税金の控除にはさまざまな種類があります。その中でも給与所得控除は、所得税の課税対象である「給与所得」を算出するために使われ、1年間の給与収入額によって一定額を控除できる仕組みです。年末調整の際は、複雑な手続きに頭を抱える方は多いでしょう。
この記事では、給与所得控除と他の控除の違い、控除額や所得税の計算方法について詳しく解説します。
給与所得控除とは
給与所得控除とは、所得税計算のベースとなる給与所得額を確定させるために、1年間の給与収入の額に応じて一定額を控除できる制度です。給与所得がある全ての人が受けられます。
所得税を算出する際は、収入から交際費などの必要経費を引きますが、企業に勤めている給与所得者には経費を引く制度がありません。よって、給与収入に応じて「経費分」として差し引かれるのが「給与所得控除」となります。
つまり、給与所得ではない自営業者や、報酬を受け取る業務委託やフリーランスなどは適用外です。
給与所得に似た言葉に給与収入がありますが、これらは違う意味の言葉になります。給与収入とは、従業員が勤務先から受け取る給料や賞与などの支給額のことであり、残業代や各種手当なども含まれます。一般的に言う「年収」は給与収入のことです。
一方、給与所得は給与収入から給与所得控除の額を差し引いた金額を言います。
その他の控除との違い
控除にはさまざまな種類があります。給与所得控除との違いを見てみましょう。
所得控除との違い
「所得控除」は、税金の計算をする際に収入から差し引ける控除です。所得控除は15種類あり、控除ごとに利用条件が異なります。ほとんどの所得控除は自己申告制となっているため、自分で条件に当てはまっているかを確認して申告しなければなりません。
個人事業主は、確定申告で所得控除の申告をしますが、給与所得者は一部の所得控除を除いて年末調整の時に会社に申告をします。基本的に会社側で年末調整を行ってくれますが、寄附金控除・医療費控除・雑損控除を利用するには自分で確定申告が必要です。
以下に、年末調整と確定申告時に控除できるものをそれぞれまとめました。
年末調整と確定申告共通で控除できるもの
控除の名称 |
控除対象 |
控除額 |
社会保険料控除 |
納税者本人・配偶者・扶養親族などが負担した健康保険料、国民健康保険料、国民年金保険料などの保険料負担額 |
負担した保険料全額 |
小規模企業共済等掛金控除 |
小規模企業共済・確定拠出年金などの掛金負担額 |
掛金負担額の全額 |
生命保険料控除 |
生命保険料・介護保険料・個人年金保険料 |
定められた計算によって算出された金額 |
地震保険料控除 |
地震などの災害に対する地震保険料、損害保険料 |
定められた計算によって算出された金額 |
寡婦控除 |
離婚、死別などで配偶者がおらず、一定の要件に該当する人 |
27万円 |
ひとり親控除 |
配偶者がおらず生計を共にする子供がおり、一定の要件に該当する人 |
35万円 |
勤労学生控除 |
給与所得の合計所得金額が75万円以下(給与所得については10万円以下)の学生 |
27万円 |
障害者控除 |
納税者本人・配偶者・扶養親族(年少扶養含む)で障害者として一定要件に該当する人 |
最大75万円 |
配偶者控除 |
配偶者のうち一定要件に該当する人 |
38万 |
扶養控除 |
扶養親族のうち一定要件に該当する人 |
38万円 |
基礎控除 |
合計所得金額2,500万円以下の場合 |
最大48万円 |
確定申告で控除できる所得控除
雑損控除 |
災害や盗難などの損害のうち一定要件に該当する金額 |
定められた計算によって算出された金額 |
医療費控除 |
その1年で支払った医療費のうち一定要件に該当する金額(最高200万円) |
定められた計算によって算出された金額 |
寄附金控除 |
ふるさと納税など、寄附金で一定要件に該当する金額 |
定められた計算によって算出された金額 |
基礎控除との違い
「基礎控除」とは、15種類ある所得控除の中の一つです。1年間の「合計所得金額」が2,500万円以下の人が利用できます。基礎控除は全ての納税者本人が対象であるため、給与所得者は給与所得控除と基礎控除の両方を使用できます。
合計所得金額とは、給与収入から給与所得控除を引いた「給与所得」や、売上から経費を引いた「事業所得」などを合計した金額です。合計所得金額が2,400万円以下の人は基礎控除を受けられますが、基礎控除額は所得が2,400万円を超えると徐々に減っていき、2,500万円を超えると基礎控除は適用されなくなります。
納税者本人の合計所得金額 |
控除額 |
24,000,000円以下 |
480,000円
|
24,000,000円超 24,500,000円以下 |
320,000円 |
24,500,000円超 25,000,000円以下 |
160,000円 |
25,000,000円超 |
0円 |
特定支出控除との違い
「特定支出控除」は、仕事で必要な研修や接待など、自己負担した特定の費用がその年の給与控除額の50%を超えた場合に受けられる控除です。確定申告にて申告を行います。
特別支出は全部で7項目あり、内容は以下の通りです。
通勤交通費 |
通勤に必要であると認められる費用 |
転居費 |
転勤の際の費用 |
職務上の旅費 |
出張や出向の際に必要な交通費 |
研修費 |
職務に直接的に必要なスキルを得るための費用 |
資格取得費 |
職務に必要な資格を取得するための費用 |
帰宅旅費 |
単身赴任の人が自宅に帰るための旅費 |
勤務必要経費 |
職務に必要な図書費・衣服費・交際費(上限65万円) |
ただし、上記のうち勤務先から非課税で支給されている金額については対象外となります。例えば、通勤交通費や出張費、引っ越し費用などは勤務先から支給されるケースが多いでしょう。その場合は実際の負担者は勤務先になるため、特定支出控除の対象外となるのです。また、業務上必要であるという証明を勤務先から受ける必要があります。
続いて、特定支出控除額の算出方法について、例を挙げながら見てみましょう。
給与所得者で年収400万円の場合、給与所得控除後の給与は276万円となるため、給与所得控除額は124万円です。
特定支出控除は「自己負担した特定の費用がその年の給与控除額の50%を超えた場合」が条件であるため、62万円(124万円×50%)を超えると控除を受けられます。例えば、特定支出控除にあたる支出が70万円だった場合、70万円と62万円の差額の8万円が特定支出控除の対象です。
給与所得控除の計算方法
給与所得控除の金額は、収入金額によって決まります。ここでは、給与所得控除の計算方法について解説します。
給与所得となるもの/ならないもの
給与所得には、源泉徴収前の給与や賞与などが当てはまります。つまり、基本給だけでなく、残業手当や職務手当、住宅手当なども含まれます。また、以下のような現物支給や経済的な利益も対象になります。
給与所得の対象となるもの
- 無償または低価格で提供した物品などの資産
- 無償または低価格で貸与した土地、家、金銭などの資産
- 無償または低価格で提供した福利厚生施設の利用
- 個人的債務を免除もしくは負担した額
給与所得の対象外となるもの
- 通勤手当のうち月額10万円以下の場合
- 転勤や出張のための旅費で、通常必要と認められるもの
- 宿直や日直の手当で、一定金額以下のもの
給与所得控除の計算方法
給与所得控除の計算式は給与収入によって定められており、頻繁に更新されます。直近では2020年の年末調整から計算式が変わり、2019年以前と比べるとほとんどの収入金額が10万円引き下げられています。
2020年以降の給与所得控除の計算式は以下の通りです。
給与などの収入金額 |
給与所得控除額 |
1,625,000円まで |
550,000万円 |
1,625,001円から1,800,000円まで |
収入金額×40%‐100,000円 |
1,800,001円から3,600,000円まで |
収入金額×30%+80,000円 |
3,600,001円から6,600,000円まで |
収入金額×20%+440,000円 |
6,600,001円から8,500,000円まで |
収入金額×10%+1,100,000円 |
8,500,001円以上 |
1,950,000円(上限) |
例えば年収500万円の給与所得者の場合、給与所得控除は以下のようになり、給与所得は給与収入額から給与所得控除を差し引いた額となります。
500万円×20%+44万円=144万円
給与所得控除額=144万円
給与所得額=500万円‐144万円=356万円
収入金額が660万円以上の場合、給与所得控除額を計算するよりも、給与所得額を直接計算する方が簡単に算出できるため、速算表を確認しましょう。
給与などの収入金額 (給与所得の源泉徴収票の支払金額) |
給与所得控除額 |
6,600,000円以上 8,500,000円未満 |
収入金額×90%‐1,100,000円 |
8,500,000円以上 |
収入金額‐1,950,000円 |
給与所得控除を用いた所得税の計算方法
給与所得者の所得税計算は、各種控除を順番に反映させて計算していきます。計算の手順は以下の通りです。
1.給与収入(現金+現物)‐給与所得控除=給与所得金額
はじめに収入から給与所得控除を引き、給与所得金額を算出します。
2.給与所得金額-所得控除=課税所得金額
続いて給与所得金額からそれぞれの所得控除を引いていきます。当てはまる控除がない場合は、給与所得金額が課税所得金額です。
3.課税所得金額×所得税率=所得税額
課税所得額に所得税率をかけて税額を求めます。所得税率は課税所得額によって段階的に決まっています。この計算を簡単にするには所得税の速算表を使うと良いでしょう。
課税される所得金額 |
税率 |
控除額 |
1,000円以上 1,949,000円以下 |
5% |
0円 |
1,950,000円以上 3,299,000円以下 |
10% |
97,500円 |
3,300,000円以上 6,949,000円以下 |
20% |
427,500円 |
6,950,000円以上 8,999,000円以下 |
23% |
636,000円 |
9,000,000円以上 17,999,000円以下 |
33% |
1,536,000円 |
18,000,000円以上 39,999,000円以下 |
40% |
2,796,000円 |
40,000,000円以上 |
45% |
4,796,000円 |
4.所得税額‐税額控除=納税額
最後に、所得税額から税額控除の額を差し引いて納税額を算出します。税額控除の代表例には、住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)などが挙げられます。
年末調整における申告方法
年末調整とは、給料や賞与から源泉徴収された所得税(源泉所得税)と、実際に支払わねばならない所得税の差額を清算するための手続きのことです。年末調整は、従業員のいる企業であれば必ず実施する必要があります。
なお、年末調整の際は3種類の書類が必要です。企業は必要書類を従業員へ配布し、必要事項を記入してもらいます。
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
配偶者や扶養対象となる親族の有無を申告する書類です。年末調整時に記入するのは翌年分の書類であり、未提出の場合は翌年の年末調整を行えなくなります。入社初年度は入社時に提出するのが一般的です。 - 保険料控除申告書
生命保険などに加入していることを申告する書類です。保険料の支払いを証明する支払い証明書と一緒に提出することで、保険料控除額が適用されます。支払証明書は10月頃に保険会社から自宅に郵送されます。 - 給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書
給与所得者の基礎控除申告書兼給与所得者の配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書は、かつて「配偶者控除等申告書」と呼ばれていました。令和2年から基礎控除と所得金調整控除の申告と兼用する仕様に変更されています。提出すると給与所得者は配偶者控除、もしくは配偶者特別控除が受けられる書類です。
近年では紙ベースではなく、電子申請で行うケースが増えてきており、年末調整時の業務の効率化が進んでいます。
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まとめ
給与所得控除は、1年間の給与収入の額に応じて一定額を控除できる制度で、給与所得のある人が受けられます。企業に勤めている給与所得者には収入から経費を差し引く制度がないため、給与収入に応じて「経費分」として差し引かれるのが「給与所得控除」です。
年末調整の際は、従業員本人が所得金額の計算を行うことになるため、紙での申請ではどうしても計算や記入でミスが生じます。そのため近年では年末調整の電子化が進められています。記入ミスなどを防げるだけでなく、紙の配布や回収などの手間も削減できます。
年末調整についてはこちらのブログでも詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
年末調整とは? 確定申告との違いや書類の書き方、各種控除について説明
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