iPhoneの登場以降、スマートフォンが急速に普及したことで、いつでもどこでもインターネットにアクセスできるようになり情報過多社会とも呼ばれる現代。日常に情報があふれるなかで、企業が従来のマーケティング手法だけで消費者の興味を引くのは難しくなっています。
現代のマーケティングにおいて重要なポイントは、「消費者が欲しがっている」「信頼される」情報をいかに届けるか、です。
そこで本記事では、昨今注目を集めている「UGC」を活用したマーケティング手法についてご紹介します。
UGCとは
UGCは、User Generated Contentsの略語で、「一般ユーザー(消費者)によってつくられたコンテンツ」という意味です。ユーザー生成コンテンツとも訳されます。
通常のコンテンツは、売り手である企業によって消費者に向けてつくられるのですが、UGCは消費者がつくるコンテンツです。具体的には、ユーザーのSNS投稿や口コミもUGCの一種です。誰もが目にしたことのある、日常にあふれる情報の一部ですが、これをマーケティングに活用する動きが昨今よく見られるようになりました。
UGCがマーケティングで重要な理由
なぜ、UGCがマーケティングで注目されるようになったのでしょうか。それは、ユーザー視点の情報がほかの消費者の購買意欲に大きな影響を与えるからです。
企業から発信される情報はどうしても「下心」が出てしまいがちです。消費者は企業に都合よくコントロールされないために、騙されてなるものかと常に警戒しています。公式の情報を信頼していないというわけではないのですが、より信頼できる情報として、企業からではなくユーザーからの発信を求めているのです。
冒頭で情報過多社会という言葉に触れましたが、情報量の増加に伴い、情報提供の「最適化」やパーソナライゼーションが行われるようになりました。企業はターゲットを絞った情報発信がしやすくなった一方で、消費者は広告疲れを感じています。
自社の発信する情報が埋もれないように、とにかく目を引くために広告の数を増やす、SNSの公式アカウントで情報を大量に発信するなど、数で勝負している企業も多いのではないでしょうか。
しかし、消費者の立場からすると、動画を見たいときに広告が再生されて喜ぶ人はほとんどいません。アプリやWebサイトで間違って広告をクリックしてしまい、関係のないページに遷移してイライラさせられた経験は誰でもあるはずです。
つまり、「欲しい情報だけ」を取得したい欲求を阻害されている状況が生まれているのです。
特に新型コロナウイルス感染拡大の影響で外出を控えなくてはならない状況が続いており、オンラインショッピングを利用する頻度が増えた人は多いでしょう。そこで、店舗に行かず実物を見ないまま、それでも安心して商品を購入するために、口コミなどユーザー視点の信頼できる情報に対するニーズも増えています。
広告などによる消費者のイライラを回避しながら、商品のターゲット層に対して効果的に信頼できる情報を発信できるコンテンツがUGCなのです。
UGCをマーケティングに活用するメリット
UGCは、公式情報だけでは安心できないユーザーの行動を後押しする強力なコンテンツです。これをうまく活用することで、ユーザーの安心感だけでなく、企業にとっても大きなメリットが生まれます。
ユーザーに信頼感を与えられる
企業から発信される情報には「売りたい」という思いがあるため、消費者にとっては「押しつけがましい」「売り込み」といったネガティブな印象を与えかねません。多くのユーザーは企業からのメッセージをある程度疑っています。
一方でUGCは、実際に商品を使ったユーザー視点の口コミ情報として共感を得やすく、信頼性が高い情報として認識されやすいという利点があります。
売り手である企業の「着心地がいい」という売り文句と、実際に買ったユーザーの「サラサラの着心地が本当によくて、毎日着られるようにたくさん買っちゃいました」という投稿とでは、実際の生の声である後者の方が消費者の心を大きく動かすのです。
2020年4月に公開されたマイボイスコム株式会社によるネット上の口コミ情報に関するインターネット調査では、全体の55.7%がオンラインの口コミを参考にしていると回答しました。また、10~30代の女性に絞ると、その割合は70%を超えています。
出典:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000871.000007815.htmlh
コロナ禍で店舗に行きづらい状況では、口コミの重要性は一層高まっているでしょう。そこで、ほかのユーザーから商品をおすすめする投稿が増えれば、商品に対する信頼度も上がり、購入意欲を喚起することができます。
CPAが改善される
企業からの働きかけがなくてもユーザーが自ら発信してくれるUGCをうまく活用することで、大きなコストをかけずに認知を拡大することができます。
従来の広告やプロモーションでは、クリエイティブの制作費や広告の出稿費・運用費など、さまざまなコストが発生します。さらに企画や運用を担当するリソースも必要です。
ユーザーが商品についての口コミを自ら発信してくれれば、こうした広告コストをかけずに自社の露出が増え、ユーザーから別の消費者へと自然と情報が循環されます。いわば「自然発生」するコンテンツで新たな消費者の関心を集めて購買意欲を喚起できるため、CPAの改善にもつながるのです。
このようにユーザーによってSNSで情報が急激に拡散することは「バズる」と呼ばれ、バズることを狙ったマーケティング手法を「バズマーケティング」と呼びます。
「バズる」についてはこちらの記事でも詳しく解説しています。
関連記事:バズるとは?意味やTikTok・Twitter・インスタでバズる方法を解説
UGCをうまく活用する方法
UGCの活用というと、商品ページに掲載したり、商品発送時に同梱するチラシや冊子に利用するなど、さまざまな方法が考えられますが、当然ながらまずは活用できるUGCの数を集めなければなりません。そこで、UGCの生成を促すコツと注意点をご紹介します。
SNSキャンペーン
商品を購入したユーザーにSNSやレビューの投稿を促す方法の一つとして有効なのが、キャンペーンの実施です。
たとえば、SNS上で#タグをつけて投稿するとプレゼントなどに応募できる、といったキャンペーンはよく目にすると思います。ユーザーが手軽に参加できる形をとることで、UGCを簡単に増やせる手法です。また、ユーザーからの拡散によって公式アカウントをフォローしていない人にもリーチできるという利点もあります。
プレゼントなどの単純なインセンティブを用意するだけでなく、面白がって参加してもらえるような仕掛けができていると、ムーブメントとなってさらなる自発的な拡散を期待できます。
商品ページのレビュー
SNSのほかにも、商品ページにレビューを投稿するとポイントが付与されるというキャンペーンもよく見る手法の一つです。
購入後にフォローメールを送ったり、発送時にレビュー投稿を促すカードを入れるなど、リマインドの工夫も考えられます。
実際に購入したユーザーのうち、レビューを投稿してくれる人は本当にごく一部です。何度も繰り返し促したところで、面倒なのでなかなかレビューを書いてはもらえません。したがって、もっとも商品に対してポジティブな感情を抱いているタイミングに、できるだけ手間がかからない方法でレビューを促す仕組みを用意することがポイントです。
ツールを使った運用
昨今は、YotpoやReviewTrackersなど、UGCの活用・運用に特化したSaaSも増えてきています。ツールの主な機能は以下のとおりです。
- SNSの投稿を収集する
- 投稿の利用許諾を得る
- 商品ページにレビューとして表示する
- 購入者にレビューを投稿してもらう
- 広告として出稿する
商品ページから手軽にレビューを書き込む仕組みやポジティブなレビューを促す支援ができるものなど、ツールによって利用できる機能はさまざまです。SNSや口コミサイトなど、オンラインで投稿されたレビューや評価を調査するソーシャルリスニングの機能を備えているツールもあります。これらの業務は人力でも対応可能ですが、数を集めたいと考えると運用上限界があります。こうしたツールをうまく活用することで、効率的にUGCを収集し、ユーザーからの評価を向上させることができます。
UGCの活用における注意点
ユーザーの購買意欲に大きな影響を与えるUGCですが、効果的に活用するためにはいくつかの注意点があります。
UGCの数を集める
「大人気」と書かれているのに、口コミ件数が0件では逆効果です。安心感を与えるどころか不信感を与えかねません。UGCを効果的に活用するためには十分な数が集まっていることが大前提です。そのため、UGCを掲載する仕組みだけでなく、集めるための施策を同時に検討し実行する必要があります。
とはいえ、たくさん集まるまで何も公開できないかというと、そうではありません。口コミが0件の場合は、口コミの表示箇所を非表示にしたり、「初めてのレビュアーになりませんか」などのポジティブなメッセージに切り替えるといった工夫をすることで、ネガティブな印象を避けられます。
全商品にたくさんの口コミがついていることが理想ではありますが、実際のところそう簡単には実現できません。数を集める施策と同時に、集まっていなくても寂しく見えないようにする工夫が必要です。
悪質な口コミがないかをチェックする体制と仕組みをつくる
いくら魅力的な商品でも、残念なことに悪意のある口コミを投稿される可能性はぬぐえません。そうした悪質な口コミを恐れるあまり、口コミ機能を開放できないといったケースは少なくないのが実情です。使用したユーザーの本当の感想であれば、ネガティブな意見であっても自社の商品やサービスを改善する大きな材料になるため有用ですが、根拠のない誹謗中傷や不適切な表現が含まれる口コミはほかのユーザーの目に触れないようにしたいものです。
実際そのような悪質な口コミは全体のうち数%にも満たないほど少ないのですが、ネガティブな発言はとても目立ちます。悪質な口コミが公開されることを防ぐためには、ユーザーの投稿を無条件に公開するのではなく、検閲する体制が必要になる場合もあります。
全ての口コミをチェックできるのであればよいのですが、チェックにも人件費がかかりますし、数%にも満たないコメントのために全件をチェックするのは非効率的です。
全件チェックが難しい場合は、NGワードを含む投稿は自動で非公開にする、あるいはそれだけ保留にして保留分だけ人間がチェックするなどの一定のルールを設けて、自動的に処理するという運用にするとよいでしょう。
UGCと相性のよい商品・サービス
通常は商品の口コミがネガティブに働くことはないため、UGCはどのようなビジネスでも有用です。しかし、UGCの特性上、特に相性がよいものがあります。ここではUGCと相性のよい商品やサービスについてご紹介します。
購入頻度が高く、SNSで盛り上げやすいもの
お菓子やドリンクといった、日常的に消費する最寄り品と呼ばれるような商品は、シーズンやイベントに乗じた新製品が次々と発売されます。
ユーザーにとっても身近で気軽に購入できるため、キャンペーンで盛り上げやすく、拡散しやすい商品です。こだわりが強くないものほど、おすすめの声に左右されるため、UGCによるキャンペーンと相性がよいと考えられます。
見た目や概要から把握できない内容に評価を左右されるもの
映画や本は、あらすじや表紙などの情報よりも、実際に観た/読んだ人の評価によって売上が大きく左右されます。
一人ひとりの感性に訴えかける創作物の特性によるものかもしれません。公式情報だけでなく、ユーザーのポジティブな感想やレビューを活用して宣伝するのが特に有効な商材です。
自己表現として使われるもの
服飾品やコスメなどは自己表現のツールとして使われるものです。独自のスタイリングをほかの人と共有できるだけでなく、ほかのユーザーのスタイリングを参考にしたい人にとってのメリットも大きいため、UGCの影響が大きくなります。
厳密にはユーザーではありませんが、商品ページに掲載されるアパレル店員さんのコーディネートは、半分企業がつくるコンテンツ、半分ユーザーがつくるコンテンツというイメージで、購入の参考情報として機能しています。
気軽に買えない高額商品
住宅のような高額商品は、購入に際して慎重になる人がほとんどです。気軽に購入を決められる商品ではないため、安心材料をできるだけ多く提供することが重要になります。
UGCは安心感を与えるにはとても有力なコンテンツです。高額商品であればあるほど、数を集めることは難しくなりますが、少ない件数であっても大きな効果を発揮することが期待できます。
UGCの活用事例
UGCである口コミは身近な存在で、日常意識せずに誰もが触れています。ここからは、UGCを企業がどのように活用しているのか、具体例をご紹介します。
ECサイトに掲載する
自社のECサイトにユーザーのレビューやInstagram投稿を掲載している企業は増えています。
たとえば、アウトドアブランドのスノーピークは、レビュー投稿時にキャンプ歴や利用シーンなどを回答してもらうことで、ユーザー属性とあわせてレビューが投稿される形をとっています。
この仕組みを導入してからの1年間で、売上の2割をUGC経由のユーザーが占め、UGCコンテンツの接触ユーザーのコンバージョン率は、接触していないユーザーの2.7倍になったそうです。
出典:https://martechlab.gaprise.jp/archives/interview/20203/
商品に同梱する
UGCは、購入前だけでなく、購入した後のリピート促進にも活用できます。
コーヒーをサブスクリプションで販売しているPOST COFFEEは、商品に同梱する冊子にUGCを掲載し、毎月更新しています。掲載されたユーザーからは自分の投稿写真が掲載された喜びの声が新たに投稿され、ほかのユーザーの投稿意欲を掻き立てる仕組みができているようです。
出典:https://smmlab.jp/article/d2c-vol3-seminar-report/
まとめ
UGCはその信頼性の高さから、ファンの獲得や購入の後押しを強くサポートする重要なコンテンツです。
情報があふれる現代社会では、発信される情報の信頼性が常に問われ続けます。そのなかでいかに消費者の信頼を得て新規顧客を獲得し、売上を伸ばしていくかが、今の企業が直面する課題のひとつです。
「よい製品さえ提供していれば、自然と売上が伸びる」時代は終わりました。よい製品を通じてユーザーと絆を深めるためには、コミュニケーションが必要不可欠です。ユーザーからのポジティブなコミュニケーションであるUGCを活用することで、コミュニティが醸成され、よい循環が生まれていきます。
ここまでご紹介したとおり、UGC活用のハードルは決して高くありません。UGC活用がまだこれからであれば、ユーザーが発信する生の声、ポジティブな口コミを収集し、UGCを活用したマーケティングで課題の解決を目指してみてください。
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