AIの実用化
AIが実用化されている利用形態
AIは、物体検知や画像認識、音声認識、分類・クラスタリング、画像や動画生成、自然言語処理、行動認識、マッチングなど非常に多様な役割で実用化されています。どのような形で利用されているのか、いくつかの事例を確認してみましょう。
■参考文献
Zhe Cao, Gines Hidalgo, et al , “OpenPose: Realtime Multi-Person 2D Pose Estimation using Part Affinity Fields”, arXiv: 1812.08008, 2019.
Ross Girshick, Jeff Donahue, et al, "Rich feature hierarchies for accurate object detection and semantic segmentation Tech report (v5)", arXiv:1311.2524, 2014.
AIを実用化するためのアプローチ
AIは既にさまざまなシーンで実用化されています。どのようなアプローチでAIを自社業務に活用してゆくか一緒に考えてみましょう。
1.ニーズをもとに適用を検討
これまで人間でしかできなかった業務の中で、AIを適用することにより大きな効果が得られそうな作業を洗い出してみましょう。例えば、こんなふうにニーズを洗い出してみます。
- 数十種類におよぶ製品仕分けを自動化したい
- 昨年の夏場売上実績から今年度の仕入れ量が知りたい
- プロダクトデザインのアイデアが欲しい
このようにニーズを並べてみると、どのような用途にAIを適用して効果がありそうかイメージが湧いてきます。
2.AIを活用するための基本知識
適用業務がイメージできたとしても、具体的にどのようなアプローチで実現化に近づけてゆけばいいかわからないという声をよくききます。例えば、よく聞く声として次のようなことがあります。
- (役割)AIへ何を頼んでいいのかわからない。何ができて何ができないのかわからない。
- (工程)AIが何をしているのかわからない。AIを作成するプロセスがわからない。
- (構想)AIを作るために何が必要で、何を提供したらよいのかわからない。
多くのことに利用できる便利なAIですが、活用するには役割・工程・構想の正しい理解が必要です。
上記の問題点を解消するとともに、AIの活用方法について学んでいきましょう。
1.AIを活用するための基本知識
あなたが、ECサイトの管理者だったとしましょう。次のような要求を考えたとします
【要求】ECサイトで販売している大量の商品画像のタグ付けを自動化したい
上記の要求を、目的(背景)と情報の観点からそれぞれ要点を整理してみましょう。
【目的】タグ付けの自動化(毎月数千点に及ぶ人手による商品タグ付けのコストが大きいため削減したい)
【情報】大量の商品画像
やりたいこと(目的)と提供できる情報が明確にするとAIのどの技術を使えばその情報を使って目的を実現できるかが考えやすくなります。
AIの主な活用方法
代表的なAIの活用方法には次のようなものがあります。
- 識別 - 与えられた情報の種類(カテゴリ)が何であるかを判断します。(異常検知、顔認証など)
- 予測 - 現在の情報から未来において取りうる値を推測します。(需要予測、株価予想など)
- 生成 - 与えられた情報から異なる情報を生成します。(創作、スタイル変換など)
- マッチングー大量データの中から、最適な候補を見つけ出します(採用、結婚、事例など)
- 最適化ー与えられた情報を使って最適な解を求めます(ゲーム、自動運転車など)
上記ECサイトの画像タグ付けの場合はどの活用方法を使うでしょうか。この場合、「識別」の1つであるクラスタリング技術を使って、色や形、模様などのカテゴリーに分類しすることで、お客様が欲しい商品カテゴリーを絞り込んで検索できるようになります。
AIが取り扱う情報
一般にAIは、これまで人間しか処理できなかった次のような非構造化データを取り扱います。
- 画像 - 商品の識別、顔認証、行動の認識、デザインロゴの生成など
- 文章 - ニュース記事の識別、自動タグ付け、文章の要約など
- 音声 - 音声の識別、会話の生成、文章への変換など
- センサーデータ ー 振動、温度、輝度、脈拍など
- 言語-翻訳、会話など
2.AIを活用するためのアプローチ
AIシステム開発 工程4フェーズ
AIを導入する際には、「構想」「PoC」「開発」「運用」の4つのフェーズを順に進めていくことが一般的です。
それぞれがどのようなものか、詳細を確認していきましょう。
AI導入のフェーズ1「構想」- (1. 構想・ 2. PoC・3. 開発・4. 運用)
AIシステム開発 構想フェーズ
「構想」フェーズでは、AIを活用してなにを行いたいか(目的)、実現するためにどんなデータが提供できるか(情報)、どのようなAI技術を使って実現するか(手段)、などを検討します。そしてこれらの方針が明確になったら予算とスケジュールを検討し、投資対効果があるかどうかも見極めます。
AIへの要求
- 目的の定義
AIを必要とする前提(背景・課題・問題)と導入効果(優先度・重要度)を整理して、目的を明確に定義します。 - 情報の定義
AIへ供給することができる情報の条件(調達・数量・場所)を整理して、情報を明確に定義します。 - 手段の定義
AIが目的を実現するための手段の条件(処理・精度・速度)を整理して、手段を明確に定義します。
予算とスケジュール
予算と必要期間は、PoCフェーズ、開発フェーズ、運用フェーズの3段階に分けて見積ります。
AIの場合は、確実に実現可能となるとは限らないので、通常はPoCと呼ばれるフェーズで実現可能性を検証します。
ここにかかるコストは研究開発的投資となりますので、構想フェーズで実現可能性の見通しを見つつ、PoCにどれくらい投資できるかを判断します
AI導入のフェーズ2「PoC」- (1. 構想・ 2. PoC・3. 開発・4. 運用)
AIシステム開発 PoCフェーズ
PoC(Proof of Concept)とは、日本語で「概念実証」などと訳されていますが、わかりやすく言えば実現可能性を検証するフェーズです。
AIで目的を達成することができるかどうかを検証し、行けそうな場合は次の開発フェーズに進みますが、無理そうと判断した場合はここでストップします。
具体的には、以下のようなフローでAIを作成していきます。
- 構想フェーズで定義された情報の条件に基づいたデータを調達します。
- 調達されたデータをAIで利用できる形式へ加工します。
- 構想フェーズで定義されたAIを実装し、精度・速度などの性能指標を検証します。
- 計画の期間内に性能指標を満たせば完了、満たせなければ構想フェーズに戻り、情報と手段の条件を再定義します。
AI導入のフェーズ3「開発」- (1. 構想・ 2. PoC・3. 開発・4. 運用)
AIシステム開発 開発フェーズ
PoCフェーズの検証でGoサインが出たら、本格的にAIを使って目的を実現するための開発を行います。
本番で使うデータを用意してAIを学習するといったAI本体の精度向上に向けた作業のほかに、データを取得するために仕組みや学習済AIを使ってサービスを受ける仕組み、ユーザーインターフェースや分析機能など、実用化に必要なさまざまなものを開発します。
そのためには、通常のシステム開発と同じく次のような手順で開発を進めていきます。
- 要件定義、基本設計
- 詳細設計、実装 ※この部分にPoCで作成されたAIが組み込まれるイメージ
- 単体テスト、結合テスト
- 総合テスト、システム検収
AI導入のフェーズ4「運用」- (1. 構想・ 2. PoC・3. 開発・4. 運用)
AIシステム開発 運用フェーズ
通常のコンピュータは、在庫計算や仕訳処理などを行えば100%正しい結果を出します。
一方、AIは人間と同じように間違いを犯しやすく、必ずしも100%の正解を導き出すとは限りません。
このような特徴があるためAIは運用データを使って追加で学習し(アクティブラーニングと呼びます)、運用しながら精度を高めていきます。
運用フェーズでは、通常の運用保守のほかに、このような追加学習により精度を高めてゆくフローも一緒に組み込みます。
AI実用化における課題
(出典)総務省「ICTによるイノベーションと新たなエコノミー形成に関する調査研究」(平成30年)
これらの課題をAI導入時の各工程別に分けてみましょう。どの工程に課題が多くみられるでしょうか。
- 構想フェーズの課題
- AIの処理結果の質を担保できない
- 有用な結果が得られるか不明
- データ収集・整理が不十分
- AI導入に係るコストが高い
- AIの処理プロセスを対外的に説明できない
- AI導入のために何をすればよいのか不明
- PoCフェーズの課題
- AIの導入を先導する組織・人材の不足
- 開発フェーズの課題
- 既存システムとの接続性の確保・統合
- AIのセキュリティ
課題の原因と解決のためのアプローチ
整理してみると構想フェーズに関連した課題が多いようです。次に、このような課題の原因を挙げてみます。
AIの処理結果の質を担保できない | AIはシステムモジュールに比べて扱う情報量が桁違いに多いため、テストで振る舞いを保証することが困難です。 |
有用な結果が得られるか不明 | 求める結果、目的によってはAIの処理に不向きなタスクになることもあります。最適な手段が常にAIとは限りません。 |
データ収集・整理が不十分 | 提供する情報の量・質の不正。人間同様の構造解釈を実現するには、相応の情報を提供する必要があり調達が大変です。 |
AI導入に係るコストが高い | AIは訓練された構造解釈に従って推論する機能以外持たないため、開発費用は規模と目的が大きくなるほど膨らみます。 |
AIの処理プロセスを対外的に説明できない | AIのアーキテクチャの構造上、推論の判断根拠を端的に説明することは困難です。※CNNに関しては例外。 |
AI導入のために何をすればよいのか不明 | AIの役割を理解する必要があります。AIの役割は手段の提供であり、目的の提供ではありません。 |
このような事が運用開始後に意図せず発覚してしまうため、AIシステムを一度で要求通り仕上げることが難しいのです。上記の課題を解決するためには、以下のような前提でAIへの要求を定義していく必要があるでしょう。
- AIには合格点(ミスを許容する割合)を設定する必要があります。(AIの処理結果の質を担保できない)
- AIへ要求する目的がAIに適したタスクであるか(AI以外にするか)を判断する必要があります。(有用な結果が得られるか不明)
- AIへ供給する情報は適切な質と量を調達することが必要です。(データ収集・整理が不十分)
- AI導入の費用対効果を設定する必要があります。(AI導入に係るコストが高い)
- AIの振る舞いを説明する必要がある目的かどうかを判断する必要があります。(AIの処理プロセスを対外的に説明できない)
- AIの役割とあなたの役割をそれぞれ正しく理解する必要があります。(AI導入のために何をすればよいのか不明)
3. AIを活用するための5W3H
AIの構想においては、5W3Hを使うと要点が整理できます。出庫の際の仕分け作業にAIを導入するケースで5W3Hを考えてみましょう。
要求:30種類におよぶ食品パッケージの製品出庫仕分け作業を効率化したい。
- 目的
- Who(誰が、誰を):自社、人事、現場、作業員
- Why(なぜ、どうして):生産性の向上、労災リスクの低下(人手不足による作業員の負荷が増大)
- 情報
- What(何を):食品パッケージ30種類の画像データ
- Where(どこで):工場3拠点の各仕分け現場(カメラを設置して画像データを調達)
- 手段
- How(どのように、どうやって):画像を識別するAIを検証
- How Many(いくつ):性能指標(精度:90%以上、速度:1,800個/時(30個/分))
- 予算とスケジュール
- How Much(いくらで):2,500万円(PoC 500万円、システム開発 2,000万円 )
- When(いつ、いつまでに):来年の8月より本番稼働開始(カットオーバー)
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