近年のビジネスシーンでは、顧客のニーズを的確に捉え、顧客が真に求める製品・サービス（プロダクト）をスピーディーに開発・提供することが成功のポイントとなっています。そこで重要となるのがMVPです。
当記事では、MVPの概要やメリットから、MVPの開発方法、活用のポイント、事例までご紹介しています。新規事業の立ち上げや新規プロダクトの開発を検討している方はぜひご参考ください。
MVP（ミニマム・バイアブル・プロダクト）とは
MVPとはMinimum Viable Product（ミニマム・バイアブル・プロダクト）の略で、日本語では「実用最小限の製品」と訳されます。ユーザーに実用最小限の価値を提供するプロダクトのことです。完成された製品・サービスではなく、顧客が抱える課題の解決・ニーズの充足に必要となる最低限の機能を実装した状態で提供されます。
MVPを開発・活用する主な目的は、プロダクトの仮説検証です。必要最小限の機能に留めた試作品を素早くリリースして検証することで、適切な機能の改善や追加を図り、開発の工数や費用を抑えながらPDCAを高速化することができます。
以下にご紹介するリーンスタートアップやPMFを実施する際には、MVPの開発が必須となります。
リーンスタートアップとMVPの関係
リーンスタートアップとは、実用最小限の機能を実装したプロダクト（MVP）のリリースを行い、顧客の意見を取り入れながらスピーディーに優れたプロダクト開発や事業展開を進めていく方法です。
MVPは仮説検証を進めていくベースとなるため、リーンスタートアップの実施にあたっては必ず用意する必要があります。
リーンスタートアップについては、以下の記事で詳しくご紹介していますので、併せてご参考ください。
リーンスタートアップとは？基礎知識から実践方法、注意点を解説
PMF（プロダクトマーケットフィット）とMVPの関係
PMFとは、製品・サービスが特定の市場に適合（フィット）している状態のことです。具体的には、顧客の課題を解決する製品・サービスの提供ができており、適切な市場に受け入れられている状態を指します。
PMFの状態を目指すには、以下のステップを踏襲する必要があります。
- 課題の発見と最適な解決方法の用意ができているPSF（プログレムソリューションフィット）の状態を実現する
- MVPを開発・リリースする
- 仮説検証・改善を繰り返してPMFを目指す
- PMFを実現できていることを検証する
PMFの実現には、MVPの開発・活用が必要となります。
PMFについては、以下の記事にて詳しくご紹介していますので、併せてご参考ください。
PMF（プロダクトマーケットフィット）とは？達成プロセスを解説
MVPを用いた開発を行うメリットとは
近年では、スタートアップのビジネスや新規プロダクトを開発する企業が積極的にMVPを用いる傾向にあります。ここでは、MVPを用いて開発を行う主なメリットについて解説します。
コストを抑えて製品の必要性を検証できる
従来の開発手法では、プロダクトを完成させてリリースしてからでないと顧客の反応を検証することができず、多額のコストがかかります。
一方でMVPを用いた開発では、実用に足る機能のみを実装して市場に投下するため、コストを抑えて顧客からの反響を計測することができます。
多額のコストを投下してからでないと改善点を検証できないことは、プロダクト開発において大きなリスクとなります。プロダクトの改善点を低コストで検証できるメリットは、MVPが注目されている大きな理由の一つです。
顧客ニーズを把握できる
MVPを用いた開発では、開発の初期段階から顧客のフィードバックを得ることが可能となり、高頻度で仮説検証を繰り返すことでフィードバックを得る機会も多くなります。
そのため、従来の開発手法にくらべて顧客ニーズを正確に把握しやすく、顧客が求めているプロダクトの開発が可能です。顧客ニーズから大きく外れたプロダクトを完成させてしまうリスクも回避できます。
現代のプロダクト開発においては顧客ニーズにいかに応えるかが成功のポイントとなっているため、MVP開発を採用するメリットは大きいでしょう。
開発スピードを早め競争力を高められる
MVPを用いた開発では、低コスト・短期間で開発した試作品をまず市場に投下することを優先します。いち早く市場にプロダクトを投下することで競争優位性や早期収益者といった先行者利益を獲得できることも大きなメリットです。
投下したプロダクトに対して素早く検証・改善を繰り返すことで、優位性を発揮したまま市場をリードできる可能性を高めることもできます。
ビジネスにおいて競合のいない分野は存在しないため、開発競争において早期から競争力を高められるメリットは大きいでしょう。
MVP開発・検証の進め方
ここでは、MVPを開発・検証するプロセスをご説明します。
①仮説を設定する
まずは製品で解決したい課題を明確にしたうえで、MVPを検証・評価する仮説を設定します。仮説は「製品が課題をどう解決するのか」「どのような価値を提供できるか」「既存製品とどう差別化できるか」といった軸でできるだけ明確に設定しましょう。
②実装機能を策定する
①で設定した仮説を検証するために、MVPに実装する必要最低限の機能を策定します。
③MVPを開発する
②で決定した機能を実装させたMVPを開発します。
④仮説を検証・評価する
MVPを実際にユーザーに利用してもらい、製品に対するフィードバックをヒアリングします。ヒアリングの質問事項はできるだけ定量的に回答できるものにするのがポイントです。
ヒアリングで得られたフィードバックをもとに新たに実装すべき新機能や改善点を検討します。フィードバックの内容やニーズによっては、製品の方向性を転換する必要があると判断される場合もあるでしょう。
⑤改善・リリースを繰り返す
機能の追加・改善を反映させた製品をリリースし、仮設検証を繰り返して製品をブラッシュアップしていきます。
MVPを使った検証を成功させるポイント
MVPは、検証を行い改善を繰り返す手法です。そのため、いかに質の高い検証を行うかが重要となります。ここでは、MVPを使った検証を成功させるためのポイントについて解説します。
アーリーアダプターに向けて届ける意識
アーリーアダプターとは、流行に敏感かつ周囲への影響力を持つ層のことです。MVPで検証を行う際には、このアーリーアダプターを優先的なターゲットとすることが重要なポイントとなります。アーリーアダプターから良好な反応を得ることができれば、一般的な層からも良好な反応を得られる可能性が高いためです。
MVPに実装する機能は最小限に絞り込む必要がありますが、ターゲットを広げすぎると機能が肥大化して素早いリリース・検証を行うことができません。効果的で素早い検証を重ねてプロダクトを開発していくためにも、MVPのターゲットはアーリーアダプターに絞り込みましょう。
機能や要素はひとつずつ検証する
MVPによる検証を行う際には、スピード感を重視するあまり複数の機能や要素をまとめて検証してしまいがちです。しかし、そうするとそれぞれの機能や要素に関する正確な検証結果が得られず、プロダクトの改善にかえって時間が掛かってしまうケースが多くみられます。
MVPを用いた開発においては、いかに効果的な改善を重ねていくかが重要です。機能や要素については、ひとつずつ細かく検証して的確な改善に繋げるようにしましょう。
MVPを使った検証の落とし穴
MVPは仮説の検証に適した手法であり、仮説の検証こそが最大の目的です。しかし、検証に意識を奪われ過ぎると、思わぬデメリットを招くため注意が必要です。
ここでは、MVPを使った検証の落とし穴について解説します。
ユーザーの声を過剰に取り入れて方向性を見失ってしまう
新規プロダクトの開発は不確定要素が多く、万全の仮説を立てたつもりでも、MVPを試して仮説検証を繰り返しているうちに当初の目的や方向性からズレてしまうこともあります。
ユーザーからのフィードバックを取り入れることは重要ですが、意見・要望を取り入れすぎて、ユーザーの課題解決やニーズの充足という本来の目的から外れてしまわないように注意しましょう。
完璧を目指してしまう
MVPによる検証を行う目的は、実用に足る必要最小限の機能から始めて、顧客のフィードバックを参考にしながら改善を繰り返し、ニーズに合ったプロダクトに育て上げていくことにあります。
検証を重ねていくうちに、必要な機能をすべて網羅した完璧なプロダクトを目指してしまうことがありますが、無駄に機能を搭載して肥大化してしまっては良いプロダクトとはいえません。顧客が本当に求めている機能に絞ったプロダクトを提供できるように、MVP検証では完璧なプロダクトを目指し過ぎないようにすることがポイントとなります。
MVPの実践で役立つフレームワーク「MVPキャンバス」
MVPキャンバスとは
MVPキャンバスとは、MVPを用いた仮説検証の内容や手順を明確化することができるフレームワークのことです。MVPの実践にあたってこのフレームワークを活用することで、スムーズに仮説検証を行いアウトプットを得ることができます。
MVPを用いた仮説検証は、仮説の内容や手順が曖昧なまま実施すると、プロダクトの開発・改善に役立つ有益な情報が得られない場合があります。そのため、事前に仮説検証の内容と手順を検討しておくことが非常に重要です。
MVPキャンパスを活用すれば、フレームワークを埋めていくことで仮説検証に必要な情報が整理できるため、効果的な仮説検証をスムーズに実施することが可能となります。
MVPキャンバスの10つの要素
次に、MVPキャンバスの10つの要素と記載すべき内容についてご紹介します。
要素1：仮説
MVPキャンバスでは、最初のステップで仮説を立てます。新規に開発しようとしている製品・サービスにおける最優先の仮説を考えて記載します。
仮説を起点に進められていくMVPキャンバスにおいて最も重要なステップです。ユーザーが求めているニーズや課題について情報を集め、どのようなプロダクトを開発すれば顧客の期待に応えられるのか検討を重ねましょう。
要素2：目的
MVPによる仮説検証を行う目的を記載します。目的を明確化しておくことで、プロジェクトの方向性や具体的な行動を定めることができます。
無駄な検証を避けるためにも、目的は明確に設定しておくことが重要です。
要素3：方法
仮説検証を行う具体的な方法を考えて記載します。複数のアイデアが生まれた場合は無理に1つのアイデアに絞り込まずに、アイデアごとにMVPキャンバスを作成してそれぞれ検証を行うのがおすすめです。
要素4：データ・条件
仮説検証に必要となるデータと条件を記載します。検証結果について十分な評価が行えるように、必要なデータや条件を漏れなく設定しておくことや具体的な数値目標（KPI）を設定することが重要となります。
要素5：開発・制作
ここまでのステップで決定した内容をもとに、仮説検証のためのMVPを定義・設計して開発を行います。仮説検証の要件を満たせる必要最小限の機能を定義・設計することがポイントとなります。
要素6：コスト
上記で決定した仮説検証のために開発するMVPの開発コストや開発リソースを記載します。材料代等のコストだけでなく、開発工数・人員・人件費といった開発に要するコストとリソースをすべて含めて見積もっておくことが重要です。
要素7：時間
仮説検証に要する時間を記載します。プロジェクトのスムーズな進捗や生産性向上のために、できるだけ現実的な時間を見積もっておくことがポイントです。
要素8：リスク
MVPによる仮説検証を実施するうえで発生することが想定されるリスクや未然に回避できるリスクを記載します。回避可能なリスクに対しては、リスクヘッジの方法についても検討します。
要素9：結果
仮説検証で得られた結果を記載する項目です。「データ・条件」のステップで設定した仮説検証のための条件やデータに対して実証結果をそれぞれ記載していきます。
要素10：学び
仮説検証の実証結果から得られた課題や学びを記載します。課題の改善案や解決方法、今後の行動についても記載します。
MVPの事例
MVPは、世界的に有名な企業にも採用されている手法です。成功事例を参考にすることで、MVPの有用性や活用方法について理解を深めることができます。
ここでは、DropboxとTwitterのMVP活用事例についてご紹介します。
Dropboxの事例
Dropboxは創業当時に、既存のクラウドストレージサービスには利便性・安全性に課題があることに気づきました。
そこで、プロトタイプの開発を行う前にまずサービス紹介動画を作成し、プロダクトに対するユーザーの意見や要望を集め、得られた情報から仮説検証を実施しました。
スモークテストと呼ばれるこの手法は、ユーザーニーズや関心の高さについて把握するのに効果的なMVP手法です。プロトタイプの開発前に十分なデータやアイデアを得たい場合には、ぜひ参考にしたい事例です。
Twitterの事例
Twitterは、Odeo社の経営メンバーが「少人数で活用できるSMSサービス」を発想したところからスタートしたサービスです。
プロトタイプを開発し、当初は社内限定で公開。社内メンバーの協力を得てフィードバックを集め仮説検証を繰り返すことで、現在世界中で使われている不特定多数とのコミュニケーションが図れるサービスへと進化しました。
MVPを開発した時点で、現在のTwitterが持つ機能の原型が既に搭載されており、コアとなるアイデアからブレることなくその後も仮説検証が繰り返されています。
MVPの活用においても、最初の試作品を開発する際のアイデアが鍵となることや、本来の目的を見失わないことの重要性がよく理解できる事例となります。
まとめ
MVPとは、新しい製品やサービスを最低限の状態で提供し、機能の追加や改善を繰り返して仕上げていくための最初のプロダクトです。MVPを開発に取り入れることで、顧客のニーズや市場の変化に柔軟に対応しながら、顧客が満足する製品・サービスを効率的に開発することができます。プロダクト開発の成功確度を高めるために、新規事業の立ち上げ時には活用したい手法です。
新規事業・新規プロダクト開発を検討する際に役立つ発想法についてまとめた資料もありますのでぜひご覧ください。
