多くのビジネス分野で活用が見込まれるドローンですが、それは物流業界でも例外ではありません。人手不足や交通渋滞などに悩まされる物流業界において、ドローン配達の実用化は大いに期待されています。そこで本記事では、国内外でドローン配達の実験の現状をはじめ、ドローン配達のメリットや問題点について解説していきます。
ドローン配達の現状
まずはドローン配達の実用化が国内外でどれだけ進んでいるか、現状について解説していきます。
さまざまな国や企業が実験を行っている
現在、世界ではアメリカやイギリス、中国などの国家や企業がドローン配達の実験や導入を行っており、日本でも導入に向けての取り組みが始まっています。
たとえば東京では、ドローンの物流活用に関する公募「東京都におけるドローン物流プラットフォーム社会実装プロジェクト」にJR東日本やKDDI、JALなどの5社が参加しています。2021年11月には都内でドローンをフードデリバリーに活用する実証実験も行いました。ドローンは無事に50m先の目的地に到着し、参加者は温かい料理を楽しんだそうです。
また、2022年3月には隅田川の3つの橋を越えて2km先の地点まで医薬品を届けることに成功するなど、フードデリバリー以外にもさまざまなジャンルでの活用が試されています。
これらの実験はいずれも、有人地帯においてドローンを目視できない状態で操縦する「レベル4」での運用に向けたものです。なお、現在ドローンの飛行については以下4つのレベルに分類されています。
レベル1:目視内・操縦飛行
レベル2:目視内飛行(操縦無し)
レベル3:無人地帯での目視外飛行(補助者の配置なし)
レベル4:有人地帯(第三者上空)での目視外飛行(補助者の配置なし)
実際に導入している企業も存在する
自社のビジネスに本格的にドローン配達を導入し始めている企業も存在します。たとえば大手通販会社の楽天は、2016年に千葉県のゴルフ場において世界で初めてドローンによる物流サービスを一般提供することに成功しました。
また、同じく大手通販会社のAmazonも2013年から「Amazon Prime Air」と題したドローン配送プロジェクトを推進しており、2020年には米連邦航空局からドローン配達の「航空運送業者」の認可を受けることに成功しました。Amazonは今後2022年内にアメリカの一部の州でドローン配送サービスを実際に提供開始することを計画中です。
そのほか、日本郵政も2023年を目途にドローン配達を目指しています。個人への小口配達の多いEC物流や郵便事業は、ドローン配達との相性が良好であると見込まれているのではないでしょうか。
物流業界が抱えている問題
多くの国や企業が熱心にドローン配達の実用化に取り組んでいる背景には、物流業界の抱えているさまざまな問題を解決したいという思いがあります。以下では、どのような問題があるのかを解説していきます。
人手不足によるドライバーの負担の拡大
現在、物流業界において喫緊の課題となっているのがドライバーの人手不足問題です。物流業界のドライバーは長距離の運転が必須であり、きつい仕事というイメージがあるため、求人に対して応募があまり多くありません。しかも、これによって既存のドライバーの業務負担が過大になり、過度の長時間運転やそれに伴うトラブルが発生するなど、さらにイメージを悪くする悪循環に陥っているのです。
また、働き方改革関連法案の施行に伴う「2024年問題」の影響もあります。時間外労働が制限され、ドライバーの収入減少が懸念されているのです。収入面の問題もあるため、今後人手不足が劇的に改善される見通しはあまりないと考えられます。
労働環境や労働時間の悪化
上記の人手不足問題に加え、「送料無料」や「再配達無料」など、企業のサービスの煽りを受けてドライバーの負担が大きくなっていることも深刻な点です。「配送料無料」などのサービスは消費者にとってはありがたいものですが、それで割りを食うのは実際に物流を担当している物流業者やドライバーなのです。
こうしたサービスによって物流業者の利益率は圧迫され、それがドライバーの労働環境の悪化へとつながっています。たとえば、配達業務を効率的に行うため、交通量の少ない深夜に働かざるを得なかったり、休みを十分に取れなかったりすることが挙げられます。
ドローン配達のメリット
上記のような物流業界の問題解決に向けて、ドローンはどのように役立つのでしょうか。以下では、ドローン配達のメリットについて解説していきます。
配達の効率が良くなる
ドローンの活用メリットとしては、第一に配達効率が良くなることです。道路の上空を飛ぶドローンなら、交通渋滞の影響を受けません。また、上空なら障害物も少ないため、届け先に向けて最短距離を飛行することが可能です。
さらに、トラックでは難しい山間部や離島への配達なども、上空を飛んで簡単にアクセスできます。しかも、完全自律飛行できるドローンなら人の操作を必要としないため、従業員の負担を気にすることなく、常に稼働することが可能です。
交通渋滞の緩和につながる
上記のメリットとも関連することですが、上空を飛ぶドローンは交通渋滞の原因にならないことも大きなメリットです。ドローン配達が一般的になれば、配送トラックなどの減少が期待できるため、都市部の交通渋滞の緩和につながるでしょう。
配送業者の問題のひとつには、路上駐車の問題もありますが、ドローンならばそうした課題も解決できます。さらに、ドローンを使うことで、小口輸送にトラックを使うような非効率なことを減らせるため、Co2排出量の削減も期待できるでしょう。
ドローン配達導入における問題点
ドローン配達は多くのメリットが見込める一方で、その実用化に際して懸念される問題点もあります。続いては、ドローン配達の導入において障害となるいくつかの問題点について解説します。
セキュリティ面に不安がある
ドローン配達で第一に懸念されるのは、セキュリティ面の懸念です。ドローンは人の手を離れて荷物を自動配送するため、運んでいる荷物やドローン自体が悪意ある人物に盗まれたり壊されたりしないか不安視されています。ドローンは、自身や荷物の破壊・盗難といった脅威に対して、今のところ有効な対応策を持っていないのです。
ドローンを失う損失リスクはもちろんですが、それ以上に顧客の荷物を安全確実に届けるのは物流業者が最も重視すべき使命でもあるため、これは難しい問題です。
安全面に不安がある
ドローンや荷物だけでなく、周囲の人や物に対する安全性も懸念されるポイントです。障害物の少ない上空とはいえ、ドローンが何らかの事故や不具合で墜落してしまうリスクは否定しきれません。たとえば鳥に衝突したり、電線に引っかかったりしてしまう可能性もゼロとは言えないでしょう。そして万一、ドローンが墜落した先に人間や家屋が存在したら、重大な事故につながることが不安視されています。
悪天候のときは利用できない
天候に左右されやすいのもドローンの弱点です。トラックなら問題がないような悪天候でも、上空を飛ぶドローンには多大な悪影響が生じます。たとえば、強風が吹いていれば制御を失って飛ばされてしまう恐れがありますし、雷雨のときには雷に当たるかもしれません。上記のようにドローンの墜落には大きなリスクが伴うので、悪天候時には使用できず、安定的な物流を確保しにくいのがドローン配達のデメリットです。
まとめ
本記事で紹介したように、現在ドローン配達は多くの国や企業で実験が進められています。配送配達業務における人手不足や業務負荷を考えると、ドローン配達は必要であり、実用化も目前に迫っていると言えます。ドローン利用の活性化に向けて、企業も事前に参入について検討をしておくのが良いでしょう。EC事業者も、ドローン配送が実現した際にどのようにシステムに組み込むのか、既存システムで対応ができるのかなど考えておくのが良いでしょう。
- カテゴリ:
- 物流
- キーワード:
- 物流