リーンキャンバスとは?構成要素や作成方法をわかりやすく解説

 2022.09.15  株式会社システムインテグレータ

スタートアップ企業や新規事業において、ビジネスモデルを考える際に活用できるフレームワークがいくつかありますが、その一つである「リーンキャンバス」をご存じでしょうか。

リーンキャンバスは、テンプレートをもとにビジネスモデルを9つの要素に分けて可視化するツールです。リーンキャンバスを活用することで、新規事業のアイデアをスピーディにまとめ、重要な論点や不足している論点を絞って議論することができます。

この記事では、数あるフレームワークのなかでもリーンキャンバスに焦点を当て、概要や使用するメリット、作成する手順、注意点について解説します。

新規事業を正しく構想するためのリーンキャンバスの使い方

リーンキャンバスとは

リーンキャンバスとは

リーンキャンバス(Lean Canvas)は、マネージメント手法として注目を浴びている起業家のアッシュ・マウリャ氏が提唱したフレームワークです。ビジネスモデルを9つの要素に分けて可視化することで、ビジネスモデルの検証・改善に役立てられています。

リーン(lean)は「無駄のない」と和訳されます。リーンキャンバスは、スタートアップにおいて重要ではない要素を取り除いて仮説と検証を繰り返しながらビジネスを立ち上げるリーンスタートアップで使うために設計されています。製品リスク・顧客リスク・市場リスクなど、スタートアップのリスクを最小限に抑えることがリーンキャンバスの目的です。

■リーンキャンバスの主な特徴

  • 事業プランを可視化することで論点を整理できる
  • 現状や課題について共通認識を持てる

リーンキャンバスのテンプレート

課題

ソリューション

独自の価値提案

圧倒的な優位性

顧客セグメント

主要指標

チャネル

コスト構造

収益の流れ

新規事業立ち上げにおすすめの手法「リーンスタートアップ」について解説している記事もぜひ併せてご覧ください。
リーンスタートアップとは?基礎知識から実践方法、注意点を解説

リーンキャンバスとビジネスモデルキャンバスとの違い

ビジネスモデルを可視化するためのフレームワークに「ビジネスモデルキャンバス」があります。そもそもビジネスモデルとは、事業で製品やサービスを提供して収益を得る仕組みのことです。ビジネスモデルキャンバスは、事業活動によって生み出される価値を再認識し、顧客に適した商品やサービスの訴求方法を探るために使われます。

リーンキャンバスと混同されがちですが、それぞれ記載する要素が異なるうえ、リーンキャンバスはよりスタートアップ向けの内容となっています。リーンキャンバスは新規事業向け、ビジネスモデルキャンバスは事業拡大向け、と認識しておくといいでしょう。

なお、ビジネスモデルキャンバスのフォーマットは以下のとおりです。

パートナー

主要活動

独自の価値提案

顧客との関係

顧客セグメント

リソース

チャネル

コスト構造

収益の流れ

ビジネスモデルキャンバスについては、以下の記事でも詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
ビジネスモデルキャンバスとは?基礎知識から作成方法まで徹底解説

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リーンキャンバスを使って企画書を作るメリット

リーンキャンバスを使って企画書を作るメリット

本来、ビジネスモデルの設計に用いられるリーンキャンバスですが、新規アプリ・WEBサービスの企画書作成に応用することで、主に以下の5つのメリットを得られます。

要点を簡潔に伝えられる

A4サイズ1枚にビジネスモデルの要点をまとめることで、上司や社内関係者にサービスの本質的価値を簡潔に伝えられます。また、ユーザーにアンケートやインタビュー調査を実施する際も、サービス内容をわかりやすく伝えられるため、明確なフィードバックが期待できます。その結果、PDCAも回しやすくなるのです。

短時間で作成できる

1ページにビジネスモデルの要点をまとめるフレームワークなので、短時間で作成できるうえ、必要に応じて簡単に修正できます。

スピーディーに共有できる

企画内容や課題をひと目で確認できるため、素早く情報を共有できます。A4サイズ1枚という手軽さから持ち運びはもちろん、スマートフォンのカメラで撮影またはスキャンしたデータでも共有しやすい点もポイントです。

作成コストがかからない

ドキュメントファイルや紙1枚にビジネスモデルをまとめるだけなので作成コストがかかりません。企画を立ち上げる際に時間や資金を節約したい場合にもおすすめです。

仮説の検証から素早いアップデートにつなげられる

企画の仮説やアイデアを構成する情報をまとめればすぐに検証を始められ、検証後もリーンキャンバスにまとめた情報を活用して修正できます。仮説の検証からアップデートするというプロセスがリーンキャンバス内で完結するため、スピーディに検証サイクルを回すことができます。

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リーンキャンバスを構成する要素

リーンキャンバスを構成する要素

リーンキャンバスは以下の9つの要素で構成されています。

  1. 顧客のセグメント
  2. 顧客の課題
  3. 独自の価値(UVP)
  4. ソリューション
  5. チャネル
  6. 収益の流れ
  7. 主要な指標
  8. コスト構造
  9. 圧倒的な優位性

ここでは、各項目で記載すべき内容について解説します。

顧客のセグメント

まずは自社サービスや商品を利用する顧客像を設定します。サービスを使うユーザーと、マネタイズ(収益化)の対象となるユーザーが異なる場合もあるため注意が必要です。

顧客セグメントでは、「アーリーアダプター」を狙うことがポイントとなります。アーリーアダプターとは、新商品や新サービスをリリース直後に購入・利用し、ほかの消費者に影響を与えるような顧客を指します。すなわち、最初に顧客になってくれる人物です。今後、起業・事業アイデアを適切に軌道修正していくためには、アーリーアダプターからのフィードバックが重要な役割を果たすと考えてよいでしょう。

顧客セグメントを記載する際は、「20代女性」というように曖昧な設定ではなく、「映画やエンターテイメントが趣味の20代女性」というようなペルソナ(ユーザー像)を検討することが重要です。

顧客の課題

次に、想定する顧客が抱えている課題(仮説)を、優先度が高い順に3つほど書き出します。顧客の課題を知るための代表的な手段は顧客へのインタビューです。課題を深堀りする段階では、顧客には解決策を提案せずに現状の課題を丁寧に引き出すことがポイントとなります。

また、競合がすでにリリースしているサービスなどは、課題を解決するための「代替サービス」として確認しておきましょう。自社サービスや商品の代替品を明確化することで、解決策を探りやすくなります。課題が多すぎる場合は顧客のセグメント分けがうまくできていない可能性があるため、一度顧客セグメントに立ち返ってみる必要があります。

独自の価値(UVP)

独自の価値(UVP:Unique Value Proposition)には、代替サービスにはない自社ならではの強みや価値を書き出します。未来の顧客に選んでもらえるように「差別化できる理由」と「注目したくなるような価値」を明記します。自社内では独自の価値と考えていたが顧客のニーズにそぐわない、といったズレが生じないように熟考しましょう。

独自の価値提案を考える際のポイントは以下のとおりです。

  • アーリーアダプターの最も重要な課題から考える
  • 機能よりも商品やサービスを利用することで得られるベネフィットに注目する

ソリューション

ソリューションは、顧客の課題に対する具体的な解決方法を書く項目です。この項目でも、自社独自の解決方法を提示します。UVPを落とし込むことで会社としての価値が高まり、方向性が定まりやすくなります。他社がすでに提示しているビジネスモデルと重複してしまうと、自社の価値が下がるため注意しなければなりません。

チャネル

チャネルとは、顧客にサービスや商品の価値を届けるための販路のことです。ウェブ広告で商品やサービスを知ってもらうのか、直接商品に触れてもらうのか、ほかにもさまざまな販路が考えられます。アイディアの仮説検証前の段階では、SNSのコミュニティや展示イベントなど、顧客と直接対話できる機会を検討して記載するとよいでしょう。

チャネルの例は以下のとおりです。

■インバウンドチャネル(プル型)
  • オウンドメディア
  • SEO、ASO
  • ランディングページ(LP)

アウトバンドチャネル(プッシュ型)

  • リスティング広告
  • 営業電話
  • セミナー、展示会
  • 印刷広告、テレビCM

収益の流れ

この項目では、自社サービスや製品が「誰から」「どのように」利益を生み出すかを書き出します。単価や人数、顧客1人あたりの利益の累積、粗利益などを想定し、一度の取り引きで見込まれる収益をシミュレーションできるとよりイメージがつきやすくなるでしょう。

主要な指標

定量的指標(KPI)を書き出す項目です。事業の最終目標を達成するために必要な中間目標を設定します。「何がどのくらい必要なのか」といった要素を具体的に想定することがポイントです。ビジネス活動を評価する方法を定めると同時に数字を使って算出すると、中間目標がより明確になります。

コスト構造

コスト構造とは、実際に製品を市場に出すまでにかかる費用のことです。具体的には、顧客獲得費用や流通費用、サーバーの管理費用、人件費などが挙げられます。主要な指標と同様に具体的な数字を使うことが望ましいものの、大まかな数字でも問題ありません。この項目は、初期費用として巨額の設備投資が必要なビジネスモデルを検討している場合に特に重要とされます。

圧倒的な優位性

圧倒的な優位性とは、他社と比較して突出している強みです。具体的には、商品やサービスの特長のほか、顧客情報や専門家の支持、人脈ネットワークなどが挙げられます。ただし、アプリやサービスの機能は圧倒的な優位性にはなりづらい傾向があります。思い浮かばなければ空欄のままでも問題ありません。

リーンキャンバスを作成する手順

リーンキャンバスを作成する手順

9つの要素を書き出せたら、各要素を言語化しましょう。ここでは、リーンキャンバスを作成する手順についてご紹介します。

各要素を言語化する

リーンキャンバスのフォーマットは以下のように配置されています。

左側:課題・ソリューション・主要指標、「製品・サービス」

右側:圧倒的な優位性・チャネル・顧客セグメント、「市場に関する切り口」

これらを結びつけるために中央に置かれているのが独自の価値提案(UVP)です。リーンキャンバスを作成する際は、左側と右側のバランスを考慮しつつ9つの各要素を言語化していきます。

この作業におけるポイントは、常にユーザー視点で各要素を考えることです。インタビューの結果やMVPリリース後の反応など、KPIに応じて要素を変更・修正していくことも求められます。

PDCAを繰り返す

リーンキャンバスは、9つの要素を書き込んで完了ではありません。各要素の言語化が完了したら、圧倒的な優位性が確実なものになるまでPDCAを繰り返します。

リーンキャンバスでは、課題の発見・解決方法の仮説→仮説の検証→MVP(実用最小限の製品)のリリース→市場性の検証→スケールの順でPDCAを回します。

リーンキャンバスを作成する際の注意点

リーンキャンバスを作成する際の注意点

リーンキャンバスの作成には、いくつかの注意点があります。より効果的かつ効率的に作成するために、以下4つのポイントに留意して作成を進めましょう。

全項目を埋める必要はない

リーンキャンバスは、検証を重ねてブラッシュアップしていくため、全項目を埋める必要はありません。ただし、事業の土台となる顧客セグメントの課題に対してどのような価値提案をするのかという項目は必ず埋めましょう。必要な項目が埋まったら、都度見直しをしてブラッシュアップを繰り返します。

項目の正しさにこだわらない

前述のとおり、リーンキャンバスは仮説検証の結果に応じてブラッシュアップしていきます。そのため、最初から各項目の真偽にこだわらないようにしましょう。一から考え直さなければならない場合や、部分的な修正のみで済む場合などさまざまですが、いずれにしても修正を前提に考え、項目の正しさにこだわって時間をかけないようにしましょう。

短時間でシンプルに書き上げる

リーンキャンパスの作成は15~20分、最大でも30分程度で一気に書き上げることがポイントです。フォーマット自体が短文でしか書けないように設定されているため、短文で簡潔にまとめ、長文になった場合は箇条書きにするなど工夫しましょう。

何度も書き直して改善を重ねる

リーンキャンバスは一度書いたら完了ではなく、何度も書き直して改善を重ねます。

特に最初の段階では、課題や顧客セグメントなどは具体的に記載できても、ほかの項目はほとんど粗い仮説のままということも珍しくありません。検証が進んでいくなかで各項目を見直して、修正を加えて全体として整合性が取れているか確認しましょう。このように、リーンキャンバスは何度も書き直す前提で作成するものなのです。

まとめ

リーンキャンバスは、スタートアップのビジネスモデルを可視化する際に役立つフレームワークです。A4サイズ1枚に要点をまとめられることから、コストをかけずに短時間で作成できます。また、簡単に共有できるため、取り入れやすいツールとなっています。リーンキャンパスを作成する際は、顧客セグメントをはじめとする9つの項目を把握し、簡潔に言語化することが重要です。

今回ご紹介したリーンキャンパスをはじめ、新規事業の立ち上げには、さまざまな思考法やフレームワークが使われます。それぞれに適した使い方で、事業の成功につなげましょう。新規事業のアイデア発想に役立つ情報をまとめた資料をご用意しましたので、ぜひご覧ください。

新規事業を正しく構想するためのリーンキャンバスの使い方

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