物流の需要が高まるのに合わせて、近年ではトラックの自動運転に向けた開発が進められています。自動運転機能を搭載した乗用車が販売されていることもあり、自動運転は一般的にはある程度認知されている一方、トラックの自動運転や隊列走行に関してはよく知らないという方も多いのではないでしょうか。本記事では、現在の開発状況や実現することでもたらされるメリット、課題点などについて詳しく解説します。
自動運転トラックの開発状況
自動運転トラック開発における最終的な目標は無人での公道走行ですが、現在はその実用化に向けて場内搬送の実証テストが行われている段階です。これは、物流センター内で無人トラックが場内を搬送し、積み下ろし作業はフォークリフトを人が操作して行い、終わったら作業者がタブレットでトラックに指示を出すというプロセスを繰り返すというものです。
国内においてはトラックよりもバスの実証テストが先行しています。バスがある程度決まったルートを走行し、一般車両がバスを避けて通る環境が整っていることに対して、トラックは走行場所が決まっているわけではなく、また他の車両がバスのようには特別扱いしないなどの難しい条件があるからです。
また、積み下ろし作業においても課題があります。無人運転が実現したとしても積み下ろしは人力で行う必要があるからです。フォークリフトを自動化する際も、機械的な連携をする課題も生じます。
隊列走行とは
隊列走行とは、2台以上のトラックが隊列を組んで走行することで、 各トラックの走行状況を通信で共有し、適切な車間距離を保って自動で走行する技術です。
現時点では、各車両にドライバーが乗ってテストを行っている段階ですが、将来的には先頭車両にだけドライバーが乗る形での走行を目指しています。実際に高速道路で行われた3台の隊列によるテストでは、運転は先頭車のドライバーが行い、2台目以降の車両のドライバーは万一の備えで乗車するだけで運転はせず、最新の通信技術を活用して車間を一定に保った状態での走行に成功しました。
また、公道ではないテストコースにおける実験においては、後続車のドライバーなしでの走行に成功しているため、今後は公道で同様のテストを実施する段階に入ります。
これにより、現在問題となっている少子高齢化によるドライバー減少への対応や、ドライバーの負担軽減による安全性の向上などが期待されます。また、燃費が抑えられることで二酸化炭素排出の削減につながり、結果として地球環境への配慮になるといったメリットが生まれます。
隊列走行の課題
ここからは隊列走行の課題について解説します。公道上で隊列走行するとなれば、自動運転システムの通信状況悪化や予期せぬ車間への割り込みなど、さまざまな事態に遭遇することが考えられます。それらへの対応を考慮しながら、開発や実験を進めなければなりません。
隊列の完璧さ
隊列走行の各車両は、自動運転システムの通信による管理の下で、一定の車間を維持しながら整然と走行することが求められます。しかし、路面や天候などの外部環境の変化や、車両自体に生じる何らかの異変のような予期せぬ事象の影響を受けることで、自動運転システムの通信に乱れが生じるかもしれません。こうした場合、隊列が崩れてしまい、事故につながる恐れがあります。そのため、車両の特性に応じた隊列編成のルール策定や、各種センサー機能のさらなる高度化が求められます。
隊列への割り込み
公道で自動車を運転していると、目の前に車両が割り込んでくるのはそれほど珍しいことではありません。しかし、自動運転による隊列走行にとっては、隊列が乱れることで車間や隊列の全長、一定の速度による走行などが維持できなくなり、トラブルにつながる恐れがあります。また、各車両は通信でつながっているため、車両間に他の車両に割り込まれてしまうと通信を妨げられる可能性が生じます。そのため、割り込ませないようにする対策や、万一割り込まれた際にどのように対応するのかといった手段の準備が必要です。
具体的には、隊列走行していることを周囲の車に知らせる機能や、割り込んだ車に警告を出す機能、それでも割り込まれた際には隊列解除する方法などが検討されています。
隊列走行のメリット
隊列走行は、現時点においてはいくつかの課題はあるものの、多くのメリットをもたらすことが期待されます。ここでは、運転が安全に行える点、燃費が向上する点を取り上げて解説します。
運転が安全に行える
隊列走行においては、先進的技術と通信システムがドライバーをサポートするため、先頭車両と後続車両それぞれのドライバーの疲労軽減につながり、安全性の向上が望めます。さらには、車間距離を十分に取ることで玉突き事故のリスクも軽減できます。また、システムのサポートによって安定した走行が可能になるため、時間的なトラブルが生じにくくなり、結果として輸送の品質が向上する点も大きなメリットです。
燃費が向上する
隊列を組むことで先頭車が風よけの役割を果たし、後続車両の空気抵抗が小さくなるため、後続車の燃費が向上します。また、システムの細かな運転制御によって加減速が最適化され、スムーズで安定した運転が可能になることで、燃費の低減が期待できます。つまり、隊列走行はコスト削減にもつながるのです。
自動運転トラックのメリット
ここまでは主に隊列走行を中心に解説しましたが、ここからは自動運転トラックの実現によってもたらされるメリットについて、「ドライバー不足の解消」「配達の効率化」「安全性の確保」の3点をピックアップして解説します。
ドライバー不足を解決できる
自動運転トラックによってドライバー不足の解消が実現します。隊列走行においては先頭車両にのみドライバーが乗車するだけでよく、人件費の削減につながるのです。さらに発展して完全無人での長距離運転が実現すれば、ドライバーを短距離輸送や宅配などの業務に転換できます。これにより、ドライバーは長距離輸送による長時間乗車から解放され、激務のイメージが払拭されることで人材確保をスムーズに行える効果も期待できるでしょう。
配達が効率化される
車両・運行システムによる制御によって、効率的な配送が実現します。ドライバーには休憩時間が必要ですが、自動運転トラックはその時間も走り続けるため、これまでより配達時間が短縮します。またドライバーの疲労を考慮する必要もなく、長距離の運転も可能です。
また、運行速度を一定に保つことで、配達遅れの発生も抑えられます。ドライバーの場合は運転中に体調不良などの事態が起こった場合、停車して自ら対応しなければならない場合もありますが、自動運転であればこのような要素もなくなるため、この点においてもメリットがあります。
運転に安全性が確保される
重く大きいトラックは、事故を起こしたり巻き込まれたりした際には大事故につながる可能性があるため、安全面が大きな課題です。ドライバーは、長時間勤務や時間指定厳守などのストレスにさらされており、また体調が常に万全であるとは限りません。人が運転する限り何らかのミスが生じる可能性は避けられませんが、自動運転の実現により人為的なミスをなくせるのです。
現時点では、後続車にもドライバーが乗車する「後続車有人隊列走行」の実現に向けて、ACC(Adaptive Cruise Control:定速走行・車間距離制御装置)とLKAS(Lane Keeping Assist System :車線維持支援制御装置)とを組み合わせた技術の開発が進められています。
まとめ
隊列走行をはじめとするトラックの自動運転は開発途上の段階であり、解決しなければならない課題があります。しかし、人手不足が深刻な問題となっている物流業界において、自動運転などのテクノロジーを活用した改革は必要不可欠であり、近い将来に実用化されれば運送業界の未来は大きく変わることでしょう。
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