MaaSの導入に向けて、日本国内においても官民を挙げた実証実験が行われています。物流の効率化や場所の移動における利便性の向上など、私たちの生活に密接する領域での変革が期待されます。本記事ではMaaSの概要をはじめ、取り組み例やメリット・デメリットなどを解説します。
物流MaaSとは
物流MaaSとは、物流業界における課題解決の取り組みとして発表された、新しいモビリティサービスのことです。
物流業界は年々需要が高まっており、さらにコロナウイルスの感染拡大も物流業界の需要増加に拍車をかけています。それによる人手不足も慢性的な問題となっています。このような物流業界の現状と課題に対し、経済産業省が発表した解決への取り組みが物流MaaSなのです。
そもそもMaaSとは
MaaS(Mobility as a Service)とは、新しい移動の概念を指す用語です。モビリティ(移動)をサービスとして捉え、自動車を含むさまざまな交通をICTの活用によってシームレスにつなぐことを目指しています。例えば、旅行をする際に複数の公共交通機関や移動サービスから最適な組み合わせを見つけ出し、決済や予約などを一括で行います。検索や手配の手間がなくなるのです。
観光はもちろん地域住民の移動ニーズに応じた最適なサービスの提供がMaaSによって実現します。また、医療などの外部サービスとの連携による地域の課題解決への貢献や、排気ガスの抑制など環境問題の改善を図る手段としても期待されているのです。世界的に導入が進んでおり、特にヨーロッパでは定額制で交通機関を移動できるサービスが開始されるなど、先進的な取り組みが多数実用化されています。
日本においても、MaaSの市場規模が拡大していく見込みです。2020年度の「国土交通白書」によると、2030年には国内市場が約6兆円に拡大することが予測されています。
参照URL(https://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/r01/hakusho/r02/html/n1213000.html)
物流MaaSに関する過去の取り組み
現在、日本ではMaaSおよび物流MaaS推進に向けて官民を挙げた実証事業が行われています。ここからは、国内でこれまでに行われた物流MaaSの取り組みを解説します。
情報の可視化による輸配送効率化
トラック輸送における物流MaaS導入の事例では、トラックにセンサーを設置することで、リアルタイムかつ立体的に積載量を把握することで輸配送効率化を目指します。これまでは拠点や倉庫、積み荷などの状況をリアルタイムで把握することが難しく、輸送の効率性が悪い状態でした。トラックのセンサーから位置情報や積載情報を取得し、可視化することで、配達や積載の効率化が期待できるのです。
他にも、各サービスのデータ連携や一括管理によって、複数の荷主や運送事業者の混載が可能になります。また、共同の倉庫に荷物を集約する取り組みもあります。これらが実現することで、ドライバー負担が軽減され働きやすさが向上し、積載率の改善効果も図れるでしょう。
電動商用車の活用
電動商用車の本格的な実用化に向けて、これまでに軽貨物EVやEVバスでの運行テストが行われています。実際の運用に当たってはEVの技術だけでなく、効率的なルート設計やコストの計算などの運用方法についても知見が必要です。
電動商用車の運用テストは経済性の検証と普及拡大を主な目的にしており、ガソリン車との性能が比較されます。また、車両価格や充電設備など、導入やランニングにかかるコストの分析も行われました。EV普及とインフラ設備を一体的に進めるためのモデルエリアの構築も行われています。EVバスに関しては、車両の調達コストやエネルギー管理、EVに適した運行オペレーションへの転換が課題となっています。
物流MaaSが目指すもの
物流MaaSの実現によってどのようなことが実現するのでしょうか。幹線輸送・結節点・支線配送のそれぞれのフェーズに分けて解説します。
トラック1台あたりの輸送量を増やす幹線輸送
幹線輸送とは、集積拠点間を大型トラックで輸送する方法のことです。一台あたりのトラックの運転効率を向上させることで、排気ガスの削減やトラック一台あたりの運べる荷物を増やす効果が期待されています。
例を2つ紹介すると、まず「ダブル連結トラック」という方法では、トラックの荷台の後ろにもうひとつの荷台を追加で牽引することで、一台で二台分のコンテナを運べるようになります。
次に、「隊列走行」という方法は、複数台のトラックが連なって走行しつつ通信で走行状況をリアルタイムに共有する技術です。先行車両の制御によって並びながら走行することで、車両速度の変化が円滑かつ安定的になります。後続車両の空気抵抗が減少し、燃費の改善にもつながります。高速道路での無人の隊列走行技術による実証実験が実現しており、商業化を目指して開発が進められています。
スムーズな荷受けを可能にする結節点
物流における結節点(クロスドック)とは、物流情報を連携させて円滑に荷物の積み替えを行う拠点機能のことです。結節点でいかに効率よく荷物を積み替えるかという課題に対して、物流情報を把握することで荷待ち時間の改善を図る取り組みがされています。
例えば、荷さばき場をスマートフォンから予約できるようにすることで、ドライバーの荷待ち時間を削減し、荷降ろし・倉庫内作業の効率化を図ります。他にもIoT技術などを活用したトラックの運行状況の把握や、荷役の自動化など、さらなる作業効率の向上効果が期待されています。
労働環境の改善につながる支線配送
支線配送は、拠点から各家庭や小売店などの目的地に至るまでの配送を指します。この区間の配送においては、配送ルートの最適化や混載配送などを実現することでドライバーの負担を削減し、労働環境の改善を図ります。また、ドライバーに優しい車両の開発も期待されます。
電動商用車の導入によって排気ガスが削減されることで、自然環境の改善も見込まれます。大型トラックの電動化には大容量のバッテリーが必要になるため、積載量低下の問題から採用には至っていません。一方で、支線配送向けの車両は小・中型が用いられるため、電動化は比較的容易です。
物流MaaS導入のメリット
物流MaaSの推進によって物流や交通事情がこれまでとは大きく変わり、利便性が向上します。MaaSによる物流の変革や、モビリティの連携が浸透することで実現する具体的なメリットについて解説します。
渋滞の緩和につながる
バスや電車などのあらゆる交通状況をリアルタイムに分析することで、渋滞の緩和を実現します。ICTやAI技術によって移動の効率化が行われるほか、自動運転車やカーシェアリングの普及によっても利便性が高まります。これによって自家用車の数や利用が減るとともに都市での渋滞も減少することが見込まれるのです。
地域によっては公共交通機関の手段が少なかったり免許を返納した高齢者が多かったりする関係で、移動が困難な場合があります。そのようなケースにおいても、乗り合いタクシーやバスの運行を自動化することで誰もが気軽に利用できるようになります。
環境へのダメージを軽減できる
EVの普及やMaaSの推進によって自動車そのものの台数が減ることで、アイドリング中に発生する余計な排気ガスも減少します。MaaSの推進によって自動車などから出る排気ガスを極限まで抑えることにより、都市の大気汚染問題などを含めた環境対策を行うことを目指しています。また、自家用車の台数が減っていくことで、駐車場の面積が減少し、環境に優しい緑地などに転用することも可能です。
配送業務を効率化できる
配達ルートや配送時間、積載などを最適化することで、配車や人員配置を効率化できます。従来の運行計画や鉄道ダイヤの見直しなどとは異なり、あらゆるモビリティを一元管理することによって交通全体の最適化を行います。例えば、収集したデータを分析して最適なダイヤを割り出して便数の増減を行うなどといったことが実現します。
配送業務においては、車両の現在位置などを反映した配車計画の作成ができます。現在でもすでに配車計画を自動計算して最適なルートを割り出すアプリが登場しています。
物流MaaS導入のデメリット
ここまでMaaSの展望や導入メリットについて解説しましたが、一方でデメリットも存在します。
例えば、自動車業界にとっては車の販売数が減ることへの懸念があります。MaaSによってあらゆるモビリティの連携が強固になり、公共交通機関の利便性が向上する一方で、自家用車の需要は減少する可能性が高いです。自動車業界にとっては車の販売数が減るということであり、従来のようなやり方ではビジネス自体が立ち行かなくなることが予想されます。自動車メーカーの中には、そのようないずれ訪れる変化に対応するべく、ロボットタクシーやシェアリングなどのビジネスモデルに進出する企業があります。
他にも、無人の自動運転が普及することで、将来的にはドライバーの職は失われることが懸念されます。技術面では、ハッキングなどのセキュリティリスクや個人情報流出といったトラブルも想定しなければなりません。
まとめ
物流MaaSは、ICTを活用した新しい移動の概念です。日常生活でのシームレスな移動を実現し、物流の積み荷作業や配車の効率などの向上につながります。
需要が拡大する物流業界において、労働環境の改善や配送業務効率化は取り組むべき課題であり、ぶつりゅうMaaSは物流業界の課題解決の一助となります。
- カテゴリ:
- 物流
- キーワード:
- 物流