じて延滞金が加算される場合があります。また、毎月ごとの給与から差し引いた住民税は、翌月の10日までに納付するのが原則です。しかし、給与の支払いを受ける従業員が常時10人未満の場合、給与から控除した住民税を6ヵ月分にまとめ、年に二回に分けて納付できる特例があります(納期の特例)。
なお、納期の特例を受けるには事前申請により承認を受ける必要があり、承認された場合は承認日が属する月から適用されます。特別徴収をした住民税を毎月納付するのが大変な場合に利用すると良いでしょう。
住民税の特別徴収において知っておきたいポイント
地方税法では、「所得税の源泉徴収義務のある事業者」を対象に、従業員の住民税について特別徴収による納付が義務化されています。しかし、さまざまな理由により特別徴収を行うのが難しかったり従業員の入退社があったりした際に、どう対応すればいいか分からないケースもあるでしょう。ここでは、住民税の特別徴収において知っておきたいポイントを解説します。
普通徴収に変更できる場合もある
特別徴収をすることが義務づけられている事業者に関しては、原則として従業員や会社の都合で普通徴収に切り替えることはできません。しかし、以下のような理由があるケースでは、例外的に普通徴収へ変更できることがあります。
会社側の事情:
- 従業員数が全員で2名以下の場合
- 給与の支払いが、常時2名以下の家事使用人に限られる場合
従業員の事情:
- 複数の会社で働いていて、別の会社で住民税が特別徴収されている場合
- 5月31日までに退職予定の場合
- 給与が少なく特別徴収できない場合
- 給与の受け取りが毎月でない場合
以上のような理由で普通徴収に変更する場合は、「個人住民税の普通徴収の切替理由書」の提出が必要です。また、各市区町村に1月31日まで提出する「給与支払い報告書」に添付して提出します。
新入社員は前年の所得の有無や徴収方法に注意
新入社員が入社した際、その社員の前年における所得の有無によって、住民税に関する手続きが変わる点には注意してください。住民税は前年の1~12月の所得をもとに計算される仕組みのため、新入社員が前年に所得がない場合は、その年に発生する住民税はありません。そのため、新入社員に前年の所得がない場合は、入社時に住民税に関する手続きは必要ありません。
一方、新入社員が前年の1~12月に所得を得ていた場合は、入社時に住民税に関する手続きが必要です。その際、新入社員がそれまで普通徴収だったか特別徴収だったかによって、手続きは以下のように変わります。
新入社員がそれまで普通徴収だった場合:
普通徴収だった場合は、新入社員の住所がある市区町村に「特別徴収切替届出(依頼)書」を提出し、普通徴収から特別徴収に切り替える手続きを行う必要があります。
新入社員がそれまで特別徴収だった場合:
特別徴収だった場合、前職の勤務先から「給与所得者移動届出書」が送付されていれば、「異動の事由」欄にある「転勤」の項目をチェックします。そして、新入社員が退職した翌月の10日までに、市区町村に提出する必要があります。
いずれのケースでも、手続きをしない場合は普通徴収となり、新入社員自身で住民税を納めることになりますが、問題はありません。ただし、その場合は新入社員が入社した翌年の1月31日までに「給与支払報告書」を提出することによって、入社2年目から特別徴収に切り替わります。
従業員が退職・転職・死亡などした場合
従業員の退職や転職、死亡などにより特別徴収ができなくなった場合は、その翌月の10日までに、従業員の住所がある市区町村に「給与所得者異動届出書」を提出します。なお従業員が退職する際、まだ転職先が決まっていない場合は、給与所得者異動届出書に普通徴収へ切り替える旨を記載し提出します。また、従業員が退職した際は、退職月によって以下のように住民税の徴収方法が変わります。
退職日が6~12月の場合:
翌月から普通徴収になりますが、本人の希望によっては一括徴収も可能です。
退職日が1~4月の場合:
原則として、未徴収分の住民税が一括徴収されることになります。
退職日が5月:
通常通り特別徴収で処理されます。
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まとめ
住民税の納付方法には普通徴収と特別徴収があり、「所得税の源泉徴収義務」のある事業者は、従業員の住民税を特別徴収で納めることが地方税法で義務付けられています。特別徴収は、従業員側から見ると納付の手間がないなどメリットがありますが、勤務先側から見るとさまざまな手続きが必要となり大きな負担となるでしょう。また、企業は住民税の他にもさまざまな控除への対応が必要になります。
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